(最新BD収録オペラ;バレンボイムのスカラ座の最新「ドン・ジョヴァンニ」)
12-1-3、ダニエル・バレンボイム指揮、ロバート・カーセン演出、2011/2012年ミラノ・スカラ座開幕の「ドン・ジョヴァンニ」K.527、スカラ座O&CHO、2011/12/07公演、

−シーズンの開幕公演であったせいか、全体的な印象として貴賓席に大統領や首相夫妻が臨席し、国際的な有名スター歌手を網羅しており、久しぶりで見た大劇場型の豪華な公演であった。バレンボイムが音楽を堂々と進行させ、歌手を存分に歌わせるスケールの大きなゆったりとした指揮振りが大規模な舞台を引き立てていたし、カナダ生まれのラーセンの演出もCGを使った目を見張る舞台の広がりに新鮮味を出し、細かな点でも新演出があって目の肥えたスカラ座の観客に応えていたように思った−


(最新BD収録オペラ;バレンボイムのスカラ座の最新「ドン・ジョヴァンニ」)
12-1-3、ダニエル・バレンボイム指揮、ロバート・カーセン演出、2011/2012年ミラノ・スカラ座開幕の「ドン・ジョヴァンニ」K.527、スカラ座O&CHO、2011/12/07公演、国際共同制作、
(配役)ドン・ジョヴァンニ;、騎士長;ヨン・クワンツエル、ドンナ・アンナ;アンナ・ネトレプコ、ドンナ・エルヴィーラ;バルバラ・フリットーリ、オッターヴィオ;ジュゼッペ・フィリアノーティ、レポレルロ;、ツエルリーナ;アンナ・プロハスカ、マゼット;シュテファン・コツアン、
(2011年12月27日、NHKBS103のHV/5.1CH放送をBD-047に収録、)

         第三曲目は、2011年12月7日にミラノ・スカラ座で上演され、12月27日にNHKから放送されたバレンボイム指揮の最新の「ドン・ジョヴァンニ」をいち早くお届けしたい。この映像は字幕を超特急で入れたばかりの出来たてのほやほやのものであるが、ハイビジョンの5.1chでBDに収録された市販のDVD以上の立派な映像である。このようにスピーデイなアップロードは初めてであり、それにも増して豪華な顔ぶれなので、ご期待頂きたい。


 主題役を務めるペーター・マッテイもレポレロ役のプリン・ターフェルも、それぞれこのHPではこの役2度目の登場であり、前回も好演していたので非常に期待できる。また、今やオペラ界の女王であるアンナ・ネトレプコがドンナ・アンナであり、ハイビジョンだから直ぐ分かる少し太った顔つきで、さすがという歌と演技をご披露していた。また、ドンナ・エルヴィーラにスカラ座出身のバルバラ・フリットーリが当たっており、矢張り拍手が多いのはご当地だからだろうか。このHPではネトレプコは、06年ザルツブルグ音楽祭でスザンナの経験(7-10-5)があり、フリットーリは、ムーテイの「コシ」でフィオルデリージ(4-11-1)いたが、いずれも人気抜群であったのでとても期待できる。最近では、保守的なスカラ座においても、新しい演出が忍び込んで来ているので、どんな演出が楽しめるか、カナダ出身の人気のある初めてのカーセン演出にも注目して行きたい。


画面では出演者の紹介の後、バレンボイムが拍手とともに登場し挨拶をした直後に、いきなりテインパニーが鳴り出し、全員起立してイタリア国歌(イタリアの兄弟たち)が始まった。スカラ座のシーズンの開幕公演の恒例行事であろう。中央の貴賓席には、ナポリターノ大統領、モンテイ首相ご夫妻がお揃いで拍手を送っておられた。 セレモニーが終わり、序曲の大和音が始まったときに、指揮者の後ろの中央席から黒い背広姿の長身の男が左側の花道を急いで駆け上がり舞台中央に走り寄って、いきなり緞帳を引きずり下ろした。そうすると舞台中央には大きな鏡が広がっており、スカラ座の客席が写し出されていたが、男が正面を向くとこれがドン・ジョヴァンニのピータ・マッテイ。ネクタイを外し上着をゆっくり脱いで、どうだとばかりに顔を正面に向けて、堂々と鏡の中に入って消えたところで、序曲はアレグロに突入していた。鏡の画面は揺れており、CGによるスライドを活用したような仰々しい演出で客席を驚かせながら序曲が進行し、バレンボイムらしい堂々とした落ち着きのある逞しい響きが続いていた。後半の序曲中、画面はオーケストラ・ピットを隅々まで丁寧に写し出していた。

