(最新収録BDより;ホリーガーのオーボエ四重奏曲K.370など)
12-9-2、ハインツ・ホリガーとケラー弦楽四重奏団のオーボエ四重奏曲ヘ長調K.370(368b)、2005年11月バーゼル音楽院(スイス)、ペキネル姉妹とコリン・デーヴィス指揮イギリス室内管弦楽団による2台のピアノのための協奏曲変ホ長調K.365(316a)、2007年5月23日、キャドガン・ホール、

−ホリガーの一言と名演奏のお陰で、このオーボエ四重奏曲は、フルート四重奏曲とは3年の隔たりがあり、室内楽的な深みのある構成感を持ち、実験的な試みも加わって、より充実した名品の響きを味わせてくれた。また、スタイル・風貌・動作などが良く似た双子のペキネル姉妹による二台のピアノ協奏曲は、揃ったスタッカートの美しさなど、肌理の細かな音色が印象的で、デーヴィスの素晴らしい伴奏もあって、魅力的な演奏であった−

(最新収録BDより;ホリーガーのオーボエ四重奏曲K.370など)
12-9-2、ハインツ・ホリガーとケラー弦楽四重奏団のオーボエ四重奏曲ヘ長調K.370(368b)、2005年11月バーゼル音楽院(スイス)、ペキネル姉妹とコリン・デーヴィス指揮イギリス室内管弦楽団による2台のピアノのための協奏曲変ホ長調K.365(316a)、2007年5月23日、キャドガン・ホール、
(2008年5月29日、NHKBS2クラシック倶楽部よりBD-04.1に収録および購入日時不明銀座ヤマハ楽器店にてARTHAUS MUSIK-101349)

     9月分の第二曲目は、室内楽1曲と協奏曲を1曲。初めにハインツ・ホリガーがケラー四重奏団と演奏したオーボエ四重奏曲ヘ長調K.370がNHKBSとクラシカジャパンの両方で放送されたものを収録したので、この曲はこのHP初出でもあり、アップしておきたかったものである。学者でもあるホリガーの丁寧な曲の解説が目新しく面白かった。また、協奏曲は、DVDで最近入手したペネキル姉妹のライブコンサートで、2台のピアノのための協奏曲変ホ長調K.365である。コリン・デイヴィス指揮イギリス室内管弦楽団の伴奏で、とても安心して聴いておれる演奏であった。



第一曲目は、ハインツ・ホリガーとケラー四重奏団によるオーボエ四重奏曲であり、モーツァルトが「イドメネオ」の作曲のため、ミュンヘンに赴いた1781年に作曲された。そこで久しぶりで再会したオーボエ奏者フリードリヒ・ラムのために作曲されたものである。演奏の前にホリガーが学者らしく、この曲を穏やかな口振りで解説していたのでその要旨を以下に掲載しておこう。
「オーボエは作曲家たちに軽視されてきた。独奏楽器として扱われるのは、バッハのカンタータ、モーツァルトの協奏曲、シューマンのロマンスなどしかなく、そこから現代までオーボエ曲はわずかしかない。モーツァルトは「蜜のように甘い音」を出すオーボエ奏者ラムのために、このオーボエ四重奏曲を作曲した。この曲は生き生きした曲で、演奏の喜びがあると同時に見事な実験的な作品と言えよう。特に第二楽章で音楽は精神的な極みに達し、限られた小節数の中に凝縮されている。そしてフィナーレではオーボエと弦楽器は全く独立した旋律を奏でている。オーボエは4/4拍子、方や伴奏の弦楽器は6/8拍子であり、この手法は後年「ドン・ジョヴァンニ」で使用されており、三つの舞曲のリズムが同時進行している。モーツァルトのオーボエの扱いはかなり大胆で、音域の最高音まで使い、一番上のへ音まで出ている。当時のオーボエにとってはとても演奏が困難であった。こうした急速なパッセージは、普通なら超絶技巧的な作品にしか出てこない。同時にこの曲は、極めて精神的で1音の過不足も許されない緻密な音楽である。これはまさにオーボエ音楽の最高峰、天才だけが作ることの出来る作品である。」



第1楽章はオーボエの独奏で実に明るく伸びやかな第一主題により始まり、オーボエのリードで次から次へと織りなす多彩な楽想による推移部がめまぐるしく一気に進められていた。ホリガーのオーボエは芯がしっかりしていて安定感があり、トリルや早いパッセージも難なくこなしていた。やがて始まる第一ヴァイオリンによる第二主題も第一主題と同じ旋律であり、オーボエが対旋律として受け取って華やかなパッセージを奏でそのまま一気に歯切れの良い結尾部に向かっていた。ここでホリガーは提示部の繰り返しを行っており、繰り返しではトリルやパッセージが一層華やかに聞こえていた。展開部ではヴァイオリンにより提示され直ぐにオーボエに引き継がれる新しい主題が登場し、オーボエのめまぐるしい16分音符のパッセージが続いて趣を変えてから再現部に移行していた。再現部では第一主題はオーボエで型通り再現されていたが、第二主題は省略されており、オーボエの華やかなパッセージが続いた後、一気に歯切れの良い終結部に向かっていた。実に生き生きとした華やかなアレグロ楽章であった。



