(最新BD収録のコンサート;2011NHK音楽祭よりマリナーとカツアリス)
12-6-1、ネヴィル・マリナー指揮、NHK交響楽団、交響曲第32番ト長調K.318、ピアノ協奏曲第21番ハ長調K467、ピアノ;シプリアン・カツアリス、2011年11月6日、NHKホール、第9回2011NHK音楽祭、

−2011年10月にNHKホールで行われた「2011NHK音楽祭」からモーツァルトの作品を2曲。90歳に近いマリナーの交響曲第32番ト長調K.318は、いつも重々しいN響が軽快なテンポで軽やかな響きに聞こえていた。カツアリスのピアノによるピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467は、マイペース振りが心配であったが、マリナーとは相性が良く立派な演奏。彼の本領は、独自のカデンツアやアンコールで弾いた即興演奏で発揮され、とても見応えがあって楽しかった。−

(最新BD収録のコンサート;2011NHK音楽祭よりマリナーとカツアリス)
12-6-1、ネヴィル・マリナー指揮、NHK交響楽団、交響曲第32番ト長調K.318、ピアノ協奏曲第21番ハ長調K467、ピアノ;シプリアン・カツアリス、2011年11月6日、NHKホール、第9回2011NHK音楽祭、
(2011年10月23日、BS103HV5.1GHにてBD-044にHEモードで収録)

            6月号の第一曲目は最新のもので、2011年10月にNHKホールで行われた「2011NHK音楽祭」の一環で来日したネヴィル・マリナーの指揮とN響の演奏で行われたコンサートから、モーツァルトの作品を2曲、交響曲第32番ト長調K.318およびピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467が演奏されている。これは最新のBDにこの音楽祭の5つのコンサートを収録したものであり、このNHK音楽祭のコンサートが、毎年必ず、NHKホールで行われるので、各オーケストラの音色の違いを比較出来るものと、毎年楽しみにしながら、HV5.1chで収録している。今回の音楽祭のテーマは、「華麗なるピアニストたち5人の競演」であり、このコンサートのピアニストはシプリアン・カツアリスで、モーツァルトの協奏曲の代表であった。彼はこのHP初登場であるが、他のピアニストが手を出さない作曲や編曲を自ら行い、即興演奏も得意にしているので、今回はどんな演奏をするか楽しみであった。


          ネヴィル・マリナー(1924〜)が元気良く登場して、威勢よく指揮台にたち第一主題をトウッテイで激しく開始したが、とても90歳に近い方とは思われぬ元気な姿に驚いた。第一曲目は、交響曲第32番ト長調K.318であり、三つの楽章が続けて演奏される序曲風の曲である。しかし楽器構成はフルート2、ホルン4、トランペット2にテインパニーと充実しており、マリナーは4台のコントラバスを配した標準編成のスタイルで演奏していた。荒々しい第一主題がフォルテで始まり、勢いよく繰り返されるように進んでから、チッチッチッチと軽快な特徴ある第二主題が弦で開始されひとしきり演奏されていたが、マリナーは全てを心得ているような風格ある落ち着いた仕草でタクトを振っていた。続けて第三の主題が現れて激しい盛り上がりを見せてその頂点に達すると、フェルマータに続いて突然にアンダンテの楽章に入り、早速、第一主題が第一ヴァイオリンと時に顔を出すフルートで歌うように現れ、続いて第二主題がオーボエとホルンの重奏の形で現れていた。これらの主題がゆっくりと繰り返されたところで、再び突然に、第三楽章のアレグロに突入して驚かされた。フォルテとピアノの交替する激しいトレモロの経過部を経て、第一楽章の第二主題が明るく現れてひとしきり進んでから、曲は直ぐにまとめに入り、冒頭主題が飛び出してコーダになり、全体が力強く終結していた。


            この曲は急緩急の三つの部分で出来ていたが、それぞれが楽章として独立せず、最初のアレグロでは二つの主題が提示され、展開部が終わったところでアンダンテに入っていた。また、ここでも二つの主題が提示されてから、急にアレグロに移行し、最初のアレグロで使われた主題によりフィナーレをまとめるという、全体が一つのソナタ形式の曲のように構成されていた。「パリ」交響曲を作曲し、楽器編成に変化が生じてきたと同様に、これまで作曲されていたいわゆる三部構成の序曲とは異なって来ているのは、パリ旅行以降に現れた作風上の変化によるものと考えられよう。
   マリナーは淡々とした老練な手慣れた指揮振りで全体を支配しており、お年に似合わぬしっかりした指揮振りを見せて、いつも重々しいN響が軽快なテンポで軽やかな響きで演奏していたのは、間違いなくこの指揮者の影響であろうと思われた。

