(BDとLDの記録から;協奏交響曲K364とクラリネット協奏曲K.622)
13-10-1、ダヴィド・グリマルの指揮とヴァイオリン、レギス・パスキエのヴィオラによるバイエルン室内楽団の協奏交響曲変ホ長調K364、1996年、クラシカ・ジャパンおよびリチャード・ストルツマンのクラリネットとラファエル・フリューベック・デ・ブルコス指揮ウイーン交響楽団によるクラリネット協奏曲イ長調K.622、91年10月ウイーン・コンツエルト・ハウス、

−モーツァルトの湧き出るような楽想の連続という感じの曲を、グリマルとパスキエの息のあった二人の重奏・掛け合い・対話などの演奏をよく見て、CDでは恐らく気がつかない映像の有り難さを改めて感じさせてくれた。また、ストルツマンのクラリネットの音色を生かした、高音から低音に至る広い音域を駆使した技巧の冴えは、この豊かな楽想の曲の最晩年の澄みきった響きを感じさせ、彼の最後にたどり着いた世界を暗示するかのように思えた−


(BDとLDの記録から;協奏交響曲K364とクラリネット協奏曲K.622)
13-10-1、ダヴィド・グリマルの指揮とヴァイオリン、レギス・パスキエのヴィオラによるバイエルン室内楽団の協奏交響曲変ホ長調K364、1996年、クラシカ・ジャパンおよびリチャード・ストルツマンのクラリネットとラファエル・フリューベック・デ・ブルコス指揮ウイーン交響楽団によるクラリネット協奏曲イ長調K.622、91年10月ウイーン・コンツエルト・ハウス、
(2010/12/10クラシカ・ジャパンの放送をBD-35.2に数録、及び2012/12/12柳氏によるLD BMG、VLC-113)

          10月号の最初の二つの協奏曲は、第一がダヴィド・グリマルの指揮とヴァイオリンおよびレギス・パスキエのヴィオラによる協奏交響曲変ホ長調K.364である。ソースはクラシカ・ジャパンの放送であり、オーケストラはバイエルン室内管弦楽団であるがコントラバス1本の小規模な室内楽団であった。ソリスト二人が入場してオーケストラと向かい合い、演奏開始すると同時に二人は客席の方に向き直って、古楽器奏者のように、第一提示部の冒頭からソリストも演奏に加わっているのが珍しく感じた。演奏はなかなか落ち着いたしっかりした演奏であった。第二の協奏曲は、リチャード・ストルツマンのクラリネットとラファエル・フリューベック・デ・ブルコス指揮ウイーン交響楽団によるクラリネット協奏曲イ長調K.622であった。ソースはLDであり、1991年10月にウイーン・コンツエルト・ハウスで演奏されたものである。このLDは、武満徹とストルツマンの対談が組まれており、この曲の他、武満作品とブラームスの五重奏曲が演奏されていた。



          始めの第一曲目は、ヴァイオリンとヴィオラのための協奏的交響曲変ホ長調K.364であり、映像ではヴァイオリンの若いダヴィド・グリマルが指揮を兼ねており、ヴィオラのレギス・パスキエの二人が連れ立って登場し、オーケストラに向かい調子を合わせてから、演奏が開始された。フルオーケストラに二人も加わって全合奏で第一主題が始まったがアレグロ・マエストーソの言葉通りに堂々とした力強い主題が提示されていた。やがて、ホルンとオーボエによる軽快な第二主題が弦楽器のピッチカートに支えられながら伸びやかに提示され、クレッシェンドを重ねて頂点に達するが、随所に現れるシンコペーションの響きには緊張感を伴い実に雄大に聞こえていた。
         続いて独奏ヴァイオリンとヴィオラがオクターブで見事なアインガングを奏して第二提示部が開始されるとオーケストラが第一主題の冒頭部を提示し、独奏ヴァイオリンが第三の主題を提示すると独奏ヴィオラがこれを引き継ぐように進行していた。ここでは、二人はまず模倣の手法で競い合い、やがて重奏の手法で助け合って進み、経過部を経て新しい第四の主題を歌い出していた。グリマルとパスキエはそれぞれ対等で弾き合ったり、オクターブ離れて弾いたり、重奏したり、模倣し合ったりして進行し、この曲の持ち味を豊富に示しながら、 展開部へと突入していた。


         展開部では独奏ヴァイオリンが新しい主題を提示しヴィオラが繰り返した後、両楽器が速いパッセージで活発に応酬し合って技巧的な展開を行っていた。再現部では冒頭の第一主題で始まり、第三の主題がヴィオラからヴァイオリンに受けつがれ、第四の主題に次いで第二の主題の順に再現され、この曲独自の構成で主題が再現されていた。最後のカデンツアは新全集のスコアに示された通りであったが、ヴァイオリンとヴィオラが互いに競い合ったり合奏したりする美しいもので、二人の呼吸がピッタリ合った見事な演奏であった。


