(懐かしいS-VHSより;バレンボイムとアシュケナージの競演:レハーサルとステージ(1966))
12-11-4、バレンボイムとアシュケナージとイギリス室内管弦楽団による2台のピアノのための協奏曲変ホ長調K.365(316a)−ダブル・コンチェルトのリハーサルとステージ−、1966、フェアフィールド・ホール、イギリス、

−若きバレンボイムとアシュケナージが、初めて出会って、2台のピアノ協奏曲をレハーサルし、本格的に本番を弾いた珍しいドキュメンタリー風な映像であった。二人のオーケストラを挟まないピアノの音合わせは真剣であり、火花が出るような様子が写し出されていた。本番の演奏は、このレハーサルによって緻密に練り上げられ、二人の息の合ったピアノの競演は素晴らしく、完成度の高い演奏に仕上げられていた−

(バレンボイムとアシュケナージの競演:レハーサルとステージ(1966))
12-11-4、バレンボイムとアシュケナージとイギリス室内管弦楽団による2台のピアノのための協奏曲変ホ長調K.365(316a)−ダブル・コンチェルトのリハーサルとステージ−、1966、フェアフィールド・ホール、イギリス、
(1998/02/18、クラシカジャパンによる放送をS-VHS-270.3に収録)

 私の好きな二台と三台のためのピアノ協奏曲のまとめを考えていたときに、若いバレンボイムとアシュケナージがもの凄いエネルギーで2台のピアノのための協奏曲変ホ長調K.365(316a)の音合わせを行い、オーケストラと熱心にリハーサルをやって、本格的に本番を行い、そして酒場のようなところであつい議論をしていた昔の古い映像を思い出し、まとめを考える前にアップロードしておこうと思いついた。これぞこのHPに相応しい若い天才たちの隠されたドキュメンタリーを含む古くて珍しい映像であろうと思ったからである。



  この映像は、1966年3月12日(土)に若いバレンボイムとアシュケナージの二人が、2台のピアノのための協奏曲変ホ長調K.365(316a)を弾き終わって、興奮してVery Good!と口々に言いながら、舞台裏に肩を抱き合って引き上げて来る様子で、ドキュメンタリー風に始まった。映像では続いて直ちに二台の協奏曲の第一楽章がバレンボイムの指揮で颯爽と始まっていた。この映像の立役者はイギリス室内管弦楽団のマネージャーのウルスラ・ストレビ女史が企画し、BBCサウンドが収録を提案したものだった。  彼女は前年からバレンボイムと始めたイギリスCOとのピアノ協奏曲演奏シリーズが成功をし始めて、録音もしようと言う良い時期にあった。折しも1962年のチャイコフスキー・コンクールの優勝者のアシュケナージがイギリスで家庭を持ち活動を始めた時期であり、彼女はバレンボイムに2台・3台の協奏曲の協演をバレンボイムに持ちかけ快諾を得ていた。忙しい二人が本番の二日前に現地に到着し、その日に2台のピアノで二人だけで入念なレハーサルをし、翌日にオケ合わせを行うという過密なスケジュールであり、映像は二人が到着するところから開始されていた。この二人の協演はかねて注目されていたので、「ダブル・コンチェルト」と題してレハーサル風景から収録の対象となっていた。映像ではこの若い天才たちの経歴紹介がもの凄かったので、ここで簡単に触れておこう。



 ダニエル・バレンボイム(1942〜)は、23歳の若さで16年のキャリアがあるという。ブエノスアイレス生まれで両親からピアノを学び、7歳でピアニストとしてデビューし、1952年にヨーロッパに移住した。彼の成熟振りには驚くべきものがあり、ザルツブルグでエドウイン・フィッシャーに学び、マルケヴィッチに指揮法を学び、フルトヴェングラーにより才能を評価されている。13歳で聖チェチーリア音楽院の学位を取得、この年にイギリスデビューを行い、クリップス指揮ロイヤルフイルとモーツァルトのピアノ協奏曲を弾いた。60年イスラエルでベートーヴェンの「ピアノソナタ」全曲演奏会、63年にドイツデビューをし、イギリスでイギリス室内管弦楽団を振る様になっていた。デュ・プレに出会う前の出来事で、彼はイスラエルに拠点を置き、トランクを抱えて世界中を演奏旅行していたという。従って、バレンボイムは、幼年から楽才を評価されて上り詰めた人であり、いわゆる、コンクール上がりのピアニストではない。



