(最新の放送録音より;アーノン・クールの2012ザルツ音楽祭の「魔笛」)
13-9-3、ニコラウス・アーノンクール指揮、ヤンス=ダニエル・ヘルツオーク演出、ウイーン・コンツエントウス・ムジクスによる「魔笛」K.620、ウイーン国立歌劇場合唱団、2012年7月27日、フェルゼンライトシューレ、ザルツブルグ音楽祭、

−今回のアーノンクールの「魔笛」は、前回のもの以上に、音楽がゆったりとしており、現代演出にありがちな理解しずらい部分が少なく、私個人としては、まずまずの楽しめる現代風「魔笛」かと考えてきたが、最後で解釈不能な場面に出会って、当惑しすっかりこの映像の印象を悪くしてしまっていた。しかし、アーノンクールにとっては、「大人のお遊びの解釈」に過ぎないであろうから、こちらも真面目に考えず、大らかに笑って扱うべきものなのであろう−

(最新の放送録音より;アーノン・クールの2012ザルツ音楽祭の「魔笛」)
13-9-3、ニコラウス・アーノンクール指揮、ヤンス=ダニエル・ヘルツオーク演出、ウイーン・コンツエントウス・ムジクスによる「魔笛」K.620、ウイーン国立歌劇場合唱団、2012年7月27日、フェルゼンライトシューレ、ザルツブルグ音楽祭、
(配役)タミーノ;ベルナルト・リヒター、パミーナ;ユリア・クライター、ザラストロ;ゲオルク・ツエッペンフェルト、夜の女王;マンデイ・フレドリヒ、パパゲーノ;マルクス・ヴェルバ、パパゲーナ;エリーザベト・シュヴァルツ、
(2013/07/26、BSクラシカ・ジャパンによる放送をハードデイスクHD-2に収録)

9月分の第3曲目は、最新の映像であるニコラウス・アーノンクールの2012ザルツブルグ音楽祭の「魔笛」K.620であり、彼が自分のオーケストラであるウイーン・コンツエントウス・ムジクスを振り、ウイーン国立歌劇場合唱団によるものである。2012年7月27日、フェルゼンライトシューレで収録したものを、クラシカジャパンがハイビジョン映像で放送してくれた最新の「魔笛」である。映像によるアーノンクールの「魔笛」は、2007年チューリッヒOPのものがあり、マーテイン・クシェイ演出による背広姿の現代風のもの(12-5-3)であった。
              今回の2012ザルツ音楽祭の「魔笛」は、ヤンス=ダニエル・ヘルツオークの演出で会場がフェルゼンライトシューレの横長の広い舞台であったため、二階建ての左右の建物が自由に動く舞台となっており、機械的に建物や背景をいろいろ動かして場面を変化させ、クローズアップ画面で詳細を見せる、背広姿の現代風演出となっていた。最近、背広姿の驚く場面が多い「魔笛」が増えてきたが、それに慣れるとセリフは余りいじられていないことが多いので、頭の中で想像を豊かにして見る必要があるが、今回の新映像のザラストロ集団が病院の白衣姿のお医者さんや看護婦さんたちであり、モノスタトスが奴隷たちの先生で、彼の部屋が学校風であったりと、連想しやすいスタイルの演出となっていた。2007年と共通の歌手はパミーナのユリア・クライターただ一人で、パパゲーナのエリーザベト・シュヴァルツ以外は知らない歌手陣であったが、彼らはアーノンクールの下で実にゆったりと伸び伸び歌っており、非常に印象の良い「魔笛」の一つであると思われた。



           初めてこの指揮者の「魔笛」のCD(1988)を聴いて、その斬新な解釈とその響きを耳にして驚いた記憶があるが、今回は2007年チューリヒ歌劇場でのクシェイ演出の「魔笛」(12-5-3)に続いて、およそ5年後のザルツブルグ音楽祭2012の演奏である。この5年間にどのような変化が生じたか、今回新たに入手したこのHDD録音と07年のDVDをBRトレイに入れて、瞬時に比較出来る様にして、彼の強烈な個性を改めて再確認したいと考えている。
            今回のヘルツオーク演出もモダンな新演出で、最初の岩山が建物の中になり、最初に出てくるの三人の女性の個性豊かで色彩に溢れた衣裳での登場は度肝を抜かれたが、前回のクシェイ演出よりも日本語字幕があるだけ遙かに分かりやすく、全体的に楽しめるものとなっていた。

