(新しいBDデイスクより;グラン・パルテイータK.361とピアノソナタK.457)
13-8-2、下野竜也指揮東京佼成ウインド・アンサンブルによるグラン・パルテイータK.361抜粋、2008年2月紀尾井ホール、および菊池洋子のピアノによる幻想曲K.475およびピアノソナタ第14番ハ短調K.457、1012年2月、紀尾井ホール、

−今回この4楽章に編成されたグラン・パルティータを実際に聴いてみると、第1、第3、第6、第7の4楽章が抜粋されていたせいか、まるで管楽器のための交響曲のように良く響いていた。指揮者下野が全体をバランス良くアレンジして、この曲の特徴を取り出した優れた演奏として高く評価したい。一方の菊池洋子の今回のピアノリサイタルは、デビュー10周年記念として、これまで弾いてきたものから選び抜かれたプログラムであったが、彼女は幻想曲ハ短調とピアノソナタハ短調とを一体に扱っており、弾いていてオペラのように、情熱的な会話や対話があったり、ピアノにオーケストラや管楽器が現れてくると語っていたのが面白かった−

(新しいBDデイスクより;グラン・パルテイータとピアノソナタ)
13-8-2、下野竜也指揮東京佼成ウインド・アンサンブルによるグラン・パルテイータK.361抜粋、2008年2月紀尾井ホール、および菊池洋子のピアノによる幻想曲K.475およびピアノソナタ第14番ハ短調K.457、1012年2月、紀尾井ホール
(2009/04/10のNHKクラシック倶楽部よりBD-12.5に収録、および2012/03/09のNHKクラシック倶楽部よりHDD-82.1に収録)

    八月号の第二曲は、最新のブルーレイ・デイスクに収録して以来、アップする機会に恵まれなかった 下野竜也指揮、東京佼成ウインド・アンサンブルによるグラン・パルテイータK.361抜粋、2008年2月紀尾井ホール、および菊池洋子のピアノによる幻想曲K.475およびピアノソナタ第14番ハ短調K.457、1012年2月、紀尾井ホールの二組のコンサートをお届けする。いずれもNHKのBSのクラシック倶楽部をソースとして収録している。最初のウインド・アンサンブルのコンサートは、モーツァルト、ホルスト、ストラヴィンスキーなどの曲を集めた管楽器の大コンサートであり、そのせいかグラン・パルテイータK.361は、第1、第3、第6、第7の4楽章に抜粋されたものであったが、演奏はまるで初期の交響曲のように堂々とした演奏であった。一方の菊池洋子は、クラシック倶楽部で放送された彼女自身のモーツァルト・コンサートで、標記の曲のほか彼女の語りなども入っており、期待の溢れるコンサートであった。いずれも早くアップされることを待ち望んでいたソフトであり、互いに無関係な曲の組み合わせであることをお詫びしたい。



     最初のグラン・パルテイータ(セレナーデ第10番)変ロ長調K.361(370a)は、このHPでは全12組、映像では5組のアップロードが5年ほど前に完了しており、626曲中最初に「映像のコレクション」として、全体の総括を完了した曲であって、追加曲があればキチンとフォローしたいと考えていた。しかし、今回アップする下野竜也指揮東京佼成ウインド・アンサンブルの演奏は、誠に残念ながら4楽章の抜粋曲であり、直ぐにアップすることを躊躇したため、そのまま放置されてしまったものであった。
         ところがこの東京佼成ウインド・アンサンブルのコンサートの全体を改めて聴いてみると、第2曲はホルストの「吹奏楽のための第一組曲」、第3曲はストラヴィンスキーの「管楽器のための交響曲」という大編成のブラス・アンサンブルであり、このコンサートの目的の達成には、第一曲は、管楽セレナーデ的な娯楽音楽ではなく、重厚な響きを持つシンフォニックな真面目な音楽である必要があった。この4楽章に編成されたこの曲を実際に聴いてみると、小編成ではあるが管楽器のための交響曲のように響いており、指揮者の下野竜也も含めて、彼らも真剣にこの曲を管楽交響曲第一番のように捉えて、思いっきり演奏しているのが確認できた。その意味では、この演奏は他の7楽章構成の演奏とは異なるようであるが、構成する各楽章の演奏は素晴らしく、この曲の持ち味の一部を実に良く解釈しており、指揮者下野が全体をバランス良くアレンジして、シンフォニックな曲に仕上げていた。従って、この曲の特徴を取り出した一つの演奏として、ここでは高く評価したい。

 

