(最新の輸入盤BDより;2012グラインドボーン音楽祭の「フィガロの結婚」)
13-10-3、ロビン・テイチアーテイ指揮、マイケル・グランデージ演出による「フィガロの結婚」、エイジ・オブ・エンライトメント管弦楽団&グラインドボーン合唱団、2012年8月、グラインドボーン歌劇場におけるライブ収録、

−このテイチアーテイとグランデージ演出の「フィガロ」は、現代風に読み替えられていた演出であったが、音楽性が豊かであり、リブレットに忠実な演出でありながら新鮮できめの細かさが秀逸であり、オペラ・ブッファとしての笑いも非常に多かった。先般、2010年グラインドボーン歌劇場の「ドン・ジョバンニ」(12-2-2)をアップしているが、これと同様に、今回もイギリスらしい素晴らしく上品さのあるDVDであると感心させられ、さすが「フィガロ」を看板にするグラインドボーンであると感じさせられた。−

(最新の輸入盤BDより;2012グラインドボーン音楽祭の「フィガロの結婚」)
13-10-3、ロビン・テイチアーテイ指揮、マイケル・グランデージ演出による「フィガロの結婚」、エイジ・オブ・エンライトメント管弦楽団&グラインドボーン合唱団、2012年8月、グラインドボーン歌劇場におけるライブ収録、
(配役)スザンナ;リディア・トイシャー、フィガロ;ヴィート・プリアンテ、伯爵;アウドゥン・イヴェルセン、伯爵夫人;サリー・マシューズ、ケルビーノ;イザベル・レナード、マルチェリーナ;アン・マレー、バルトロ:アンドリュー・ショア、その他、
(2013/07/26、新宿タワー・レコードにて購入、OPUS ARTE OABD7118D)

   10月分の最後のオペラは、最新の輸入盤BDより2012グラインドボーン音楽祭の「フィガロの結婚」であり、ロビン・テイチアーテイ指揮、マイケル・グランデージ演出で、エイジ・オブ・エンライトメント管弦楽団およびグラインドボーン合唱団によるものであった。2012年8月、グラインドボーン歌劇場におけるライブ収録であり、マルチェリーナ役のアン・マレイ以外は、新しい人歌手陣による演奏であった。グランデージ演出は、大邸宅の伯爵邸を中心に1960年頃のモダンな演出で、序曲で建物とやや古いタイプの真っ赤なスポーツカーが登場するので見分けがつきやすい。スザンナのトイシャーとフィガロのブリアンテは、演技もきびきびして歌も良いので、今後期待できそうなコンビであった。輸入盤であるのに、日本語字幕があってとても有り難かった。



   このHP初登場の指揮者テイチアーテイがオーケストラピットに現れて、その一振りで颯爽と序曲が始まった。やや速めのテンポで古楽器の繊細な響きであり、画面ではお屋敷風のビルの入り口が写され、フィガロ風の召使いが現れて、これから 動き出しそうな朝の気配。いろいろな従業員風の人たちが出入りしていたが、序曲も後半に入ってから、時代遅れの真っ赤なスポーツカーが登場し、伯爵夫妻が到着して建物に入り、序曲と幕前の出し物が終結していた。回転舞台によりスポーツカーが下がり、変わってフィガロとスザンナのいる大きな椅子のある部屋で、第一曲目の前奏が始まり、二人の二重唱が始まっていた。



            フィガロが階段のある大きな部屋で何やら寸法を測りだしており、スザンナが飾りの付いたお手製の帽子を被って「見てよ」とフィガロに催促していた。帽子を誉められて二人は仲良く抱き合って上機嫌で軽いキス。しかし、伯爵が下さるベッドの話が出てからスザンナが怒りだしてさあ大変。間抜けなフィガロを困らせていたが、「デインデインでひとっ飛び」と言われてフィガロは考え出す。スザンナの話を聞いて次第に真剣に怒りだし、第三曲のチェロとチェンバロの前奏が激しく鳴って、フィガロは反骨精神のカヴァテイーナをピッチカートに乗って激しく歌い出した。間抜けの面があるが、考えるフィガロ・行動力あるフィガロを示しながら、「ご主人様よ」と堂々と元気よく歌っていた。