            アーノンクールが入場してきたが、今回はウイーン・コンツエントウス・ムジクスであったので、ヴァイオリン席にアリス夫人の元気な姿が写されていた。やがて序曲の三和音がゆっくりと始まり、フェルゼンライトシューレの横長の舞台には二階建ての建物の内部が写されていた。これが何を意味するのか考えながら、軽快に進行する序曲を聴いていた。二度目の三和音で序曲は展開部になっていたが、舞台の建物の屋上では赤十字のバックを担いだ三人の女性たちが何やらはしゃいでいた。クローズアップでよく見ると三人の女性は、長い蛇を階下の部屋に下ろそうとしているではないか。これは一体何を意味するのだろうか。



             序曲が終わり、導入の音楽が始まりだして幕が開くと、階下の部屋がクローズアップされ、ベッドの上に若い男性が横になっていたが、天井から大きな蛇が口を開けて垂れ下がってきたので、大声で「助けてくれ!」と叫んで、死にもの狂いで勢いよく歌い出していた。クローズアップでよく見るとそれは大きな蛇で若者はからくも首をつかんで投げようとしていた。そこへ屋上からの階段伝いに三人の派手な衣裳の看護婦さんが降りてきて、「勝ったわ!」と勝利宣言をしていた。三人が歌いながら倒れているタミーノに近づいて看護婦らしく手当てをしながら、タミーノを囲んで三重唱をゆっくりと歌っていた。やがて誰が残るかで言い争いの三重唱になっていたが、結局は三人で女王様に報告に行くことで治まっていた。






             気を失ったタミーノが起き上がり、「ここはどこ?」と辺りを見渡すと、遠くから笛の音が聞こえて、美しい前奏とともに舞台の陰から三輪トラック登場していた。そして癖のある歌声で「俺は鳥刺し」という歌声とともにパパゲーノが現れ、車に続いて大勢の買い物バックを手にした女性客たちがパパゲーノを囲んでいた。パパゲーノが「鳥刺しのアリア」を歌い出し、自分でパンを吹き、癖のあるアリアを歌ってから、そこへタミーノが現れ二人のおかしな長い会話が始まり、ほぼリブレット通りに進みだした。しかし、俺は力持ちだと自慢し始めると雷鳴が鳴り出し、「パパゲーノ!」の鋭い声とともに三人の女性たちが現れた。



              三人は口々にパパゲーノを懲らしめ、そしてタミーノには小さな絵姿を手渡していた。絵姿を見てタミーノは「何て美しい人なんだろう」と美しい木管の伴奏にのって絵姿のアリアを歌い出し、「これが恋と言うものか」と歌っていた。その様子を屋上で監視していた三人が、歌い終わったタミーノに、この絵姿の女王の娘パミーノは「悪魔に浚われた」と告げると、タミーノは驚いて何とか「助け出そう」と決意を固めていた。



             雷鳴が鳴り響き、真っ暗な広い舞台が、突然、火焔に包まれて、舞台中央には夜の女王が一人で姿を現し、驚くタミーノに対して「愛しい息子よ」とレチタティーヴォを歌い出していた。そしてアリアでは「おまえこそ娘の救い手だ」と歌って、速いテンポのコロラチューラの技巧のさえを見せていた。ここでは夜の女王は気品ある女王の姿から、困った悩める一人の母親の弱い姿を示すように描かれていたが、再び女王の姿に戻り、暗闇の中に立ち去っていた。



             夢かと思うタミーノが、口がきけないパパゲーノに「ム、ム、ム、」と迫られて現実に戻り、悲鳴を上げる五重唱が始まって、三人の女性はパパゲーノをまず助け、タミーノには女王様のご褒美として「魔法の笛」を、ザラストロが怖くて渋っていたパパゲーノには「銀の鈴」が贈られて、二人は、それぞれ、パミーナを助けに行く決心を固めた。しかし、二人は悪人のザラストロも知らず、宮殿の場所も分からない。そこで三人の侍女はザラストロの国へは、向こうに見える三人の童子たちが道案内をすると教えて、早速、二人は元気よく出発することになった。