              第二楽章はホリガーが言う凝縮された37小節のニュアンスに富んだ装飾を持つオーボエのためのアダージョの叙情楽章。第一ヴァイオリンの前奏に先導されて哀調を帯びたオーボエのソロが開始され、弦がそれを助奏していくが、ここはまさにホリガーの独壇場であった。中間部にオーボエがリードして短いカデンツア風のエピソードの後、再び冒頭主題が変奏されて現れて静かに進行し、フェルマータでカデンツアに入るが、ホリガーは短く心を込めて歌ってから、静かにこの楽章が結ばれていた。



フィナーレはシチリアーノのリズムによるオーボエの伸びやかなロンド主題が飛び出して協奏曲風に軽快に進行し、ヴァイオリンに渡されてからオーボエにより名人芸が披露されていくが、第一のエピソードではオーボエの16分音符のパッセージが活躍し、弦とオーボエの掛け合いが続いてから冒頭のロンド主題に戻っていた。ホリガーの言う二つのリズムの同時進行は第二のエピソードで現れ、スコアで確かめると13小節にわたり6/8拍子の弦の伴奏の上に、2/2拍子で奏されるオーボエの装飾的な旋律が同時に進行し、オヤと思わせる独特の効果を上げていた。このリズムは自然に普通の合奏に戻っていき再びロンド主題が始まっていたが、譜面を克明に見たりよほど耳が良くなければ素通りしてしまうモーツァルトの実験であった。再び明るいロンド主題がオーボエに華やかに現れて、第一エピソードが続きオーボエの急速なパッセージが繰り返されてから明るく終結していた。二つのエピソードでのオーボエの華やかなパッセージは、ホリガーが語るように、ソリストには最高のコンチェルトのような響きを持ち、素晴らしい効果を上げていた。



   ホリガーの言葉がなければ、外面的なフルート四重奏曲のように、軽く聞き流してしまいそうなオーボエ四重奏曲であったが、フルート四重奏曲とは3年の隔たりがあり、室内楽的な構成感と深みのある表情に加えて、オーボエの技巧的なパッセージにも溢れ、確かに名曲としての存在感に満ちていた。なお、ホリガーは、クラリネット五重奏曲は、後世に於いても19世紀にはブラームスが、20世紀にはレーガーが引き継いでくれたが、オーボエ四重奏曲には後継者がいなかったと語っていた。しかし、彼は20世紀に入って弱冠18歳のブリテンが幻想曲作品2により引き継いでくれたと語って、この曲を演奏してくれたが、全くの現代曲であり、理解が難しい作品であった。





  第二曲目は2台のピアノのためのピアノ協奏曲第10番変ホ長調K.365(316a)であるが、この演奏はトルコ出身の双子の姉妹によるピアノ・デュオのコンサートであり、コリン・デーヴィス指揮のイギリス室内管弦楽団による演奏であった。この曲を映像で見ると、ピアノの配置がどうなるか気になるものであるが、今回のピアノの配置は、オーケストラの前面にピアノが横向きに2台並んで配置される初めての趣向のものであった。第一ピアノが向かって左側の白いドレスの姉のギュベルであり、右側の第二ピアノがすみれ色のドレスを着た妹のジュベルが担当していた。この配置であると、客席からは今弾いている人が誰であるかが確実に分かり、二人の競演がよく見えて理想的なピアノの配置であることが良く分かった。しかし、演奏者にとっては、顔を合わせて合図をすることが出来ないので難しくなるが、双子の二人は演奏中に互いの姿が見えなくとも「特別のテレパシー」演奏が出来るそうなのでノー・プロブレムなのであろう。





               映像では指揮者と二人のピアニストが入場し、拍手で迎えられてから、二人の美人ソリストたちはにこやかに客席に向かって挨拶をしていた。
   この曲の第一楽章は、オーケストラで息の長い第一主題が威勢良く始まるが、デイヴィスの指揮はとても穏やかで、ゆっくりと軽やかに進み、次々と元気の良い新しい副主題が登場して多主題性の提示部となっていた。これらは相互に関連しており、強弱の対比やスタッカートの強調などによって特徴付けられ、全体としてオーケストラの主題提示部を構成しているように見えた。コントラバスが2本で、ホルン2、オーボエ2、ファゴット2の布陣のオーケストラで、テインパニーやクラリネットを含まない版で演奏されていた。
               やがて2台のピアノが長いトリルで登場し、第一主題の冒頭を力強く二人で合奏してから、第一ピアノを受け持つ白のギュベルが主題後半部を装飾的に軽快に弾きだし、続いて第二ピアノのすみれ色のジュベルがこれを模倣するように弾き出していた。それから二人は交互に新しい副主題を元気よく弾き始め、早い16分音符の美しいパッセージも加わって競演するようになっていたが、玉を転がすようなスタッカートのピアノが美しく、二人は互いにゼスチャーで強弱を確認したり、頷くような姿勢でテンポを整えたり、互いに息のあったピアノを見せていた。続いて愛らしい第二主題を第一ピアノが弾き出しピッチカートの美しい伴奏も加わって終結のトリルを弾き出すと、第二ピアノが相づちを打つように加わり、二つのピアノは重なるように進行して互いに速いパッセージを続けながら目まぐるしく進み、いつの間にかオーケストラも加わって提示部の力強い終結の盛り上がりを示していた。






