(懐かしいS-VHSテープより;ノリントン・ウイーン国立歌劇場の「魔笛」K.620)
11-7-2、ロジャー・ノリントン指揮、マルコ・アルトウーロ・マレッリ演出、ウイーン国立歌劇場O&CHOの「魔笛」K.620、2000年6月17日、NHKBS102、ライブ、

−この映像は、2000年の公演から私が見た2006年1月頃まで6年間にわたりウィーン国立歌劇場において上演されたロングランの「魔笛」である。この映像で見る限り非常にモダンな「魔笛」であり、ノリントンの音楽もこれに合わせたようにすっきりしており、気になったマレッリ演出も新しいものにしては基本がぶれずに、むしろ親しみやすい演出であると思われた。しかし、私は現地でこの同じ演出を2003年2月および2006年1月と2度も見ていたが、このモダンな不安定な舞台への戸惑いが解決しないまま、字幕なしで舞台を見たせいか、ついて行けず全く異なった評価をしており、字幕の重要性を思い知らされた−

(懐かしいS-VHSテープより;ノリントン・ウイーン国立歌劇場の「魔笛」K.620)
11-7-2、ロジャー・ノリントン指揮、マルコ・アルトウーロ・マレッリ演出、ウイーン国立歌劇場O&CHOの「魔笛」K.620、2000年6月17日、NHKBS102、ライブ、
(配役)パミーナ;ユリアーネ・バンゼ、タミーノ;ミヒャエル・シャーデ、、ザラストロ;エリック・ハーフヴァーソン、夜の女王;ミラグロス・ボブラドール、パパゲーノ;フランツ・ハヴラタ、パパゲーナ;カタリン・ハルアイ、弁者;ペーター・ウエーバー、三人の少年;ウイーン少年合唱団、、ほか、
(2000年11月05日、NHKBS2クラシック・ロイヤルシートをS-VHSテープに収録、)

    7月号の第2曲目は、最近はN響ともすっかり仲良くなったロジャー・ノリントンが10年前にウイーン国立歌劇場で「魔笛」を振ったNHKのBSライブの珍しい映像である。彼はザルツブルグのカメラータ・アカデミカの音楽監督であったし、モダン楽器楽団との客演も当時から多かったのであろう。ノリントンは、ザルツブルグ音楽祭の常連指揮者であり、モーツアルト・オペラは「コシ・ファン・トウッテ」や「イドメネオ」を振っており、後者は(7-9-4)として既にご報告済みである。 



    今回のこの映像の配役を見ると、ユリアーネ・バンゼのパミーナとミヒャエル・シャーデのタミーノのコンビが抜群のようであり、私はこの劇場でこの「魔笛」を見ていたので、この演出が理解出来るかどうかが、この映像の再チェックの大きな関心事であった。しかし、このウイーン国立歌劇場の「魔笛」の特徴ある垂れ幕を見た瞬間に、このマルコ・アルツーロ・マレッリ演出は見た記憶があると思いだした。調べてみるとこのHPの旅行記録にもあるが、2003年2月2日および2006年1月24日と2回も見ており、このノリントンの映像が2000年6月であるから、6年間も続いているロングランの演出であることが分かった。この演出は、破壊された空間を持つ舞台が不安定感を呼んでいるが、モダンな演出で、余りフリーメースン的な色彩が強くなく、一方で動物たちが出てきたりパパゲーノが子供たちに好かれる演技が多いせいか、人気があったようであった。しかし、この映像の「魔笛」は、舞台の動きよりも切れ目なく進行するノリントンの歯切れの良い音楽が気になり、指揮者ノリントンの存在感を見せつけるオペラであったように思う。



     ノリントンが入場し両手で挙げてトウッテイの最強音の和音で序曲が始まり、やがて歯切れの良い弦がアレグロの主部を奏でだした。オーケストラの総奏になってからフルートとオーボエが対話を交わす主題が現れて、序曲が明るく進行していた。ノリントンの指揮は実にきびきびとしており、続く三和音でも明快に力強く響かせており、再び弦楽器が軽快な響きで疾走していた。映像は序曲の間中はノリントンとオーケストラを写し出しており、ピット内の4本のコントラバスや3本のトロンボーンなども珍しく大きく写し出されていた。




