(最新収録のBDより;二つのクラリネット五重奏曲、ハーゲンQ、ほか)
13-3-3、ザビーネ・マイヤーとハーゲン四重奏団のクラリネット五重奏曲変ホ長調K.581、2000年モーツァルト週間、モーツアルテウム・グロッサー・ザール、および「もう一つのクラリネット五重奏曲」、NHK交響楽団奏者による五重奏、 クラシック・ミステリー名曲探偵「アマデウス」より「ピエロの秘密」、08年2月28日、NHKBS103、

−このクラリネット五重奏曲は、非常に豊かなイメージを持った五重奏曲に仕立てられているが、マイヤーとハーゲン四重奏団は、この曲の性格や特徴を良く捉えた力のこもった充実した演奏を聴かせてくれた。特に、マイヤーによるクラリネットによる演奏は、実に落ち着いてゆとりのある音を響かせており、第一ヴァイオリンと向き合ってチェロの隣の席も当を得ており、第一ヴァイオリンとクラリネットとの掛け合いが多いこの曲には相応しいものと思われ、息のあった見事なアンサンブルを聴かせてくれた。もう一曲の名探偵「アマデウス」による五重奏曲は、 探偵氏のモーツァルトの心温まる名曲と人間への「愛」とを結びつけたシナリオの着想や、ピエロを例にして名ピエロになるための奥義や「三種の神器」に繋げた発想の良さには敬服すべきものがあり、この名曲の秘密を解き明かす十分な説得力があると感じさせられた。−

(最新収録のBDより;二つのクラリネット五重奏曲、ハーゲンQ、ほか)
13-3-3、ザビーネ・マイヤーとハーゲン四重奏団のクラリネット五重奏曲変ホ長調K.581、2000年モーツァルト週間、モーツアルテウム・グロッサー・ザール、および「もう一つのクラリネット五重奏曲」、NHK交響楽団奏者による五重奏、 クラシック・ミステリー名曲探偵「アマデウス」より「ピエロの秘密」、08年2月28日、NHKBS103、
(演奏者)Cl;磯部周平、Vn1;白井篤、Vn2;小林玉紀、Vla;小野富士、Cel;桑田歩、
(2013/01/26、CJ637の放送をHD-2に収録、および2008/02/28、NHKの同放送をBD-25.8に収録)

  3月号の第三曲目は室内楽曲と言うジャンルにしたが、勿論、ここには、いわゆる室内楽ばかりでなく、ヴァイオリン・ソナタやピアノソナタなどのほか、リートやカノンなど歌曲なども含めたい。その広いジャンルから、是非、第1号として入れたかったのは、ごく最近、ハイビジョンで収録したマイヤーとハーゲン弦楽四重奏団による2000年のモーツァルト週間の映像である。私はこの映像は、S-VHSでも、D-VHSでも、BDでも収録して、その都度、グレードアップしてきた映像であるが、今回はクラシカジャパンがHD化して放送した映像を元に、USB-HDDで録画した最新のものを利用したいと考えたからである。
           これはDVDにもなっているポピュラーな名盤なので、この1曲だけでは不足かと考えて、NHKの名探偵「アマデウス」氏が、若い女性のピエロのお客さんに「ピエロの三種の神器」の一つとして探偵事務所に持ち込まれたクラリネット五重奏曲イ長調K.581のLPレコードを聴いて、直ちに謎解きをする場面を、譜面で確かめながら紹介するととても面白いであろうと考えて、クラシック・ミステリー名探偵「アマデウス」のNHK番組(2008)を取り上げてみた。演奏はN響の磯部周平さんのクラリネットとNHK交響楽団奏者たちによるものであった。



  このHPでは、ソリストのザビネ・マイヤーは、初登場であるが、かってベルリンフイルの一員として或いは最近のルッツエルン音楽祭管弦楽団の一員(12-12-3)として写されているかも知れない。カラヤンに見出されてベルリンフイルに招かれた話と、採用に当たってカラヤンとオーケストラとの意見の相違が一人歩きし、美人であることから話題の多いソリストであった。ザルツブルグ出身のハーゲン四重奏団とモーツァルト週間で出遭って、モーツァルテウムのグロッサーザールで演奏した経緯は自然であったろうし、それが映像記録に残されたこともモーツァルト週間の行事の一環としてごく自然にそうなったものと思われるが、数少ないクラリネット五重奏曲の名盤として評価できるライブ演奏であると思われる。