                  展開部では最初の副主題を第一ピアノが力強く弾き始め、次いで第二ピアノがこれに続いて、二台のピアノが互いに交替しながらオーケストラも加わって弾むように力強く進行しており、二台のピアノが発するダイナミックな迫力に満ちていた。この展開部は長大であり、映像では二人がお互いを意識しながら演奏している様子がよく示されて面白かった。再現部では第一と第二ピアノが提示部とは入れ替わって弾かれていたが、第一主題の再現は前よりも簡潔に行われ、むしろ美しい第二主題の再現を丁寧に行っており、オーケストラも加わって二台のピアノが、火花を散らすような美しい場面も見せていた。最後のカデンツアでは、二台のピアノによるトリルの合奏で始まって、二台のピアノが交互に競い合うように進む派手なモーツァルト自作のものを弾いていたが、ここでも二人の仲の良い息のあったピアノが示されていた。



                 第二楽章は中間部に短調のエピソードを挟んだA-B-A'の三部形式のアンダンテであり、優美な主題が悲しげなオーボエの伴奏によりオーケストラでゆっくりと示されたあと、第一ピアノがトリルで伴奏している間をぬって第二ピアノにより実に美しく提示され、続いて二台のピアノにより装飾されながら対和風に、そして、並行的にゆっくりと進められ、実にピアノのパッセージが美しい。特に後半には二つのピアノのスタッカートによる玉を転がすような部分があって、これにオーボエと二人が一体になって息を飲むように弾かれる場面は、実に美しいと思われた。オーケストラで始まる中間部のエピソードでは、二台のピアノのそれぞれにオーボエの悲しげなソロが加わって素朴な響きのする味わいのある面白い変化を見せていた。第三部では第一部よりも前半は縮小されていたが、後半の自由な展開の部分はむしろ拡大されており、二人の息の合ったピアノが良く揃ってとても美しく、ここでもオーボエの伴奏が魅力的で、あたかも協奏曲のような雰囲気すら感じさせる楽章でもあった。モーツァルトのピアノ協奏曲における管楽器との協奏は、この曲あたりから次第に効果的に使われてくるように思われた。



              フィナーレは二つのエピソードを持つ大型なロンド形式であり、A-B-A-C-A-B-Aの標準的なものであった。速いテンポの活気のあるロンド主題がまずオーケストラで提示されフォルテで繰り返されてフェルマータの後、第一ピアノが新しい主題をテンポ良く弾きだし、続いて第二ピアノがオクターブ下で登場してきた。それからは、早いテンポでオーケストラと二つのソロピアノが三つ巴の競演をし張り合うようにドンドンと進んでいた。第一のエピソードでは、付点のリズムの行進曲風な感じでオーケストラと二台のピアノが絡みあっており、ごく自然にピアノソロからロンド主題に戻っていた。第二のエピソードはトレモロ音形と三連符の旋律が二台のピアノでパートを変えながら絡みあって進むもので、二人の負けじとばかりに弾き進む熱のこもるった競演が快く響いて、再びピアノソロでロンド主題に戻っていた。コーダの後の最後のカデンツアもモーツアルトのものが弾かれ、ロンド主題の変奏に始まり、後半は二人のダイナミックな合奏が展開された規模の大きい技巧的なものであった。



    演奏が終わり指揮者を含めて三人が観衆に挨拶を繰り返していたが、姉妹は拍手に応えて両手を合わせて合掌するようなポーズをとっていたので、思わず仏教徒かなと考えたりした。
    この二台のピアノの女性同士・姉妹同士の演奏には、かねてラヴェック姉妹の来日公演でN響と協演したコンサートの記憶があるが、今回の演奏もそれに似て、二人の格好の良さ、ソックリな弾き振り、美人姉妹が売り物であった。しかし、このペキネル姉妹は双子でもあり、スタイル・風貌・動作などがもっと似ていて、それだけで売り物になりそうな上に、肌理の細かさを持ち合わせた演奏で、非常に魅力的に思われた。このDVDにはこの曲の他に、同じコンサートではないようであるが、プーランクの2台のピアノのための協奏曲などがあるほか、ボーナス演奏で彼女らのいろいろな有名曲を弾く姿が映されており、日本語付きの彼女らへのインタビューなど多彩な活躍振りが写し出されていた。

(以上)(2012/09/09)


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