(懐かしいS-VHSより;ラベック姉妹による2台と三台のピアノ協奏曲)
12-10-2、カテイア&マリエル・ラベック姉妹とレナード・スラトキンによる指揮とピアノおよびNHK交響楽団による2台および3台のピアノ協奏曲K.242およびK.365(316a)、 N響定期第1204回、1992年6月2日NHKホール、

−この演奏により三台のピアノ協奏曲は、コレクションの映像の全5組のアップロードを全て完成したことになるが、5組はそれぞれ演奏者も指揮者も異なり、特徴を持っている。しかし、私はこの曲が大好きなので、私の好みでは、ピアノが粒ぞろいで美しく揃って響くこのラベック姉妹の演奏が最も好ましく聞こえていた。同様の趣旨で、二台のピアノ協奏曲も、今回の演奏が水準以上のもののように思われる−

(懐かしいS-VHSより;ラベック姉妹による2台と三台のピアノ協奏曲)
12-10-2、カテイア&マリエル・ラベック姉妹とレナード・スラトキンによる指揮とピアノおよびNHK交響楽団による2台および3台のピアノ協奏曲K.242およびK.365(316a)、 N響定期第1204回、1992年6月2日NHKホール、
(1992年6月29日、NHKBモードステレオをS-VHSテープ019.2として収録)

            10月号の第二曲目は、先月のペキネル姉妹とコリン・デーヴィス指揮イギリス室内管弦楽団による2台のピアノのための協奏曲変ホ長調K.365(316a)(12-9-2)に刺激を受けて、古いS-VHSの演奏であるが、今月はラベック姉妹の2台と3台のピアノ協奏曲を聴いて見たいと思い出して取り上げたものである。この演奏は1992年の彼女たちの来日記念としてN響の第1204回の定期に出演したものであり、指揮者のレナード・スラットキンが第三ピアノを受け持ったライブであった。今こうして改めて彼女たちの演奏を見てみると、DVDに残されている彼女たちのバッハの2台および3台の演奏(2000)よりもかなり若く、姉妹の生き生きした表情がより際立っていたように感じた。これだけ良く写っているとS-VHSの三倍速でも満足でき、これは貴重な映像ではないかと考えている。



    指揮者のレナード・スラットキン(1944〜)は、ロスアンジェルス生まれの二代目指揮者で若くして逸材と言われており、情熱的で生き生きとした指揮振りでたびたび訪日しているが、プログラムに必ずアメリカの作曲家の作品を加えるのが特徴で、この第1204回N響定期では、最初にリゲテイの「ロンターノ」の日本初演に続いて二台のピアノのための協奏曲が演奏されていた。休憩後三台のピアノのための協奏曲が演奏され、最後にR.シュトラウスの交響詩「テイル・オイゲンシュピーゲルの愉快な悪戯」で終了するスケジュールとなっていた。
    非常に重々しいロンターノの演奏の後にステージに2台のピアノが持ち込まれて整えてから、スラットキンとラベック姉妹がにこやかに入場して、それぞれの席に着席した。2台のピアノは向かい合わせて正面横向きであり、指揮者はピアノの真後ろであり、中規模のオーケストラの布陣のように見えた。



              2台のピアノのためのピアノ協奏曲第10番変ホ長調K.365(316a)は、第一楽章がオーケストラで息の長い第一主題がフォルテで勢いよく始まるが、スラットキンは威勢が良く早めのテンポで軽やかに進めていた。そして次々と新しい元気の良いスタッカートの伸びやかな副主題が登場して、多主題性の生きの良いオーケストラの提示部となって華やかに盛り上がりを見せていた。オーケストラは、よく見るとコントラバスが4台のほか、ホルン2、オーボエ2、ファゴット2の布陣のオーケストラで、テインパニー・トランペット・クラリネットを含まない版で演奏されていた。
               やがて2台のピアノが息の長いトリルで登場し、第一主題の冒頭を力強く二人で合奏してから、赤い洋服のカテイアの第一ピアノが主題後半部を装飾的に軽快に弾きだし、続いて黄色い服のマリエルの第二ピアノがこれを模倣するように軽やかに弾き出していた。それから二人は交互に新しい副主題を元気よく弾き始め、早い16分音符の美しいパッセージも加わって競演するようになっていたが、互いに息のあったピアノを見せていた。続いて愛らしい第二主題を第一ピアノが弾き出しピッチカートの美しい伴奏も加わって終結のトリルを弾き出すと、第二ピアノが相づちを打つように加わり、二つのピアノは重なるように進行し、さらには互いに速いパッセージを模倣し合うように続けながら目まぐるしく進み、いつの間にかオーケストラも加わって提示部の力強い終結の盛り上がりを示していた。