 ウラデイミール・アシュケナージ(1937〜)も同様に年少より才能を示していたが、バレンボイムとは反対にコンクールを目指して努力し、その勝利者であったと言えよう。55年17歳でショパン国際コンクールで2位となり、56年のエリーザベト王妃国際コンクールで優勝し、62年にチャイコフスキー・国際コンクールで優勝するという輝かしい成績を残している。そして63年にはイギリスのロンドン郊外に、モスクワ音楽院在学中の61年に結婚したピアニストのソーロン夫人と居住し、西側社会で活動するようになり、次第に広く活動範囲を拡大することなった。



 二人はリハーサルのため本番の二日前に到着し、二人きりでリハーサルを開始していたが、第一ピアノをアシュケナージが、第二ピアノをバレンボイムが担当し、冒頭から熱心に議論しながら音合わせを開始した。その意欲的な生の姿が映像に収録されており、レハーサル終了後、バレンボイムは次のように語っていた。
 「二日前に到着したのは、オーケストラなしでじっくり練習するためだ。セクションごとのリハーサルやパート練習は効果的だと思う。その方が中身の濃い練習ができ、音の効果を計算できるからだ。音符の捉え方、音の運び方、フレーズ作りなどを細かく打ち合わせておくと、ようやく心が落ち着き自由になって、本番で自己を解放し、演奏に打ち込むことが出来る。基本的なことはこのリハーサルの段階で、音を計算して練っておくんだ。これが音作りだよ。」



翌日3月11日には、オーケストラとの初の音合わせが行われた。「リハーサルは本番の準備運動だ。」 とバレンボイムは指揮をしながらオーケストラに次々に指示をしていた。「長すぎる」、「自由に」、「アクセント」、「フォルテはもっと軽く」など要所要所を注意していた。ピアノのアシュケナージは「この楽団は室内楽になれているから要所だけ指揮をすれば良い」と語っていた。バレンボイムは「この楽団は室内楽団の良さを生かした手頃な編成なので小回りがきくし、ここぞと言う時には大編成並みのパワーを出す。それに今時珍しいほど仲間の音を良く聞く。弦楽四重奏の拡大版のような楽団だ。理想的だね。」と語っていた。コンサートマスターは「小さな楽団で全員が室内楽をやるので指揮者がいないことに慣れています。人の音を良く聞いて弾くことが出来る。だからバレンボイムのような自ら演奏する指揮者とは相性が良い。」と語り、最後に「二人の名人が互いに才能を認め合って協演することは素晴らしいことだ」と語っていた。



3月10日は二人の共通の友人フー・ツオンの誕生日、コンサートの前夜に、ストレビ女史とアシュケナージの奥さんが加わってパーテイが開かれていた。話題の中心は、この協奏曲であり、一同ロンドンでの再会を祝って乾杯がなされていた。ピアニスト3人は、後日、三台の協奏曲をこの三人で演奏し録音していた。

本番のコンサートでは、最初にバレンボイムの指揮でザルツブルグで作曲された交響曲第29番イ長調K.201が演奏され、映像ではフィナーレの後半が最後まで演奏されて、大きな拍手を浴びていた。舞台裏ではアシュケナージがモニター画面を見ており、良い出来だと呟いていた。バレンボイムが拍手に応えるため何回か出入りしていたが、協奏曲の出番になって、最後に「お辞儀は一回だけだぞ」と互いに念を押して、二人は楽屋から舞台へと登場して大きな拍手を浴び、それぞれの席に着いていた。



