(最新DVD紹介:ミュンシュの「リンツ」K.425と「プラハ」交響曲K.504など)
12-11-1、シャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団による交響曲第36番ハ長調K.425「リンツ」(1958)と交響曲第38番ニ長調K.504「プラハ」(1959)、サンダース劇場、ハーヴァード大学、ボストン、

−シャルル・ミュンシュのモーツァルトの交響曲は、スマートな感じで格調が高く、独自の境地を歩んでいるように聞こえていた。今回収録された2曲は、いずれも彼の持ち味が発揮できるお得意のものであったに相違なく、ソナタ形式では繰り返しを省略する当時の伝統的な指揮法であったが、リンツ交響曲では軽快で爽やかな指揮振りを示し、一方のプラハ交響曲ではやや重々しい重厚な指揮振りで、両曲の特徴を表しているように思われた−

(最新DVD紹介:ミュンシュの「リンツ」K.425と「プラハ」交響曲K.504など)
12-11-1、シャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団による交響曲第36番ハ長調K.425「リンツ」(1958)と交響曲第38番ニ長調K.504「プラハ」(1959)、サンダース劇場、ハーヴァード大学、ボストン、
(2012/03/05新宿タワーレコード、ICA-Classics、DVD-ICAD 5057)

  ここ数回の交響曲のソフト紹介については、偉大なマエストロたちの名演奏が続いているが、今月号はフランスのシャルル・ミュンシュ(1891〜1968)指揮による交響曲第36番ハ長調「リンツ」K.425(1958)と交響曲第38番ニ長調「プラハ」(1959)であり、ボストン交響楽団による古いテレビ放送シリーズの一環の映像である。このDVDには、他にヘンデルの「水上の音楽」が収録されているが、3曲ともハーヴァード大学のサンダース劇場という会場で収録されている。しかし、それぞれ収録日が全て異なっており、別々のコンサートとして演奏されたものを編集したDVDのようである。ミュンシュはクーセヴィッキーの後任としてボストン交響楽団の常任指揮者として1949年に就任して以来1962年までを務め、この間にこのオーケストラの新たな隆盛期を迎えたとされている。小澤征爾は1973年から2003年までこの交響楽団の音楽監督を務めていた。



この二つの交響曲を同時に取り上げる際に、2006年5月14日の第249回フェライン例会で「リンツ交響曲vsプラハ交響曲−時間的制約と作曲手法の違いとの関係について−」と題して講演して下さった江端信昭先生(作曲家・バッハ研究家)のお話を、私は忘れることが出来ない。調べてみると当時のフェラインの事務局レター(06年6月号)には、別添のように講演概要が書かれており、これは私がメモを頼りに書いた記録であったからである。この二つの交響曲の第一楽章は、序奏を伴ったソナタ形式で書かれており、提示部、展開部、再現部のうち展開部を除くとほぼ同じ規模で書かれており、見かけ上はほぼ同じように思われるが、作曲の動機や内容がこれほど異なる曲はないというお話であった。それを明らかにするためには、曲の内容を構造的に調べて主題やフレーズなどの 成り立ちをチェックしていく必要があり、先生はそれを分かりやすくご説明して下さった訳であるが、私はそれ以来、このソフト紹介においても、新全集の譜面を見て構造的に理解しながら曲を聴く習慣が少しづつ身についてきたような気がする。