              突然の大きな笑い声とともに、場面がすっかり変わって、学校の教室風の一室で、学生姿の若者たちが「パミーナが逃げた」と大騒ぎ。そこへ隣室では、突然に悲鳴が聞こえ、パミーナがモノスタトス先生に捕まって、早速、三重唱が始まっていた。モノスタトスがパミーナを脅していると、そこへパパゲーノが忍び込んで、モノスタトスと鉢合わせ。お互いに姿を見て「悪魔だ!」と逃げ去るが、パパゲーノはパミーナに恐る恐る近づいて夜の女王の娘のパミーナであることを絵姿で確認した。



             パパゲーナが、直ぐに仲良くなって、夜の女王の国から王子タミーノがこの絵姿のパミーナに愛を感じて助けに来る話をしているうちに、二人は男と女の愛の賛歌とも言える美しい二重唱を歌い出していた。パミーナのクライターもパパゲーノのマルクス・ウエルバも純情そのものに見え、実に表情豊かにゆっくりと歌っていたので、これまで新演出で戸惑うばかりであったが、ここでやっと落ち着いてこの二重唱により、楽しい魔笛の世界に誘い込まれてしまった。



             一方、フィナーレになって、三人の童子たちがタミーノを案内して来た途中で、タミーノのパミーナを助けることが出来るかと言う質問に対し、沈黙・忍耐・男らしさが重要だと教えられ、タミーノは改めてパミーナを助けようと決意を固めた。タミーノが神殿らしき建物に勇気を持って入ろうとして、「下がれ!」と脅されたがひるまず、三度目に他の部屋で出てきた弁者と押し問答。弁者はザラストロは聖人で、お前は悪い女に騙されていると語り、パミーナについては「答えられぬ」と突き放された。途方に暮れたタミーノは、思わず「パミーナは?」と大声で口に出すと、暗闇の中で姿は見えないが声が聞こえてきて、「パミーナは生きている」という返事であった。



           「生きている」という言葉にタミーノは感動して、姿なき声に感謝のつもりで「魔法の笛」を吹くと、赤目で黒い毛のオオカミ風の動物が出てきたが、笛の音を聞きつけて大勢現れてタミーノを囲み、みな喜んで生き生きと聞き惚れていた。それを見てタミーノが喜んでもっと吹いているうちに、パパゲーノの笛も応えてきて、タミーノは勇気100倍。パパゲーノたちを見つけようとしているうちに、隣の建物からパパゲーノとパミーナが登場して来たが、隣の建物には怖いモノスタトス一行が隠れて待ち受けていた。それを見て、パパゲーノが手にした「銀の鈴」を鳴らしてみると、「ラ、ラ、ラ」の美しいグロッケンシュピールの音が鳴り出して、一行は音楽に聴き惚れて、踊りながらどこかへ行ってしまっていた。



            二人は「銀の鈴」の「敵がいなくなる」効果に驚いて歌っていると、そこへ「ザラストロ万歳」の大合唱が始まった。さあ大変。驚いたことに、大勢の白衣の人々が現れ、大合唱とともに白衣のザラストロが登場してきた。パミーナは急にしっかりした王女の口調になり、「私は罪を犯しました」と正直に真実を語り出すと、ザラストロは良く分かっていたが、自由を与えることは出来ないと最後に釘を刺していた。そこへモノスタトスがタミーノを連れて登場し、タミーノとパミーナが初めて顔を合わせていた。



            しかし、ザラストロの指導よろしくモノスタトスは処罰され、タミーノとパパゲーノは宮殿で試練を受けることになって宮殿に導かれ、ここで終曲となっていた。二人はお医者さん方に診察を受け、大袈裟に目隠しをされて、宮殿に向かって退場していた。
            第一幕の各場面で、予期しない現代風の衣裳で戸惑うことが多いが、ここではダイアローグは省略を少なくする努力が払われており、筋に従って安心して見ていることが出来た。また、建物の機械による移動で、舞台の場面変換が頻繁に行われ、モノスタトスの教室も、宮殿の三つの入り口も、部屋の移動で簡単に行われており、突然の大勢の人々の登場で驚かされるが、奴隷たちの学校であったり、大勢の医者や看護婦たちの白衣の殿堂による現代演出で、背広姿にも良く似合っていた。