   第二曲目はピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467であり、ここでシプリアン・カツアリスが登場して来た。この人は多才な人でCDはいろいろあるが、モーツアルトは殆どない中で、「モーツァルティアーナ」という好きな人でなければと思われるCDがあり、とても印象に残っていた。これは1992年の若い頃の録音であり、モーツァルトイヤーに触発された彼自身の記録のようであり、いろいろな作曲家や演奏家のオペラのアリアなどの珍しい変奏曲などを、自在に綺麗な音で弾いたほか、彼自身の編曲した曲も残されていた。しかし、映像では、今回がこのHPで初登場であり、オーソドックスなマリナーの指揮に対して、どう言う風にピアノを弾くかが楽しみであった。また当初から、この自作のカデンツアがない協奏曲のカデンツアをどうするかとか、アンコールで何を弾くかなど、彼の存在感を示しそうな個性的な芸人としての別の興味もあった。



    この曲の大規模な楽器編成やピアノとオーケストラとの一体化による交響的な響きは、前作のニ短調K.466と共通しているが、特に第一楽章は協奏的ソナタ形式を取るものの行進曲風の最初の4小節の基本モチーフが極めて重要であり、全楽章を支配している。その弦のユニゾンで始まる行進曲風の第一主題が明るくリズミックに始まって弦と管の応答が続いてからトウッテイによる経過部がリズミックに進行していたが、マリナーはこの部分のトランペットとテインパニーが刻むリズムに注意を払いながら堂々と進めていた。途中からオーボエやフルートが明るい響きを見せる副主題が登場して、終始明るい響きの中でトウッテイで行進曲の第一主題が堂々と進行していた。







           そしてオーボエとファゴットとフルートに導かれるように独奏ピアノが短いアインガングにより明るく登場し、4小節の長いトリルを続けると同時に、オーケストラによる第一主題が始まった。この4小節以降をカツアリスの独奏ピアノが力強くオーケストラを引き継いで、華やかなパッセージで威勢よく進行していたが、カツアリスは珍しくヤマハ・ピアノを弾いており、かなりマイペースの弾き方であった。やがて独奏ピアノがト短調交響曲の冒頭を思わせる副主題を静かに語るように弾きだして印象づけてから、軽快で明るい第二主題が独奏ピアノで歌うように柔らかに現れた。そしてニュアンス良く繰り返されてから、ピアノがオーケストラと競い合うように素晴らしいパッセージを見せながら急速に進行し、次第に高揚しながらオーケストラとともに冒頭の4小節の主題で提示部を締めくくる盛り上がりを見せていた。

           続く展開部では独奏ピアノの出番となって、第一主題の変形か長いソロのパッセージが続き、次第に独奏ピアノが高揚し、まさに絢爛たるピアノの技巧が示されていたが、カツアリスはオーケストラにしっかりと向き合って、負けじとばかりに大胆に力強くピアノを弾きこなしていた。再現部では提示部とは主題の順序が異なっており、オーケストラで第一主題が呈示された後、独奏ピアノがこれを引き継いでから、直ぐに第二主題がピアノで非常に印象深く再現されたり、後半で第一主題のトッテイによる提示の後オーボエやフルートが明るい響きを見せる印象深い副主題が現れたりしていた。最後のカデンツアでは、カツアリスは準備よく譜面を用意していたようであったが、勢いよくカデンツアに入った後に、ピアノでしか現れないト短調交響曲の冒頭に似たフレーズを丁寧に弾いてから第二主題を中心にお気に入りのパッセージを流暢に弾き流し、第一主題に力強く戻る独自なものを弾いていた。





               第二楽章は弦楽合奏で始まる美しい静かなアンダンテ楽章で、三部リート形式か。映画のテーマミュージックになった美しいメロデイが、低弦のピッチカートと第二ヴァイオリンとヴィオラの三連符による豊かな伴奏に乗って、第一ヴァイオリンによって流れ出し、その甘い調べにはつい引き込まれてしまう独自の美しさがある。やがて木管も相槌を打つように加わって、静かな美しいオーケストラの世界を築き上げてから、独奏ピアノが自ら左手で三連符を弾きながら登場し、弦楽合奏のゆっくりしたピッチカートによる豊かな伴奏に乗って右手でこの主題を明快に弾きだした。カツアリスは一音一音を明確に区切るように丁寧に弾いており、ひとしきり美しく歌ってから華やかなトリルにより終結していた。独奏ピアノは中間部に入っても続き、新しい主題がピアノによって示されるが、この中間部のピアノがなんと美しいことか。右手と左手が交差するように進んだり、第一ヴァイオリンと掛け合いながらゆっくりと進んだり、カツアリスはここでも一音一音ゆっくりと確かめるように丁寧に弾いていた。ここでのピアノとオーケストラで交わす対話は何とも夢見るような美しさがあり、実に優雅なアンダンテが続いていた。再び冒頭の静かな主題に戻って、ここでは始めから独奏ピアノとオーケストラで始められ、ピアノは幾分変奏されて進行するが、カツアリスはごく自然な形で装飾を交えて弾いていた。カデンツアはなく、落ち着いた爽やかな感じで、ひっそりと静かに終息していた。





