(懐かしいS-VHSから;プレヴィンのN響定期からK.543、K.138、K.491、)
13-6-1、アンドレ・プレヴィン指揮、N響による交響曲39番K.543、デイヴェルテイメントヘ長調K.138、およびプレヴィンの弾き振りによるピアノ協奏曲第24番ハ短調K491、
1998年5月、第1352回、NHKホール、

−このコンサートの冒頭の「フィガロの結婚」序曲やデイヴェルテイメントヘ長調は、終始、明るく颯爽として、穏やかな優雅な雰囲気に満ちた楽しい印象をもった。また、プレヴィンの弾き振りによるピアノ協奏曲ハ短調K.491は、オーケストラが一人歩きせず、ひたすらプレヴィンのピアノに良く重なるアンサンブル重視のとても和やかな演奏であった。また、最後の第39番変ホ長調交響曲は、伝統的な風格ある序奏に始まった落ち着いた暖かみのある丁寧な演奏であり、好感がもてた。全体として中規模なオーケストラで弦と管のアンサンブルの良い響きが得られており、バラエテイに富んだ親しみの持てるコンサートという印象を強くした−

(懐かしいS-VHSから;プレヴィンのN響定期からK.543、K.138、K.491、)
13-6-1、アンドレ・プレヴィン指揮、N響による交響曲39番K.543、デイヴェルテイメントヘ長調K.138、およびプレヴィンの弾き振りによるピアノ協奏曲第24番ハ短調K491、
1998年5月、第1352回、NHKホール、
(1995年5月9日、NHKのBS11の放送をS-VHSテープ251.3に収録)

    6月分の最初のコンサートは、アンドレ・プレヴィン指揮とN響によるN響定期公演の第1352回で、1998年5月、NHKホールで収録されたものである。曲目は多彩であり、第一曲は「フィガロの結婚」K.492の序曲であり、第二曲はデイヴェルテイメントヘ長調K.138、第三曲はプレヴィンの得意な弾き振りによるピアノ協奏曲第24番ハ短調K491、第四曲目は交響曲第39番変ホ長調K.543であった。第二曲のデイヴェルテイメントは今回が初登場であるが、ピアノ協奏曲第24番のプレヴィンの弾き振りは、これまでにN響と三回の収録があり、これが最初の演奏であった。プレヴィンはよほどこの曲を得意にしていると思われ、データベースでは全部で5回の演奏記録を残していた。また、交響曲第39番変ホ長調K.543は、2009年に三大交響曲として演奏しているので、これがN響との最初の演奏となっている。この指揮者は彼の日本公演は全てN響との公演であるが、この記録はどうやら彼の映像で残された二度目のN響定期公演のようであり、この演奏がきっかけで、彼のN響との長いお付き合いが始まったものと考えられ、世紀が変わった現在でも、なお毎年のように続けられている。



   この映像はN響Bモード・ライブ中継とされており、カメラが当初から舞台を写しだしており、N響のメンバーが登場して座席に着き、チューニングを行って指揮者を待つまでの様子を忠実に記録していた。オーケストラはコントラバス4台のフルオーケストラで、黒の背広に普通のネクタイ姿のプレヴィンが登場して来た。指揮台に立ち全体を見渡して譜面台を確認して、第一曲目のオペラ「フィガロの結婚」K.492の序曲が弦のユニゾンで開始されていた。やや早めのテンポでささやくように始まり、元気よく軽快に颯爽と進んでおり、途中でファゴットと第一ヴァイオリンで現れる主題では、プレヴィンは笑顔を見せながら指揮をしており、終始、明るく和やかに、しかし、緊張感を持った演奏であった。最初からすごい拍手で迎えられていたが、舞台は直ぐにメンバーの入れ替えが始まり、コントラバスが3台になり弦楽器のみの体制になっていた。



