(懐かしいアナログテープより;サヴァリッシュ指揮・江守演出の「魔笛」K.620)
11-4-3、サヴァリッシュ指揮NHK交響楽団による江守徹演出の東京公演の「魔笛」K.620、1991年10月29日、東京文化会館、日独共同製作、

−サバリッシュの思い通りに進行したN響の「魔笛」は、ゆっくりしたテンポで悠々と進み、指揮者の温和な性格を反映したわれわれにも好ましい演奏になっていた。とても分かりすい演出と素晴らしい音楽で、これは後世にも残る「魔笛」であろうと感じていたが、20年後の今、改めて見ても、地震と津波と原発による破壊された姿を見た私には、この「魔笛」の太陽の国の若いエネルギーと叡智と徳が、今まさに必要であることを生々しく痛感しながら、久し振りでこの映像を楽しんだ。 −

(懐かしいアナログテープより;サヴァリッシュ指揮・江守演出の「魔笛」K.620)
11-4-3、サヴァリッシュ指揮NHK交響楽団による江守徹演出の東京公演の「魔笛」K.620、1991年10月29日、東京文化会館、日独共同製作、
(配役)パミーナ;ドンナ・ブラウン、タミーノ;ヘルベルト・リッパード、ザラストロ;クルト・モル、夜の女王;エリザベス・カーター、パパゲーノ;アンクレート・ヘム、パパゲーナ;フランシス・ルーシー、弁者;多田羅迪夫、モノスタトス;ウイルクリート・ガームリヒ、三人の従女;永井和子、永田直美、渡辺美佐子、衣裳;石井みつる、衣装;コシノ・ジュンコ、照明;吉井澄雄、
(1991年11月30日、NHK教育TVの放送をS-VHSテープに収録、)

   4月号の第三曲目は、懐かしいアナログテープより、サヴァリッシュ指揮・江守徹演出の1991年10月に上演された東京文化会館における「魔笛」K.620である。この映像は、NHKモーツアルトイヤー1991スペシャルと題されており、指揮者のサヴァリッシュや主要歌手は西ドイツから来ており、演出が日本人の江守徹という両国の合作となったものである。丁度、20年前の舞台であるが、記憶に残っていたり、この舞台を見たという方もおられるに違いない。




   冒頭にザラストロ役のクルト・モルが、インタビユーに応じており、去る5月に江守氏とミュンヘンで会い、10月の演出舞台のスケッチを見て表現の多様さに魅せられた。テーマは破壊された世界若しくはその秩序の回復であり、異なる地域や文化圏の人々を一堂に集め、華道や舞踏など日本の要素を西洋の作品に結合させた見事な演出であると語っていた。その後、レハーサル風景の映像があり、サヴァリッシュや江守徹の語りがあってから、舞台が始まっていた。原爆ドームがイメージされた地球の破壊の舞台を記憶している方が多いであろう。当時は素晴らしいと感動したこの懐かしい舞台を、改めて見直すことを非常に楽しみに思っていた。




   破壊された地球の姿を描いた幕絵を背景にサバリッシュが登場し、直ちに序曲が始まった。サバリッシュは実にゆっくりしたテンポで序奏部を進め、本体のアレグロに入っても慎重にオーケストラを進めており、その間に不気味な幕絵がクローズアップされて写されて、破壊からの復活がテーマであることを印象づけていた。幕が上がると岩山が聳え、タミーノが矢を射ったり逃げ回ってたりしていたが、怪獣が大きな口を開けて出てきたところで、三人の従女が銃で倒してしまっていた。従女たちは気絶したタミーノを「私が見張る」と女らしい言い争いをして見事な三重唱になっていた。



   女達が立ち去ると目覚めたタミーノが死んでいる怪物を見て驚いていると、笛の音が聞こえて、奇抜な格好をしたパパゲーノが登場し、鳥刺しのアリアを歌って上機嫌。タミーノに怪物が死んでいることを聞かれ、俺が殺したと嘘をついたので、三人の従女が口枷をはめ、タミーノにはパミーナの絵鏡を渡していた。「何と美しい姿」と驚いたタミーノが歌い出し、「この思いが恋なのか」と素晴らしいアリアになっていた。


   ザラストロに掠われたと聞いて助けようと決意をすると、大きな岩山が裂けて夜の女王が突然に登場。女王はレチタテイーボとアリアで「助けて」とタミーノに救いを求め、アリアの後半には素晴らしいコロラチューラの連続となっていた。



「ム、ム、ム、」の五重唱が始まり、タミーノには夜の女王の贈り物として魔法の笛を、渋っていたパパゲーノには銀の鈴が与えられ、パミーノを助けに行くことになった。上を見上げると三人の童子が舟で迎えに来ており、出発となった。    場面が変わってパミーナがモノスタトスに捕らえられていると、そこへパパゲーノが忍び込んできてモノスタトスと鉢合わせ。パパゲーノが夜の女王の使いだと言ってパミーナに近づき、直ぐ仲良くなって二人は「愛を感じられる男性なら」と美しい二重唱を歌い出す。パパゲーノはパミーナに直ぐパパゲーナが見つかると励まされていた。