      このウインド・オーケストラは1960年に設立されて以来、第一線で活躍する管楽オーケストラとして年間100回を超える国内公演のほか、その活動は広く海外にも及んでおり、小規模なアンサンブルから大編成の作品まで幅広いレパートリを持ち、多くのファンを得ているという。子供たちによるブラスバンドの普及により、子供の頃から馴染んだ楽器が好きな音大生が多くなり、逆にヴァイオリンを学ぶ生徒が少なくなって困っているいると言われるが、これが最近日本でウインド・アンサンブルが盛んになって来た理由なのであろう。しかし、このコンサートの演奏では、ホルストやストラヴィンスキーの作品は、モーツァルトのように余り優れた作品ではないような気がした。
          このコンサートの開始前に紀尾井ホールの広い舞台が写されていたが、もの凄い数の椅子が用意されており、その第一曲目として、「グラン・パルテイータ」変ロ長調K.361(370a)用に用意された場所は中央のほんの一角で、指揮者の下野竜也を中央に、13人の配置は、前列は左からクラリネット*2、バス・クラリネット*2、ファゴット*2、オーボエ*2の8人であり、後列は左からホルン*4にコントラバスの13人であった。この広い舞台の椅子に、ウインド・アンサンブルの奏者たちが全員揃ったら、大変なオーケストラになると思われるほど、この13人の規模は少なかった。



        第一楽章は、トウッテイによる堂々たる響きのラルゴの序奏で始まり、この力強い和音を縫うようにクラリネットの独奏パッセージがからみ、次第に緊張感を高めて属七の大和音で休止した。対照的にクラリネットで始まるアレグロの第一主題は、オーボエなどの力を借りながらキビキビとしたテンポで軽やかに始まった。この序奏といい、ソナタ形式のアレグロといい、この始まりは極めてシンフォニックなアンサンブルであり、指揮者の下野竜也がしっかりとリードしていた。曲はやがてバス・クラリネットで提示される第二主題に入るが、旋律は第一主題と同じ形で楽器の音色と調性を変えたものであり、続いてオーボエとホルンへと引き継がれ、素晴らしく力強い盛り上がりを見せて提示部を終えていた。ここで繰り返しを行っていたが、さらに全体の力感を増して展開部へと進んでいた。展開部では新しい主題がクラリネットで始まり各楽器に引き継がれていったが、これも力感溢れるもの。下野のリードにより各楽器は非常に伸び伸びとしており、明るく晴れやかに再現部へと突入し、素晴らしい勢いで盛り上がりを見せてこの楽章を終えていた。


          第二楽章は映画「アマデウス」で有名なアダージョであり、この楽章の構成は、短調の中間部を持つ三部形式か。ホルンと低音の静かな伴奏のもとで、第一オーボエが高らかに歌い出し、続いて第一クラリネットが、そして第一バスクラリネットが歌い出し、心に浸みる微妙な音色でゆっくりと語り継いでいた。バスクラリネットの深い響きとオーボエの絶妙なさえずりが印象的で、モダン楽器の朗々とした特徴が出ていた。中間部でも、一貫した分散和音による低音の伴奏は変わらずに、主としてオーボエの高音が活躍していたが、第三部では再び、オーボエ、クラリネット、バスクラリネットの順に歌い出し、素晴らしい効果を上げて、最後にはこれら3楽器の三重唱で静かに結ばれていた。実に穏やかで深みが滲みる妙なる楽章であった。



           第三楽章はアンダンテでで始まる主題と六つの変奏曲であり、クラリネットで始まる8小節の主題は繰り返されてから、再びクラリネットがリードしていた。第一変奏ではオーボエが主奏し、活気のある三連符で主題が美しくパラフレーズされていた。第二変奏はバスクラリネットとファゴットのオクターブで穏やかなしかし珍しい和音が進行していた。第三変奏では、力強いトウッテイで始まってから二つのクラリネットが二重唱し、ほのぼのとした味わいを見せていたが、この変奏だけ繰り返しがなかった。

           第四変奏では短調に変わり、二つのクラリネットがため息の音形を歌い出し、後半ではクラリネットとバスクラリネットが主題をなぞっていた。続いて第五変奏ではアダージョとなり、バスクラリネットの低音のさざ波からオーボエが高らかに旋律を歌い出し、それが後半になってもオーボエの歌がひとしきり明るく続いていた。最後の変奏はアレグレットでスタッカートによる全員参加の踊るような楽しい変奏。三拍子で軽快に進んでからコーダで威勢良く、この楽章を締めくくっていた。各楽器の特徴が実に良く発揮されて、輝くように伸び伸びと歌われており、クラリネットとオーボエの活躍がやはり目立っていた。