           第二曲目のデイヴェルテイメントヘ長調K.138(125c)は、ご存じの通り、ニ長調K.136(125ア)、変ロ長調K.137(125b)に続く三部作の最後の曲であり、1772年にザルツブルで書かれていた。弦楽器4声で書かれた自筆楽譜は存在するが、「デイヴェルテイメント」と書かれた標題の筆跡がレオポルドのもののため、モーツァルトが4つの独奏楽器を意図したのか、複数の編成を意図したのか、今日でも結論が出ていないようである。これら三曲の共通の特徴は、急−緩−急、緩−急−急、急−緩−急、のそれぞれ三楽章の三つ子の作品で、いずれも同質のイタリア風の明るさと華やかさを持っており、同じ五線紙に続けて一気に書き下ろされているという。


    第一楽章は二つの主題を持つ定式的な簡潔なソナタ形式で書かれており、フォルテとピアノが対照が明確なイタリア風の伸びやかな主題がアレグロで始まっていた。プレヴィンは最初の提示部の繰り返しをキチンと行って明るい華やかな冒頭主題を引き立てていた。短いながら展開部があり気分を変えるように進んでから、再び明るい冒頭主題が穏やかに再現されて、軽快に一気に結ばれていた。
           第二楽章は第1ヴァイオリンに奏される伸びやかな旋律的主題によるアンダンテであり、反復記号によって分けられる二部分形式であったが、プレヴィンはここでも、前半の繰り返しを行っていた。フィナーレは実に軽快なプレストで踊るように聞かせるロンド主題が登場して繰り返され、以下、ABACADAと、このロンド主題が4回も現れて一気に駆け抜けるように結ばれていた。プレヴィンのN響とのオール・モーツァルト・コンサートの第二曲目を飾る、和やかで軽快なデイヴェルテイメントであった。


           6月分の第三曲目は、アンドレ・プレヴィンの指揮とピアノでピアノ協奏曲第24番ハ短調K.491であり、記録によると彼の2度目の弾き振りであった。最初のものは、1990年11月のシェーンブルン宮殿におけるライブ映像であり、プレヴィンが監修した「モーツアルト・オン・ツアー」というLDの中の映像(6-7-2)であった。この一番古い第24番のハ短調協奏曲は、プレヴィンの丁寧なピアノ独奏で良く歌う上品な優雅な演奏であったが、今回のN響との最初の公演は、いかがであったろうか。
    デイヴェルテイメントの演奏の後は、舞台はピアノを中央に運び客席に背中を向ける配置に模様替えされていた。コントラバスが3本で中央にテインパニーと木管・金管を擁する最大規模のオーケストラであった。プレヴィンが登場して椅子に座ってからやおら立ち上がって、両手を広げ指揮を開始した。暗い出だしのユニゾンで始まる長い第一主題が提示され、いくつもの部分動機が繰り返されていた。そのうちにオーボエやフルートが美しい旋律を奏で始め、次第にオーケストラが盛り上がってから、独奏ピアノが始まった。プレヴィンのアインガングは、ゆっくりとしたテンポで丁寧に明快に弾かれ、オーケストラが第一主題の冒頭部を奏してから、直ぐに独奏ピアノが第二主題を弾きだし、早いパッセージを奏してから主題は木管に引き継がれていた。独奏ピアノの早いパッセージが煌めくように美しく、やがてオーボエ、クラリネット、ファゴットの順に現れる新しい副主題が滑らかで、ピアノとの競い合いが美しく、プレヴィンのピアノは明快で、しっかりと弾かれて盛り上がって提示部を終えていた。展開部ではアインガングの主題が繰り返されて始まり、それに冒頭主題も加わってピアノが走り回るように技巧を発揮し、プレヴィンは大忙しであった。再現部では、ピアノが加わった形で第一主題が再現され、続いて木管による副主題の後に第二主題と順序を変えて、独奏ピアノが中心になって再現されていた。カデンツアはこれまでの主題を回想するようにしたプレヴィン独自の聞き慣れないものが弾かれていた。


