(最新DVD報告;1954年の3つのオペラのカラー映像抜粋、モラルト指揮ウイーンフイル)
11-4-5、「不滅のモーツアルト」1950年代のウイーンのモーツアルト・アンサンブルによる「後宮」K.384、「フィガロの結婚」K.492、「ドン・ジョバンニ」K.527の抜粋、1954、ウイーン、カラー・モノラル、

−このDVDの1950年代のウイーンの古き良き時代のオペラでは、ドイツ語で歌われるため少し聴いた感じが異なるが、この映像のように母国語による舞台劇になると歌手の動きや反応が、俄然、生き生きとして来るようであり、それをこの映像で目で見られる意義は非常に大きい。残念ながらこの映像はライブ収録ではないが、生誕200年記念を狙ったカラーフイルムによる実に貴重な映像であろうと思われる−

(最新DVD報告;1954年の3つのオペラのカラー映像抜粋、モラルト指揮ウイーンフイル)
11-4-5、「不滅のモーツアルト」1950年代のウイーンのモーツアルト・アンサンブルによる「後宮」K.394、「フィガロの結婚」K.492、「ドン・ジョバンニ」K.527の抜粋、
1954、ウイーン、カラー・モノラル、
(2011年04月02日、ニホンモニター・ドリームライフDVD、DLVC-1224)

この映像は、モーツアルテイアン・フェラインの第303回2011年4月例会で、講師の 田辺秀樹氏(一橋大学大学院教授)が、「1950年代ウイーンのモーツアルト・オペラ映像を見る」と題されて、DVDを会場で見ながら講演をなさったものである。以下はフェラインの事務局レターに載せた先生の講演の要旨であり、後半にはDVDの印象記を、写真とともに掲載するものである。

A、事務局レター掲載の、講演要旨、 

第303回2011年4月例会「1950年代ウイーンのモーツアルト・オペラ映像を見る」      

  田辺秀樹氏(一橋大学大学院教授)

   例会のご案内には、先生から次のようなとても楽しそうなメッセージを頂いていた。
「つい最近、ドリームライフ社から『不滅のモーツァルト』という注目すべきDVDが発売されました。これは1950年代ウィーンの伝説的な《モーツァルト・アンサンブル》によるモーツァルト・オペラの抜粋映像集です。
  ヴィルマ・リップ、エミー・ロ−ゼ、ヒルデ・ギューデン、ヒルデ・ツァデック、エーリヒ・クンツ、パウル・シェフラー、ルートヴィヒ・ヴェーバー・・・・といったオールド・ファンなら感涙ものの名歌手たちが、『後宮からの逃走』、『フィガロの結婚』、『ドン・ジョヴァンニ』の名場面・名アリアを歌い演じているカラー映像です。オーケストラはもちろんウィーン・フィル、指揮はモーツァルト・オペラに定評のあるルドルフ・モラルト。LPや復刻CDでは聴いたことがあっても、映像で見るのはどれも初めてのものばかりです。若きヒルデ・ギューデンによるケルビーノやツェルリーナ、エミー・ローゼのスザンナやブロンデ、クンツのフィガロとレポレッロなど、どれもこんな映像があったのかと感激せずにはいられない、まさにお宝もののヴィンテージ映像です。
  半世紀前のウィーンのモーツァルト・オペラの様子を伝えるこのDVDを皆さんにご紹介しながら、モーツァルト・オペラをめぐるいろいろなことについてお話ししてみたいと思います。」



  1950年代ウイーンといえば、戦災復興が精力的に開始されていた時期で、文化面でも古き良き時代を懐かしむ活動が盛んになりかけた時期。ナチズムの洗礼を受けなかったヨーゼフ・クリップスを中心にしたモーツアルトオペラ上演の新しい動きとして伝説的な《モーツァルト・アンサンブル》があり、ウイーンの人々によるドイツ語のオペラ上演が繰り返されていた。クリップスのほかには、このDVDの指揮者モラルトやカール・ベームが有名でウイーンフイルを指揮し、練り上げられたドイツ語による翻訳オペラであった。
舞台装置などは簡素化されていたが、レコードでしか知らぬ有名歌手たちにより、室内オペラ的にアンサンブルの良さを身上とした、謂わば意気の合った舞台を楽しむことが出来たとされている。今ではその一部をLPでしか聴けないが、これはその映像記録である。