           第四楽章はユーモアを持った溌剌としたロンド主題が飛び出す典型的なロンド楽章のフィナーレであり、この主題がトウッテイで三回も顔を出し、最後には長いコーダで結ばれていた。ロンド主題を挟んだ二つのエピソードもまるでコントルダンス風の早い舞曲で勢いよく速いテンポで進行し、全体はA-B-A-C-Aと一気に進み、あっという間にこの楽章をまとめ上げていた。

           この管楽セレナード「グラン・パルテイータ」K.361の抜粋演奏は、まるで一気に駆け抜けてしまうフィナーレを除いては、それぞれが深みを持った楽章が続いており、終わった印象としては堂々たるシンフォニーを聴いたような感じがした。しかし、それが指揮者下野竜也の思惑通りであって、これから続く重い管楽のシンフォニックなアンサンブルを聴く前座のお膳立てであったように思われた。この曲は、二つのセレナーデの合成曲だといわれるくらい、個性的な多楽章構成の曲であったが、ポストホルンとかハフナーとか他の多楽章セレナーデもシンフォニーとして演奏されており、このような趣向もこの曲に限っては許されるのであろうと思った。

            演奏の東京佼成ウインド・アンサンブルの13人は、ソリストとしても活躍できそうな素晴らしい技量の持ち主たちで、下野竜也のしっかりした指揮の下で素晴らしい演奏をしていた。しかし、このコンサートとしては、出だしの小交響曲は素晴らしかったが、続く二つの大曲が音楽的に余り豊かでなく、編曲であってももっと良い曲がないのかと、個人的には考えさせられた。           (以上)(2013/08/07)


    8月号の第二曲目は、菊池洋子の2012年2月16日、紀尾井ホールで開かれたピアノ・リサイタルであり、幻想曲ハ短調K.475およびピアノソナタ第14番ハ短調K.457、およびショパンが作曲した「ドン・ジョヴァンニ」の「お手をどうぞ」の二重唱による変奏曲作品2が演奏されていた。このNHKのBSのクラシック倶楽部では、リサイタルに先立って、彼女の語りの放送があり、それを要約してまとめると、以下の通りとなろう。



     菊池洋子は、桐朋学園女子高を卒業後、イタリアのイモラ音楽院に留学。1997年にミラノでソロ・リサイタルを行ったほか、2002年第8回ザルツブルグ・モーツァルト国際コンクールで優勝し、国内外で活発な演奏活動を展開している。彼女は、今回のリサイタルは、デビュー10周年リサイタルと言うことで、この10年間行ってきたモーツァルトのピアノ曲から幻想曲とピアノソナタハ短調K.457とショパンの変奏曲などで、プログラムを作ってみたという。彼女は幻想曲とピアノソナタハ短調K.457をまとまった一体の曲と考えているので、幻想曲の後を切らずに、余韻を持って続けて演奏してみたいと語っていた。それはこれらの曲には、弾いていてオペラのように、情熱的な会話や対話があったり、ピアノにオーケストラや管楽器が現れてくると熱心に語っていた。



           初めの幻想曲ハ短調K.475は、大別すると五つの部分に分かれており、緩急緩急緩と楽想の赴くままに即興的に調とテンポを変えて展開される。最初の瞑想的なアダージョはハ短調であり、菊池洋子はユニゾンで思い切ってゆっくりと開始していた。重苦しい主題がじっくりと繰り返されて行き、暗い表情が続いて頂点に達すると、静かに収まるが、途中からハッとするような美しい静かな主題が現れ思わず和んでしまう。その主題でひとしきり続きアダージョの部分を締めくくってから、やがてアレグロで力強い和音とともに激しい速いパッセージが始まった。このアレグロは繰り返されて激しく頂点を築いてから穏やかに収まりを見せていた。続いてアンダンテイーノの部門に入り、暫く穏やかな部分が続き、必ずしも燃焼しないままに、続いてピウ・アレグロの部分に入り、もの凄い勢いで激しく両手が鍵盤上を駆けめぐり、嵐の頂点に達してから次第に穏やかになり、いつの間にか初めのアダージョが始まっていた。静かに一音一音大切に和音が進み、深い和音で締めくくられていたが、この和音が続くハ短調ピアノソナタの冒頭の和音にそっくりであった。