     軽快な序奏とともに幕が上がり、巨大な蛇が顔を出し、タミーノが悲鳴を上げて気絶していたが、三人の従女の火花で蛇は一瞬のうちに倒されていた。異様な黒いマスクをした三人の従女はタミーノを囲んで、誰が女王様に報告に行くかと女らしい争いを始めていたが、話がつかず結局は三人で行くことになり姿を消した。気がついたタミーノが起き上がると、怪しい人影があり、やがて笛の音とともに鳥の姿をしたパパゲーノが登場していた。パパゲーノは実際に笛を吹きながら鳥刺しのアリアを歌っていたが、その面白い演技に子供が大喜び。タミーノと鉢合わせして話し込んでいるうちに、パパゲーノが力持ちで大蛇を殺したと自慢したところに、再び三人の従女が登場して口かせをはめられ、タミーノにはパミーナの絵姿が手渡されていた。




    タミーノは絵姿を見入って「何て美しい姿」とアリアを歌い出すが、このシャーデの「これが恋なのか」と心を込めて歌うアリアは一級品。三人の従女から悪魔に奪い去られたと聞いて、助け出そうと決意したところに、雷鳴が轟いて夜の女王が登場していた。怖いマスク姿の女王は「怖がらないで、私の息子よ」とレチタテイーボで語りかけ、私の力では助けられなかったと歌い出し、アレグロになって「娘を助けて」とコロラチューラで歌ってタミーノを呆然とさせていた。




    パパゲーノの「ム、ム、ム」の歌声で我に返り、三人の従女が女王様が喜んでいる話をし、助ける決意を固めたタミーノには「魔法の笛」を、いやがるパパゲーノには「銀の鈴」を贈られて二人は勇んでザラストロの国へとパミーナを救いに出発する事になった。案内は三人の童子が二階の高いところから手を振っていた。



 


   場面が変わって奴隷部屋。パミーナがモノスタトスに捕まってさあ大変。必死の抵抗の二重唱が始まってついには倒れてしまう。一方、パパゲーノはうまく宮殿に潜り込み、倒れているパミーナを見つけるが、そこでモノスタトスと鉢合わせ。黒い人と鳥の怪人に互いに驚いて逃げ出してしまうが、パパゲーノは上手くパミーナに近づいた。絵姿で本人を確認しているうちに二人は仲良くなり、パパゲーノに恋人すらいないことに気がついたパミーナが、「愛を感ずる男たちには、優しい心も備わっている」とあの有名な二重唱を歌い出した。パパゲーノも歌い出して、二人で男と女の愛の印を黒板に書いているうちに、いつの間にか三人の童子たちも一緒に歌っていた。




    フィナーレに入って三人の童子たちがタミーノにゴールまで一本道だと言われ、「冷静・忍耐・沈黙」の教えを受けて、宮殿の広場でパミーナを助けようと覚悟を決めていた。「下がれ!」の脅しにも冷静で、中に入るとマスクの僧侶と押し問答が始まった。僧侶はこの聖なる宮殿には悪人はいないと断言し、不幸に打ちひしがれた女性が証人だというと、お前は女の涙に騙されているという。途方に暮れたタミーノ。せめてパミーナが生きているかどうか教えてくれと尋ねると、暗闇の中から「パミーナは生きている」と遠い声が聞こえてきた。




    タミーノは勇気百倍になって、感謝の気持ちで笛を吹くと、何と動物たちが沢山不思議そうに出てきた。笛を吹き続けているうちにパパゲーノの笛も聞こえてきた。そこで探しに出かけると、入れ違いにパミーナとパパゲーノが現れたが、残念ながら直ぐに二人はモノスタトス一行に捕まってしまった。しかし、パパゲーノが「銀の鈴」を鳴らしてみると、グロッケンシュピールの音が聞こえ、「何て素敵な音だ」と一行は踊りながら立ち去ってしまい二人は救われた。この一行の中に、鳥の帽子を被ったパパゲーナも姿を見せて、盛んにパパゲーノの気を惹いている様子が面白かった。






