(最新のBS放送より;サイモン・ラトル指揮カーセン演出の「魔笛」)
13-6-3、サイモン・ラトル指揮、ロバート・カーセン演出、ベルリンフイルとベルリン放送合唱団による歌劇「魔笛」K.620、
バーデン・バーデン復活祭2013、

−この「魔笛」の印象を、一言で特色づければ、「森の中の人間愛の魔笛」とでも言うことができようか。冒頭で大勢の人々や森の中での出逢いの突飛さに驚かされたが、進むにつれて、「魔笛」の物語を借りて人間の愛の素晴らしさを強調しようとする演出者の考え方が見えてきて、伝統的な「魔笛」とひと味違う新鮮でモダンな感じのする「魔笛」となっていた。ラトルとベルリンフイルの音楽も新鮮であり、合唱団も極めて大勢で活躍して楽しませてくれた−

(最新のBS放送より;サイモン・ラトル指揮カーセン演出の「魔笛」)
13-6-3、サイモン・ラトル指揮、ロバート・カーセン演出、ベルリンフイルとベルリン放送合唱団による歌劇「魔笛」K.620、
バーデン・バーデン復活祭2013、
(出演者)タミーノ;パヴォル・ブレスリク、パミーナ;ケイト・ロイヤル、ザラストロ;デイミトリー・イワシチェンコ、夜の女王;アナ・ドウルロフスキ、パパゲーノ;ミヒャエル・ナジ、パパゲーナ;レグラ・ミューレン、弁者;ジョゼ・ファン・ダム、三人の侍女;アニーク・マシス、マグダレーナ・コジェナ、ナタリ・シュトゥッマン、
(2013年5月27日、NHKプレミアム・シアターの5.1CH放送をHD2に収録済み、)

          6月号の第三のソフトは、2013年5月27日、最新のNHKプレミアム・シアターの5.1CHBS放送で上映されたサイモン・ラトル指揮カーセン演出の「魔笛」をお送りするものである。この「魔笛」は、バーデン・バーデン復活祭2013公演とうたわれており、ベルリンフイルがカラヤン以来、ザルツブルグで毎年行っていた復活祭公演を変更して、今年から南ドイツのバーデン・バーデンで上演するという歴史的な公演のように解説されていた。サイモン・ラトル指揮のベルリンフイルによるオペラは、演奏会形式の「フィガロの結婚」第4幕以来(6-2-1)であり、演出者のロバート・カーセンは、最近ではバレンボイムのスカラ座の「ドン・ジョヴァンニ」(2011)(12-1-3)を演出した方で、斬新な舞台を演出する人である。演奏はベルリンフイルとベルリン放送合唱団によるもので、メインの出演者はラトル好みの新しい人ばかりのようだが、弁者にジョゼ・ファン・ダムを使ったり、三人の従女がベテランの熟女女性陣であったりと使い分けているようだ。久しぶりの最新のオペラなので、ハイビジョンの画像も美しく、5.1CHの音声も迫力があり、ラトルの指揮も冴えているのでご期待頂きたい。


   この映像は指揮者サイモン・ラトルがオーケストラピットに入場してくるところから始まり、拍手に応えて挨拶をして、身構えてから序曲が三和音で始まった。テインパニーを古楽器風に鋭く鳴らして威勢良く始まり、ゆっくりした序奏の後にアレグロのヴァイオリンによる軽快な主題が飛び出してきて総奏になってきたところで、映像では舞台全体が写されて、幕前にオーケストラピットを囲んでロの字型に花道が写されていた。そして左右の客席から大勢の人たちがぞろぞろと、花道に上がってロの字型に腰を下ろして並び、しきりにオーケストラの序曲の演奏を楽しげに眺めていた。