             続くピアノソナタ第14番ハ短調K.457の第一楽章のアレグロでは、重々しく上昇する和音の第一主題で始まるが、同じハ短調のせいか先の幻想曲の暗いアレグロの緊張した気分を引きずっているかのように響く。菊池洋子のピアノは緊張感溢れる表情で激しくどんどんと進み、経過部を経て、やがて軽やかに右手と左手が応答するような優しい第二主題に入り明るさを取り戻していた。この楽章の提示部はこれら二つの特徴ある対象的な主題で構成されており、しっかりと進んでから、演奏では提示部は明るく繰り返されていた。展開部では第一主題の冒頭部の音形が力強く繰り返し展開され、緊張感を増しながら進行して、フェルマータで一息入れて再現部へと移行していた。菊池洋子のピアノは、幻想曲に引き摺られたようにこのアレグロ楽章を緊張感を保ちながら力強く弾き進み、再現部では型通りではあったが、スピード感あるピアノで明るく進み、最後はコーダで明るく一気に結ばれていた。



             第二楽章は、ソット・ヴォーチェの穏やかなロンド主題がゆっくりと美しく現れるアダージョであり、菊池洋子は丁寧に確かめるように弾いていたが、ひときわ高まりを見せた後に繰り返されていた。この美しい主題は珍しくロンド形式のロンド主題であり、続いて、早速、第一のエピソードが温和しく現れる。この主題も細やかな動きを見せながら、丁寧に弾かれて繰り返されて、再び美しいロンド主題となるが、ここでは見事に変奏されて再現されており、菊池洋子の肌理の細かなピアニッシモの美しさが目立っていた。続く第二のエピソードは、ベートーヴェンの「悲愴ソナタ」の第二楽章の冒頭部分によく似た主題であり、美しく推移していたが途中のアルペッジョの部分が異常に美しい。このエピソードは、再び変奏されて繰り返されて、別の分散和音で現れており、モーツァルトのピアノの細やかさを写し出すように聞こえていた。

   

                        フィナーレは変則的なロンド・ソナタ形式か。主要主題とエピソードがA-B-A-B-Aの形で勢いよく進行していた。ハ短調の三拍子のシンコペーションをもつ第一主題が終始重要な役割を果たすが、後半には勢いのよいリズムで進行しても、突然の休止があったりして、焦りや不安な情緒をもたらすものであった。続いて一見伸びやかに始まるエピソードも、半音進行の翳りを示しており、勢いはあっても決して明るくならない楽章であった。 菊池洋子は、この曲を幻想曲から一気に全楽章を落ちついてしっかりと弾きこなしており、力強さと言い、技巧的な表現の緻密さといい、緊張感溢れる素晴らしい熱演を示してくれており、期待通りのモーツァルト弾きに成長していると思われる。

           このコンサートの最後に、彼女はショパンの「お手をどうぞ」による変奏曲変ロ長調作品2を弾いていた。この曲の原曲は20分ほどの長さを持つオーケストラ伴奏付きの曲であったが、彼女はピアノ独奏曲にした版を用いて演奏しており、オーケストラ部分がなくとも十分に楽しめるように、上手にアレンジされていた。冒頭のオーケストラで始まる長い序奏部のラルゴが少し短くなり、変奏曲間の接続部が略されていたようであるが、序奏部、主題提示と5つの変奏曲に、最後のポロネーズ風の終曲の構成は、全く原曲が生かされていた。
           この曲はショパンがワルシャワの音楽院在学中に作曲したとされ、シューマンの「諸君、脱帽したまえ、天才だ!」という言葉の作品紹介が有名であるが、ショパンはシューマンがこじつけた5つの変奏の説明の仕方が気に入らなかったという話も、二人の天才の性格を現すものとして有名である。

            私はショパンの10代の若書きの作品、ポロネーズとかピアノソナタ第一番などの初々しい曲が大好きなのであるが、その魅力をこの曲も共通して持っており、菊池洋子がどういう演奏をするか関心があった。彼女はモーツァルトの曲では抑えていたかも知れないが、ここではヴィルトゥオーゾ的な腕を見せており、その自由な伸び伸びした表現が魅力的であった。久しぶりでこの曲を聴いて、シューマンのような発想もこの曲にはあり得るのかなと思ったりした。

            私は菊池洋子のピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467とピアノソナタ第11番K.331のSACDを持っており、自分なりに関心を持っているが、なかなかその機会に恵まれない。この放送のような、今後の彼女の活躍を期待したいと思っている。        (以上)(2013/08/13)



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