                           クラリネット五重奏曲の第一楽章はソナタ形式のアレグロで始まるが、第一主題は弦楽四重奏によるコラール風の厳粛な出だしの前半とこれを受ける後半のマイヤーのクラリネットの低音から上昇する美しい分散和音で参加する絶妙な音色とのバランスで成り立っており、聴くものを一気に虜にしてしまう。この絶妙な部分が繰り返され、マイヤーのクラリネットのソロによる輝くような経過部に聞き惚れているうちに、ピッチカートの伴奏でヴァイオリンに続いてクラリネットが美しい第二主題を提示し始めていた。マイヤーのクラリネットは柔らかく透明であり、低音も高音も滑らかに良く響き、さらに発展的に進行してヴァイオリンに続きクラリネットがドルチェで吹かれる結びの主題が続いて提示部を終えていた。ここでもう一度振り返るように全体が再び再現されていたが、クラリネットの哀愁的な響きが、提示部全体を覆っていた。
            展開部では冒頭主題の前半をクラリネットが美しく提示してから、後半部の主題を、第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの順に執拗に激しく展開しながら提示されるもので、クラリネットは後半から顔を出して分散和音で応答していたが、低音から高音にいたるクラリネットの響きは力強く、実に魅力的に響いていた。再現部で第一主題はクラリネットと弦の役割を変更して再現され、第二主題はクラリネットにより見事に変奏されて哀調に富む独自の雰囲気を醸し出していた。マイヤーのクラリネットはしっかりとした音調であり、全くまろやかに美しい音色をちりばめており、それに華やかさも加わって、この曲の魅力を高めていた。



            第二楽章は展開風の中間部を持つ三つの部分からなる三部形式か。クラリネットの美しいラルゲットの穏やかな主題で始まり、弦の伴奏でひとしきり歌われた後に、ドルチェの第一ヴァイオリンの下降する音形に対し、上昇するクラリネットの音形が答える美しい応答が繰り返され、聴くものを陶然とさせてしまう。中間部では、クラリネットの下降音形に対し第一ヴァイオリンの上昇音形が展開風に繰り返し答えて行き、後半はクラリネットの独壇場のようであった。マイヤーのクラリネットは実にしっかりしており、再現された第一部においても見事に主導的な役割を果たしていた。
            続く第三楽章は、全5声が一体となって合奏する堂々たるメヌエット楽章であり、二つのトリオを持つ壮大なもの。メヌエット主題はクラリネットと第一ヴァイオリンで導かれる活発で晴れやかなものであり、堂々とリズムを刻んで進んでいた。第一トリオは、弦楽器でだけで綿々と歌われるが、ヴァイオリンとヴィオラの掛け合いで進められていた。再びメヌエット主題の後に始まる第二トリオは、クラリネットに導かれる民族舞踊的な音調でクラリネットが明るく高らかに美しいメロデイを奏でてから、再び、朗々とメヌエットが繰り返されていた。



                フィナーレはアレグレットの主題と四つの変奏及びアダージョとアレグロの二つの自由な変奏部分から構成されている。主題はクラリネットと弦の合奏で明るく活発に提示され、第4変奏まで8小節*2で作られ、キチッと繰り返しが行われていた。第一の変奏は弦による主題提示をクラリネットが明るく変奏しながら彩りを添えるもので、装飾音符やトリルなどが目立っていた。第二変奏は前半が弦楽器だけの付点リズムによる変奏であり、後半はそれにクラリネットが彩りを付けていた。第三変奏も弦楽器による変奏で第一ヴァイオリンのオクターヴ跳躍とヴィオラの分散和音により終始リードする変奏であったが、第四変奏はクラリネットの速いテンポによる変奏で十分な技巧が発揮されていた。続いては一転してアダージョの変奏となり、クラリネットが低音を響かせながら憂いのこもった素晴らしい響きを見せてひと休止の後に、最後にアレグロのコーダに入り主題の前半を五声で変奏しながら、この魅力的な五重奏曲を終結させていた。