                 展開部では最初の副主題を第一ピアノが力強く弾き始め、次いで第二ピアノがこれに続いて、二台のピアノが互いに交替しながらオーケストラも加わって弾むように力強く進行していたが、この展開部は長大であり、二台のピアノが発するダイナミックな迫力に満ちていた。再現部では第一と第二ピアノが提示部とは入れ替わって弾かれていたが、第一主題の再現は前よりも簡潔に行われ、むしろ美しい第二主題の再現を丁寧に行っており、オーケストラも加わって二台のピアノが、火花を散らすような美しい場面も見せていた。最後のカデンツアでは、二台のピアノによるトリルの合奏で始まって、二台のピアノが交互に競い合うように進む派手なモーツァルト自作のものを弾いていたが、映像では二台のカメラで二人がお互いに並んで演奏しているような様子を写し出していて、二人の動作が合致している様がよく示されており、最後の一小節では低音から高音まで二台のピアノが連続して64分音符のパッセージを弾き上げる様子が面白く、姉妹だから出来る息のあったピアノが示されていた。


                 第二楽章は中間部に短調のエピソードを挟んだA-B-A'の三部形式のアンダンテであり、この楽章のオーボエと二台のピアノの対話の美しさには聴くたびに頭が下がる思いがする。初めに弦楽合奏が優美な主題を奏でるが、悲しげなオーボエの伴奏が初めから続いてゆっくりとファゴットに引き継がれた後に、第一ピアノがトリルで伴奏している間をぬって、第二ピアノによりこの主題が実に美しく提示されていた。続いて二台のピアノにより装飾されながら対和風に、そして、並行的にゆっくりと進められる二つのピアノのパッセージが実に美しい。特に後半に二つのピアノのスタッカートによる玉を転がすような部分があって、これにオーボエと二台のピアノが一体になって息を飲むように弾かれる場面は、実に美しいと思われた。短いオーケストラで始まる中間部のエピソードでは、二台のピアノのそれぞれにオーボエの悲しげなソロが加わって素朴な響きのする味わいのある面白い変化を見せていた。第三部では第一部よりも前半は縮小されていたが、後半の自由な展開の部分はむしろ拡大されており、二人の息の合ったピアノが良く揃ってとても美しく、ここでもオーボエの伴奏が魅力的で、あたかも協奏曲のような雰囲気すら感じさせる楽章であった。二人の姉妹のピアノは、オーボエに合わせて実に細やかに良く揃って弾かれており、この楽章の美しさを高めていたように思わせていた。


              フィナーレは二つのエピソードを持つ明るいロンド形式であり、ピアノの活躍が著しい標準的なA-B-A-C-A-B-Aの形式の楽章であった。速いテンポの活気のあるロンド主題がまずオーケストラでピアノで軽やかに提示され、フォルテで元気よく繰り返されてフェルマータの後、第一ピアノが新しい主題をテンポ良く弾きだし、続いて第二ピアノが追いかけるようにオクターブ下で登場してきた。それからは、早いテンポでオーケストラと二つのソロピアノが三つ巴の競演をし張り合うようにドンドンと進んでいた。第一のエピソードでは、付点のリズムの行進曲風な感じでオーケストラと二台のピアノが絡みあっており、ごく自然にピアノソロからロンド主題に戻っていた。第二のエピソードはトレモロ音形と三連符の旋律が二台のピアノでパートを変えながら絡みあって進むもので、二人の負けじとばかりに弾き進む熱のこもるった競演が快く響いて、再びピアノソロでロンド主題に戻っていた。コーダの後の最後のカデンツアもモーツアルトのものが弾かれ、ロンド主題の変奏に始まり、後半は二人のダイナミックな合奏が展開され、規模の大きい技巧的な楽章はテンポ良く終結していた。


