(懐かしいアナログテープより;バレンボイム指揮エヴァーデイングの「魔笛」K.620)
11-6-3、ダニエル・バレンボイム指揮ベルリン国立歌劇場によるエヴァーデイング演出の東京文化会館における「魔笛」K.620、1997年11月13日、東京文化会館大ホール、

−この映像はオペラ全体を通じて、バレンボイムのじっくりと歌わせる堂々たるベルリン国立歌劇場のドイツ本流のオペラであり、ザラストロの威厳ある支配と、お客さんを喜ばせるメルヘン風の仕掛けも随所にあって、まさにベルリン直輸入の伝統的な「魔笛」であると感じた。今回のエヴァーデイング演出は、背景画が異なっているほか、オーケストラ・ピットの前に花道や踊り場が置かれていたので、別な演出を見ているような変化があった。しかし、舞台の画面が暗すぎてよく見えず、オペラの大舞台が期待出来る映像としては、合格点はつけられないと思われた−

(懐かしいアナログテープより;バレンボイム指揮エヴァーデイングの「魔笛」K.620)
11-6-3、ダニエル・バレンボイム指揮ベルリン国立歌劇場によるエヴァーデイング演出の東京文化会館における「魔笛」K.620、1997年11月13日、東京文化会館大ホール、
(配役)パミーナ;テーナ・キーベルク、タミーノ;エンドリク・ウオットリヒ、ザラストロ;ジョン・トムリンソン、夜の女王;アナ・カメリア・ステファネック、パパゲーノ;ロマン・トレケル、パパゲーナ;シモーヌ・ノルト、弁者;ルネ・パーペ、モノスタトス;ペール・リンドスクーグ、ほか、
(1998年02月01日、NHKBS2クラシック・ロイヤルシートをS-VHSテープに収録、)

   第三曲目は、これも古いS-VHSテープによる映像で、バレンボイム指揮によるベルリン国立歌劇場の日本公演のエヴァーデイング演出の「魔笛」である。この映像は、1997年11月13日、東京文化会館大ホールで収録されており、このエヴァーデイング演出は、 サヴァリッシュとバイエルン国立歌劇場の映像の「魔笛(1983)」(10-11-3)とほぼ共通した伝統的な演出で、これが当時のドイツの主要都市の「魔笛」の標準スタイルであったことが理解できよう。出演者たちはザラストロがワグナー歌手のトムリンソンを始め、現在はドイツを代表するザラストロ役のルネ・パーペが弁者を歌い、この歌劇場を代表するロマン・トレケルがパパゲーノ役の楽しめる布陣であった。バレンボイムのモーツアルトオペラは、「フィガロの結婚(1999)」(3-4-1)および「コシ・ファン・トッテ(2002)」(3-1-1)に続くものであるが、この日本公演が一番古い演奏であった。



    バレンボイムがオーケストラピットに入場し客席で挨拶をしてから、直ちに序曲がゆっくりしたテンポの三つの大和音で始まった。この序奏部は驚くほど遅いテンポで進んでいたが、やがて弦の合奏のアレグロの主部に入ってやっと早くなり、管が加わってから勢いを増し、ベルリンフイルの堂々たる厚みのあるオーケストラの響きが聞こえてきた。中間部での三和音のあとに画面では出演者の紹介が始まっていたが、これ以降はバレンボイムの指揮ぶりが序曲の間中、写し出されていた。
    幕が開いても画面は暗く、「助けてくれ」と叫んで白いガウン姿のタミーノの逃げる姿と不気味な大蛇の青い目が光っているのがかすかに見えていた。そこへ三人の従女のかけ声とともに大蛇が倒され、気絶したタミーノが倒れていた。三人の従女が勝利を宣言し、タミーノを覗き込み、三人で誰が残るか美しい三重唱で争いながら、結局は三人で女王に知らせに行った。



    タミーノが立ち上がると大蛇が死んでおり、遠くから軽快な序奏とともに笛の音が聞こえ、鳥刺しパパゲーのが陽気に歌いながら登場してきた。笛は自分で吹いていた。タミーノが話しかけると、パパゲーノは死んだ大蛇を倒したのはこの俺だと自慢しており、駆けつけた三人の従女に咎められ、タミーノにはパミーナの絵姿が渡された。タミーノは、その絵姿を見て「何て美しい姿」と明るく歌い出した。これもゆっくりしたテンポでじっくりと歌われていたが、後半の部分では、よく見ると暗闇の中にパミーナの姿が見え隠れする演出であった。三人の従女からパミーナが浚われたことを知り、タミーノは何としても助け出そうと決心をした。