このクラリネット五重奏曲は、クラリネットの明るい魅力に溢れた第一楽章や、異常に美しい第二楽章に加えて、後半の二つのトリオを持ったメヌエットや、フィナーレの楽しい主題と充実した変奏によって、非常に豊かなイメージを持った五重奏曲に仕立てられている。マイヤーとハーゲン四重奏団が、この曲の性格や特徴を良く捉えた力のこもった充実した演奏を聴かせてくれ、特に、マイヤーによるクラリネットによる演奏は、さすがにカラヤンに見出され、ソリストとしての経験の豊富なマイヤーは、実に落ち着いてゆとりのある音を響かせていた。第一ヴァイオリンと向き合ってチェロの隣の席も当を得ており、第一ヴァイオリンとクラリネットとの掛け合いが多いこの曲には相応しいものと思われた。ハーゲン四重奏団とはお馴染みのようで、息のあった見事なアンサンブルを聴かせてくれた。



もう一曲のクラリネット五重奏曲は、NHKの名曲探偵番組「アマデウス」へのこの曲の登場であり、探偵事務所に若い女性のピエロのお客さんが訪問することから始まる。彼女は事務所に「ピエロの三種の神器」を持ち込み、その一つとして持ち込まれたこの曲のLPレコードが、なぜピエロにとって欠かせない神器なのか、教えて欲しいとの依頼であった。レコードを聴きながらその謎解きをしようという名探偵の物語であったが、実際の番組のおけるクラリネット五重奏曲の演奏は、N響の磯部周平さんのクラリネットとNHK交響楽団奏者たちによるものであった。



          N響の皆さん方の演奏が始まり、名探偵は第一楽章の第一主題の冒頭の弦楽四重奏によるコラール風の厳粛な出だしの前半部分と、これを受けてクラリネットの低音から上昇し下降する美しい分散和音の絶妙な音色を聴きながら、探偵は起ち上がり、「この抑制された音色とバランス、そしてこの美しいクラリネットの音色」、これはドイツの音楽学者アーベルトが「雲のない春の朝」と表現していると、「虎の巻」を読み上げていた。確かに「すがすがしい春の朝のような感じ」と助手のカノンが反応する。しかし、ピエロは「どうしてこれがピエロと関係があるの」という。もう暫く第一主題の経過部の美しいクラリネットの音色を聴いてから、「この低音から高音までスムーズで一点の曇りもなく響きわたるクラリネットの音色、ここにこの楽器しか持ち得ない秘密が隠されている」と探偵は気がついたようであった。



           そこで突然、ベートーヴェンの著作で名高い音楽学者平野昭氏が登場する。クラリネットの卓越した音色の秘密とは、腕さえ良ければ「幅の広い音域と、どの音域でも強い音、弱い音がスムースに出せること」にあるようだ。クラリネットの音域は、2オクターブのオーボエに比し4オクターブと広く、広い音域にわたって強い音・弱い音を滑らかに出すことが出来るが、フルートやオーボエでは高音は強い音しか出すことが出来ないがクラリネットは自由に出来るという。その秘密はクラリネットは口が触れるリードの幅がオーボエの2倍と広いことにあり、その特徴はどの音域でも滑らかに音を出すことが出来ることにあった。助手のカノンが分かったように「この曲はクラリネットだから出来た美しい世界なのね」というと、ピエロの道家さんは「まるでピエロみたい」と呟いた。「それは、クラリネットが低い音から高い音まで自由に美しく奏でることが出来る様に、ピエロの世界でもジャグリングや一輪車乗りから猛獣使いまで幅が広く、それぞれの芸を幅広く上手にこなさなければならないのです」。それが「ピエロの奥義?」とカノンが聞くと「そんなことよく知っています。ピエロには当たり前のことですから」と道家さんは不満であった。「自由で身軽でどんなに難しい旋律でもこなしてしまうクラリネット。しかしそれだけでは名曲とは言えません。だから次の第二楽章を聞いてみましょう」と探偵氏は次へ進んだ。