                演奏が終わり指揮者を含めて三人がコンサートマスターと握手を交わし、観衆に挨拶を繰り返していたが、観客の拍手ばかりでなくオーケストラの楽団員たちからも弓で楽器を叩く音が一斉に鳴らされて、好演奏の後の明るく楽しい雰囲気がただよっていた。この二台のピアノの女性同士・姉妹同士の演奏は、先月ペキネル姉妹の演奏を聴いたばかりであったが、二人のスタイル・風貌・動作などが良く似ていて、二人の格好の良さ、ソックリな弾き振りなどは双子であるペキネル姉妹に叶わないようであった。しかし、音楽面では、今回のラベック姉妹の暖か味のある演奏や表情豊かな歌わせ振りなどは非常に魅力的に思われ、モーツァルトの演奏により向いているように思われた。スラットキンの指揮も軽快で、N響も調子が良く、弦も管も良く響き、特にオーボエが安定して良く鳴っていたように思った。



                続く三台のピアノのための協奏曲第7番ヘ長調K.242「ロードロン協奏曲」では、舞台の手前から第ニ・第一・第三ピアノの順に並び、左にマリエル、右にカテイア、左に指揮者が座り、指揮者はオーケストラを左手で指揮するように配置されていた。このピアノの配置は、初めて見るものであった。第一楽章のアレグロでは、オーケストラのトウッテイで力強く第一主題が開始され、堂々と行進曲のように主題が進行した後に、続いて優雅な第二主題がオーケストラで提示されてオーケストラの提示部が終わっていたが、この曲のオーケストラの威勢の良さはこの提示部までであった。



              続いて三台のピアノによる冒頭主題の迫力ある導入の3小節の斉奏は非常に力強く、さすが三台のピアノであるとの存在感が示されていた。直ちにカテイアの第一ピアノが巧みなトリルで装飾を付けながら第一主題を提示し、続いて再び三台で斉奏の後に、マリエルの第二ピアノに渡され、二人が勢いよく主題を弾きだし、最後に第三ピアノとなるが、第三ピアノはお付き合い程度であった。直ぐに第一ピアノが華やかな輝かしいパッセージを弾き出し、続いて第二ピアノに渡され三台の合奏になってから、第二主題が第一・第二ピアノの協演で始まっていた。それからはオーケストラの手を殆ど借りずに三台のピアノにより追いつ追われつで進行していたが、三台のピアノの呼吸はピッタリであり、最後にオーケストラが提示部の締めを行っていた。

              展開部では第二ピアノが独奏で華やかにパッセージを弾き出してから、第一・第二ピアノが協演して進み、やがて第三ピアノが相づちを打つ形で参加して、殆ど三台のピアノだけの世界で展開部が進んでいた。やがてオーケストラが冒頭第一主題の3小節を力強く開始して再現部に突入したが、直ぐに第一ピアノの装飾音が輝きだし、続いて第一・第二ピアノの協演に移行していった。カデンツアは新全集に記載された第一・第二ピアノ中心の聴き覚えのあるもので、ここで映像では三人のピアノを弾く姿が同時に写されていた。これはカデンツアだけに三台のカメラが稼働して一画面に写し出す特殊技術のようであり、三人があたかも互いに顔を見合わせて弾いているように、ピッタリと息と手が合っていた。全体を通じてこの三人のピアノは素晴らしい出来映えで、音がまろやかで輝いて聞こえ、曲の楽しさやアンサンブルの良さを十分に味合わせてくれた。