          第二楽章のラルゲットは、ロンド形式で作られており、独奏ピアノでゆっくり始まるが、この独奏ピアノによるロンド主題は優しさを含んだ静かな主題であり、プレヴィンは実に丁寧に弾いていた。続いてオーボエとファゴットによる新しい主題が対話を交わすように現れて、ピアノやオーケストラで繰り返されていたが、ここでは木管群対ピアノ・弦楽器群が交互に美しさを競っていた。再び冒頭の静かなロンド主題に戻ってから、第二のエピソードが始まるが、ここではクラリネットとファゴットが新しい主題を吹き始め、ピアノや弦に引き継がれてゆくが、ここでも木管群対ピアノ・弦楽器群が交互に美しさを競っていた。プレヴィンは、少しでも左手が空けば手を振って指揮のそぶりを見せながら、鍵盤を見据えて美しいパッセージを繰り返して、この美しい楽章を終えていた。


             フィナーレはアレグレットの変奏曲形式であり、まずオーケストラで主題が提示され繰り返されてから、第一変奏はピアノが速いテンポで主題を繰り返す。この変奏は八つの変奏からなり、どの変奏にもピアノが絡んで賑やかであった。第二変奏は木管群が主題を示し独奏ピアノが早いパッセージで駆け抜けるもの。第三変奏は主題が付点リズムに変えられて独奏ピアノで力強く提示され、後半はオーケストラで変奏されていた。クラリネットが新しい主題を提示する第四変奏では、後半にピアノがこれに習って変奏していた。
            第五変奏は再び独奏ピアノが力強くポリフォニックな技法で変奏を行い、続いてオーボエが新しい旋律で第六変奏が始まって明るい表情を見せ、独奏ピアノがこれを反復していたが、プレヴィンのピアノが技巧的な冴えを見せていた。第七変奏はオーケストラがほぼ主題通りの旋律を奏するに対しピアノが彩りを付け、最後には短いカデンツアが置かれていた。最終変奏は8分の6拍子に拍子が変わり、独奏ピアノが新たな変奏を行って、そのままコーダに入って終結していた。プレヴィンには大忙しそうに見えた終楽章であった。

            弾き振りは極めて珍しいこの頃にあって、お客さんの反応は凄く大変な拍手でもって迎えられ、N響の楽員たちからも弦を叩いて歓迎されていた。この ハ短調ピアノ協奏曲を得意とするプレヴィンの上品で優雅な弾き振りが、実に格好良く収まり、N響の楽員たちも特に木管グループが活躍し華を添えていた。プレヴィンの落ち着いた手慣れた指揮ぶりと、華やかなパッセージの弾きぶりなどから判断して、いかにこの曲を得意にしているかが想像されると思われる。



   ライブ中継中に15分間の休憩があり、ピアニストの仲道育代が解説を行っていたが、今回の「弾き振り」はN響定期では珍しく、プレヴィンはピアノをウイーン製のベーゼンドルファーにしたこと、ピアノを中央に置き蓋を外して音がオーケストラと一体になるよう工夫していると述べていた。カデンツアはプレヴィンのオリジナルであると言っていた。なお、ここでプレヴィンについて一言。彼は1929年ベルリン生まれであり、幼少時に戦禍を避けて両親とともにアメリカに移住した。ピアノも弾き作曲もする異才で、映画音楽やジャズの世界で活躍してから指揮者として活動を始めた。最も好きな作曲家はモーツァルトとされ、必ずオールモーツァルトのコンサートを行うので人気があった。この演奏時は70歳で、最も円熟した年齢であると思われる。

            続いて最後の第四曲の交響曲第39番変ホ長調K.543となるが、プレヴィンは、コントラバス4本の中規模のオーケストラで、演奏していた。この曲の 第一楽章はアダージョの序奏で始まるが、プレヴィンはテインパニーを響かせて壮大な和音と付点リズムを持った和音でゆっくりと序奏を開始した。付点リズムの間を埋める32分音符の下降する弦は、急がずに静かに進行させる進め方であり、フルートが高らかに歌い出して、伝統的な序奏部で一安心した。序奏はしっかりとリズムを刻みつつ、穏やかにゆっくりと堂々たる盛り上がりを見せながら進行し、終結させていた。一転して続くアレグロでは、3拍子の第一主題が、弦楽器で軽快に提示され勢いよく進んでから、「英雄」を思わせる力強いファンファーレが堂々と開始され、序奏部との対比は実に明解であった。結尾主題に続いて現れる第二主題も第一ヴァイオリンにより歌うように提示され、木管との優美な対話がひときわ冴えて、ピッチカートを伴った厚い響きも優雅に進んでいた。プレヴィンはここで主題提示部を繰り返して、再び丁寧に冒頭から進んでいた。展開部では結尾主題が執拗に繰り返され力強く展開されて再現部へと移行していた。再現部は型通りに第一主題・第二主題と進行していたが、プレヴィンは悠々とゆとりを持って両手で指揮をしており、第一主題では堂々としたダイナミックな迫力を協調したり、第二主題では優雅さを優先させたような穏やかな指揮振りを見せて、一気に収束していた。