  このドイツ語圏のオペラの動きを破壊したのは、カラヤンが1980年代にオペラ界にグローバリズムを持ち出して、全世界から著名なオペラ歌手を動員するようになって以来、オペラ界では作曲された言語で歌う原語主義がザルツブルグ音楽祭などで流行しだしてからと言われ、現在ではウイーンは元よりドイツ語圏の大都市でも、大劇場ではダ・ポンテオペラはイタリア語になっている。
  先生からは、グローバリズムによるグランドオペラ的な演技よりも歌だけの大雑把なオペラから、母国語によるオペラ上演の劇の面白さについて、「こんにゃく座」のフィガロの映像を例にひと講釈があり、母国語によるオペラの重要性の話があった。モーツアルトも「にせの女庭師」において、モーツアルトが自らザルツブルグに来たモーザー一座のためにドイツ語に書き直したとされるドイツ語版が残されている。

     このDVDの古き良き時代のオペラでは、ドイツ語で歌われるため少し聴いた感じが異なるが、この映像のように母国語による舞台劇になると歌手の動きや反応が、俄然、生き生きとして来るようであり、それをこの映像で目で見られる意義は大きいというお話しであった。残念ながらこの映像はライブ収録ではないが、実際、歌ばかりでなくブロンデやスザンナ役のエミー・ローゼの生き生きした動き、フィガロやレポレロ役のエーリヒ・クンツの元気溢れる庶民的な風貌と表情、伯爵やドン・ジョバンニ役のパウル・シェフラーの貫禄のある風采と態度、ケルビーノやツエルリーナを演じたヒルデ・ギューデンの美貌と格好の良さ、などなどを見るにつけ、生誕200年記念を狙ったカラーフイルムのようであるが、実に貴重な映像であろうと思われた。当日の資料として、先生より3オペラの配役の資料を配付されたが、その資料に21曲の曲目リストを追加し、フェラインのHP用に記録資料として残しておきたい。


  最後に、一同が楽しみにしていた先生のウイーンのピアノ音楽は3曲。ハプスブルグ家の繁栄を懐かしむ「懐かしの1830年代」、20世紀初めに流行ったシュトルツの「プラータ公園の春」、ベナツキーの白馬亭から「またあそこに行きたい」の3曲であった。 (文責;倉島 収)

B、ウイーンの《モーツアルト・アンサンブル》による3つのオペラ抜粋集、

1、『後宮からの逃走』K.384;モラルト指揮、ウイーンフイル、


(配役)                1)序曲
コンスタンツェ:ヴィルマ・リップ、 2)アリア「優しく接して」(ブロンテ)
ベルモンテ:ルドルフ・クリスト、    3)二重唱「出ていくが、忠告を聞け」(オスミン、ブロンテ)
ブロンデ:エミー・ローゼ、
ペドリルロ:ぺ一ター・クライン、   4)二重唱「バッカス万歳」(オスミン、ペドリオ)
オスミン:ルートヴィヒ・ウェーバー、   5)アリア「勝利の気分を味わってやるぞ」(オスミン)
演出:ヘルベルト・ヴァニーク、      6)四重唱「ああベルモンテ、愛しい人」(コンスタンツエ、ベルモンテ、ペドリオ、ブロンテ)
舞台美術:ローベルト・カウツキー、


   ブロンテ役のエミー・ローゼは、フィガロの結婚ではスザンナを歌っており、典型的なスプレット役であり、快活で初々しく、機知や機転のきいた振る舞いで、最初のアリアでは乱暴なオスミンを手玉に取っていた。また、続く二重唱では女性の扱いを知らぬオスミンに、お転婆なブロンテがヨーロッパの扱い方を教育するコミカルな二重唱で、オスミンがブロンテに言い負かされてすごすごと退場する有様が可笑しかった。    バッカス万歳の二重唱は、このオペラの最も楽しい二重唱で、アラーの神を恐れながら飲んでいたオスミンが、酔うにつれて薬が効いて元気になり、終わりには酒神バッカスを讃えて大声で万歳となる楽しい二重唱。また続くアリアは、逃亡しようとした4人を捕まえて、大威張りで勝どきを上げるアリアで、実にオスミンらしく歌われていた。



   第二幕のフィナーレに当たる四重唱は、二組の恋人たちが再会を喜び合うアレグロの部分で始まり、離れていた間に噂から恋人の貞節を疑い反発されるアンダンテの部分に続いて、男達が許しを請い女達が許しを与えるアレグロ・アッサイの部分を持つ愛の喜びを歌う四重唱。やや型通りであったが、主役のベルモンテやコンスタンツエも顔を出して、明るく賑やかに歌われていた。
   この少ない場面だけでも、このオペラのコミカルな面白さが伝わってくる抜粋集であった。