   第二楽章はゆっくりしたアンダンテ楽章で、展開部のないソナタ形式か。オーケストラのもの憂げな静かな第一主題で始まり、そのあとに独奏ヴァイオリンが溜息をつくように変奏しながら主題を提示し、やがて独奏ヴィオラもすすり泣くように変奏を始め、互いに交替して進む。グリマルもパスキエも交互に弾いていたが、間にトウッテイも入って進行し、やがて短い第二主題になると独奏ヴァイオリンと独奏ヴィオラの両楽器が追い掛け合いとなり、二人は互いに顔を見合わせながら競い合っているように見えた。やがて両楽器の合奏となり対話のようなカノン風の追い掛け合いに続いてから、トウッテイとなって提示部が終わり一休みとなった。展開部はなく再び冒頭の第一主題が今度は独奏ヴァイオリンで変奏しながら再現され、独奏ヴィオラも変奏して続き、交替から合奏になり、第二主題に入ってからは追い掛け合って対話しながら進んで、提示部の単なる繰り返しではないいろいろな変化のある再現部となっていた。カデンツアでは、スコア通りに弾いていたが、両楽器が重音で重なるように進んでから美しく応答し合うこの曲ならではの繊細な美しいものであった。ヴィオラはヴァイオリンに負けないようにいつも懸命な様子が窺われ、ヴァイオリンがヴィオラを庇うように弾いていたのも印象的であった。この曲の第二楽章の憂いに溢れる表情豊かな美しさには格別のものがあり、二つの楽器が溜息をつくような音形で綿々と進行する姿には、聴くたびに感動させられることが多い。


          このフィナーレは一変して快活に躍動するプレストの終楽章であり、全体的にはA-B-A-B-Aのロンド形式であるが、Aの部分がロンド主題で始まるオーケストラのパーツとソロが活躍するパーツに別れていた。いきなり、オーケストラでロンド主題が飛び出して軽快に進行するが、二人のソリストはここでもオーケストラに加わって活発に進行してから、ホルンが明るく響きオーボエが繰り返す素敵なファンファーレが印象的でオーケストラの部分が終結していた。続いて独奏ヴァイオリンが第二の主題を提示してから独奏ヴィオラに引き継ぎ、二人が交互にひとしきり弾き合ってから、独奏ヴァイオリンによるBの部分が始まった。ここではヴァイオリンとヴィオラが新しい第三の主題を互いに追いかけるように交互に目まぐるしく進行し、最後には二人の重奏のような形で収束し、素晴らしい効果をあげていた。
            再びロンド主題が両楽器で登場してから、今度は直ぐに第二主題が独奏ヴィオラで提示され、独奏ヴァイオリンが引き継いでから、ヴィオラが第一の主題に次いで第三の主題を提示し、独奏ヴァイオリンと交互に追い掛け合いながら素晴らしい展開を見せていた。最後にロンド主題が両楽器で登場してから新たな展開を見せているうちに、あのホルンのファンファーレが聞こえてきて独奏ヴィオラが、続いて独奏ヴァイオリンがそれぞれクレッシエンドしてそれぞれの頂点に達してからコーダで結ばれ終結していた。素晴らしく軽快なプレストであり、一気呵成に頂点にまで登りつめた厚みのある終楽章であった。


           演奏が終わると、凄い拍手が湧き起こり、ソリスト二人は互いに肩を組んだり、周囲と握手を重ねてから、一旦は引き上げたが、拍手に応えて再度登場し、ファンファーレを何回か行ったホルンとオーボエを起立させて、挨拶を繰り返していた。第一ヴァイオリンのグリマルは、指揮者として紹介されていたが、彼らはソロ以外のパーツも合奏に加わっており、ヴァイオリンを弾きながら体の仕草で全体の統率を取る仕方で演奏を進めていた。この曲は三つの楽章を通じて、モーツァルトの湧き出るような楽想の連続という感じの曲であり、豊富な美しいメロデイがあふれ出し、ヴァイオリンとヴィオラが独奏したり重奏したり、追い掛け合ったり対話を楽しんだりして変化に富んでおり、このようなグリマルとパスキエの息のあった演奏に出遭うと、CDでは気がつかない映像の有り難さを改めて感じさせてくれた。この曲には、かねて名演奏が揃っているが、この演奏もその中の一つと思われた。






        第2曲目はLDからの映像でクラリネット協奏曲であるが、これは柳さんから頂いた最後のLDで、これはまだお元気な武満徹さんを中心に日本で制作企画されたものであり、モーツァルトの没後200年記念の映像でもあった。標題は何と「1791-1891-1991」という100年単位のクラリネットの名作誕生を記念しており、武満徹のクラリネットとオーケストラのための「ファンタズマ/カントス」、ブラームスのクラリネット五重奏曲、モーツァルトのクラリネット協奏曲の3曲を名手リチャード・ストルツマンがそれぞれ演奏し、さらに武満徹との対談が組み込まれているというクラリネット好きにはたまらないLDであった。対談で分かるが、武満徹さんは、特別にクラリネットの音色に惹かれており、名手シュトルツマンにこの曲を献呈しており、ストルツマンは、彼の語りの中でクラリネットの名作はこの三人の作曲家によらざるを得ない、とまで語っていた。