            映像では第二幕はオーケストラが写されて厳かな行進曲の前奏で開始されるが、画面では幕の代わりに建物が左右に開き、大勢の白衣の人々が集まっているようだった。ザラストロが登場し、よく見ると男性ばかりの白衣の人を前に、20歳の王子タミーノが夜の闇を払い、光の国を求めていると話し出した。



             最初の三つの和音が響いてから、ザラストロは、「神は王子の妻にパミーナを定められた」と語り、続いて次の三つの和音が響いてから、タミーノと会話した老医師が質問すると、ザラストロは彼に指導をするように告げ、二人を神殿にと命じていた。そして、最後の三つの和音が鳴って、ザラストロは、イシスとオシリスの神々に「二人に叡智の心を授けたまえ」とゆっくりと歌い出した。ザラストロの歌う敬虔な落ち着いた調べは感動的であり、続く白衣のザラストロ軍団の合唱も祈りの声の間に挟まれて、いかにも「魔笛」らしい荘厳な宗教的な行事のように見えていた。この場面はほぼテキスト通りの語りと会話がなされていた。


              場面が変わって、暗闇の中にはタミーノとパパゲーノが目隠しの姿で残され、二人は雷鳴により脅されて大騒ぎしていた。そこへ二人の弁者が登場し、タミーノにはパミーナを助けるため試練を受けることを確認していた。一方、パパゲーノは、始めは試練を拒否していたが、ザラストロが用意した自分に良く似た若くて美人のパパゲーナに、口さえきかねば会ってもよいと聞かされて、渋々握手をしてしまった。そして二人の弁者は、沈黙をまもり、女の企みに気をつけろと手荒な二重唱で教えていた。彼らが立ち去ると、早速、暗闇の中から三人の女たちが現れて、夜の女王が来ていると頻りに誘う五重唱が始まっていた。うるさい女三人に対し、タミーノが何とかパパゲーノを黙らせて、パパゲーノが女たちと話をしなかったので、彼女たちは最後に諦めて消え去った。



            続いて暗闇の中でモノスタトスが登場し、月明かりの中で寝込んでいるパミーナを発見して、「キスくらいはいいだろう」といたずらをしようとして、「惚れれば楽しいさ」と早口のアリアを歌い出していた。しかし、折から現れた夜の女王に見つかって、「お下がり!」と一喝されてしまった。そして夜の女王は、気のついたパミーナに「私が遣わした若い男はどうした」と尋ね、賢者たちところにいることを知り、女王は怒りを露わにしていた。そしてザラストロに復讐し、彼の胸にある太陽の輪を取り戻さなければ、永久に破滅したままだと娘に告げていた。



              それからパミーナにナイフを手渡して「ザラストロに死を与えないなら、お前は私の娘でない」とコロラチューラで歌う華やかなアリアを歌い出した。夜の女王のこのアリアは、第一幕のアリアよりも激しく決然と歌われ、彼女は素晴らしい存在感を示して、風のように立ち去っていった。一方、残されたパミーナはナイフを手にして倒れ込んでいたが、そこへモノスタトスが現れ、パミーナを脅し始めていた。しかし、そこに運良く現れたザラストロに一喝されて逃げ去っていた。母親の罪を許してやって欲しいと訴えるパミーナに、ザラストロは優しく慰めるように「この聖なる殿堂には、復讐を思う人はいない」とアリアを歌い出した。パミーナは一端はナイフをザラストロに向けるが、彼の歌に慰められ、彼の優しさに抵抗できなくなっていた。この美しいザラストロのアリアは、実に朗々と明るく歌われ、客席から素晴らしい拍手で迎えられていた。



              一方、場面が変わって、再び暗闇の中でタミーノとパパゲーノが登場し、退屈したパパゲーノがここには「一滴の水もない」とこぼしていると、そこへ病院の点滴用の手摺りを持ったパパゲーナが変装した婆さんが現れ、水を差し出した。パパゲーノが適当にからかっていると、年だけは18歳と2分の若い婆さんで、恋人が自分であることが分かって、さあ大変。しかし、名前を聞こうとして雷鳴と暗闇のお陰で、婆さんは隠れてしまい、何とかこの場は救われた。そこに三人の童子が現れて、「ザラストロの国にようこそ」と歌い出し、美しい三重唱を歌いながらワインや食べ物を手渡して、「魔法の笛」と「銀の鈴」を返して二人を安心させ、パパゲーノには沈黙を守るように繰り返し注意していた。