   そこへ「ザラストロ万歳!」の大合唱が聞こえてきて、異様な白いマスクとガウン姿の僧侶たちが集団で集まってきた。パミーナは王女らしく「正直に話そう」と覚悟をして、皆の前で堂々とザラストロに説明をしたが、ザラストロから自由にするわけに行かないと諭された。そこへタミーノがモノスタトスと一緒に現れたので、若い二人は直ぐに気がついて抱き合ってしまった。モノスタトスが得意げに事情を話すが、ザラストロは彼の腹黒さに対し厳しい処分をして、全員の前で、新しい二人の男性に試練の殿堂に導くように指示をしていた。その姿は実に堂々としており、立ち会った全員から「賢明なザラストロ」と親愛なる合唱を受けて第一幕が終了していた。




     第二幕はオーケストラの序奏で重々しく始まったが、舞台では傾いた神殿にマスクをした僧侶たちが集まってきたが、その中に三人の童子たちもうろうろしていた。ザラストロが宣言をし、タミーノが友情を求めて神殿に来ていることや、神々がパミーナを伴侶に決めたことなどを語って、いくつかの応答の後、三つの和音が響いてから、イシスとオシリスの神々への提唱が始まり、若い二人へ叡智を授けたまえと祈っていた。そこへパミーナとタミーノが現れて、二人はやっと顔を合わせたが、タミーノは試練のために出発しなければならない。別れの時間が来たことを告げて激励するザラストロ、試練に立ち向かうタミーノ、別れを嘆くパミーナの、三人が思い思いを語る三重唱となっていたが、これは第19番の三重唱が前に繰り上げられていたものであった。




   場面が変わってパパゲーノが突然の雷鳴に腰を抜かしていると、二人の神官が登場し、タミーノに決意のほどを確かめ、パパゲーノにはお前にソックリな若いパパゲーナに会わせてやると同意させて、二人に「沈黙を守り、女の企みに気をつけろ」と二重唱で忠告し、二人の試練は始まった。早速、三人の従女が現れて、女王のところに行こうと二人を誘い出そうとしたが、タミーノが危ないパパゲーノを何とか忠告し引き留めて、三人を撃退していた。それを大勢のマスクの人が見ており、二人は次の試練に向かっていた。





  パミーナが寝込んでいるとそこへモノスタトスが登場し、キスぐらいは良いだろうと早口のアリアを歌いながら近づいて、いたずらをしようとしていると、突然、夜の女王が現れた。パミーナが喜んでお母さんと抱きつくと、「この再会の喜びも、あなたを浚ったもののお陰ね」と母は言い、ナイフを娘に手渡して、これでザラストロを殺せと、激しくアリアを歌い出した。この問答無用の剣幕とコロラチューラの素晴らしさに驚いているうちに立ち去ってしまった。もの凄い拍手で現実に戻り、一人残されたパミーナがナイフを手に呆然としていると、またモノスタトスが現れた。しかしザラストロがそこに現れたので大丈夫。パミーナはザラストロに母を助けてと頼むが、ザラストロは「この聖なる神殿には、復讐を思う人はいない」と優しく歌い聞かせてパミーナを慰めていた。このザラストロのアリアは朗々と優しく歌われて、素晴らしい劇的な効果を上げていた。



    再び、マスクのタミーノとパパゲーノの二人が登場し、パパゲーノが無駄口を言って雷鳴で脅されているうちに、「ここは一滴の水もない」とこぼしていると、婆さんが現れて水を差しだしてくれた。パパゲーノが退屈しのぎに婆さんをからかっているうちに、年齢は18歳と2分だという。恋人はと聞くと、慣れ慣れしくパパゲーノだという。驚いたパパゲーノが確かめようとすると、雷鳴が響いて何処かへ行ってしまった。そこへ天井から三人の童子たちが「ザラストロの国へようこそ」と歌い出し、魔法の笛と銀の鈴を返してくれ、二人にはワインや食べ物の差し入れがあった。お腹が減っていたパパゲーノは、早速、ワインやリンゴにかじりついていたが、タミーノはさりげなく笛を吹き始めた。その笛の音を聞きつけてパミーナが姿を現したが、パミーナはマスクをした冷たいタミーノを見て仰天し、一方のパパゲーノも口が一杯で一言もしゃべれず、パミーナはがっかりして倒れてしまい、「ああ、愛の幸せは永遠に消え去った」と歌っていた。このパミーナの絶望のアリアは、悲しげに宮殿内に響きわたり、タミーノは必死の思いで耐えていた。