  序曲が終わり第一曲の前奏が始まると、舞台上では大勢の人が人海戦術で緞帳を運び出し、回転台を動かして背景を作っている間にターフェルの作業服姿のレポレッロが朗々と歌い出していた。そしてテンポを変えて誰かが来ると歌い出したときに、回転台が元へ戻されると、何とそこにはベッドが置かれ、二人の男女がベッドの上で大きな声で争っていた。二人は明らかに顔見知りで、マッテイがネトレプコを組み敷いた時に、「娘を離せ」と杖をついた老人が登場してきた。杖を抜くと刀になり、近寄って振り上げた途端に、敏捷なジョヴァンニに腹部をナイフで刺されて、ベッドの上に倒れ込んでしまった。 

    ジョヴァンニとレポレッロが逃げ出すと、そこへドンナ・アンナが駆けつけ血だらけの父を発見し、父を抱き上げるがもはや息がなく、彼女も気を失ってしまう。そこへ白い背広姿のオッターヴィオが従者を連れて駆けつけ、父を運ばせてから彼女を抱き起こし、二重唱が始まった。この血に賭けてと復讐を求める激しいアンナに対し、オッターヴィオはたじろぎながら、君との愛に賭けてと復讐を誓っていた。

場面が変わってお洒落なドン・ジョヴァンニは洋服掛けと鏡がお友達。着替えをしながらレポレッロと言い争いをしていると、ふと「女のにおいがする」と立ち止まった。そこへ侍女に荷物を運ばせたドンナ・エルヴィーラが登場し、「あの酷い男はどこかしら」と歌っていた。「心臓を引き裂いてやる」と酷い言葉を吐いていたが、ジョヴァンニに声を掛けられ再会すると直ぐに抱き合ってしまった。昔のことをネチネチと口説き出すと、ジョヴァンニはまるで小説だ言って、レポレッロに後を任せて逃げ出してしまった。


  レポレッロは、「これが旦那の愛した女のカタログ」と黒板に書かれた数字を見せながら、スペインでは1003人などとたっぷりと語りかけるように歌っていた。途中からテンポが変わりレポレッロが調子よく、崩しすぎた歌い方が気になったが、「スカートをはいてさえいれば」と歌うと、エルヴィーラはあきれ果てて倒れ込んでしまっていたが、ドン・ジョヴァンニの裏切りに対し復讐を決意していた。


    そこへ大勢の賑やかな若者たちが登場し、「恋をしよう」と純白の結婚スタイルの二人がはしゃいでおり、親戚同士の記念写真を撮ろうと並んだところへ、ドン・ジョヴァンニとレポレッロが登場し、様子を直ぐに理解した。花嫁姿のツエルリーナに目を付けたドン・ジョヴァンニが邪魔な一同を近くの屋敷でご馳走しようとレポレッロに命じ、行きたくないと駄々をこねるマゼットに凄んで見せた。ツエルリーナは騎士さまが守ってくれると大人ぶったので、マゼットが怒り出すが、ドン・ジョヴァンニの迫力に押されて、「分かりましたよ」とアリアを歌いながらツエルリーナに当たり散らしていた。



     やっと二人きりになれたとドン・ジョヴァンニがツエルリーナを安心させ、「田舎娘で終わるのは勿体ない、その美しい瞳には別の運命があるはず」などと口説きだし、「手に手を取って」と甘い声で歌い出した。ツエルリーナも「こわいわ」と二重唱を歌いながら甘い声に次第に誘われて、アンデイアーノの歌声とともに「行きましょう」と抱き合ってしまった。そこへ「お待ちなさい」とエルヴィーラが、突然、二人の間に割り込み、「これで一人の娘を救えた」と歌い出した。驚くジョヴァンニが「ほんの気晴らしだ」と答えたので彼女は怒りだし、「この裏切り者から逃げなさい」と激しく歌っていた。ツエルリーナもエルヴィーラの剣幕に驚いて、二人は手を繋いで逃げ出してしまった。