ボストン交響楽団の舞台上の楽器編成を見渡すと、大勢の弦楽奏者に加えて、左手奥にコントラバスが4台も並んでおり、2トランペットとテインパニーが加わって、フルサイズの大編成の楽団に見えた。シャルル・ミュンシュが拍手で登場して指揮台に上がると、交響曲第36番ハ長調K.425「リンツ」のタイトルが映像に現れて、早速、演奏が開始された。
     第一楽章は冒頭の序奏が、ユニゾンの荘重な付点リズムを持ったアダージョで堂々と開始され、続いてヴァイオリンが美しい旋律を奏でてファゴットとオーボエが引き継いで進行するが、ミュンシュは実にゆっくりしたテンポで進めてから、重い響きで序奏を収束させていた。一転して、軽快なアレグロ・スピリトーソの第一主題が明るく晴れやかに開始されるが、序奏と対比すると、この晴朗な主題が走り出すときの効果は実に著しい。続いて現れる行進曲風のリズムにのってぐいぐいと軽快に高まりを見せながら進行し、テインパニーやトランペットの響きも聞こえ、ミュンシュはこの主題を軽快そのものに伸びやかに進めていた。続いて優雅な第二主題がオーボエと弦楽器により走り出すが、この後は溢れるばかりの旋律美で次々と流れるように進行し、主題提示部の盛り上がりを見せていた。ミュンシュは、続けて展開部へと突入していたが、ここでは新しい明るい主題が弦楽器で登場しオーボエなどにより交互に現れながら堂々と進んで、力強い充実した音を響かせており、比較的長い展開部となっていた。続く再現部では、やや型どおりに第一主題に続き第二主題と軽快に再現されていたが、ミュンシュはテンポ良くリズミカルに全体を進めていた。最後のコーダでは展開部の主題が再現されるなど新たな試みが見られ、ザルツブルグ時代のシンフォニーよりも充実した構成になっていた。





      第二楽章では、優美で荘重感を持った第一主題が厳かにゆっくりと登場し, 豊かな気持ちにさせてくれるアンダンテであった。ミュンシュは余り大きな身振りをせずにオーケストラに預けるようにゆったりした優雅な指揮ぶりをしており、美しい弦の響きが心地よく進行していた。続いて現れる第二主題でも弦楽器主体で厳かに進行していたが、アンダンテ楽章で耳に入るトランペットやテインパニーの響きが珍しく、全体に音の厚みが加わっていた。展開部では低弦とファゴットで繰り返し現れる上昇旋律が深く響き、それが第一・第二ヴァイオリンにも移行して、極めて充実した印象をもたらしていた。再現部は型通り進行していたが、優美で厳かな雰囲気は持続されたアンダンテ楽章であった。

       第三楽章は、フォルテで始まる明るく堂々とした感じのメヌエットであり、金管やテインパニーが威勢良く、繰り返された後にその後半に現れる明るい旋律が、厳かに響きわたって舞曲的な性格のメヌエットであった。ミュンシュはさすがに体を振ってリズムを取りながら指揮をしていたが、その姿には年相応のものを感じさせた。トリオでは第一ヴァイオリンとややくすんだオーボエとの二重奏で印象深く始まり、後半では弦に支えられてオーボエとファゴットの二重奏となり、明るく木管が導いていく優雅なもので、堂々としたメヌエットとの対比が鮮明な素晴らしい楽章であった。





      フィナーレは曲全体を締めくくる急速なプレストであり、繰り返しを含むソナタ形式となっていた。曲は整然とした快活な第一主題と、それに密接に関連する第二主題が現れ、続いて次々と新しい関連主題が出て急速に進み、目まぐるしく変化しながら一気に進行しており、盛大に提示部を盛り上げていた。ミュンシュはきめ細かく指揮棒を振り、明るくスピード感を持って軽快に躍動するように進み、オーケストラ全体が息の合った疾走ぶりを示していた。繰り返しは省略されて、長い展開部も推移主題が使われて急速に進行し、再現部に入っても、その勢いは止まらず、終結部ではトランペットとテインパニーによる総奏のフォルテッシモで輝かしく終結していた。
       このオーケストラ全体が一体となって躍動していくエネルギッシュなスピード感は、初期のシンフォニーのアレグロ感覚よりも充実したもっと複雑なもので、後期の作品になって初めて現れるような気がした。映像を見ていると、指揮者ミュンシュを中心にしてオーケストラ全員が一体となって瑞々しい躍動感溢れる音楽を作り上げていく様は壮観であり、古い映像ではあるが実に見応えがあった。