                そこでタミーノが思わず返して貰った笛を吹くと、それを聞きつけて、突然、パミーナが話しかけてきた。しかし、男二人は注意されたばかりであるので、パミーナには答えられない。タミーノが苦しそうに返事が出来ないと目や顔で訴えても、パミーナには通じない。パパゲーノに理由をただしても、口がご馳走で一杯で、彼は返事が出来ない。パミーナは悲しげに「ああ、確かにもう終わりなのね」とアリアを歌い出し、「無視されるのは死ぬよりも辛い」と恨めしそうに歌っていた。そして最後に、「愛の幸せが永遠に消えてしまった」と泣きながら、立ち去っていった。パパゲーノも今回は口がきけず、なかなか立派だった。


           三つの和音が鳴り響き、タミーノが不意に目隠しをされ暗闇で迷っていると、白衣の大勢の人たちが集まってきて、僧侶たちの合唱が始まっていた。その合唱は、「イシスとオシリスの神よ、何という喜び」と歌われていたが、しかし良く聞いていると、「若者は我らの務めに身を捧げるようになるであろう」と歌っていた。白衣の人々はタミーノを歓迎しているように見えた。そこへザラストロが登場し、「王子よ、冷静であった」と語り、まだ試練が二つ残されていると語って、パミーナを呼べと告げていた。パミーナが目隠しを外されて、タミーノを見つけ、近づこうとして有名な「別れの三重唱」が始まっていた。死の危険が迫っているとパミーナが歌い、神々が守ってくれるとタミーノが答え、別れがつらいと歌う二人に、何事も神々のご意思だと歌うザラストロのそれぞれの気持ちを歌う見事な美しい三重唱になっていた。


            一方、パパゲーノはタミーノを探して暗闇の中をうろついていたが、「下がれ」と三度も脅されて行き場がなくなり、ふて腐れていたが、弁者の差し入れによりワインにありつくことが出来てご機嫌であった。酔いが廻ってきて「銀の鈴」の蓋を開けると、グロッケンシュピールが明るく鳴り出して、パパゲーノは「俺は若い娘が欲しいな」と有名なアリアを歌い出した。オーケストラが写し出され、チェレスタの音が良く響いていた。パパゲーノは調子に乗って歌ってるうちに、ワインの酔いが廻ってきていたが、お客さんを喜ばす明るく愛嬌のあるアリアとなっていた。


             舞台ではモノスタトスの生徒たちが悪戯をして、パパゲーナの変装した婆さんを無線で呼び出して、酔っ払ったパパゲーノに合わせようと画策していたが、そこへ「私だよ、お兄さん」と例の手摺りを引き摺った婆さんが現れ、握手をしなければパンと水だけの世界になってしまうと脅しはじめた。しつこく握手を求めるのでパパゲーノもついに諦めて、婆さんでもここにいるより良いと腹を決めて手を出すと、あら不思議や、婆さんが服を脱ぐと若いパパゲーナが現れた。パパゲーナと名を呼んで追いかけようとしたが、弁者たちに遮られ、もう一息のところで逃げられてしまっていた。



          フィナーレに入って、大きな部屋の一室で、三人の童子たちが建物の屋上から見渡しながら「朝の訪れを告げる太陽が輝く」と明るく歌い出していたが、彼らは様子がおかしいパミーナが隣の建物の屋上にいるのを発見した。パミーナは母から渡された短剣を手に持ち、悲しみの余り自殺しそうな様子でふらふらしていた。三人はパミーノに近づき、タミーノに会わせてあげるとご機嫌を取り、ナイフを捨てさせた。そしてタミーノはあなたを今でも愛しているとパミーナを安心させ、一緒にタミーノを探しに出かけようと手を繋いで出発していた。