  一人残されたジョバンニがふて腐れて「今日はついていない」とタバコを吹かしていると、ドンナ・アンナ一行の父親の遺体を運ぶ行列が通りかかり、ドンナ・アンナがジョヴァンニを見つけ助けてくれと語りかけてきた。ジョヴァンニが「何なりとどうぞ」と泣いているアンナを慰めようとした時、突然、エルヴィーラが現れて「この人を信じてはなりません」と四重唱の最初を一人で歌い出した。彼女は黒いシュミーズにジョヴァンニの背広の上着を着た変なスタイルだったが、ドンナ・アンナとオッターヴィオは、エルヴィーラの気品ある態度に驚いて疑いだし、ジョバンニが彼女は気がおかしいと言い出して、四重唱に発展していた。言うだけ言ったエルヴィーラが立ち去ったので、ドン・ジョヴァンニが彼女をなだめてきますと言って、アミーチ・アデイーオと立ち去ったが、ドンナ・アンナの別れの仕草は、ジョヴァンニを知らないはずがないように見えた。

      ジョヴァンニが立ち去ると、ドンナ・アンナは不意に「死にそうよ」と声を挙げた。彼女は「彼が父を殺した犯人だ」と言って真剣な面持ちでアッコンパニアートで激しく事情をオッターヴィオに説明し、「これで分かったでしょう」とアリアを歌い出した。そして歌いながらオッターヴィオに「父の仇を打って」と激しく復讐を依頼していたが、彼女の必死の歌は、クローズアップ画面で歌も顔つきも迫力十分であり、大衆受けするネトレプコの姿に、拍手と歓声が最高であった。オッターヴィオはあの騎士がと信じられない様子であったが、「彼女が安らぐのなら、私の心も安らぐ」と美しいアリアを優しい声で歌い出し、繰り返しでは装飾をつけて歌ったりして、なかなか立派なアリアで拍手が沸いていた。


   場面が変わってレポレッロが「何としても旦那から暇をもらおう」と言いながら登場し、ドン・ジョヴァンニが洋服を着替えながら、レポレッロからのお屋敷での出来事を聞いていると、全てがお気に入りのブラボーとなり、邪魔をしたエルヴィーラを追放したと話をすると大喜びとなって「酔いが覚めないうちにパーテイだ」とご機嫌で「シャンペンのアリア」を歌い出した。ガウン姿で格好良く歌うこのアリアは、実に元気良く歌われ、客席から拍手があった。一方、ツエルリーナは怒らしたマゼットのご機嫌直しに精一杯。不機嫌なマゼットに寄りすがって、「ぶってよマゼット」とアリアを歌い出し、お色気責めでマゼットの機嫌を直して仲良くなってしまっていた。





   ドン・ジョヴァンニの「パーテイの用意だ」の大きな声が聞こえて、第一幕のフィナーレは、ツエルリーナとマゼットの口げんかの二重唱で始まり、二人は隠れようとしていた。しかし、ドン・ジョヴァンニにツエルリーナは直ぐ見つかってしまい、早速、口説かれて危なくなっていたが、隠れていたマゼットと顔を合わせてしまったので、ドン・ジョヴァンニは手出しが出来ずに三重唱となっていた。そこへ指揮台の真後ろの客席の前列に赤の目隠しに赤の礼服姿のエルヴィーラ、ドンナ・アンナ、オッターヴィオの三人が、ドン・ジョヴァンニの素行を曝こうと決意を固めて現れた。そしてレポレッロの報告を聞いてパーテイへの参加が認められ、三人は勇気をふり絞りマスクを外して「正義の神よ、お守り下さい」と祈っていた。三人の思いを込めた見事な美しい三重唱が響いていたが、舞台ではドン・ジョヴァンニが仁王立ちになってこの三人の三重唱を聴いており、これは初めて見る異様な様子であった。