    そこへ暗闇の中で夜の女王が高いところから姿を現し、「愛しい息子よ」と朗々と歌い出し、「おまえこそ娘の救い手だ」と速いテンポのコロラチューラの技巧のさえを見せていた。暗い演出が女王をより神秘的な存在にしていた。口がきけないパパゲーノが「ム、ム、ム、」と悲鳴を上げて五重唱が始まり、三人の従女に助けられ、彼女たちは女王様の贈り物として、王子には魔法の笛を、パパゲーノには銀の鈴が贈られて、三人の童子たちの道案内でザラストロの国へと出発した。




    場面が変わって、パミーナがモノスタトスに捕まって城内は大騒ぎ。モノスタトスとパミーナの三重唱が始まっていた。そこへパパゲーノが顔を出しパミーナを見つけて近寄るとモノスタトスに鉢合わせ。お互いに「悪魔だ!」と逃げ去るが、パパゲーノはパミーナに近づいて事情を話し、直ぐに仲良くなった。そして二人は男と女の愛の賛歌とも言える美しい二重唱を歌い出した。



    フィナーレに入って、タミーノが馬に乗った三人の童子たちに案内されて、ザラストロの宮殿の前庭に到着した。タミーノはパミーナを助けようと決意を固め、宮殿に入ろうとして「下がれ!」と脅されたがひるまず、出てきた弁者と押し問答。ザラストロは聖人で、お前は女に騙されていると言われ、途方に暮れていた。思わず「パミーナは?」と口に出すと、見えない声が聞こえてきて、「パミーナは生きている」という返事。





    タミーノは感動して、感謝のつもりで魔法の笛を吹くと、動物たちが沢山出てきた。喜んでもっと吹いているうちに、パパゲーノの笛が応えてきた。勇気100倍になり、パパゲーノたちを見つけようとしているうちに、そこに現れたパパゲーノとパミーナがモノスタトス一行に捕まってしまった。そこでパパゲーノが手にした銀の鈴を鳴らしてみると、ラ、ラ、ラ、の美しい音楽が鳴り出して、一行はどこかへ行ってしまっていた。




    そこへザラストロ万歳の大合唱が始まり、ザラストロが登場してきた。パミーナは急にしっかりした王女の口調で、正直に真実を語るとザラストロは良く分かっていた。しかし、自由を与えることは出来ないと釘を刺していた。そこへモノスタトスがタミーノを連れて登場し、タミーノとパミーナが初めて顔を合わせていた。しかし、モノスタトスは処罰され、タミーノとパパゲーノは試練を受けることになって宮殿に導かれ、ここで第一幕は終了となっていた。ここで、出演者たちは何度も出てきて、万雷の拍手を浴びていた。




第二幕は厳かな行進曲の前奏で開始され、舞台では大勢の神官たちが入場を始めていた。ザラストロはタミーノが試練を受けたいと望んでいることを皆に告げ、三つの和音が響いてから、「イシスとオシリスの神に、彼らに叡智の心を与えたまえ」とゆっくりと歌い出した。ザラストロの敬虔な落ち着いた調べは感動的であり、ベルリンから来た合唱団たちによる神官たちの合唱の祈りの声も間に挟まれて、いかにも「魔笛」らしい荘厳な宗教的な行事のように見えた。
    一方、暗闇の中のタミーノとパパゲーノは、雷鳴により脅されて大騒ぎしていると、二人の神官が登場し、試練を受けることを確認し、沈黙と女の企みに気をつけろと二重唱で教えていた。パパゲーノは自分に似たパパゲーナに会えることを楽しみに試練に加わった。早速、暗闇の中から三人の従女が現れて、頻りに誘う五重唱が始まっていたが、パパゲーノは何とか頑張り通したので、三人は諦めて消え去った。