                第二楽章は、短いながらもアダージョのソナタ形式の楽章であるが、これほどピアノの音が美しく輝く楽章は珍しく、ラベック姉妹の聴かせどころのように思われた。初めにオーケストラで美しい第一主題が優雅に提示されてから第一ピアノが丁寧に美しく主題を弾き始め、それに第二ピアノが加わると、この美しい主題がキラキラと輝き出す。続いて第二主題が第二ピアノで弾き出されると、第一・第三ピアノも加わって、いつも何処かでキラキラするピアノが聞こえており、三台のピアノが交互に主旋律を綿々と繰り返し、変奏をしたり装飾をしたりして歌われていた。展開部では第一ピアノがスタッカートで歌い出し、それに第二ピアノも加わって実に美しいピアノの世界を作り出すが、第三ピアノもいつの間にか加わって、三台のピアノがそれぞれ持ち味を生かしながらオーボエが良く響いて、この曲ならではの美しい遊びの世界を築き上げていた。再び再現部に戻って第一・第二主題が提示部と同様に型通りに進んでいたが、殆ど三台のピアノだけで進行していた。再現部では第一ピアノのカテイアがにこやかな目つきを見せてピアノに向かっている姿が印象的で、最後はオーケストラが全体を締めていた。8小節の短いカデンツアでも三人のそれぞれの姿が同時に映し出されて、三人三様の弾き方が写し出されて楽しい映像で結ばれていた。


              フィナーレは、テンポ・デイ・メヌエットと表示された三拍子のメヌエットをベースにしたロンド形式で、始めに踊り出すような早いテンポで、第一ピアノがロンド主題を提示する。直ぐにオーケストラが威勢良く繰り返すと今度は第一・第二・第三ピアノの順に主題がピアノに順番に渡されて、さらに新たな主題も加わって、素早く元気よく展開されていた。第一クープレでは第一ピアノが素早く主題を提示して、第二ピアノと交互に主題を提示したが、、短いカデンツアのような速いパッセージを経てロンド主題に移行していた。この楽しげなロンド主題は、ABACABAの形をとって都合4回も現れ、実に華やかであった。続く第二クープレでは第二ピアノが素早いエピソードで駆けめぐり、第一ピアノもこれを追いかけて目まぐるしく華やかな雰囲気を印象づけて、盛大に盛り上がっていたが、ここでも短い技巧的なパッセージを経てロンド主題が登場し、軽快に華やかに楽章を終えていた。



              三台のピアノの協奏曲の演奏が終わり、指揮者と姉妹の三人が互いににこやかに握手をし、演奏後の満足感のような表情を見せていた。そしてコンサートマスターとも握手を交わして、観衆に挨拶を繰り返していたが、観客の拍手ばかりでなくオーケストラの楽団員たちが、ここでも弓で楽器を叩く音が一斉に鳴らされて、好演奏後の明るく落ち着いた雰囲気がただよっていた。三度ほど拍手に応えて三人が登場していたが、次の演奏の準備のため、楽団員が席を外していた。この後は、R.シュトラウスの交響詩「テイル・オイゲンシュピーゲルの愉快な悪戯」が演奏されていた。

               このラベック姉妹のN響との三台の協奏曲のアップにより、全体で5組あるこの協奏曲の映像のアップロードは全て完成したことになる。5組はそれぞれ演奏者も指揮者も異なり、それぞれが特徴を持っているので、どの演奏が好ましいかを断ずるのは難しいが、しかし、私はこの曲が大好きなので、勝手に好みを言わせてもらえば、演奏としてまとまりがあり、音楽的に好ましいと思われる演奏は、このラベック姉妹の演奏であろうか。この曲は第二楽章など、兎に角、ピアノが粒ぞろいで美しくな響かなければ困るので、特に二人のピアノが揃っているこの演奏が、私の耳には好ましく聞こえる。

               同様の趣旨で、最初の二台のピアノのための協奏曲の演奏も、私にはとても好ましく聞こえた。最近、この二人のピアニストの消息を聞かないが、どうしているだろうか。モーツァルトの二台のピアノのためのソナタや4手のソナタなどを、是非、演奏して頂きたいと思っている。

(以上)(2012/10/20)


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