(頂いたLDのアップ;ムーテイのK.136と二つの交響曲K550&K.551)
13-4-1、リッカルド・ムーテイ指揮とウイーンフイルによるデイヴェルテイメントニ長調K.136、交響曲第40番ト短調K.550および交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」、1991年7月28日、1991ザルツブルグ音楽祭、祝祭大劇場、

−この没後200年のモーツァルトイヤーの本拠地ザルツブルグにおいて、91年同音楽祭のオープニング・コンサートに登場したムーテイは、オールモーツァルト・プロと、冒頭の最もイタリア的なデイヴェルテイメントニ長調K.136でドイツ語圏の観客を喜ばせた。ト短調交響曲では、テンポの良い緊張感に溢れた指揮振りにより、颯爽と流れるこの曲の良さとウイーンフイルの巧さと優雅さとを味わせてくれたし、ジュピター交響曲では、彼自身のイタリア的音楽性とウイーンフイルの持つ伝統的な優雅なモーツァルト演奏とを融合させ、本格的な堂々たる正統派の重厚な充実した響きを聴かせてくれた−

(頂いたLDのアップ;ムーテイのK.136と二つの交響曲K550&K.551)
13-4-1、リッカルド・ムーテイ指揮とウイーンフイルによるデイヴェルテイメントニ長調K.136、交響曲第40番ト短調K.550および交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」、1991年7月28日、1991ザルツブルグ音楽祭、祝祭大劇場、
(2012年12月、柳さんから頂いたLDをそのままアップ)

    四月分の第一曲目のムーテイ指揮ウイーンフイルのモーツァルト・コンサートは、1991年7月28日のザルツブルグ音楽祭において祝祭大劇場で収録された映像であり、デイヴェルテイメントニ長調K.136で開始され、交響曲第40番ト短調K.550と、休憩後に交響曲第41番ハ長調K551「ジュピター」が演奏されたLDであった。この演奏は、モーツァルトイヤーの記念映像として既にクラシカジャパンの91年10月6日の放送で、S-VHSテープ046に収録済みであったが、LDの方が状態が良いので、LDでアップロードするものである。 ムーテイはこの2曲の交響曲は別の機会に映像を残しているが、このLDによるものが一番古いものであった。ムーテイはザルツブルグ音楽祭には1983年より「コシ・ファントッテ」をウイーンフイルと振って以来、毎年のように音楽祭に参加し、ウイーンフイルとは蜜月の状態であった。



          このコンサートの第一曲目は、デイヴェルテイメントニ長調K.136であり、弦楽合奏はコンサートマスターのゲアハルト・ヘッツエル(1940〜1992)さんがまだ健在であり、コントラバスが2台で総数40人位の編成であった。映像ではムーテイが指揮台に早足で登場し、いきなり第一楽章が速いテンポの弦楽合奏で始まるが、ムーテイは誠に軽快そのものの颯爽としたテンポで進み、実に気分が良い。これぞモーツァルト・アレグロの典型と言うべきか、素晴らしい弾むような弦の輝きが春の日差しのように快く、勢いよく体全体に降り注ぐように進み、ソナタ形式の提示部を終えていた。ムーテイはここで丁寧に繰り返し、弾むように弦楽合奏が流れていた。さすがにウイーンフイルの弦の音色は揃って美しく、展開部後半のピッチカートが良く弾み、一気に再現部へと突入し、軽快な弦楽合奏が進んでいた。ムーテイは、珍しく末尾の繰り返しも行っており、素晴らしい弦楽合奏がここでも続いていた。



           第二楽章は、第一ヴァイオリンが奏でる美しい歌のようなアンダンテで始まり、ムーテイはやや速めのテンポで歌わせていた。第二主題も同質の歌うような旋律が続き、スタッカートで進む甘いメロデイが快い。短い展開部で気分を変えて、再現部でも歌うアンダンテが快く進行していたが、ムーテイはこの楽章でも全ての繰り返しを丁寧に行っていた。フィナーレ楽章は、ポンポンポン、ポンポンポンと進む颯爽としたプレストで、ムーテイのテンポが実に良い。第二主題はスタッカートで上昇したり下降したり軽やかにリズムを刻み、一気に提示部を終結する素晴らしいプレスト。ここでもムーテイは全ての繰り返しを行っていたが、軽快な指揮振りのせいか長いとは感じさせなかった。