このピアノ協奏曲は、第一楽章がオーケストラでフォルテで勢いよく始まるが、バレンボイムは早めのテンポできざむように軽やかに開始していた。そして新しいスタッカートの伸びやかな副主題が次々と登場して華やかに盛り上がりを見せて、簡潔なに生きの良いオーケストラの提示部となっていた。オーケストラは、コントラバスが2台であり、ホルン2、オーボエ2、ファゴット2の布陣のオーケストラであった。
               やがて2台のピアノが息の長いトリルで登場し、第一主題の冒頭を力強く二人で合奏してから、アシュケナージの第一ピアノが主題後半部を軽快に弾きだし、続いてバレンボイムの第二ピアノがこれを模倣するように軽やかに弾き出していた。それから二人は交互に新しい副主題を元気よく弾き始め、早い16分音符の美しいパッセージも加わって競演するようになっていたが、この辺りは互いに息のあったピアノを見せており、レハーサルでも十分に弾き合わせていたところであった。続いて美しい第二主題を第一ピアノが弾き出し、ピッチカートの美しい伴奏も加わってトリルを弾き出すと、第二ピアノも加わって、二つのピアノは重なるように進行していた。そして互いに速いパッセージを模倣し合うようにして目まぐるしく進み、いつの間にかオーケストラも加わって提示部の力強い終結の盛り上がりを示していた。



            展開部では最初の副主題を第一ピアノが力強く弾き始め、続いて第二ピアノが弾き始め、二台のピアノが互いに交替しながら弾むように力強く進行し、ピッチカートも加わって堂々と進んでいた。二台のピアノはダイナミックな迫力に満ち、対話風に力強く進行し、長大で充実した展開部を作り上げていた。
             再現部では第ニピアノから始まり、第一ピアノが続いて提示部とは入れ替わって弾かれていたが、第一主題の再現は前よりも簡潔に行われ、むしろ美しい第二主題の再現を丁寧に行っており、オーケストラも加わって二台のピアノが、互いに競い合い、火花を散らすような美しい場面も見せていた。最後のカデンツアでは、二台のピアノによるトリルの合奏で始まって、二台のピアノが交互に競い合うように進む派手な新全集にある自作のものを弾いていた。リハーサルでも音合わせをしていたが、二人の息が良く合っており、最後の一小節で低音から高音まで二台のピアノが連続して64分音符のパッセージを弾き上げる様子も自然体でピタリと合い息のあったピアノが示されていた。





             第二楽章は中間部に短調のエピソードを挟んだA-B-A'の三部形式のアンダンテである。初めに弦楽合奏が優美な主題を奏でるが、悲しげなオーボエの伴奏が初めから続いてファゴットに引き継がれた後に、第一ピアノがトリルで伴奏している間に、第二ピアノがこの主題をゆっくりと弾き始めていた。続いて二台のピアノにより装飾されながら対和風に、そして、並行的にゆっくりと進められるが、二つのピアノのパッセージが実に美しい。特に後半に二つのピアノのスタッカートによる玉を転がすような部分があって、これにオーボエと二台のピアノが一体になって息を飲むように弾かれる場面は、実に美しい。オーケストラで始まる中間部では、二台のピアノのそれぞれにオーボエの悲しげなソロが加わって、素朴な響きのする味わいのある面白いエピソードとなっていた。第三部では第一部よりも前半は縮小されていたが、後半の自由な展開の部分はむしろ拡大されており、二人の息の合ったピアノが良く揃ってとても美しく、ここでもオーボエの伴奏が魅力的であった。二人のピアノは、オーボエに合わせて実に細やかに良く揃って弾かれており、この楽章の美しさを高めていたように思われた。