  やがて「コーヒーだ、シャーベットだ」と大騒ぎになり舞台では大勢の人が集まってパーテイが開始されていたが、そこへ三人のマスクの人が現れたので、皆さんどうぞと歓迎され、ドン・ジョヴァンニが大声で全員に「自由万歳」と格好をつけながら歌っていた。全員が赤いマスクに礼服で、クローズアップでも誰が誰やら画面では区別がつかなかった。そして「音楽を始めよ」の一声で優雅なメヌエットが始まって、ドン・ジョヴァンニとツエルリーナが踊りだし、レポレッロは命令でマゼットを踊らせようと苦労していた。楽士たちが舞台で演奏し始め、周りでも大勢が踊り出し、ツエルリーナも踊りに夢中になって、三人のマスクの人も心配しながら踊っていたが、音楽は次第に佳境に入り出していた。その最中に遠くからツエルリーナの悲鳴が聞こえてきて、会場は騒然となっていた。しかし、彼女が逃げてきたので一安心した所へ、ドン・ジョヴァンニがレポレッロを突き倒して「こいつが悪い」と演じていた。それを良く見ていた三人のマスクの人たちが騙されないぞとばかりに、一人ずつドン・ジョヴァンニを「裏切り者」と大声で順番に責めだしたので、さすがのドン・ジョヴァンニも逃げられず、例のタバコをふかしながら降参していた。そのうちに音楽のテンポが変わり、ドン・ジョヴァンニは頭が混乱してきて訳が分からなくなり、強がりを言いながらもその場を逃げ出して、長いフィナーレが終了していた。




    第二幕は明るい客席にドン・ジョヴァンニとレポレッロが現れて、レポッレロが「俺はもう嫌だ」とドン・ジョヴァンニに食って掛かる激しい二重唱で始まって、客席に居座ってしまう。これで二人は別れたかと思いきや、舞台に上がったドン・ジョヴァンニが金貨を見せると、レポレッロも舞台に上がり「これが最後ですよ」と簡単に仲直り。その上、エルヴィーラの召使いを狙うドン・ジョヴァンニと服装やマスクまで交換させられていた。

   そこへエルヴィーラが三階の一角から顔を出し、「ああ、騙されてはいけない、心をときめかせては駄目」と自分に言い聞かせながら歌っていたが、ドン・ジョヴァンニが洋服を着替えながら「いとしのエルヴィーラ、許しておくれ」と三重唱が始まった。そして「悔い改めたことを信じないなら自殺する」と繰り返して歌うので、信じやすいエルヴィーラは高いところから二階に降りてきて、変装しマスクをつけたレポレッロをドン・ジョヴァンニと信じ込んで抱き合ってしまっていた。こうなると二人の作戦は成功し、ドン・ジョヴァンニが一階に隠れて、「殺されたいか」と大声を上げると、二階のエルヴィーラとレポレッロのアベックは、慌てて何処かへ逃げ去って姿を隠してしまっていた。

     一人になったドン・ジョバンニは、エルヴィーラの召使いを目当てに「窓辺に来ておくれ、愛しい人よ」とカンツオネッタを歌い出した。美しいマンドリンの伴奏で声も良く通り、真剣に歌っていたが、「姿を見せてくれ」と歌っているうちに、一階の隣に置かれた椅子席に召使いが現れて、二人は抱き合ってしまう珍しい演出で、思わず大きな拍手が沸いていた。この一階の二人は、これから暫く二階でのマゼット一行の舞台から、六重唱の終わりまで、二人は舞台を見上げながらいちゃついていた。



  そこへ二階では鉄砲を持ったマゼット一行が怪しい人影を見つけたと騒ぎながら駆けつけてきた。一階のドン・ジョヴァンニはそれを見てレポレッロに成り済まして、二階にいる隙だらけの一行に接近し信用させてから、ドン・ジョヴァンニを探すなら「半分はこちら」とアリアを歌いながら一行を誘導していた。そして、マゼットひとりを残して全員を追い払い、マゼットの鉄砲を取り上げてマゼットを半殺しの目に遭わせて逃げてしまった。
     マゼットの悲鳴を聞きつけてツエルリーナが二階に姿を現し、倒れているマゼットを抱き起こし、私が直してあげるわと語りながら「薬屋の歌」を歌っていた。途中でテンポが変わってドキドキと弾む音楽に合わせて色気タップリのサービスをしてマゼットを元気にさせてしまっていたが、一階の椅子席では、ドン・ジョヴァンニと召使いがいちゃつきながら眺めていたのが面白かった。