   三つの和音が響きわたり、僧侶たちの合唱が折から始まっていたが、彼らは神々への喜びの気持ちばかりでなく、良く聞くとタミーノへの試練に耐えた賞賛の声も歌われていた。一方のパパゲーノは、出口を塞がれて途方に暮れていたが、神官と仲良くなり、ワインにありついてご機嫌になっていた。俺の本当の望みは何だろうと自問していると、そこにあった差し入れの「銀の鈴」から景気良くグロッケンシュピールが鳴り出し、彼は本気で「俺は娘っ子か嫁さんが欲しい」と歌い出した。モノスタトスの一行の一人に鳥の帽子の若い子を見初めており、一人でいるのが嫌になってきたのであろう。歌は三番まであり、元気よく歌っていると、18歳2ヶ月の婆さんが現れて、握手しないとここにパンと水だけで閉じ込められてしまうと脅していた。パパゲーノが手を出して握手すると、あのパパゲーナが現れて、追いかけようとしたが、神官と雷鳴に阻まれた。それ以来、パパゲーノは必死になって宮殿の隅々までパパゲーナを探し求めていた。




 フィナーレとなって、三人の童子たちが明るい三重唱で朝の訪れと太陽が輝くことを予言していたが、うろうろしているパミーナを見つけ様子がおかしいと歌っていた。ナイフを手にした半狂乱の姿なので、三人はタミーノに会わせてやろうとご機嫌を取り、ナイフを取り上げて案内を始めていた。




 一方、険しい岩山の前では鎧甲の二人の衛兵が「苦悩を負ってこの道を行けば」とコラール旋律をそのまま歌っていたが、そこにタミーノが現れ、勇気を出してこれに応えようとしていると、パミーナの声が聞こえてきた。衛兵たちに二人の会話が許され、二人で試練に挑戦することを許されたタミーノは、ここでパミーナと劇的な再会をし、聞こえてきたピッチカートの旋律に乗って、二人は愛と魔法の笛の力によって、試練の道を克服しようと決意した。




    衛兵たちの指図によって、初めに火炎の燃える試練の道から、タミーノが笛を吹きテインパニーが弱く伴奏して、二人はゆっくりと進み始めた。神官たちも三人の童子たちも動物たちも心配そうに見守る中を、二人は燃え盛る火炎の道を通り抜け、無事に戻ってきた。続いて今度は、流水の試練の道。二人は魔法の笛の音とともに歩み始め、山陰の道を通り抜けて、無事、試練に耐えて戻ってきた。心配そうに見守っていた全員に祝福されて、二人は神殿の奥へと進んでいた。






一方、パパゲーノは、折角、一目会えたパパゲーナを探し求めていたが、どうしても見つからない。くたびれ果てて、諦めて首でも吊ろうかと考えていると、上からロープが垂れてきた。誰も声をかけてくれないので、三つ数えたら首を吊ろうとゆっくり数えたが声がない。ロープを首に巻いて、思い切って飛び込んだら、転げてしまい、天井から三人の童子が「銀の鈴」を鳴らしたらと声をかけてきた。「すっかり忘れていた」とばかりに鈴を鳴らすと、箱の中からパパゲーナが顔を出していた。ここでパパゲーノとパパゲーナの劇的な再会と二重唱が始まり、二人の「ぱ、ぱ、ぱ」の歌声に観衆は大喜び。素晴らしい劇的なシーンに「魔笛」を見た喜びを感じていた。



舞台が変わって、モノスタトスと夜の女王の一行が神殿の地下に現れて、神殿を破壊しようと潜んできた。しかし、その前に不気味な物音が聞こえ始め、雷鳴と大音響が起こって、一行は倒されてしまった。舞台は急に明るくなり、全員が集まっている中で、ザラストロが堂々と勝利宣言を行い、イシスとオシリスの神々に感謝を捧げていた。よく見るとタミーノとパミーナが王子と王女の形で祝福されており、パパゲーノや子供たち、三人の童子たち、大勢の動物たちからも歓迎を受けながら劇的な幕切れとなっていた。