    ミュンシュの映像の第二曲目は、交響曲第38番ニ長調K.504「プラハ」であった。プラーハ交響曲の第一楽章は、ゆっくりとしたリズムのユニゾンで進む伸びやかな序奏で華やかに始まるが、ミュンシュの指揮は非常にゆっくりしたテンポで柔らかく進み、第一ヴァイオリンが明るく輝きを見せてから、この序奏がテインパニーを伴って重々しいユニゾンとなり、力強く行進曲風な上昇音形によってリズミックに進行し、次第に緊張と高まりを増しながら頂点に到達していた。この力感溢れる充実した伝統的奏法の序奏部から一転して、アレグロの第一主題がシンコペーションで第一ヴァイオリンによる颯爽とした動機1が走り出した。そして新しい動機2がフルートとオーボエに現れて、動機1と対位法的に進行し、続いて新しい動機4が第一ヴァイオリンに現れ、これら三つの動機が形を変え楽器を変えて変化しながら力強く対位法的に進行し、駆り立てるような主題も加わって、全体が躍動するように軽快に進んでいた。やがて小さい孤を何度も描くようなブッフォ的な軽やかな第二主題が提示されて、ファゴットやオーボエとの対話を深めつつ発展し、後半には軽快なトウッテイとなって盛り上がり素晴らしい主題提示部を示していた。ミュンシュはここでそのまま展開部へと突入し、ここでも第一主題の主要動機が次々と対位法的な展開や変化を繰り返しつつ進行し、長大で充実した力溢れる展開部となっていた。再現部では第一・第二主題の再現後にも提示部と異なって、活発な第一主題の動機が重なって盛り上がりを見せて力強いコーダで終息した。ミュンシュは、古い指揮者に共通する全ての繰り返しを省略した伝統的な奏法で簡潔な指揮ぶりを見せており、リンツと同様にコントラバス4本の大規模なオーケストラで、充実した響きを見せていた。



       第二楽章はアンダンテ楽章であり、弦五部によるゆっくりしたテンポで第一主題が静かに歌い出され、それから明瞭なスタッカート動機が続いて繊細でやや激しい経過部を経て進んでいた。やがて第二主題が弦五部によりこれを慰めるように提示されるが、続いてオーボエやフルートがこれに応えるかのように歌い出し、穏やかに美しく進行して提示部を終えていた。ミュンシュは、そのまま、直ちに展開部に移行し、ここでは第一主題のスタッカートの動機がカノン風に現れ複雑に展開されていたが、これが実に力強く印象的な展開部であった。再現部はほぼ型通りに進行していたが、ミュンシュは常に堂々と進行させ、穏やかなアンダンテで終息していた。



       フィナーレでは、譜面を見ると主題提示部の後に繰り返し記号があり、明確にソナタ形式で書かれているが、ミュンシュはこの繰り返しを省略して、全体をロンド形式のように演奏していた。冒頭の明るい主題が「フィガロ」の第二幕のスザンナとケルビーノの二重唱の旋律にとても良く似ており、ロンド主題のような形で軽快に小刻みに進行していた。ここでは弦五部の主題提示に対してオーボエ・フルート・ファゴットの三重奏が応える形で軽快に進行していた。続いて第一のエピソードでは、弦五部の主題提示に対しオーボエ・フルート・ファゴットの三重奏が応える対話がしばらく続いて、特にフルートが目覚ましい活躍をして提示部を終えていた。展開部に相当する第二のエピソードでは、第一主題の冒頭部分が弦と管により繰り返して何回も現れる力強いものであったが、ミュンシュは丁寧に力を入れて繰り返しを行っていた。フィナーレの軽快な進行の最後にはロンド主題で力強い終わり方で曲は結ばれており、三楽章で収束しても何も問題がない終わり方であった。もの凄い拍手で演奏は終了していたが、ミュンシュは何回も舞台に呼び出されたかのような余韻を残しつつ映像は終了していた。

      シャルル・ミュンシュは、昔から独仏係争の地であるアルザスのストラスブルグで生まれたせいか、フランス音楽にもドイツ音楽にも同じレベルで対応できたと言われているが、彼のモーツァルトの交響曲は、スマートな感じで格調が高く、独自の境地を歩んでいるように聞こえていた。ここに収められている2曲は、いずれも彼の持ち味が発揮できるお得意のものであったに違いない。ソナタ形式では繰り返しを省略する当時の伝統的な指揮法であったが、リンツ交響曲では爽やかな指揮振りを示し、一方のプラハ交響曲ではやや重々しい指揮振りで、両曲の特徴を表しているように思われた。彼の演奏は、このHPではこの映像だけであり、これは極めて貴重な存在であると思われる。

(以上)(2012/11/11)


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