            序曲が終わって第一曲の導入部のアレグロが始まると、群衆はタミーノらしき男を大勢で担ぎ上げて舞台から立ち去っていたが、舞台では大きな穴から「助けてくれ」と叫んで白い背広姿のタミーノが穴の外へ逃げ出そうとしていた。姿は見えないが穴にいた蛇に追われて命からがら逃げ出したようで、そこへヴェールを被った黒ずくめの三人の侍女が「化け物よ、失せよ」と現れて、ピストルで怪物を打ち倒し、「勝ったわ」と勝利宣言をして賑やかな三重唱が始まっていた。舞台は暗い僂凌肯咾涼罎旅場で、その異様な何とも想像を絶する不可解な「魔笛」の衝撃的な始まりであった。
   よく見ると黒い喪服姿の侍女たちが、失神して倒れているタミーノを囲んで「凄い美男子だ」と歌いながら、誰が女王様に報告に行くかと女らしい争いを始めていた。眼鏡を外すと元気の良さそうな熟女たちの三重唱が見事であったが、話がつかず結局は三人で行くことになり、非常になごり惜しそうに姿を消した。


          気がついたタミーノが起き上がると、穴の中の蛇の死骸を見てビックリ。怪しい人影があり、やがて美しい音楽とピアニカの音とともにキャンプ姿をしたパパゲーノが客席から登場していた。パパゲーノは実際にピアニカを吹きながら鳥刺しのアリアを歌い、調子に乗って崩して歌っていたが、その面白い歌と演技に会場は大喜びで大成功。タミーノと鉢合わせして二人で話し込んでいるうちに、パパゲーノが力持ちでこの大蛇を殺したと自慢したところに、再び三人の侍女が登場して、嘘をついたと電子銃で口かせをはめられ、タミーノにはパミーナの絵姿の代わりに、何と動くパミーナの全身の姿が、森を背景に彼女の実物大の映像や拡大された顔の表情などが写されていた。



            タミーノはパミーナの姿を見て「何て美しい姿」とアリアを歌い出すが、この若いブレスリクの「これが恋なのか」と歌うアリアは情熱的でまずまずの出来映え。三人の侍女から悪者に誘拐されたと聞いて、直ぐに「助け出そう」と口にしたところ、雷鳴が轟いてパミーナがいた森の木陰に黒いドレスの夜の女王が登場していた。



            まだ若くて美しい姿のドウルロフスキは「怖がらないで、私の息子よ」とレチタテイーボで語りかけ、私の力では助けられなかったと歌い出し、アレグロになって「娘を助けて」とコロラチューラで歌って最高音も見事に決まり、タミーノを驚かせていた。その上、女王はタミーノを気に入ったのか、激励の意味かタミーノに猛烈なキッスをして、森の中に消えていった。



             タミーノは女王が置いていったスマホを手にして「今のは夢だったのか」と呆然としていると、パパゲーノの「ム、ム、ム」の歌声で我に返った。三人の侍女が女王様が喜んでいる話をし、五重唱になって、助ける決意を固めたタミーノには「魔法の笛」を、いやがるパパゲーノには「銀の鈴」を贈られて二人は勇んでザラストロの国へとパミーナを救いに出発する事になった。「案内は?」と聞くと森の中の広場でサッカーをする三人の少年の姿が写され、彼らが案内をすると言うことになって、二人は勇んで出発していた。



             すると場面が変わって場所はお城の中か。パミーナがさらわれてモノスタトスに捕まってさあ大変。必死の抵抗の二重唱が始まってついにはパミーナは倒れてしまう。一方、パパゲーノはうまく宮殿に潜り込み、倒れているパミーナを見つけるが、そこでモノスタトスと鉢合わせ。黒い人と鳥の怪人に互いに驚いて逃げ出してしまうが、パパゲーノは上手くパミーナに近づいた。スマホの絵姿で本人を確認しているうちに二人は仲良くなり、パパゲーノがタミーノと助けに来た長い話をした。恋人すらいないことに気がついたパミーナが、「愛を感ずる男たちには、優しい心も備わっている」とあの有名な二重唱を歌い出した。パパゲーノも歌い出して、二人で男と女の愛の大切さを歌っているうちに、いつの間にか時が過ぎ二人は森に姿を消した。



          フィナーレに入って三人の少年が森の中をタミーノに道案内し、ゴールまで一本道だと言われ、「冷静・沈黙・忍耐」の教えを受けて、森の広場でパミーナを助けようと覚悟を決めていた。「下がれ!」の脅しにも冷静で、森の中で目隠しをした老僧との押し問答が始まった。僧侶はこの聖なる宮殿には悪人はいないと断言し、不幸に打ちひしがれた女性が証人だというと、お前は女の涙に騙されているといって立ち去った。途方に暮れたタミーノ。せめてパミーナが生きているかどうか教えてくれと尋ねると、暗闇の中から「パミーナは生きている」と遠い声が聞こえてきた。