    この映像の2000年から私が見た2006年1月頃まで6年間にわたりウィーン国立 歌劇場において上演されたこのロングランの「魔笛」は、この映像で見る限り非常にモダンな「魔笛」であり、ノリントンの音楽もすっきりしており、気になったマレッリ演出も新しいものにしては基本がぶれずに、むしろ親しみやすい演出であると思われた。しかし、私は現地でこの同じ演出を2003年2月および2006年1月と2度も見ており、いずれも舞台がいつも傾いた破壊されたような建物が中心で動いており、その不安定さが災いして落ち着かない状態で舞台を見上げていたという感が強く、折角、本場のウィーンで2度も同じ「魔笛」を見た割には、細部が見えず非常に印象の薄い舞台であった。その理由は現地では、いきなり見た不安定な舞台への戸惑いが解決しないまま、字幕なしで最後まで舞台を見続けて、そのまま記憶にも余り残されずに忘れてしまったためと思われる。




    現地でこのオペラを見たときの解説書を参照すると、このマレッリ演出の舞台の 代表的なパターンとして4葉の写真が掲載されていたが、矢張り破壊された斜めの建物が 共通のベースとなっており、オペラの進行場面・場面に応じて、いろいろな変化が加えら れていた。現地で見たときは、この4葉のパターン図を見ただけで、モダンな近代的な作 りであることは分かるが、どうしてもオペラの進行場面とは結びっかず、理解しようとい う気持ちを萎えさせてしまっていたように思われる。

     今回この舞台を改めて見ると、日本語字幕の有り難さもあって、新規な仕掛け が、多数、用意されていたにも拘わらず、ほぼリブレッド通りに進行しており、決して理 解出来ない舞台ではなかった。しかし、誰もが異様に感じたのは、黒いマスクの人々の不 気味さと、白いマスクの人々の大勢の姿であり、これが何を意味するかを理解するには、 暫く時間がかかっていた。この二つのグループが、いわゆる夜の国と昼の国の人々を表しており、両国の対立状態を暗示させ、時には戦争の状態が続いているような舞台背景になっていた。そして実際に黒いマスクの人々と、白いマスクの人々との戦いの結果、二人がいろいろな苦難を乗り越えて、王子と王女が結ばれて一つの国になり、パパゲーノとパパゲーナの愛が結ばれて皆が幸福になるという新しい「魔笛」の物語が進行していた。

   目についた新規の仕掛けとは、例えば三人の童子たちの活躍ぶりであり、冒頭の岩山の蛇の舞台を子供の遊びの舞台のように暗示させたり、三人がいろいろなところでリブレットにはない現れ方をしていた。宮殿の奴隷たちに女性が含まれており、その一人がババゲーナという伏線も巧みに描かれていた。全員が仮面の人と言うのも異様な仕掛けであろうし、神々に仕えるフリーメーソン的な古い色彩を和らげていた。良く登場した動物たちは、皆温和しく、先行きを心配している平和な観客のようであった。動物たちに加えて、自らバンを吹いて大ふざけするパパゲーノなども子供たちを喜ばせるメルヘン風を強める仕掛けであった。このように不安定な破壊された建物の舞台を余り意識しなければ、目新しい楽しい仕掛けが沢山ある、皆に喜ばれそうな舞台であったと言えよう。

   ノリントンのキビキビした音楽の進め方は、このモダンな舞台にとても合っており、 S-VHSテープ収録にも拘わらず音響が良く、ヘッドフォンで聴いているとデジタルと遜 色のない音の響きがしていた。第二幕第10番のザテストロの合唱付きアリアの次に第19 番の三重唱が移されていたが、進行上は問題がなかった。歌手陣で特筆すべきは、やはり タミーノのシヤーデとバミーナのバンゼであり、この二人の歌と演技の魅力が抜群であっ た。 シヤーデはガーディテーの「魔笛」でもこの役を好演(11-1-3)しており、オッターヴィオでも テイトでも活躍をしている。また、パミーナのバンゼは実にこの役にピタリであり、この 映像では最高の出来のように思われた。このHPでは彼女は、 ケント・ナガノの「イドメ ネオ」のイリヤ役(9-8-3)が印象に残っており、ツェルリーナ役でも活躍していた。

    この舞台のように演出が新しく新規の仕掛けがある舞台ほど、日本語字幕の存在 が理解を助けてくれる典型的な事例のように思われた。本物の舞台と映像とを両方見てい る例はいくつかあるが、この舞台ほど印象が異なった舞台は少ないであろう。「魔笛」で は、この例と逆に、映像で見たムーティの2006年の「魔笛」を1年後にザルツブルグの 音楽祭で見て、演出の一部が変更したと思ったほど印象の違いを認識したことがある。

(以上)(2011/07/10)


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