             続いてマルチェリーナが登場するが、何とこれが昔ながらの懐かしいアン・マレイ。やや大袈裟な身振りでバルトロをそそのかし、バルトロの威勢の良い復讐のアリアが始まって、二人は仲良く協力を約束していた。そこへスザンナが顔を出したので、マルチェリーナとの口喧嘩の二重唱が始まった。この二人は実に威勢が良く、スペインの奥様も伯爵のお気に入りも互いに負けていなかったが、最後にお年の話になってあっさりスザンナの勝ち。マルチェリーナを追い出してホットしたところに、ケルビーノが飛び込んできて、伯爵を怒らせたのでに奥様に取りなしをと頼んできた。少し男っぽいズボン姿はとても格好が良い。





            ケルビーノはスザンナから奥様のリボンを取り上げて、お城中の女性の名を挙げて、狂ったように「自分が自分で分からない」と歌っていた。そこへ伯爵が顔を出したのでさあ大変。ケルビーノが椅子の陰に隠れているのに、伯爵はスザンナを口説き出すが、バジリオが入ってきたので、伯爵も身を隠そうとして大笑い。バジリオがスザンナに、ケルビーノの奥方を見る目がおかしいと言い出すので、伯爵は思わず声を出して立ち上がってしまった。驚いたスザンナが気を失って倒れてしまうが、おかしな三重唱が始まり、挙げ句の果てにケルビーノが見つかってしまって、ここでも大笑い。実に楽しい演出が続き、スザンナが伯爵に弁明していると、フィガロを先頭に、村人たちの合唱が始まっていた。





             フィガロがスザンナとの結婚を伯爵に認めさせようとする作戦であったが、領主権の撤廃は認めるとしたものの結婚の承認はあとでもよいということになって、折角の威勢の良い合唱は残念ながらカラ振り。一方、そこにいたケルビーノは伯爵に連隊の士官に命ぜられ、それを聞いたフィガロから荒々しく手厳しい激励の挨拶を受け、伸びやかなカデンツアがあったり、勇ましい行進曲の応援があったりの「立派な兵士になれ」というアリアで励まされていた。テインパニーの響きがこの行進曲を盛んに盛り上げて、第一幕は賑やかに終了していた。





             気がつくと舞台はそのまま回転を始めて、直ぐに第二幕の伯爵夫人の豪華な部屋が現れた。美しいオーケストラの前奏が始まり、そこには伯爵夫人が哀しげな表情で現れ、「愛の神よ、安らぎを下さい」とゆっくりしたテンポで歌われて、大きな拍手を浴びていた。スザンナと夫人が話をしていると、陽気なフィガロが歌いながら現れ、フィガロが伯爵を懲らしめる作戦を練っていたが、フィガロの提案でケルビーノを女装させることが女二人の気に入って、早速、ケルビーノを呼ぶことになった。ケルビーノがやって来ると、早速、スザンナはギターを持って奥様にカヴァテイーナを歌わせていた。ケルビーノは奥様の前で恥ずかしそうにこのアリエッタ「恋とはどんなものかしら」を歌い出したが、後半には伸び伸びと声を出して元気よく歌い、夫人からブラボーを頂いたが、二人の目線が心配であった。





                続いてスザンナの着せ替えのアリアが無邪気に始まり、ケルビーノは夫人の見ている前でスザンナに着物や靴まで替えられて、何とか女装したケルビーノの姿にさせられた。しかし、夫人の前に出てきて腕にまいたリボンの話から、夫人が大袈裟に包帯を巻いて親切にしたため、二人があわやとなったところで、伯爵の声が聞こえて来て「さあ大変」となった。





               夫人がドアを開けると、伯爵が勢い込んで登場し、夫人が慌てている様子から、スザンナを巡る三重唱となっていた。そして伯爵と夫人はけんか腰となり、部屋で大きな物音がするので伯爵は疑いを強め、「鍵をよこせ」と大ケンカとなっていた。夫人が必死で抵抗するので、伯爵はドアを開ける道具を取りに出かけた間に、ケルビーノとスザンナの大慌ての「早く、早く」の小二重唱となり、見つかったら最後だとばかりケルビーノが窓から飛び下り、スザンナが化粧室に隠れたところで、道具を持った二人が登場した。








              隠れているのはスザンナではないなと伯爵が気がついたところでフィナーレが始まり、夫人がケルビーノの話をし始めた途端に伯爵はカンカンになって怒りだした。伯爵の怒りが尋常でなく「出てこい、無礼な小僧よ」と歌い出し、女装させていたと釈明する夫人は全く分が悪い二重唱であったが、そこへスザンナが「シニョーレ」と言って出てきたので、三重唱になっていた。あっと驚く伯爵と夫人。伯爵が平謝りの場面に変わったが、こうなると女二人は強く、夫人が許しを与えぬまま、逆に下手の伯爵を平手打ちする始末。しかし、そこにフィガロが登場したので伯爵は一息ついた。伯爵は早速、手紙を持ち出して四重唱になっていたが、フィガロは女二人がバレていることを伝えても、頑固に「知らぬ存ぜぬ」を押し通し、二人は睨み合って「あわや」という場面になっていた。