               2、『フィガロの結婚』 K.492、:モラルト指揮、ウイーンフイル、

(配役)              7)序曲、
伯爵:パウル・シェフラー、    8)レチタとアリア「自分が自分でわからない」 (スザンナ、ケルビーノ)
伯爵夫人:ヒルデ・ツァデク、   9)三重唱「なんと言うことだ」(伯爵、バジリオ)
スザンナ:エミー・ローゼ、    10)アリア「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」(フィガロ)
ケルビーノ:ヒルデ・ギューデン  11)アリア「恋とはどんなものかしら」(ケルビーノ)
バジーリオ:ぺ一ター・クライン  12)二重唱「なぜ今まで私の思いを」(伯爵、スザンナ)
フィガロ:エーリヒ・クンツ、   13)二重唱「夕方の優しい風が」(伯爵夫人、スザンナ)
演出:オスカー・F・シュー、   14)アリア「早くいらして、愛しい人」(スザンナ)
舞台美術:カスパー・ネーアー、 





   序曲に次いで最初はケルビーノのアリア、初めて映像で見るヒルデ・ギューデンが、女性さえ見ればソワソワする色気づいた少年ケルビーノの役であるが、さすが美人で色っぽくピッタリであった。しかし、やや動きが少ないのは時代のせいでやむを得ないかと思う。続いて伯爵が突然現れてあわてふためいて隠れたケルビーノが、伯爵の思わぬ仕草で椅子の上で発見されて大爆笑。それを見ていたバジリオに「コシ・ファン・トッテ」と言われてしまって大慌てのスザンナが加わった賑やかな三重唱であった。続いて連隊の士官に任命されたケルビーノの赴任を祝って別れを惜しむフィガロのアリア「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」が力強く歌われて、第一幕の主要部分が巧みに演じられ歌われていた。







       後半は第二幕からはケルビーノのアリア、第三幕からは冒頭のスザンナと伯爵の二重唱とスザンナと伯爵夫人の「手紙の二重唱」、第四幕からは伯爵夫人に化けて歌うスザンナのアリアが歌われて、イメージ通りの伝統的なスタイルの歌と舞台であった。個々のアリアでは現代の歌い手に叶わないが、古き良き時代を偲ばせる優雅なアンサンブルの良さが魅力的な映像であると感じさせた。





3、『ドン・ジョヴアンニ』K.527、 :モラルト指揮、ウイーンフイル、

(配役)                 15)序曲、
ドン・ジョヴァンニ:パウル・シェフラー、 16)導入部「朝から晩まで」(レポレロ他4名、)
ドンナ・アンナ:カルラ・マルティニス、  17)アリア「カタログの歌」(レポレロ)
ドンナ・エルヴィーラ:ヒルデ・ツァデク、 18)二重唱「お手をどうぞ」(ジョバンニ、ツエルリーナ)
騎士長:ルートヴィヒ・ウェーバー、    19)二重唱「誠に敬愛なる石像様」(レポレロ、ジョバンニ)
ツェルリーナ:ヒルデ・ギューデン、    20)フィナーレ「食事の用意が出来た」
レポレッロ:エーリヒ・クンツ、  21)フィナーレ「ドン・ジョバンニ!」  ジョバンニ、レポレロ、エルヴィーラ、騎士長)
演出:ヘルベルト・ヴァニーク、
        舞台美術:ローベルト・カウツキー、



         序曲に続けて導入部の前奏が続き、レポレロがブツブツ歌い出してから、ドンナ・アンナとドン・ジョバンニが争う二重唱になり、レポレロが加わって見事な三重唱になっていると、そこへ騎士長が登場。オーケストラが決闘のシーンを写実的に現してから、騎士長の虫の息の三重唱で息絶えるまで一気に進んでいた。





   続いて、このオペラでは欠かせないレポレロの「カタログの歌」がじっくりと歌われ、シェフラーとギューデンによる「お手をどうぞ」の二重唱が歌われて、二人がその後どうなるかが気になる抜粋版であった。





   第二幕では石像を前にした墓場の場で歌われるレポレロとドン・ジョバンニの二重唱であり、石像が頷いたり口を開く最も演出が難しい場面が、リブレット通り巧みに演出され収録されており、これは貴重な映像であろう。また、ドン・ジョバンニの食卓の場面から地獄落ちに至る第二幕のフィナーレの部分は、ほぼ全体が収録されており、石像とドン・ジョバンニとの迫力ある対決の場面が展開されていた。特に、映画だから出来る堂々たる石像の登場な始まり、死をも恐れずに石像と握手し、断固として石像を拒絶する勇気あるドン・ジョバンニの態度や地獄の炎に飲み込まれる姿は圧巻であり、数ある映像の中でも名場面であろうと思われる。なお、地獄落ちの直後に幕が下りてそのまま映像が終わっていたが、このモーツアルト・アンサンブルの頃の時代では、最後の六重唱がどう扱われていたかいささか気になるところであった。

(以上)(2011/04/20)


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