            タミーノは勇気百倍になって、感謝の気持ちで笛を吹くと、笛の音が美しく森の中に響きわたり、動物たちも喜ぶという。元気を出して歌いながら笛を吹き続けているうちに、パパゲーノの笛も聞こえてきた。そこで探しに出かけると、入れ違いにパミーナとパパゲーノが現れたが、残念ながら直ぐに二人はモノスタトス一行に見つけられ、捕われそうになった。



                       そこで、パパゲーノが「銀の鈴」を鳴らしてみると、グロッケンシュピールの美しい音が聞こえ、「何て素敵な音だ」と一行は倒れたり、踊りながら立ち去ってしまって二人は救われた。ここで二人が歌う二重唱は、シューベルトの「わらべは見たり」のソックリさんで、二人は気持ちよく歌っていると、テインパニーの音が響き、遠くから「ザラストロ万歳!」の歌声が聞こえてきた。



             「ザラストロだ」さあ大変。二人の廻りには異様な制服姿の白い目隠しをした僧侶たちが集団で集まってきた。パミーナは王女らしく「正直に話そう」と覚悟をして、皆の前で堂々とザラストロに正直に説明をしたが、ザラストロから直ぐに自由にするわけに行かないと諭された。そこへタミーノがモノスタトスと一緒に現れたので、若い二人は直ぐに気がついて抱き合ってしまっていた。モノスタトスが得意げに事情を話すが、ザラストロは彼の腹黒さに対し厳しい処分をして、全員の前で、新しい二人の男性に試練の殿堂に導くように指示をしていた。その姿は実に堂々としており、立ち会った全員から「賢明なザラストロ」と親愛なる合唱が開始されていた。タミーノとパパゲーノは、この集団の仲間入りの印かハチマキで目隠しをされ、蛇の穴から地下にと連れ去られて、第一幕が終了していた。



              第二幕はオーケストラの序奏で重々しく始まったが、ロの字型の舞台では制服制帽に目隠しをした集団が次々に登場し、僧侶たちが集まってきた。ザラストロが宣言をし、タミーノが闇の国から光の国に友情を求めて来ていることや、神々がパミーナを伴侶に決めたことなどを語った。そしていくつかの応答の後、賛成のものは私に習ってくれと言い、帽子と目隠しを外し、皆の様子を見ていたが、一番隅に何と夜の女王の姿があり、ザラストロは良く来たとばかりに彼女にキスをして、二人で手を繋いで皆の前を一周していた。



                            三つの和音が響いてから、イシスとオシリスの神々への祈りの聖唱が始まり、始めにザラストロが朗々と歌い、全員で若い二人へ叡智を授けたまえと祈っていた。 場面が変わってタミーノとパパゲーノが地下室に連れてこられ、暗闇に驚き、突然の雷鳴に腰を抜かしていると、二人の僧侶が登場し、タミーノの試練への決意のほどを確かめ、パパゲーノにはお前にソックリな若いパパゲーナに会わせてやると同意させた。そして、二人に「沈黙を守り、女の企みに気をつけろ」と二重唱で忠告し、二人の試練は始まった。



           早速、三人の侍女が現れて、女王のところに行こうと二人を誘い出そうとしたが、タミーノが危ないパパゲーノを何とか忠告し引き留めて、三人を撃退していた。それを大勢の僧侶たちが見ており、二人は次の試練に向かっていた。
           パミーナが寝込んでいるとそこへモノスタトスが登場し、キスぐらいは良いだろうと早口のアリアを歌いながら近づいて、いたずらをしようとしていた。



           しかし、突然、夜の女王が現れたので、パミーナが喜んでお母さんと抱きつくと、「私の使いの者は?」と尋ねていたが、聖者の味方になったと告げると、怒りだして、ナイフを娘に手渡して、これでザラストロを殺せと、激しくアリアを歌い出した。この母親の剣幕とコロラチューラの素晴らしさに驚いているうちに女王は立ち去ってしまった。もの凄い拍手で現実に戻り、一人残されたパミーナがナイフを手に呆然としていると、またモノスタトスが現れたが、ザラストロがそこに現れたので大丈夫。