          場面が変わって両側に建物が見える狭くて暗い場所の両側に、二人の衛兵がおり、「この道を来たるもの、火、水、大気、そして大地で清められる」とコラール旋律の二重唱を歌っていた。タミーノが中央で二人の説明を聞いており、二人に勇敢に答えて「私は死を怖れない」と前に進もうとしていた。そこへパミーナの声が遠くから聞こえてきた。タミーノは彼女との会話が許され、一緒に行くことを許された。パミーナが近づいてきて、二人はここでついに「私のタミーノ」「私のパミーナ」と互いに劇的な再会をしてから、ピッチカートの伴奏に乗って、二人の愛と魔法の笛の力で試練の道を克服しようと決意していた。この間に、二人の案内人たちは、両隣の建物で、火や水の試練のための準備に忙しいように見えた。



          両隣の建物の準備が整って、パミーナが先を先導し、タミーノが笛を吹きながら、右側の建物に入り、恐らく危険なものが山積している中を注意深く通り抜け、二人は初めに「火の試練」をクリアした。建物の中から聞こえる笛の音はゆっくりしたテンポで小さな音であったが、明瞭であり実感がこもった美しい演奏であった。出口では大勢の白衣の人が心配そうに見守っていた。



             二人は元気で戻ると、続いて左側の建物の前に移動し、入り口から「水の試練」の建物に入り、笛の音とともに、中で二人が動いている様子が窓から見える水の動きで予測でき、白衣の人々が心配そうにそれを見守っていた。初めて見た新しい「魔笛」の現代版の簡素な造りの火と水の「試練の場」であった。二人が戻って二重唱で報告をし、大勢の白衣の人たちにより勝利が宣言され、大合唱によって勝利を祝福されて、二人が神殿に入ることを許されていた。


             場面が変わって、パパゲーノが登場し、一目見た若くて可愛いパパゲーナを探して、暗闇の中を駆け回っていたが、どうしても見つからずに草臥れた姿で「優しい小鳩よ」とパンを吹きながら歌っていた。遂に諦めて首吊りでもしようと用意していた首吊りのロープを吊って首にかけていた。誰かが気がついてくれるだろうと歌いながら1、2、3、と数えてから首を吊ろうとしたが、誰も助けてくれない。三つ数えても駄目で、遂に諦めて思い切って首を吊ろうと決心したときに、三人の童子が現れて、銀の鈴を鳴らせという。忘れていたとばかりに、パパゲーノが喜んで勢い込んで鈴を鳴らすと、可愛いいパパゲーナが遠くから姿を見せていた。そしてパパゲーノが振り返ると、二人は劇的な「パ、パ、パ、」の再会となっていた。この演出では、小さいパパゲーノも小さいパパゲーナも姿は見せずに4台のベビーカーで代表させて、奇抜な形で喜びを表現し、一人が2台も押す滑稽な仕草も手伝って、観客の笑いを誘っていた。


              一方、暗闇の中で,夜の女王の一行がモノスタトスの案内で、ザラストロに復讐しようと建物の中に忍び込んで来た。しかし、通常の演出では、それを警戒しザラストロ軍団が待ち構えており、雷鳴や突然の嵐などによって夜の女王一行は、奈落に沈み、舞台は明るい太陽の世界に変転し、ザラストロが勝利宣言をして、タミーノとパミーナの二人が祝福されて大団円となる筈であったが、この演出では、この最後の場面の解釈が変更されて、良く理解できない意味不明の終焉の仕方になっていた。セリフは同じなのであるが、それに行動が伴わず、観客に勝手に解釈せよと投げ出したようにも思われた。しかし、お客さんの終わりの拍手は盛大であったので、ライブの世界では、許容されたのかも知れないが、最後まで理解できない終わり方であった。以下は、この演出の終わり方を、リブレットと確認しながら、忠実に再現して、記録に留めておきたいと考えた。


一方、暗闇の中で夜の女王の一行がモノスタトスの案内で、ザラストロに復讐し、不意打ちを食らわそうと建物の中に忍び込んで来た。しかし、ここで待ち構えていたのは、ザラストロただ一人であり、彼は首から下げた「光の輪」を手にして、何か操作しようとしているように見えた。そこへ強烈な雷鳴と嵐の音楽が聞こえ、夜の女王が一人でザラストロの背後から飛びかかり、二人は「光の輪」を取り合いしているよう見え、二人が倒れた弾みに、「光の輪」はその先に転げてしまい、それを手にしていたのはタミーノと傍らにいたパミーナであった。ザラストロと夜の女王は倒れ込んでしまったまま、そして「光の輪」を手にしたくて手を伸ばしたまま、ここでセリフ通りに「太陽の光は夜を追い払い、偽善者の不正な力を討ち滅ぼした」と、意味不明に聞こえる勝利宣言をしていた。