    場面が変わってマスクをつけたレポレッロとエルヴィーラが一階に現れ、彼女が「暗いところにいると死にそう」と歌い出してレポレッロとの二重唱が始まった。そこへ喪服姿のドンナ・アンナとオッターヴィオが現れて二人は二重唱で父の死を嘆いていたが、レポレッロが出口を見つけようとウロウロしているうちに、マゼットとツエルリーナに出合ってしまい、レポレッロはこれらの4人に捕まってしまった。そしてオッターヴィオがドン・ジョヴァンニだと勘違いして懲らしめようとすると、エルヴィーラが「私の夫です」と姿を現して必死に庇っていたが、4人はいきり立って許さない。そこでレポレッロは「私はあの男ではない」と謝って最後に、エルヴィーラが彼のマスクを外して確かめると、何とこの男はレポレッロであったので、一同は驚き果てていた。そこでレポレッロが、驚いている皆に、平謝りする早口のアリアを歌い始めて、次第に六重唱に発展して、「ここから逃げ出せたら奇跡だ」と歌いながら長大な六重唱を終えていた。一方、この間に一階では、椅子席でドン・ジョヴァンニと素裸の召使いのいちゃつきがずっと続いていたが、これはこの舞台だけの新演出であった。

      そこで「マゼットを酷い目に遭わせたのはあんたね」とツエルリーナがいきり立ち、エルヴィーラが「よくも私を騙したわね」と怒りだしたので、レポレッロは一人ひとりに「どうかお慈悲を」と早口のアリアで歌い出し、皆の隙を見て脱兎のごとく逃げ出してしまっていた。残されたオッターヴィオは、レチタテイーボで犯人はこれでドン・ジョヴァンニだと分かったと言い、これから当局に行ってくるので、「その間に私の恋人を慰めてくれ」とマゼット二人とエルヴィーラに対し歌い出した。このアリアはオッターヴィオの優しい心情を歌ったアリアでよい出来で歌われて会場から拍手をもらっていた。この後エルヴィーラが一人で現れて、「あの人は何という恐ろしいことをしてしまったのだろう」とレチタテイーヴォ・アッコンパニアートで歌い出し、「天罰が落ちそうだ」と同情しながらアリアに移って「あの男は私を裏切ったけれど、彼を哀れに思う」と複雑な気持ちを激しく歌って、客席から大きな拍手を浴びていた。

   月明かりの墓場の場面では、背景は客席が写っている鏡の舞台で、ドン・ジョヴァンニが着替えを始めていたが、そこへ「殺されるところだった」と駆けつけたレポレッロを大きな声でからかって大笑いしていると、「その声も夜が明けるまでだ」と大きな声が聞こえてきた。誰だと驚く二人の後の幕に写っている鏡には、何と中央の貴賓席が写っており、そこから騎士長が血だらけの姿で大声で叫んでいた。これを見てドン・ジョヴァンニはレポレッロに命じて墓碑を読ませると、騎士長が復讐のためここに待つとあった。ドン・ジョヴァンニは馬鹿にして、レポレッロに食事に招待すると言わせたところ、レポレッロは頭を上下に振って頷いたという。レポレッロに任せておけずドン・ジョヴァンニが自ら大きな声で「来るか」と尋ねると、「行こう」という返事が戻ってきた。二人は不思議なことが起こるものだと驚き恐ろしくなって、食事の準備をしようと逃げ出してしまった。これも鏡を利用した新演出であった。