    暗闇の中でモノスタトスが登場し、月明かりの中で寝込んでいるパミーナを発見して、「惚れれば楽しいさ」と早口のアリアを歌い出していたが、いたずらをしようとして折から現れた夜の女王に見つかって、「お下がり!」と一喝されてしまった。気のついたパミーナに女王はナイフを手渡し、「ザラストロに復讐しなければ、お前は私の娘でない」とコロラチューラで歌う華やかなアリアを歌って立ち去っていった。一人呆然とナイフを持って立ちすくんでいたパミーナは、モノスタトスに脅されていたが、ザラストロに一喝されて逃げ去った。母親の罪を許してやって欲しいと訴えるパミーナに、ザラストロは慰めるように「この聖なる殿堂には、復讐を思う人はいない」と歌い出し、舞台から花道にまで出て来て、この美しいアリアを朗々と歌っていた。



    再び暗闇の中で神官たちがここに残れと立ち去ると、タミーノとパパゲーノは退屈してしまう。パパゲーノがここには「水もない」とこぼしていると、黒装束の婆さんがが現れて水を差し出す。パパゲーノが適当にからかっていると、18歳と2分の若い婆さんの恋人は、ここにいるパパゲーノであると分かって、さあ大変。しかし、暗闇と雷鳴のお陰でこの場は救われた。そこへ三人の童子が現れて、「ザラストロの国にようこそ」と歌い出し、魔法の笛と銀の鈴を手渡し、ワインや食べ物を手渡して、沈黙を守るように注意していた。タミーノが思わず笛を吹くと、それを聞きつけてパミーナが話しかけてきた。しかし、男二人は注意されたばかりであるので、相手になるわけにいかない。パミーナは悲しげに「ああ、確かにもう終わりなのね」と歌い出し、無視されるのは死ぬほどつらいと恨めしそうに歌っていた。パパゲーノも今回は立派だった。
     三つの和音が鳴り響き、神官たちが集まって、神官たちの合唱が始まっていた。合唱は、「イシスとオシリスの神よ、何という喜び」と祈っていたが、しかし良く聞いていると、「若者は我らの務めに捧げるであろう」と歌っていた。ザラストロが登場し、「王子よ、冷静であった」と語り、パミーナを呼んで別れの三重唱が始まっていた。別れがつらいと歌う二人に、何事も神々の意思だと歌うザラストロのそれぞれの心を歌う見事な三重唱になっていた。



     一方、パパゲーノはワインにありついてご機嫌であったが、思いついたように銀の鈴を振るとグロッケンシュピールが明るく鳴り出し、「パパゲーノは若い娘が欲しいな」と有名なアリアを歌い出した。調子に乗って歌ってるうちに、動物たちもワインやつまみの差し入れをし、お客さんを喜ばす愛嬌のあるアリアであった。そこへ「私だよ、お兄さん」と例の婆さんが現れ、しつこく握手を求めるので手を出すと、あら不思議や、婆さんが黒頭巾をとると若いパパゲーナが現れた。パパゲーナと名を呼んで追いかけようとしたが、神官に遮られもう一息で逃げられてしまった。



     フィナーレに入って、三人の童子たちが「朝の訪れを告げる太陽が輝く」と明るく歌い出していたが、彼らは様子がおかしいパミーナを見つけて近づいた。パミーナは母からの短剣を持ち、悲しみの余り自殺しそうな様子でふらふらしていたので、タミーノに会わせてあげるとご機嫌を取り、隙を見てナイフを取り上げ、近づいてきた船に乗ってタミーノを探しに出かけた。




場面が変わって、暗闇の中に岩山がそびえ、二人の衛兵がこの岩山を守っており、「この道を来たるもの、火、水、大気、そして大地で清められる」とコラール旋律で歌っていた。タミーノが駆けつけて、これに勇敢に応えて進もうとしていると、パミーナの声が遠くから聞こえてきた。二人は会話が許され、二人は「私のタミーノ」と互いに劇的な再会をしてから、ピッチカートの伴奏に乗って、二人の愛と魔笛の力で試練の道を克服しようと相談した。パミーナが案内をしタミーノが笛を吹きながら、二人は初めに「火の洞窟」をクリアした。二人は元気で戻ると、続いて「水の洞窟」に入り、元気に戻ると二人は大合唱で勝利を祝福され、神殿へと迎えられていた。