           第二楽章は、アンダンテ・コン・モートのゆっくりした楽章。 譜面を見ると提示部の前段に繰り返しが二つあり、どういう形式なのかこれまで良く理解ができていなかった。しかし、今回はプレヴィンが二つ目の繰り返しを省略して演奏していたので、ここまでをロンド主題のAと考えると、主要な主題は三つあるのでABACABACAのやや変則的なロンド形式と考えれば良いことが分かった。最初のAは、弦楽器のみで演奏されていたが、これ以降のロンド主題Aは弦楽器群と管楽器群がフレーズを分け合い短縮化されていた。Bは短調圏で動機を反復したり転調したりする部分であり、Cはファゴットとクラリネットとフルートがカノン風に主題を重ね合わせて美しく展開する部分であった。プレヴィンはお馴染みの美しいロンド主題をじっくりと歌わせており、この主題の間に息抜きのようにBやCを美しく展開させて、このアンダンテを入念に進行させていた。
            続くメヌエット楽章は、ご存じの有名なメヌエット。プレヴィンは実に良いテンポで厚みのあるメヌエットを堂々と進行させていたが、これと対照的にトリオでは二つのクラリネットの美しいデユオにフルートが絶妙の応答を聴かせて、実に豊かな美しい響きを聴かせていた。



            フィナーレの第一主題の軽快な早い出だしは、これまでの楽章と一転しフルオーケストラで明るく躍動するように進行しており、プレヴィンはこの速い動きも手を悠然と軽く動かすだけで全体を動かしていた。第二主題は始めの主題から派生したもので、同じテンポで軽快に進むうちにフルートとファゴットの美しい対話があり印象的であった。ここでプレヴィンは提示部の繰り返しは丁寧に行っていた。展開部では冒頭主題の旋律を繰り返し展開していたが、高弦と低弦とが追いかけ合い鋭く対立しながら波を打つように進行し印象的であった。再現部は疾走するテンポであるが型どおりであり、プレヴィンは繰り返しを省略して駆け抜けるように一気にこの楽章を仕上げていた。

         素晴らしいオーケストラの仕上がりに観客は盛大な拍手を送っており、プレヴィンは丁寧に返礼していたが、オーケストラの団員たちからもエールが送られて、実にN響のメンバーたちからも信頼されている指揮者であることが目に見えるようであった。変ホ長調交響曲は、最近の古楽器演奏では序奏の演奏から好き嫌いが明白になる演奏が多くなってきたが、プレヴィンはやはり伝統的な指揮法を取っており、ソナタ形式の二つの繰り返しでは、前半のみを繰り返す方法を取っていた。オーケストラは中規模のものとし、強弱・緩急はあるが変化は穏やかで、何よりもモーツァルテイアンが好みそうなテンポを心得た指揮者であると言う感じがした。今回が、彼の初めてのN響との公演であるようなので、一言述べておくと、彼のオール・モーツァルト・コンサートは、序曲あり、デイヴェルテイメントあり、ピアノ協奏曲の弾き振りあり、交響曲での締めと、全てのジャンルにわたっていたが、いずれも楽しんで聴ける好感のもてる演奏であった。今後もN響との立場もあろうが、来日のたびにこのようなオール・モーツァルト・コンサートの公演をお願いし、ますますの活躍を期待したいと思う。

(以上)(2013/06/07)


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