           第二楽章が始まると、その美しいラルゲットを聴いて、カノンは「まるで人間のようにクラリネットが歌っている感じ。」と言いだすと「そう、クラリネットは最も人間の感情を現すことが出来る楽器と言われているのです。そしてここ17小節目。」と探偵氏がスコアを示していた。「ここでは1本のクラリネットが二つのキャラクターを使い分けているのだ。」と指摘する。「明るく透明感のある高音と重厚な低音」を使い分けるクラリネットを、作曲家の千住さんは次のように説明していた。「クラリネットの低域はシャリュモー音域、高域はクラリーノ音域と言うが、この楽器は二つの音域を併せ持っており、そこに他の楽器にない二面性やダイナミズムを持つことになり、作曲家にとって魅力的な楽器である」と言っていた。
探偵氏はピエロさんに「天才モーツァルトはクラリネットの持つ魅力を最大限に発揮させた曲。それがこの五重奏曲なのです。」と言うとピエロさんは「なぜこの曲がピエロの三種の神器なのか分かりかけてきました。ピエロは面白いキャラクターのヴァリエーションをどれだけ持っているかが大切なんです」と言い「これなら私は自信がある。有り難うございました」と帰りかけようとした。すると探偵氏は「ここまでは、ピエロ修行の序の口にしか過ぎません。貴女にはまだ足りないものがある筈。本当に大事なことはこの後に隠されているのです。」と語って、続けて第二楽章を聞き出した。





するとカノンが「ヴァイオリンの後にクラリネット。何て魅力的なやりとりなの」と呟くと、探偵氏は「そうだ。二つの楽器が語り合う絶妙なバランス。この「あうんの呼吸」とも言える楽器と楽器の対話にこの曲の神髄があるのです」と言う。この第二楽章の第一ヴァイオリンとクラリネットが語る夢のような調べ。第一ヴァイオリンを弾いている白井さんも、クラリネットを吹いている磯部さんも異口同音に「本当に会話をするようにコントラストを見せながら、息づかいを感じながら丁寧にやり取りします」と語っていた。この優雅な第二楽章の美しいアンサンブルはまさに「あうんの呼吸」とも言うべき確かなコンビネーションにより生み出されていた。さらにこの第二楽章でモーツァルトは当時としては異例とも言える指示を出していた。それが「弱音器を付けて」という指示であり、より繊細で滑らかな音色を出させて二つの楽器がより解け合うようにするための試みであった。
ここまで聴いて来てカノンは「何て美しいの。まるでヴァイオリンとクラリネットが恋人同士みたいに語り合っている」と言い出すと、探偵氏がピエロさんに「サーカスのピエロと客席のお客さんとの関係に似ていませんか。ピエロはしゃべらないけれど、お客さんの姿やその笑いを見て、次の手を繰り出す。まるで対話をするように」と問いかけると、ピエロの道家さんは涙を浮かべだし「私がピエロになった時のことを思い出しました。笑わない私を、ピエロの団長さんが私を笑わして下さったのです。」と語り出していた。すると探偵氏はピエロさんに「貴女はその時の貴女とは違う。今の貴女はお客さんを笑わせて人気者になろうとばかり考えており、お客さんを考えることを忘れているのではないか」と語りかけた。「どんなに才能があっても直ぐに一流になるのは難しい。天才モーツァルトだってこんな美しい曲を作曲するには大変な苦労があったはずです」と語り出すと、演奏は第四楽章の変奏曲の主題が響き始めていた。







            解説者がモーツァルトがこの曲を作曲した背景には、クラリネット奏者アントン・シュタードラー(1753〜1812)との出会いがあったという。彼は名演奏家であったと同時に当時開発の途上にあったクラリネットという楽器の改良を手掛ける人物であった。モーツァルトは彼の楽器への技量に尊敬の念を抱き、三歳年上の彼を兄のように慕っていた。そしてシュタードラーの能力と技量を最大限に発揮できる作品の作曲に取り組もうとした。平野昭先生は、普通のクラリネットでは出せない低い音を使って作曲されていますので、それは間違いないという。恐らく二人はどこまで音が出せるかとか、ここでこの音を使えるかなどと、対話しながら作曲したに違いないという。名手がいてその信頼関係があって出来た作品だと思うと語っていた。天才作曲家と名演奏家の交流があって初めて生み出されたこのクラリネット五重奏曲を、モーツァルトはシュタードラーに献呈し、自ら「シュタードラー五重奏曲」と呼んだという。
カノンが変奏曲のクラリネットの超技巧の技を聴きながら「天才モーツァルトでも、シュタードラーに出遭わなければ、この曲は書けなかったかも知れませんね」と思わず呟くと、ピエロさんは「私にとってこのシュタードラーさんのような方は、団長さんしかいないわ」と初めて気が付いた。「でも、いつも私には象の世話しかさせてくれない。まだ、足りないものがあるのでしょうか」と述べていた。