   そこへ喪服姿のドンナ・アンナとオッターヴィオが登場し、オッターヴィオが結婚指輪を差し出すと、ドンナ・アンナが受け取ってくれず、父の死ばかりで自分のことを考えてくれない彼女に「むごい人だ」とぼやいていた。すると彼女は「私だって辛いのよ」とレチタテイーヴォ・アッコンパニアートで激しく答えて、「でも世間体があるわ」と語りながら「だから言わないでね、私の愛しい人よ」とアリアを歌い出していた。この場面では彼女の素晴らしいコロラチューラのアリアには会場からも拍手を沢山もらっていた。


   軽快な音楽とともに幕が上がり、ドン・ジョヴァンニがテーブルについて「食事の用意は出来たか」と歌いながら登場し、フィナーレに入るとレポレッロがワインやグラスを運んでいた。背景はスカラ座の客席の写真で、抽象化されていた。音楽が「コサ・ラーラ」に変わると食事が運ばれてきてドン・ジョヴァンニは上機嫌。食事が始まって、レポレッロが旦那の食欲に驚いているうちに「漁夫の利」に音楽が変わった。ドン・ジョヴァンニはワインのグラスを手にしてマルツイミーノ酒は素晴らしいと上機嫌で、雉肉をつまみ食いをするレポレッロを見て見ぬふり。しかし、「フィガロ」に音楽が変わると、音楽に合わせて「レポレッロ」と呼びつけ、「喋べろ、口笛を吹け」と無理難題。レポレッロが四苦八苦していると、そこへエルヴィーラが突然現れて座り込んでしまった。そして「生き方を変えろ」とドン・ジョヴァンニにきつく言うが相手にされず、反対に「女とワインに乾杯」とからかわれていた。エルヴィーラは呆れ果てて逃げ出してしまったが、入口で大きな悲鳴を上げて立ち去った。何事かとレポレッロも見に行ったが、これも大声を上げて「白い男が」と言うばかりで、ダンダンダンと足音の真似をして、震えて声が出なかった。





    ドン・ジョヴァンニが自分の目で確かめようとすると、突然、大音響とともに背景の写真の幕が上がり、騎士長が血だらけの服で現れ、「来たぞ」と大声を上げ序曲の冒頭部分が始まっていた。そして「良く聞け」と震え声のレポレッロとの三重唱となって「今度はお前の番だ。私のところに食事に来るか」と叫んでいた。ドン・ジョヴァンニはレポレッロの言葉に反して、「決意したぞ、行こう」と答えると、騎士長が約束の証に握手をしようと杖を出し、ドン・ジョヴァンニが杖を引き抜いた途端に「まるで氷だ」と大声を上げて苦しみ出した。騎士長は苦しむドン・ジョヴァンニに「悔い改めよ」と何回も繰り返したが、ドン・ジョヴァンニはその都度「いやだ」とはねのけていた。しかし、時間がなくなって騎士長は頑固なドン・ジョヴァンニに刀を向けると、振り向いたドン・ジョヴァンニの腹部に刀が突き刺さり、血だらけになって苦しみ出し、やがて合唱の高まりと煙の中で騒然となってもがき出し、七転八倒の苦しみの末に大きな悲鳴と大音響の中で、地下に煙とともに消え去ってしまっていた。





    舞台は一瞬のうち明るくなって、スカラ座の緞帳の前で、6人が登場して、それぞれの場所で六重唱を歌い出していた。レポレッロがみんなに、石像がいなくなり大爆発が起こってドン・ジョヴァンニが消え去ってしまったと説明していたが、訳が分からず誰も信じない様子。オッターヴィオがしつこくドンナ・アンナに迫っていたが、「もう1年待っと心が落ち着くから」というつれない返事の二重唱の後、一人ひとりがこれからの行き先を歌っていた。音楽のテンポが変わって六重唱で「悪人は必ずこの通り滅びてしまう」と歌って、盛り上がりを見せて終幕となっていたが、最後に幕が上がり二階にドン・ジョヴァンニが背広姿で六人の後ろに悠然と現れ、タバコを吹かして辺りを見渡しつつ、観客に存在感を示しながら幕となっていた。