            パミーナはザラストロに母を助けてと頼むが、ザラストロは「この聖なる神殿には、復讐を思う人はいない」と優しく歌い聞かせてパミーナを慰めていた。このザラストロのアリアは朗々と優しく歌われて、素晴らしい劇的な効果を上げていたが、途中からは、夜の女王が登場し、ザラストロの歌うアリアを信用し、聞き惚れているように思われた。ここが他の演出と基本的に異なるところのように思われた。



          再び、タミーノとパパゲーノの二人が登場し、パパゲーノが無駄口を言って雷鳴で脅されているうちに、「ここは一滴の水もない」とこぼしていると、婆さんが現れて水を差しだしてくれた。パパゲーノが退屈しのぎに婆さんをからかっているうちに、年齢は18歳と2分だという。恋人はと聞くと、慣れ慣れしくパパゲーノだという。驚いたパパゲーノがお前の名前はと聞こうとしたら、雷鳴が響いて何処かへ行ってしまった。パパゲーノは「もう口はひらかない」と改心したようだった。そこへ天井から三人の童子たちが「ザラストロの国へようこそ」と歌い出し、魔法の笛と銀の鈴を返してくれ、二人にはワインや食べ物の差し入れがあった。お腹が減っていたパパゲーノは、早速、ワインやリンゴにかじりついていたが、タミーノはさりげなく笛を吹き始めた。



            アンダンテのフルートの音を聞きつけてパミーナが姿を現したが、パミーナは口がきけない冷やかなタミーノを見て仰天し、一方のパパゲーノも口が一杯で一言もしゃべれず、パミーナはがっかりして絶望していた。そして「ああ、愛の幸せは永遠に消え去った」と歌っていたが、このパミーナの絶望的なアリアは、悲しげに地下室全体に響きわたり、タミーノは必死の思いで耐えていた。



            三つの和音が響きわたり、僧侶たちの合唱が折から始まっていたが、彼らは神々への喜びの気持ちばかりでなく、良く聞くとタミーノへの試練に耐えた賞賛の声も歌われており、「われわれと同じ仲間になるだろう」と歌っていた。そこへザラストロがタミーノを連れてきて、「まだ二つの試練が残されている」と告げて、パミーナを呼んでいたが、目隠しされたパミーナはザラストロの仲間の衣裳を着けた母親に手を引かれてきた。






    ここで、二人はやっと再会したが、目隠しのため顔を合わせても見ることが出来ない。そしてタミーノは試練のために出発しなければならず、ここで有名な別れの三重唱が始まった。試練に立ち向かうため別れを告げるタミーノ、別れを嘆き成功を祈るパミーナ、別れの時間が来たことを告げて二人を激励するザラストロと、三人が思い思いを語る三重唱となっていた。パミーナの母がそこに居合わせたのは驚きで、仲間とともに暖かい視線でこの三人の別れを見つめていたのはまさに新演出で、これはクローズアップされたから確認できるので、ライブの遠い席では気がつかないだろうと思われた。



           一方のパパゲーノは、暗闇の中で出口を塞がれて途方に暮れていたが、僧侶に頼んで、ワインにありついてご機嫌になっていた。俺の本当の望みは何だろうと自問していると、彼は本気で「俺は娘っ子が欲しい」と言うことになった。するとどこからか差し入れされたグロッケンシュピールが鳴り出して、「俺は嫁さんが欲しい」と景気良く歌い出した。歌は三番まであり、元気よく歌っていると、18歳2ヶ月の婆さんが現れて、握手しないとここにパンと水だけで閉じ込められてしまうと脅していた。パパゲーノが「婆さんでも良い」と手を出して握手すると、あのパパゲーナが一瞬現れたが、アッという間に僧侶と雷鳴に阻まれた。直ぐ追いかけようとしたが間に合わず、それ以来、パパゲーノは必死になって森の中を隅々までパパゲーナを探し求めていた。