     このクラリネット協奏曲イ長調K.622は、このLDの表紙の写真にも写され、映像の中にも出てくるのであるが、懐かしいウイーン・コンツエルト・ハウスのホールで演奏されたものであり、会場周辺や建物内部の姿が克明に写されて印象的であった。演奏はラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス指揮で珍しくウイーン交響楽団であり、映像が舞台を写し出すと、楽団員が勢揃いしており、そこに指揮者とクラリネットを持ったリチャード・ストルツマンが登場していた。





      この曲の第一楽章はアレグロで標準的な協奏的ソナタ形式で書かれている。第一楽章がオーケストラで開始されると、鄙びた感じの美しい第一主題が速いテンポの弦楽器で現れて、指揮者ブルゴスの大きな体を動かす仕草が目立つ独特な指揮振りを披露しながら曲が進行していた。長い穏やかな第一主題と派生するモチーブが軽快に明るく進み、第二主題が現れないまま第一提示部が終了していた。
     独奏クラリネットが登場し厳かに第一主題を奏で始め、続いて新しいエピソードを奏でてから、第二主題が初めてクラリネットソロで登場してくるが、クラリネットの暗いくすんだ響きが印象的であり、ストルツマンが高音から低音まで滑らかに美しい音色を重ねていく。続いてクラリネットとオーケストラがお互いに対話を重ねるようにして盛り上がりながら曲が進み、素晴らしい勢いで提示部を終了していた。展開部では、常にクラリネットが主導しながらまるで変奏曲のように主題が展開されており、ストルツマンの上昇音階と下降音階とが見事にミックスして流れ出すクラリネットの技巧は、この楽器の魅力を示していた。再現部は 型通りに終始しカデンツアのないコンチェルトであるが、その必要性を感じさせない。この曲の流れ出るような楽想の豊かさは、最晩年の澄みきった響きを感じさせ、この演奏はモーツァルトが最後にたどり着いた世界を暗示しているように思われた。






         第二楽章は、アダージョで三部リート形式であろうか。独奏クラリネットが弦の三拍子の伴奏に乗ってゆっくりと美しいメロデイを歌い出すが、このクラリネットのくすんだ寂しげな音色としみじみとした低音の響きは実に味わいがあった。合奏で繰り返してから再びお返しの旋律でクラリネットのソロが始まり、オーケストラが続いていたが、この第一部はクラリネットの美しい音色が心に滲みるように響いていた。中間部に入ると、新しい明るい主題が独奏クラリネットで現れ、ここでは技巧的なパッセージが続き、ストルツマンは低音から高音に繋がるクラリネットの自在な音色を巧みの操り、終始安定した変化に富む音色がとても魅力的であった。終わりのフェルマータのあとにカデンツア風の短いソロが一息あってから、再び冒頭の寂しげな主題が再現されていたが、この後半のアダージョは、ストルツマンが装飾を変化させながら吹いており、実に味わい深い心に浸みるモーツァルトの晩年の歌であると感じた。



          フィナーレは早いテンポのアレグロのロンド形式で、だいたいにおいてA-B-A-C-A-B-Aの形式であった。早いスタッカートのついたロンド主題がクラリネットのソロで飛び出して軽快に開始され、オーケストラに渡されるが直ぐにクラリネットが早いパッセージを繰り返し、オーケストラとの変化に富んだ掛け合いが美しい。第一のエピソードはクラリネットにより華やかに提示され、ここでも独奏楽器が縦横に音階を駆け巡ってからロンド主題に戻っていた。続く第二のエピソードも、独奏クラリネットにより提示され、この楽章はまるでクラリネットを操る名人たちのために自由奔放に作曲されたように思われた。ストルツマンはさすがに腕達者であり、終始譜面を前にしながら高音から低音まで広い音域を自由にこなしており、どんなパッセージであっても、彼の技巧は安心して見ておれる確かなもののように思われた。終わると凄い歓声と拍手が続き、ウイーン交響楽団の本拠地でのコンサートらしい暖かな声援を感ずることが出来た。

このクラリネット協奏曲は、名手アントン・シュタードラーのために書かれた作品であるが、ストルツマンのクラリネット演奏で聴いてみると、各楽章ともに、クラリネットの音色を生かし、高音から低音に至るまで広い音域を駆使した曲であることが分かり、しかも彼が実に流ちょうに吹いていることに驚かされた。このLDにより思いがけずに、武満徹やブラームスの五重奏曲を聴くことになったが、いずれもクラリネットという楽器のの限界を感じせるような難しい曲であり、普段、滅多に味わうことのない世界を放浪したような気分であり、時には良いものだと味わって聴いていた。

(以上)(2013/10/07)



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