              フィナーレは二つのエピソードを持つ明るいロンド形式であり、ピアノの活躍が著しい楽章であった。速いテンポの活気のあるロンド主題がまずオーケストラで軽やかに提示され、フォルテで元気よく繰り返されてフェルマータの後、第一ピアノが新しい主題をテンポ良く弾きだし、続いて第二ピアノが追いかけるようにオクターブ下で登場してきた。それからは、早いテンポでオーケストラと二つのソロピアノが三つ巴の競演をし張り合うようにドンドンと進んでいた。第一のエピソードでは、付点のリズムの行進曲風な感じでオーケストラと二台のピアノが絡みあっており、ごく自然にピアノソロからロンド主題に戻っていた。第二のエピソードではトレモロ音形と三連符の旋律が二台のピアノでパートを変えながら絡みあって進み、二人が弾き進む熱のこもるった競演が快く響いて、再びピアノソロでロンド主題に戻っていた。コーダの後の最後のカデンツアもモーツァルトのものが弾かれ、ロンド主題の変奏に始まり、後半は二人のダイナミックな合奏が展開されていた。この楽章は、軽快で力強い、規模の大きい技巧的な楽章で、バレンボイムの指揮が生き生きとしており、テンポ良く終結していた。







この白黒の古い映像は、当時は二人の新進ピアニストに過ぎなかったが、今ではピアニストをも兼務する偉大なマエストロとして評価されており、この二人にはピアニストとしてなすべきことを終えて、もっと音楽へのなすべき道を求めて指揮をすることを選んだものと思われる。最近、グレン・グールドの映像を沢山見る機会があったが、グールドもコンサート・ピアニストとして音楽することに限界を感じ、もっと自分の力を発揮できる音楽の仕方を求めていた。才能のある人は、自分の目標を達成してしまってもそれに満足できず、別の目標を立ててそれに邁進してしまうものだと、この二人を見て思った。この映像を見て、この二人は若い時から、やはり指揮をすることに強い関心を持っていたことを感じさせる。

   この二人のパート練習は、譜面を見ずにいきなり冒頭の三度違うトレモロの合奏から開始されていたが、二人とも譜面は頭に入り表現だけが問題のようだった。バレンボイムが言うように、音符の捉え方、音の運び方、フレーズ作りなどを合わせており、お互いに指摘されて気がつく無意識な癖なども修正されていた。「これはやめよう」とか「こっちの方が良い」とか細かな工夫があり、音の効果を確認していた。名人たちがリハーサルの段階で、こういう基本的な打ち合わせをしておくと、本番ではまさに「鬼に金棒」で、完ぺきに近い自己表現ができ、火花の出るようなぶつかり合いがあり、新たな感動がそこに生まれるのであろう。このようなレハーサルは、初めて目にしたもので、素人にはとても参考になった。

本番でこのレハーサルの効果がいかに現れるかが楽しみであったが、第一楽章では愛らしい第二主題が第一・第二ピアノの順に現れて、早いパッセージを重ねていく辺りで二人のピアノが実に一体になって聞こえ素晴らしい効果を挙げていたし、レハーサルではなかったが、展開部では二台のピアノがそれぞれ力強く弾かれて対話風に進んでおり、あらかじめ入念な練習がなければ、このような息の合ったような弾き方は難しいものと思われた。さらに、第二楽章の二つのピアノとオーボエによるアンサンブルの良さは格別であったし、フィナーレのキビキビとしたテンポの軽快で颯爽としたアレグロでは、二人の若さが漲っており、二人の伸び盛りの勢いの良さが現れていると感じさせられた。

   今回のレハーサル付きの二台のピアノのための協奏曲のアップロードは7組目であったが、古い白黒の映像であったが、素晴らしく息の合った若い名人たちのコンサートを収録することが出来た。恐らく、全てのコレクションの中では、最も完成度の高い演奏であろうと考えている。
   残された未アップの1曲は、1995年の新春のNHKの番組で、若い芽のコンサート」と称する演奏会で、花房晴美さんと海老彰子さんが出演して第二・第三楽章を演奏したものであった。この演奏は、現在の日本を代表する演奏者たちの特別な映像として、別途、楽しみながら紹介したいと考えている。

(以上)(2012/11/07)


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