   三曲まとまったこのデイヴェルテイメントの作曲の経緯は全く知られていないが、若いモーツァルトがイタリア旅行をして、アルプスを越えて初めて感じたイタリアの明るい太陽の日差しを浴びた風土を思わせる爽快な曲であり、気分に乗ってアレグロ・アンダンテ・プレストと一気に書き上げた曲を思わせる。ムーテイはこの明るい曲をそのまま快いテンポで颯爽と軽快に進めており、ウイーンフイルもこれに応えて、弦が踊るように弾みながら一気に駆け抜けるように進行していた。この演奏はこの曲の演奏としては最もオーケストラ規模の大きな演奏であると思われるが、ウイーンフイルの弦楽合奏は実に良く揃っており、スタッカートやピッチカートなどもよく弾んでぶ厚い音を聞かせていた。ムーテイは三楽章とも全ての繰り返しを行っており、演奏時間が19分11秒であったが、少しも長さを感じさせず、この曲の大規模な演奏のものとしては最高の出来映えであると思われた。



    続いて次の曲は交響曲第40番ト短調K.550 であるが、前曲でのウイーンフイルを朗々と歌わせるムーテイの指揮振りから、第40番ではオーボエ版か、クラリネット版を使うか、ソナタ形式の繰り返しをどうするかとか、最近始まったピリオド奏法などをムーテイがどう受け止め、話題を呼ぶ伝統的な音楽祭のオープニング・コンサートでどう演奏するかなど、興味深いことが多かった。譜面を見ながら確かめながらムーテイの演奏を聴いてみたが、第2版のクラリネット版を使い、第一・第四楽章は提示部の繰り返しを行い、第二楽章では提示部も末尾の繰り返しも省略して演奏されていた。

                 第一楽章のモルト・アレグロは、ヴィオラの伴奏に乗って軽いさざ波を打つような弦楽合奏で始まるが、ムーテイのテンポは中庸であり、厚みのあるウイーンフイルの弦楽合奏が良く揃ってとても美しい。ムーテイのこの始まりの主題は明るさで始まり暗い翳りもあって、この微妙な感覚はウイーンフイルに任せているようにも見えた。やがて一呼吸置いて、おもむろに第二主題に入って弦から直ぐにクラリネットとファゴットが活躍をし始め、弦と管が交互に受け渡ししながら軽快に進んでいた。ここでもムーテイの軽快なテンポは終始変わらず、堂々と落ち着いて進行していたが、ここで提示部の繰り返しが行われて、冒頭から再現され、実に豊かにオーケストラが流れて気分を盛り上げていた。
               展開部に入ると冒頭の導入主題が暗い表情で現れ、ムーテイは速いテンポで繰り返し、続いて弦楽合奏でうねるような対位法的な展開がテンポ良く進行し、次第に力を増しながらこの主題だけで進んでいた。いつの間にか再現部に入って、再び第一・第二主題が美しく提示されていくが、ムーテイは精悍な表情で、きびきびした鋭い指揮振りで、テンポを崩さずに最後まで進めていた。ここでもムーテイのテンポ感とウイーンフイルの明暗のニュアンスとの相性は良く、ウイーンフイルの暖かくしなやか弦楽合奏の響きが強く印象に残った。



              第二楽章では、ムーテイは、美しい弦楽合奏の第一主題を遅めのテンポでじっくりと始め、ホルンの伴奏がゆっくりと続いていたが、いつの間にか現れた軽やかな32分音符の休止を挟んだ3度動機のフレーズが実に美しい。そしてこのフレーズが一人歩きするように弦から管へ、管から弦へ、上昇したり下降したり、うねるように繰り返され、このウイーンフイルによる管と弦との応答が実に美しい余韻を残していた。続いて第二主題に入って美しい弦楽合奏が開始されても、この特徴あるフレーズがこだまのように響いており、アンサンブルの良い管と弦の絶妙な音色の美しさが魅力的であった。提示部での繰り返しは省略され、直ちに展開部に移行していたが、展開部でもこのフレーズが力強く弦から管へ、管から弦へと移行して、ここでは主として下降のパターンで展開されていた。後半ではオーボエで新しい半音階的動機が現れて充実した響きを聞かせていた。再現部に入って、第一主題・第二主題と続いていたが、これらのなかにも弦と管のフレーズのアンサンブルの美しさが冴えており、さらに弦楽合奏の中でフルート、クラリネット、ファゴットが展開部での半音階的動機を再現させて歌していた。綿々と続くこの楽章の独特の装飾効果と繊細なアンサンブルの良さが魅力的であり、美しい珠玉がゆったりと転がるように響き、さすがウイーンフイルと思わせる素晴らしいアンダンテ楽章となっていた。