            第三楽章は、アレグロ・ヴィヴァーチェ・アッサイの華やかな主題で始まる展開部を欠いたソナタ形式。オーケストラでロンド主題に似たな明るく軽やかな第一主題がトウッテイで始まり繰り返されてから、弦と木管の交換があってフェルマータの後に、独奏ピアノが短いアインガングで登場し、独奏ピアノがこのロンド風な主題を軽快に弾きだした。再びオーケストラに主題を渡してから、独奏ピアノによる流れるような16分音符の副主題が走り出し、カツアリスはオーケストラに合わせて勢いよく軽快にパッセージを弾き進めていた。オーボエに続いてフルートも加わった木管合奏で示された第二主題が提示されると直ぐにピアノに引き継がれ、再び16分音符のピアノの走句が続いて、快調なピアノのペースとなり、オーケストラと対話したり従えながら進行していた。再びフェルマータの後に再現部に突入して、独奏ピアノがロンド風な冒頭主題を弾き出すが、今度は順序を変えてソロ、トウッテイの順で第一主題が再現されていた。再び独奏ピアノが走り出し、第一主題・第二主題と独奏ピアノが鍵盤上を走り回るように駆けめぐって頂点に達し一気にカデンツアとなっていた。カツアリスのカデンツアは、非常に簡潔で短く、回想風のものをあっさりと弾きなぐり、最後はオーケストラに加えて輝くようなピアノの音階の上昇で華やかにこのフィナーレを終結していた。






  凄い拍手と声も出て、会場は拍手で騒然としていたが、カツアリスは一度舞台を下がってから再び顔を出し、頻りにマリナーを讃えて手を携えて二人で丁寧に挨拶をし、二人でゆっくりと退場していた.。拍手は鳴り止まず、暫くしてカツアリスが一人で登場して来た。そして拍手に答えながら、即興演奏をしたいという。そしてピアノの前に座ってから、10本の指では済まないような沢山の華麗な音がピアノから飛び出して驚いているうちに「ホフマン物語」の美しいバルカローレが沢山の音に混じって弾かれていた。そしてこの曲が一段落してから、「さくら、さくら」のメロデイがどことなく聞こえ始め、次第に変奏曲のように弾かれだしてから静かに美しく収束していた。自作自演の自然に弾かれた即興曲であり、終わるとまたひとしきり凄い拍手で包まれて、このコンサートの前半を終えて休憩となっていた。

  コンサートの後半はブラームスの交響曲第一番ハ短調作品68であり、このマリナーとN響との演奏がこの日のメイン・プログラムになっていた。マリナーはブラームスの交響曲のシリーズを得意にしているようであり、この音楽祭でも前に演奏したことがあったような気がした。ゆったりとしたテンポで、コントラバス8台に増したフルスケールのN響を十分に力強く響かせる演奏であり、とても親しみやすい演奏のように思えた。厳かに始まる力強い第一楽章、親しみやすい主題が綿々と続く第二楽章、息抜き出来る様な典雅な第三楽章に続いて、フィナーレの序奏に続く雄大な楽想はとても心に響き、久しぶりで大音量で交響曲の力強い響きを味わった。こうしてNHKホールにおけるN響の演奏を聴くと、今回来日したベルリン放送交響楽団や、ローマ・チェチーリア管弦楽団、パリ管弦楽団など著名な海外オーケストラとは響きの上で力負けすることなく、堂々とした演奏を聴かせていた。

  今回はマリナー指揮によるN響で、交響曲第32番の序曲風なシンフォニーと、シプリアン・カツアリスのピアノでモーツァルトのピアノ協奏曲のライブ演奏を久しぶりで楽しく味わった。最近はこうしたモーツァルトのライブ演奏が、非常に少なくなって、これからどうなるか心配している。このNHK音楽祭では、以前にはアーノンクールの「レクイエム」を収録したことがあるが、重量級の音楽が少ないため、モーツァルトは、どうしてもメインプログラムになりきれないのが誠に残念である。
   作文を終えてから、先に紹介したカツアリスのCDを聴いてみた。このCDは実にピアノの高音部が美しく響き、原曲はモーツァルトなのであるがこの音はまさにカツアリスの音だと思わせるように聞こえる面白いCDであった。このCDの最後に彼が作曲した「モーツァルティアーナ(1991)」と言う曲があり、この後半に、偶然ではあろうが、このピアノ協奏曲K.467の第二楽章のアンダンテをイメージさせる部分が出てきた。この美しい主題をロマン派風にアレンジして、自分の主題と対位法的に組み合わせているように聞こえていた。恐らく、この第二楽章の主題は、まさに彼の心にいつもあり、モーツァルトを偲びながら作曲した時に、自然に忍び込ませてしまったかけがえのない曲なのであろうと考えてしまった。

(以上)(2012/06/05)


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