               そこへ酔っぱらったアントニオが登場して五重唱になり、フィガロはアントニオの攻撃に対し自分が飛び下りたと嘘をつき、落とした辞令の伯爵の追求にも女二人の機転でかわしていた。しかし、そこへ伯爵が待っていたマルチェリーナとバジリオとバルトロが揃って登場して伯爵を喜ばす七重唱となった。マルチェリーナとの結婚の契約書を見せられてフィガロは呆然となり、伯爵はこれを審理しようとなって伯爵側の勝ちのように盛り上がって、長くて可笑しいふざけた場面の多い第二幕はやっと終結した。





休憩が終わって第三幕では伯爵の部屋で、伯爵が第二幕で生じたいろいろな事件について考え事をしているが、一方では伯爵夫人がスザンナに頼み事をしていた。スザンナが伯爵の前に現れて、しおらしい様子をしているので、伯爵はこの時とばかりに口説き始め、二重唱になっていた。伯爵はスザンナが素直に逢い引きの約束をするので大いに喜んでいたが、しかし、別れ際にスザンナがフィガロに漏らした「これで裁判に勝った」と言う言葉を伯爵が聞き止めて、騙されたかと気がついた。そして、召使いの分際でと伴奏付きのレチタテイーボで怒りを表し、裏切り者は罰しようとばかりに、伯爵の存在感を示す堂々たるアリアを歌い出した。このアリアは、歌っているうちに怒りがこみ上げてくるように「私の不幸を笑うものには復讐を」と激しく歌われていた。





             一方、訴訟のために皆が集まっている間に、バルバリーナとケルビーノが姿を見せ、二人は女装して伯爵夫人に花束をと話し合っていた。そこで場面は順序がいつもと入れ替わって、伯爵夫人が登場し、スザンナへの伯爵の返事がどうなったかを気にしながら、第20番のアリアとなっていた。衣装をあらためて登場した伯爵夫人は、召使いと衣装を替えねばならぬ我が身の切なさを伴奏付きのレチタテイーボで激しく歌い上げ、「あの美しい時は何処に」と言うあの有名なアリアを正調で朗々と歌って、会場からひときわ大きな拍手を浴びていたが、ヴィブラートのかけ過ぎがいささか気になった。






             場面が変わって裁判が終わったと皆が戻り、結果は「支払えねば結婚すべし」であり、立派な判決だとよろこんでいた。フィガロだけが不服であり、私は貴族の出だと言いだし、子供の頃にお城で誘拐されたと言う話が始まった。その証拠に腕にアザのあると言いだしたところ、マルチェリーナが右腕の火傷の跡かと問い質すと、マルチェリーナが悲鳴を上げ、何とそれは息子のラファエロであるという。意外な事実の判明に、伯爵はじめ皆が戸惑っているところに、スザンナが伯爵のところへお金を持って登場した。しかし、フィガロがマルチェリーナと抱き合って、これが実の母親でこれが実の父親でと騒いでいるのを見て、さあ大変。年増女が勝つなんてと怒るスザンナは、説明しようとするフィガロの頬を思いっきって平手打ちし、それを見て皆が大笑い。何とも可笑しい六重唱が続き、伯爵らが退場してお笑いの拍手となり、残された二組の男女が、一緒に結婚式を挙げようと喜び合っていた。




             続いてスザンナが伯爵との逢い引きの場所を伝える手紙を書く二重唱が始まっていた。伯爵夫人の言う言葉をスザンナが手紙に書き留めていたが、二人は途中から歌の声合わせに夢中になって、声を揃えて実に美しく歌っていた。手紙をピンで留めたあとに、村の娘たちが合唱で伯爵夫人に花を捧げに登場するが、そこに女装したケルビーノがおり、探していたアントニオに遂に捕まってしまった。ケルビーノをもらい受けるためにバルバリーナが殿様に皆の前で良からぬことを白状してしまい大笑い。一方、結婚式だと急ぐフィガロが、殿様からケルビーノが白状したと詰め寄られ、二人は再び顔を付き合わせて、あわやの状態になっていたが、折からの行進曲の始まりで二人は睨み合ったままで事なきを得た。