             第三楽章のメヌエットでは、ムーテイはゆっくりしたテンポで軽快なアレグレットの弦楽合奏が始まった。ムーテイはメヌエットのリズムを刻むように指揮していたが、これは出だしの三小節のフレーズがカノン風に何回も繰り返されて進行する変則的なメヌエットのせいであろうか。しかし、しっかりと三拍子を刻んで軽快に歯切れ良く進んでいた。トリオでは、ほぼ同じテンポで弦楽合奏で始まり、木管の四重奏がこれに応えて美しさを強めていたが、繰り返しの後では木管の四重唱に続いて二つのホルンが響きだし、後半では力強い重厚な管楽合奏が続いて、弦楽器と管楽器のアンサンブルの対照の妙が印象的であった。ここでは、ホルンの響きがいつも心配であったが、さすがウイーンフイッルのホルンの出来が素晴らしく、堂々たる厚みのあるホルンの響きを楽しむことが出来た。


              フィナーレはアレグロ・アッサイであり、ムーテイはやや早目のテンポで第一主題を進めていたが、軽快にスムーズに流れる厚みのある揃った弦楽合奏が実に軽快であった。しばらく流れるような見事な弦楽合奏が続いてから、やがてなだらかなヴァイオリン三部の第二主題が歌うように進行するが、ここでクラリネットが明るく歌い出して第二版の特徴を浮き彫りにさせていた。ここでもムーテイは、第一楽章と同様に提示部の繰り返しを行っており、再び見事な厚みのあるテンポの良いオーケストラが流れていた。展開部では冒頭の主題の動機が早いテンポで、弦から管へ、管から弦へと交替しながら執拗に繰り返されており、管と弦のアンサンブルが良く、ここでもホルンのファンファーレが素晴らしく、ウイーンフイルの響きが楽しめた。再現部でもこの安定した速いテンポが続き、第一主題・第二主題と流れるようにスムーズに進行し、一気苛性にこの楽章が仕上げられていた。ムーテイの軽快なテンポで第一・第四楽章が上手く流れて、この曲は流れるような弦楽合奏の響きが何よりも大事なことを感じさせた。

                久しぶりでテンポの良い緊張感に溢れたムーテイの第40番ト短調の交響曲を聴いて、颯爽と流れるこの曲の良さとウイーンフイルの巧さを映像でしみじみと味わっていた。ムーテイは丁度50歳でありまだ若さを感じさせる精悍な風貌であり、ますます元気にこの音楽祭のオープニング・コンサートを乗り切ろうとしているように見えた。映像のお陰で、かねて評判の格好の良い指揮振りを確認することが出来たが、この安定感ある生き生きとしたフレッシュなト短調シンフォニーでは、十分にウイーンフイルの素晴らしさを楽しむことができたし、さらに休憩後の「ジュピター」交響曲にも期待を持つことができた。


     休憩後の第三曲目は交響曲第41番ハ長調K551「ジュピター」K.551であるが、ウイーンフイルの巧さを上手に引き出すムーテイの指揮振りから、本格的な堂々たる正統派の「ジュピター」交響曲が期待できそうであった。
              この交響曲の第一楽章は、フルオーケストラによって堂々たる三つの和音で開始されるが、指揮者のムーテイは、精悍な構えから両手を挙げてリズムを取りながら指揮をしていた。オーケストラの配置は、前曲と同様に右奥にコントラバス三台を配置し、中央に管楽器とテインパニーを置くスタイルであった。重厚な第一主題が現れて、ムーテイはリズムを刻むように堂々と主題を進めていたが、フェルマータのあと、フルートとオーボエが二重唱で主題を装飾しながら軽快に繰り返され、躍動するように進行し、「ジュピター」らしさを感じさせるリズミックな堂々たる経過部が続いていた。続いて第二主題が第一ヴァイオリンにより優雅に提示されて趣を変えながら進行していたが、一呼吸を置いてからフォルテの大音響とともにファンファーレの素晴らしい盛り上がりを見せていた。再びわずかな停止の後、ピッチカートに導かれて軽快に進行する副主題が流れ出し、提示部の最後をまとめるように進行して明るく終息していた。ムーテイは、ここで冒頭からの繰り返しを行っていたが、ここでもオーケストラの響きは厚いピラミッド型の響きを持ったオーソドックスなものであり、壮大な威厳に満ちた響きを持っていた。
               展開部では前半が先の軽快な副主題が様々な形で展開され、後半では冒頭の主題が弦と木管とで交互に主題を変形しながら展開されていたが、ここでもムーテイの指揮振りは堂々としており、激しい音の響きが繰り返されていた。再現部ではほぼ型通りに第一主題・第二主題と再現されていたが、一呼吸をおいた小休止の後の大爆発では、提示部よりも一段と激しく再現されており、後半が盛り上がる「ジュピター」らしさを現していた。ムーテイの終始変わらぬオーソドックスなしっかりした指揮振りから、ウイーンフイルらしい重厚な充実した響きが産まれてくるものと言う印象を強くした。