     非常に賑やかなカーテンコールで、ミラノ・スカラ座の2011/12年のオペラのシーズンの開幕となっていたが、この新演出の「ドン・ジョヴァンニ」は想像以上の大掛かりな舞台となっていたので、気がついたことを幾つか整理しておこう。 第一に、全体的な印象として開幕公演であったせいか、貴賓席に大統領や首相夫妻が臨席し、国際的な有名スター歌手を網羅しており、久しぶりで見た大劇場型の豪華な公演であった。バレンボイムが音楽を堂々と進行させ、歌手を存分に歌わせるスケールの大きなゆったりとした指揮振りが大規模な舞台を引き立てていたし、カナダ生まれのラーセンの演出もCGを使った目を見張る舞台の広がりに新鮮味を出し、細かな点でも新演出があって目の肥えたスカラ座の観客に応えていたように思った。

  主題役のピーター・マッテイは前回のハーデイング1・ブルック演出(2002)のエクサンプロバンス音楽祭(3-5-1)から10年を経過しており、成長した風格がある堂々としたドン・ジョヴァンニであった。レポレッロのターフェルは1996年のアバド2・マリアーニのフェラーラ劇場のレポレッロ(5-11-1)で非常に好演していたが、レヴァイン・NYメッツ(2000)の公演でドン・ジョヴァンニ(9-12-3)を演じており、このオペラに精通し安心できる歌と演技をみせていた。 ドンナ・アンナのネトレプコは、当代一の売れっ子スターであろうが、さすが名声に恥じぬ歌と演技を披露しており風格すら感じられた。ご当地の人気歌手フリットーリもネトレプコに負けないように頑張っており無難なエルヴィーラを演じていた。 その他ツエルリーナとドン・オッターヴィオも良い声を聞かせていたが、どちらも主役4人が立派すぎたので、目立たない存在となったのはやむを得ない。

 カーセン演出では、背広姿の現代風衣裳であったが、舞台の背景をCGで抽象化したり、人海戦術で大道具を配置したり、非常に多彩で見るものをビックリさせた。ドン・ジョヴァンニの登場には、洋服掛けと鏡がセットされており、それで背景や舞台道具は不要になっていたのが面白かった。また、ドン・ジョヴァンニは都合が悪くなると、いろいろなところでタバコを一服して、大物振りを見せていた。さらに主役を客席から登場させて目立たせる手法も何回かあり、中でも第一幕のフィナーレで三人のマスクの人の客席での登場は迫力があり、美しい三重唱を見事に浮き彫りにさせていたし、貴賓席での騎士長の登場は、恐らく客席の人々が度肝を抜かされた思いであったろう。冒頭にベッドシーンを演ずるドン・ジョヴァンニとドンナ・アンナの姿で、真っ先に驚かせるとともに、二人が既知の関係であることを示していた。また、第二幕のドン・ジョヴァンニとエルヴィーラの召使いの関係も、恋の失敗でなく成功で、面白い演出であった。演出面で大胆なことをする一方で、音楽面ではいわゆる「ごちゃ混ぜ」版の伝統的な進行を見せていた。

このスカラ座の今回の演出で見たCGの舞台背景への活用は、私は 06年のザルツブルグ音楽祭の「後宮」(11-12-3)で初めて目にしたのであるが、今回のこの映像やスカラ座の「魔笛」(2011)などで効果を発揮しており、使いようによってはどの劇場でも利用され、これから大流行するのではないかと密かに考えている。 スライドの活用による巨大な騎士長の登場は、デユー演出のライプチヒオペラ(10-10-2)で経験していた。

大統領と首相ご夫妻の映像への登場は、91年モーツァルトイヤーでプラーハのこのオペラを初演したエステート劇場(1991)での最近亡くなったハベル大統領ご夫妻のご臨席以来のこと(10-1-3)であろうか。歌手陣や指揮者・演出家の協力もあって、この映像が国際共同制作として、イタリア(RAI)オーストリア(ARTE-ZDF)日本(NHK)の三者による協力のせいか、公演後1ヶ月足らずの年末年始番組としてテレビで楽しめたのは、非常に有り難かった。こういう我々にとって望ましい協力はもっと広めていただければ、良い番組編成が出来るものと期待したい。

(以上)(2012/01/13)


目次5にもどる 目次4にもどる
目次3にもどる 目次2にもどる
目次1にもどる 私の新ホームページへ


名称未設定