             二人の村娘たちの合唱により、二組の夫婦が登場し、伯爵と夫人により結婚を祝うヴェールが新妻に贈られる儀式が行われ、記念写真なども撮影された後に、全員による踊りが始まっていたが、その最中にスザンナから殿様に手紙が渡されていた。喜ぶ伯爵がピンを刺して痛がる様子が写され、それを見ているフィガロなども写されて、この演出は細かな細部の辻褄が実に良く出来ていると感心させられた。大勢の踊りが賑やかに続けられ、伯爵は夜の逢い引きの手紙を手に入れて、ご機嫌で威厳を保ちつつ「今晩は皆で盛大に祝おう」と大きな声で挨拶をして、最後には殿様を讃える合唱が続いて第三幕は終了していた。





              舞台が回転している間に、バルバリーナがピンを探しながら舞台に登場し、続けて第四幕の彼女のアリアが始まっていた。そこへフィガロとマルチェリーナが登場し、フィガロがピンを見つけた振りをして、バルバリーナからスザンナが伯爵に手紙を渡したことを知り、二人の密会があると信じ込み腹を立てていたが、母親役のマルチェリーナが何かある筈と慰められていた。ここで残念ながらマルチェリーナのアリアは省略されていた。腹を立てたフィガロは、現場を押さえようと苛立ってバルトロやバジリオに持ちかけていたが、ここで歌われるバジリオのアリアも省略されていた。





              続いて暗闇の茂みの中でフィガロがスザンナの裏切りを懲らしめるため、「さあ、用意が出来た」と伴奏付きのレチタテイーボから第27番のアリアを歌い出し、「目を開けるんだ、男たちよ」と歌いながら、伯爵とスザンナを待ち受けていた。このフィガロのアリアは名調子で、良い声を聴かせていた。一方の伯爵夫人の服装をしたスザンナは、自分を疑うフィガロをからかうため「いよいよ時がきた」とこれも美しいレチタテイーボと第28番のアリアを歌い出した。この曲はオーボエのオブリガートとピッチカートの伴奏がソプラノの声に合って美しく、スザンナのトイシャーの本日最高のアリアとなり、会場から大きな拍手を浴びていた。これら二人の学芸会はとても良く、マルチェリーナやバジリオのアリアの省略は、誠に残念だった。






               フィナーレになって伯爵夫人が扮するスザンナが舞台中央に現れるが、白いスーツがとても似合っていた。暗闇でケルビーノがスザンナと思ってからかい始め、ケルビーノがしつこいので追い払おうとするが、直ぐにまとわりついてくる。そこへ伯爵がスザンナを見つけて現れるが、ケルビーノが邪魔なので、平手打ちで追い払ったら、それが隠れていたフィガロに当たって悲鳴をあげていた。この演出はこういう細かな仕草が実に丁寧で上手いので、さすがグラインドボーンは違うと言うことを見せつけていた。伯爵は首尾良く夫人扮するスザンナに会って、早速、口説き始めていたが、調子に乗って、遂にダイヤの指輪までプレゼントしてしまっていた。二人の密会を見ていたフィガロが思わず声を上げてしまい、通行人で姿を現したので、スザンナに扮した伯爵夫人は伯爵から逃げ出すことに成功した。





               一方、フィガロは、暗がりで伯爵夫人を見つけるが、声で直ぐスザンナであることに気づく。フィガロはスザンナを懲らしめようとして伯爵夫人を口説き始めたが、スザンナが怒りだしてフィガロに平手打ち。声で分かっていたと謝って、二人は直ぐ仲直り。そこで伯爵がスザンナを探してウロウロしているのを知り、二人は大声でフィガロと夫人の浮気のゼスチャーをすると、伯爵は二人を見つけ、フィガロを捕まえて「皆のもの、武器を取れ!」と大声を上げてしまった。