     一方、場面が変わって、一目見たパパゲーナを探して、パパゲーノが暗闇の中を駆け回ってきたが、どうしても捕まらない。遂に諦めて首吊りでもしようかと思っていたら首吊りのロープが上から下りてきた。1、2、3、と数えてから首を吊ろうとしても誰も助けてくれない。諦めて思い切って首を吊ろうとしたときに、三人の童子が現れて、銀の鈴を鳴らせという。忘れていたとばかりに、パパゲーノが勢い込んで鈴を鳴らすと、可愛いいパパゲーナが姿を見せ、二人は劇的な「ぱ、ぱ、ぱ、」の再会となった。この演出では、小さいパパゲーノとパパゲーナが沢山現れて、観客の笑いを誘っていた。





     暗闇の中で夜の女王の一行がモノスタトスの案内で、ザラストロに復讐しようと神殿の地下に忍び込んで来たが、それを警戒し待ち構えていた一行による雷鳴や稲妻により一撃で地下深く沈められていた。ザラストロは「太陽の光」の勝利宣言を行い、集まった一同による勝利の祝福の大合唱が始まっていた。広場の中央には、若き王子のタミーノとパミーナが揃って登場しており、よく見るとザラストロと夜の女王が揃って、若い王子と王女にガウンをかけて祝福しているように見えた。そして舞台を賑わしてきた動物たちや、パパゲーノやパパゲーナや大勢の子供たちも全員集合で、大勢が見守る中で、勝利と若い王子と王女の誕生を祝って、賑やかな大団円となっていた。



         幕が下りてからも、出演者たちのカーテンコールが何回も何回も繰り返されており、日本的な熱狂ぶりだと思っていたが、最後に、バレンボイムのアイデアなのであろうか、ベルリンフイルのオーケストラの一行全員が舞台の上にあがり、バレンボイムを中央にして全員で挨拶を繰り返していたが、これは初めて見る光景であり、面白く思った。



    この映像はバレンボイムの実にゆっくりしたテンポの序奏で開始されたが、オペラ全体を通じて、じっくりと歌わせる堂々たるベルリン国立歌劇場のドイツ本流のオペラであり、ザラストロの威厳ある支配と、お客さんを喜ばせるメルヘン風の仕掛けも随所にあって、まさにベルリン直輸入の伝統的な「魔笛」であると感じた。バレンボイムとベルリンフイルの関係は、彼のピアノ協奏曲の弾き振りや長く務めた音楽監督により築かれており、オペラの世界でもワグナーやモーツアルトで彼の活躍の記録が残されている。今回の指揮ぶりでは、他のオペラ以上に予想よりも遅いテンポで歌わせており、実に安定感のある演奏であると思った。

今回のエヴァーデイング演出は、このHPでは2度目であるが、背景画が異なっているほか、今回はオーケストラ・ピットの前に花道や踊り場が置かれていたので、衣装や小道具が似ている程度で、別な演出を見ているような変化があった。これは映像のせいもあると思われるが、非常に暗い画面で舞台が仕切られており、花道に出てくる出演者たちだけにライトが当たる照明効果にも影響されており、この見えない画面が、夜の女王やフリーメーソン儀式などの魔笛の神秘性を、意識的に高めているとすら感じさせた。そのため、本文における写真による舞台紹介は、写りが悪いので成功していない。

    歌手陣では、トムリンソンのザラストロ役が実に朗々とした歌唱力で他を圧倒しており、実に印象的で、まさにこの歌劇場の重鎮という感じがした。パパゲーノのトレケルもなかなかの好演で日本語もかなり覚えていた。彼はバレンボイム・ベルリンの「フィガロ(1999)」では伯爵役であり、また「コシ(2002)」ではアルフォンゾ役をこなしており、この歌劇場の中心人物でもある。今この歌劇場のバスで活躍するルネ・パーペは、弁者として売り出し中の段階であろうか。まだ若くて売り出し中に見えた夜の女王のステファネスク、パミーナのキーベルク、タミーノのウオットリヒの三人は、「オペラのすべて2001」でチェックしたが、残念ながら名前は見当たらなかった。

         もう少し舞台が明るく、これがベルリン国立歌劇場だと思わせる映像が期待されたが、画面が暗すぎてオペラの大舞台が期待出来る映像としては、合格点はつけられず、NHKの失敗映像なのであろう。出演者たちは健闘していたので、誠に残念に思われた。

(以上)(2011/06/22)


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