        フィナーレとなって、三人の童子たちが明るい三重唱で朝の訪れと太陽が輝くことを予言していたが、パミーナが客席をうろうろして花道から登場した。しかし、様子がおかしく、ナイフを手にした半狂乱の姿なので、タミーノはあなたを愛していると三人は告げ、会わせてやろうとご機嫌を取り、ナイフを取り上げて案内を始めていた。



            一方、本来なら険しい岩山の前の場面であるが、ここでは一見して雪深い森林の風景になっていた。雪の森林を守っている衛兵たちが「苦悩を負ってこの道を行けば」とコラール旋律をそのまま歌っていたが、「死の恐怖に打ち勝ったものが、地上から天へと引き上げられる」と歌っていた。そこにタミーノが現れ、勇気を出してこれに応えようとしていると、パミーナの声が聞こえてきた。衛兵たちに二人の会話が許され、二人で試練に挑戦することが許されることを知ったタミーノは、ここでパミーナと劇的な再会をし、聞こえてきたピッチカートの旋律に乗って、二人は愛と魔法の笛の力によって、恐怖の門をくぐって試練の道を克服しようと決意した。



            衛兵たちの指図によって、初めに火炎の燃える試練の道から、タミーノとパミーナが笛を高く持ち上げると笛が鳴り始め、テインパニーが弱く伴奏して、二人はゆっくりと笛の音に合わせて進み始めた。二人は火が燃え盛る危険な火炎の道を通り抜け、無事に戻ってきて一息ついてから、続いて今度は、流水の試練の道へと向かった。



           二人は魔法の笛の音とともに歩み始め、危険な道を何とか苦しみながら通り抜けて、無事、試練に耐えて戻ってきた。心配そうに見守っていた全員に「危険に打ち勝った」と祝福されて、二人は大喜びし、神殿の奥へと群衆の肩車に乗って運ばれて行った。



             一方、パパゲーノは、折角、一目会えたパパゲーナを探し求めていたが、どうしても見つからない。くたびれ果てて、雪の森の中で諦めて首でも吊ろうかと考えていると、上からロープが垂れてきた。誰も声をかけてくれないので、三つ数えたら首を吊ろうとゆっくり数えたが声がない。ロープを首に巻いていたら、三人の少年たちが現れて「銀の鈴」を鳴らしてご覧と声をかけてきた。「すっかり忘れていた」とばかりに鈴を鳴らすと、可愛いパゲーナが離れたところでこちらの様子を伺っていた。ここでパパゲーノとパパゲーナの劇的な再会と二重唱が始まり、二人の「ぱ、ぱ、ぱ」の歌声に観衆は大喜び。何度見ても素晴らしい劇的なシーンを、この映像でも味あわせてくれて、ここでも「魔笛」を見た喜びを感じていた。



             舞台が変わって、モノスタトスと夜の女王の一行4人が神殿の地下に現れて、神殿を破壊しようと潜んできた。しかし、その前に不気味な物音が聞こえ始め、雷鳴と大音響が起こって、一行は倒されてしまった。舞台は急に明るくなり、全員が集まっている中で、ザラストロが堂々と勝利宣言を行い、イシスとオシリスの神々に感謝を捧げていた。よく見るとタミーノとパミーナが王子と王女の形で祝福されており、パパゲーノとパパゲーナも結ばれており、何とザラストロと夜の女王も手を繋いでいた。そのほか、子供たちや、三人の少年たちもおり、素晴らしい大合唱の中で大勢の人たちからも歓迎を受けながら劇的な幕切れとなっていた。







            この映像は、初めて見るモダンな現代ものの「魔笛」であり、それに合わせたラトルの音楽も新鮮に聞こえる部分が多く、気になったカーセンの演出も、大勢の人々や森の中での出来事で最初は驚かされたが、新しいものにしては基本が余りぶれずに、人々の愛の物語として、むしろ親しみやすい演出であると思われた。
           この「魔笛」の基本構造は、闇の世界と光の世界との対立の構図であるが、この演出では最初はその対立が明確であるが、愛の力のせいか、終わりには消滅してしまうように描かれていた。そのせいでフリーメーソン的要素や子供たちが喜ぶメルヘン的要素は、最小限に止まっていた。「魔笛」で重要なのは舞台設定であるが、冒頭に出てくる巨大な岩山や、豪華なザラストロの宮殿などは、全て「森の中」を見せる写真で解決されており、そのために、ロの字型の花道や、絵姿のスライド、客席からの入場などの工夫や仕掛けが活用されていた。