              一方、「光の輪」を手にしたタミーノとパミーナは、万歳で迎えられ、賢者の仲間入りをしたと讃えられていたが、パパゲーノとパパゲーナの4台のベビーカーの傍に近づき、タミーノは「光の輪」で先頭のベビーカーの中の子をあやしていた。ここで壮大な全員の合唱が始まり、「浄められた人々よ、彼らは夜を押しのけた」と歌いながら、オリシスとイシスの神々に感謝しつつ、「強いものが勝ち、むくいとして美と叡智には永遠の王冠が飾られる」と華やかに声を大にして歌われていた。四人はベビーカーの子供をあやしつつ、タミーノ、パミーナ、パパゲーナ、パパゲーノの順に、ベビーカーを押しながら、将来の姿を見据えながら、ゆっくりと退場していった。しかし、舞台では、ザラストロと夜の女王の二人は「私怨は簡単には終わらない」とばかりに取っ組み合って、最後まで争い続けている私怨の「魔笛」として描かれているように見えた。





               この「魔笛」は、最後の夜の女王の登場の場面から、通常の演出とは異なる演出がなされ、夜の女王の奈落に沈む部分がなく、リブレットにはないザラストロと二人で争う場面が付加されていた。このような解釈は、従来の夜の国の女王軍団と、太陽の国のメーソン的なザラストロ軍団の対立の構図を弱めて、大病院内の前院長の妻と現在の院長との「光の輪」の取り合いを巡る私的な怨念とも言うべき、小さいが根は深い争いの対立の構図に置き換えたものと解釈できよう。この「魔笛」の冒頭の三人の侍女は赤十字を付けた看護婦さんであり、白衣の人々のザラストロ軍団は大病院の従業員で同じ仲間たちであり、組織の対立ではなく、あくまで、前院長の妻と現在の院長との私的な対立と考えれば、今回のような演出もありうるのかなと考えてみた。この「光の輪」については、夜の女王はパミーナに第二幕で「ザラストロを殺して太陽の輪を取り戻しなさい」と命じており、これはリブレットでも解釈できる言動である。この「光の輪」を、ここでは権力の象徴と位置づけ、それを巡って組織対立の原点と解釈するか、私的な怨念の対象と考えるかによって、描き方が異なってくるのかも知れない。



              しかし、モノスタトスと夜の女王の一行の企みに対し、慎重なザラストロがただ一人で対抗しようとしていた最後の場面は、大組織の軍団の長として理解しづらいと思われるし、ザラストロの勝利宣言が全く意味をなしていないことや、ベビーカーで誤魔化しているが子供の扱いなどから、この解釈はやはり無理筋であり、どうして素直な大団円にしなかったのか不思議に思われた。

          従って、今回のアーノンクールのこの「魔笛」は、私個人の見解では、アーノンクールが、演出者ヘルツオークと相談し、こういう解釈もありうると言う例を示したものと考えたいと思う。アーノンクールのように、オペラの演奏機会の豊富なベテラン指揮者だけに許されるお遊びの演出なのであろうか。彼の「魔笛」の解釈の本質は、既に彼のCDに残されていると思う。しかし、今回のこの「魔笛」は、CDや前回のチューリヒのもの以上に、音楽がゆったりとしており、歌手が伸び伸びと歌っており、現代演出にありがちな理解しずらい部分が少なく、私個人としては、まずまずの楽しめる現代風「魔笛」かと考えてきたが、最後で解釈困難な無理筋に出会って当惑し、すっかりこの映像の印象を悪くしてしまった。以上の通り、取りあえずの感想を述べてきたが、見る人によって見解の相違も多くあるに違いない。今後、日本モーツァルト協会のオペラサークルの皆さん方に問題提起をして、いろいろな方々のご意見を聞いてみたいと思う。

(以上)(2013/09/24)


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