               第二楽章は厳かな感じの美しい主題が第一ヴァイオリンで静かに提示され淡々と進むアンダンテ・カンタービレで始まるが、ムーテイは体を動かし目をつぶって丁寧に指揮をしており、ぶ厚い重厚な響きの弦の流れを引き出しながら悠然とじっくり進め、続く副主題では木管群も良くこれに応えるように音を響かせていた。続いて第二主題も重々しく弦がこだましてうねるように進行するが、フルートもファゴットも負けじとこれに参加し存在感を示すように歌っていた。ムーテイはここでも提示部全体の繰り返しを行い、重々しい充実した響きを再現させた後、展開部へと移行していた。展開部では第一主題の後半の副主題が展開の対象となり、弦がこだまするように繰り返し展開されていた。再現部では第一主題の冒頭が第一ヴァイオリンで呈示された後、突然に低弦が32分音符のうねるような流れを示し、これが第一ヴァイオリンに移行してから、第二ヴァイオリンに、続いてヴィオラと低弦が唸りだし、交互にうねるように変奏されていた。続く第二主題も第一ヴァイオリンから木管も加わって提示部と異なる変奏を見せていたが、ムーテイはこの再現部の弦の豊麗な32分音符の流れとフルート・オーボエ・ファゴットなどとの対話の部分を、うねるように力強く指揮をしていた。この最後の振り返るような第一主題の再現は珍しく、この楽章の豊かさを特徴づけていた。



              続く第三楽章では、実に壮大な響きを持ったメヌエットの極地とも言える素晴らしい楽章で、ムーテイは通常のテンポでメヌエット主題をリズミックに進め、木管が一頻り歌い出しホルン・トランペットやテインパニーが鳴り響いて、壮麗なメヌエットの世界が繰り広げられていた。トリオでも同じようなテンポで、フルートの出だしのあとにオーボエと弦が合奏する面白い場面が繰り返され、そのあとに第一ヴァイオリンと木管や金管全体が和音を合奏しながら流して趣を変えてから、再びリズミックなメヌエット主題に戻っていたが、実に充実したメヌエットであった。






               フィナーレはド・レ・ファ・ミの四つの音から作られるモルト・アレグロの堂々たるフーガ主題に始まるが、この主題を追って威勢の良いフレーズがいくつか提示され繰り返されていき、次第に元気良く高められて壮大なドラマを造り上げていくように思われる。ムーテイは、このフィナーレを両手を広げて丁寧にリズムを取りながらオーケストラを盛り上げるように力を込めて指揮をしていたが、オーケストラの方もこれに応えるように颯爽として堂々たる響きを見せていた。展開部では冒頭主題によるフーガ的展開が、繰り返し繰り返し丁寧に行われ、その都度、壮大さを増しており、再現部に入っても、この壮大なフィナーレ主題が展開部の続きのように対位法による展開がなされていた。特に最後のコーダでは、多声対位法によりオーケストラ全体が多面的な響きを見せて力強く盛り上がり、高揚しながら高らかに終結していた。指揮を終えたムーテイは、緊張から一転して解放されてにこやかな表情で、拍手の中で指揮台を降りていた。ムーテイはウイーンフイルのメンバーを讃えて欲しいと言うような仕草を見せて、拍手に答えていたが、この雄大な「ジュピター」の幕切れに相応しい会場の雰囲気であった。

     この没後200年のモーツァルトイヤーの本拠地ザルツブルグにおいて91年音楽祭のオープニング・コンサートに登場したリッカルド・ムーテイは、カラヤン亡き後の音楽界を牽引するリーダーと目されたに違いない。オール・モーツァルトコンサートにおいて意のままに世界のウイーンフイルを操り、最もイタリア的と思われるデイヴェルテイメントニ長調K.136を最初に振ってドイツ語圏が多い観客を喜ばし、二つのモーツァルトの重要な交響曲において、ムーテイのイタリア的発想とウイーンフイルの持つ伝統的なモーツァルト演奏とを融和させ、素晴らしいコンサートを実現していた。私は2006年の生誕250年の06年モーツァルト週間のオープニングコンサートを同じ祝祭劇場で見ているが、この時もムーテイ・ウイーンフイルであり、彼はザルツブルグにおける祝祭コンサートにおいて、欠かせない看板になる指揮者になっていることを改めて認識させられた。

(以上)(2013/04/07)


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