             謝るフィガロばかりか、東屋に逃げ込んだ浮気のスザンナ扮する伯爵夫人も「ペルドーノ」と平謝りであったが、伯爵は「いや、許しはせん」といきり立っていた。しかし、別のサイドから白のスザンナの姿の伯爵夫人が現れたので、さあ大変。半信半疑の伯爵の前に、帽子を取って素顔を表した夫人とスザンナ。伯爵はキョロキョロと二人を見較べながら、自分の間違いに初めて気がつき、更に指輪まで示されたので、さすがの伯爵も大勢が見ている前で、夫人に膝をついて平謝りとなった。大勢が注視する中で、伯爵夫人が伯爵の面子を立てるように、素直に受け入れたので、その寛大さに全員がホットする素晴らしい場面が続いていた。最後に音楽が高まりを見せて、全員の喜びの合唱となり、この賑やかな喜びのアンサンブルのうちに、長い茶番劇は幕となっていた。伯爵と夫人、フィガロとスザンナ、バルトロとマルチェリーナ、それにケルビーノとバルバリーナも加わって、4組のカップルが抱き合って、見事なフィナーレとなっていた。

           このテイチアーテイとグランデージ演出の「フィガロ」は、現代風に読み替えられていた演出であったが、音楽性が豊かであり、リブレットに忠実な演出でありながら新鮮できめの細かさが秀逸であり、オペラ・ブッファとしての笑いも非常に多かった。先般、2010年グラインドボーン歌劇場の「ドンジョバンニ」(12-2-2)をアップしているが、これと同様に、今回もイギリスらしい素晴らしく上品さのあるDVDであると感心させられ、さすが「フィガロ」を看板にするグラインドボーンであると感じさせられた。知っている歌手は、アン・マレイだけであったが、スタッフの歌も動きもとても良く、生き生きとしたブッファの楽しさを味わせてくれた。また、テイチアーテイは、ピリオド・オーケストラのエイジ・オブ・エンライトメント(OAE)を良く鳴らしており、曲に緩急・強弱をつけて歯切れの良い演奏を行っていた。しかし、欲を言えば、私の大好きな、11番、19番、23番、27番などの甘いアリアのテンポがちょっと速すぎたように思われ残念だった。

          またグランデージ演出に限っていえば、フィガロがスザンナに殴られる場面が3回、夫人が伯爵を殴る場面が1回、また伯爵がケルビーノを殴ったつもりがフィガロに当たった場面が1回と、沢山出てくるが、ライブでは難しい場面を実に上手に扱っており感心させられた。これは一つの例であり、ライブでは失敗しがちな場面を実に上手く処理しているのには驚かされた。また、冒頭から序曲と共に始まった明るい伯爵邸の内外で、大勢の召使いたちが実に生き生きと動き回って目を見張らせ、喜劇性を高める配慮がなされていたし、登場人物たちの人間関係にも配慮した演出であり、伯爵の激しやすい性格やフィガロの反骨精神を強調したりして、伯爵とフィガロのあはやという対立場面がくり返されたりしていた。

          配役もフィガロとスザンナ、伯爵と伯爵夫人、ケルビーノに適材を得ており充分に楽しめた。フィガロ役のプリアンテは、初めてであるが行動力のあるフィガロ、スザンナ一筋のフィガロを良く演じていたし、スザンナ役のトイシャーも初めてであるが、フィガロと良く合わせておキャンな役を見事にこなしていた。伯爵のイヴェルセンはダンデイでおしゃれであり、高貴さと好色さ、貫禄と間抜けのバランスを巧みに演じていた。また、伯爵夫人のマシューズは、必死の演技をしているのが良く分かり、二つのアリアもヴィブラートの効かせすぎが気になったが、声量をカバーしていたものと思われた。ケルビーノのレナードはズボン役がよく似合い元気があって役にピッタリであり、今後も期待できそうであるが、かってのユーイングやシュターデのように後世ににも残って欲しいと期待を抱かせた。

            ブッファ性を強めるマルチェリーナ、バルトロ、バジリオ、バルバリーナなどの役も人材を得ており、彼等の活きの良い動きが、この演出の喜劇性を非常に高めていたように思う。この層の厚さがグラインドボーン歌劇場の取り柄なのであろう。彼等の活躍が、例えば第一幕の第七曲の三重唱や、第二幕と第四幕のフィナーレ、第三幕の六重唱などの面白い演出を支えていたように思う。中でも飛び抜けていたのは、アン・マレイのマルチェリーナであり、彼女には、是非、第4幕のアリアを歌って欲しいと思った。終わりに、最近の新しいオペラ演出には超モダンなものが多くいつも心配であったが、この演出は時代は新しくても、実に安心できる優れた演出であったし、むしろ新鮮さを与えた目新しい雰囲気を持っていた。そのため、伝統的な演出が好きなファンにも喜ばれる、読み替え劇のあり方が存在する筈であるし、そのための模範として、このDVDなどを演出者は研究して頂きたいと思う。

  (以上)(09/03/28)


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