           「森の中」の背景による演出で、最初のタミーノとパパゲーノの出逢いは自然体であったが、スライドでパミーナの絵姿を映し出したり、夜の女王の登場も、岩山ほど豪華ではないがまずまずであった。森の中でのパミーノやパパゲーノの逃亡や三人の少年の宮殿への案内も自然体であり、宮殿も入り口を工夫さえすれば、部屋や広場の背景が森であっても問題はなかった。第二幕の後半で、雪深い森を活用していたのもアイデアであった。
            いささか物足りなかった場面は、やはり第二幕フィナーレの岩山と恐怖の門の場面設定であろうか。ここでは背景の森と離れて、ここだけ特別の工夫がなされていたが、果たして困難な火と水の試練の場とどこまで感じさせたか、いささか心配であった。しかし、岩山と宮殿を離れて、森の中で何とかこの物語を説明出来たのは、演出者の創造力のたまものであろう。
            また、冒頭から大勢の人々を登場させていたが、それぞれ個性美に溢れており、よく見ると闇の人も光の人も混在しているように見えた。冒頭の場面では大勢の人は異様に感じたが、最後の場面では、ザラストロと夜の女王、タミーノとパミーナ、パパゲーノとパパゲーナの3組のカップルが登場しており、この物語は、三組のカップルの「愛の物語」であったことを気付かせてくれた。特筆すべきは、第二幕以降、ザラストロと夜の女王がいつも仲良く登場させていたことであろうか。

            舞台が新演出であったので、音楽面でも、舞台の動きに随所で音楽が合わせているように感じたが、ラトルのピリオド奏法による音楽はとても新鮮味を感じさせていた。特に、オーケストラピットを囲む花道の存在は、魔笛のように木管楽器が活躍するオペラでは、音響面でのアンサンブルの良さを与える点で効果的であるように思われた。指揮者の姿が中央にあって、全ての場面で指揮者の動きが見えていることは、劇の進行上、効果的であるように思われた。また、オーケストラのベルリンフイル、この演出では大勢の人々を演ずるベルリン放送合唱団の歌と演技は敬服に値する。
            歌手陣ではタミーノのブレスリク、パミーナのロイヤルともにこのHPでは初出であるが、二人とも、歌も演技もまずまずであったが、最後の試練の場が何となく物足りなさを感じさせた。夜の女王のドウルロフスキは、他の演出と異なって衣裳は地味であったが、声が良く伸び、最高音もクリアされていた。大勢の中の一人としてザラストロやパミーナに付き添うように活躍していた。子供たちを喜ばせる道化役としてただ一人で頑張っていたパパゲーノのミヒャエル・ナジは、良く持ち味を出して歌に演技に大活躍であった。また、ザラストロのイワシチェンコもまずまずの出来であると考えられるが、ハチマキで目隠しをする場面としない場面で、迫力が異なるような気がしていた。恐らく、フリーメーソンの儀式の場面で目隠しをしているようであるが、やはり動きが悪いようなので歌や声にも影響するものと思われる。また、三人の侍女は、このHPでもたびたび出てくるコジェナーやシュトウッツマンなどの熟女であり、カラヤンのお気に入りだったジョゼ・ファン・ダムが弁者を演じていたり、特色があった。

           この「魔笛」の印象を、一言で特色づければ、「森の中の人間愛の魔笛」とでも言うことができようか。冒頭で大勢の人々や森の中での出逢いの突飛さに驚かされたが、進むにつれて、「魔笛」の物語を借りて人間の愛の素晴らしさを強調しようとする演出者の考え方が見えてきて、伝統的な「魔笛」とひと味違う新鮮でモダンな感じのする「魔笛」となっていた。ラトルとベルリンフイルの音楽も新鮮であり、合唱団も極めて大勢で活躍して楽しませてくれた。伝統的な「魔笛」の映像は数多く残されているので、このような風変わりな「魔笛」も、時には楽しいものと思われる。

(以上)(2013/06/22)


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