              すると探偵氏は言った。「道家さん、貴女が最初にピエロに会ったときのことを思い出して下さい。貴女はピエロの起源を知っていますか。」と虎の巻を見ながら言った。「ピエロとは16世紀頃のイタリアの喜劇に登場する道化役。叶わぬ恋を涙の白化粧でしか現すことが出来ない、そんな哀愁のあるキャラクターだと言われている」「ピエロには笑いの中に大切な忘れてはならないものがある。それは「哀愁」だ。この五重奏曲がどうして美しいのか。それは明るい旋律に潜む密かな翳りの存在だ。そのわずかな翳りにこそ「哀愁」がありますが、そこに貴女の悩みが隠されていそうですね」とズバリと言った。そこで再び平野昭先生が登場する。「それは明と暗、長調と短調の世界にその秘密が隠されているのです。」と言って先生はピアノを弾きだした。それは第一楽章の第二主題の44小節目の途中からで、「ヴァイオリンがホ長調の主題を提示すると、これをクラリネットが受けるのですが、これが何とホ短調と調性を変えて受ける。そうするとそのやり取りの中に「哀愁感」が漂ってくる。そして何となくどこかに心温まる癒やされるような気分になる。しかも、モーツァルトはここに絶妙な指示記号を与えているのです。それは「p dolce」という「弱くそして優しく」吹いてくれという作曲者の心からの願いです」


            このようなホ長調のヴァイオリンをホ短調のクラリネットが受ける見事な長調と短調のコントラスト、さらにクラリネットと言う楽器の持つ音色そのものに「哀愁」や「郷愁」を感じさせる魅力がある。作曲家の千住さんは、「クラリネットという楽器には、明るく吹けば吹くほど何か悲しくなるピエロのような感じがするものがある。クラリネットはおどけた楽器ではなく、何か郷愁のある楽器だろうと思います」
             その上に、そこに絶妙なdolceの作者の思いが加わってくる。ここで映像では、第二主題の第一ヴァイオリンとクラリネットとの対話が繰り返されていた。するとカノンが「これは「光と影」が織りなす微妙なコントラスト。それがこの美しい名曲の秘密だったのですね」と呟いた。「そう、それがピエロの奥義。」と探偵氏。「しかし、どうすれば?」と道家さん。そこで、探偵氏は分かりやすく説明をした。



   「ピエロさん、貴女は最初にピエロの姿を見て笑ったときのことを考えて下さい。その時ピエロから受けたのは笑いだけだったのか。もっと暖かく大切なものを受け取ったのではないですか」すると道家さんは「そうだ。私、笑っているうちに胸がキューンとなって独りでに泣いていたわ」と思いだした。すかさず「貴女の心に届いたのは「愛」です。ピエロは笑ったりおどけたりして、人間の愚かさを示しながら、だからこそ人間は愛すべき存在なんだと言うことを伝えようとしているのです。私はこの曲にモーツァルトの人間への純粋で深い「愛」を感じます。だから美しいと思うのです。」



   「私はピエロの純粋な「愛」を感じたから、あんなに感動したのですね。それに引き替え、最近の私は駄目ですね。」「道家さん、それではどんなピエロになりたいと思いますか」ピエロの道家さんはにっこりして「ただ笑わせるだけでなくて、人間が愛おしくなるような演技をしたいです。そして自分が孤独を癒やしたように、子供と一体感を味わえるようなピエロになりたい。そうよ、私の愛が届くように、練習を続けます。」と明るく答えていた。
   彼女は生き返ったようになって、象の夢子のために買った赤いリンゴを探偵氏と助手のカノンに手渡して 、嬉々として立ち去った。そこでは、再び、クラリネット五重奏曲の第一楽章のクラリネットが明るい音を立てていた。

     探偵氏のモーツァルトの心温まる名曲と人間への「愛」とを結びつけたシナリオの着想や、ピエロを例にして名ピエロになるための奥義や「三種の神器」に繋げた発想の良さには敬服すべきものがあり、この名曲の秘密を解き明かす十分な説得力があると感じさせられた。モーツァルトの長調と短調の世界、光と影の素晴らしさの説明や解説は、多く聞かれるようになったが、この番組では実際に演奏する様子を見つめながら、楽譜や音が具体的に示され、楽譜を終えても歌えない人や、楽器をいじれない愛好家にも、理解し易い番組であると感心させられた。


(以上)(2013/03/22)




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