   フィナーレに入って、三人の童子の舟に乗せられてタミーノが宮殿の前に登場。童子たちから不屈・忍耐・沈黙の教えに従って、男らしく立ち向かえと諭された。タミーノはパミーナを救おうと覚悟を決め、何とか宮殿に入ると弁者と押し問答。お前は女に騙されていると言われて途方に暮れるが、姿なき声に助けられ「パミーナは生きている」と教わる。

   勇気を出して魔法の笛を吹いてみると、動物たちが出てきて踊り出していた。さらに吹いているうちに、パパゲーノの笛が聞こえてきたので勇気100倍。お互いに探し合っているうちに、パパゲーノとパミーナはモノスタトス一行に捕まってしまった。そこで銀の鈴を鳴らしてみると、モノスタトスたちは踊り出してしまったので二人は大助かり。しかし、そこへザラストロ万歳の合唱が始まって、二人は逃げ隠れ出来ず、パミーナは正直にザラストロと対決しようと開き直っていた。

   ザラストロが広場に登場し大勢の人達が集まっていたが、パミーナは臆することなく王女のように対応し、モノスタトスに連れて来られたタミーノに初めて会い、お互いに全てを理解し合う。ザラストロは全てをよく知っており、モノスタトスを懲らしめるとともに、タミーナとパパゲーノは試練を受けるため目隠しをされて宮殿に向かい、第一幕は終了となっていた。出演者たちの歌も動きも良く、堂々たる楽しい舞台であった。


   第二幕に入って、僧侶たちの行進の音楽が始まっていたが、サバリッシュの姿が続けて写されていた。僧侶たちがザラストロの前に集まると幕が開き、背景はまさに廃墟であった。ザラストロはタミーノに試練を受けさせることを説明して皆の了解を得て、イシスとオシリスの神々への祈りを捧げ、僧侶たちの合唱が続いていた。


   場面が変わって廃墟の中の真っ暗闇にタミーノとパパゲーノが登場するが、雷鳴の轟きでパパゲーノは腰を抜かしていた。二人の僧侶が登場し、パパゲーノもパパゲーナに会えると聞いて試練を受けることになり、沈黙を守り、女の企みに気をつけろと注意されていたが、僧侶たちの二重唱は省略されていた。そこへ早速三人の従女が現れ、五重唱になって男達を誘うが、タミーノがパパゲーノに注意しながら頑張って、事なきを得た。一方、モノスタトスが登場。月明かりでパミーナが寝入っているのを見つけて、「惚れれば楽しいさ」と早口のアリアを歌いいたずらしようとしていたが、突然に夜の女王が登場したので逃げ去った。



  夜の女王は、パミーナの裏切りを知り、ナイフを手渡してザラストロを刺さなければ私の娘ではないと責め、後半ではコロラチューラの技巧を示しながら復讐の神々に祈りを捧げて立ち去った。パミーナはナイフを持って途方に暮れていると、モノスタトスがナイフを取り上げて脅し始めた。そこへザラストロが登場してモノスタトスを一蹴し、母を助けてと泣きつくパミーナを優しく抱きかかえ、「この聖なる宮殿には復讐という言葉はない」と歌って慰めていた。



   再びタミーノとパパゲーノが試練を受けるため暗闇の廃墟に登場。パパゲーノは水が飲みたくても何もないと文句を言っていると、婆さんが水を差しだしてくれた。退屈しのぎに話しかけると、歳は18歳と2分だという。恋人はいるかとからかっているうちに、相手がパパゲーノだと言われてビックリ。名を聞こうとすると雷鳴に邪魔されて婆さんは逃げ出してしまっていた。また、暗闇の中で三人の童子が「ようこそ、ザラストロの国へ」と三重唱で登場し、食事を手渡すと同時にタミーノには魔法の笛を、パパゲーノには銀の鈴を手渡して、沈黙を守れと忠告し励ましていた。タミーノが笛を吹くと、それを聞きつけて物影からパミーナが駆けつけてきた。さあ大変。タミーノは尻込みするばかり、パパゲーノもリンゴを頬張って口がきけない。パミーナは無視されるのは死ぬほど辛いと「ああ、もう終わりなのね」幸福が永遠に去っていくとアリアを歌っていたが、二人の反応がなく悲しげに立ち去っていった。
   遠くで三つの和音が響き、僧侶たちが集まっていて、静かに「イシスとオシリスの神々への祈り」の合唱が聞こえてきた。しかし良く聞くと彼らはタミーノを讃えており、若者はやがてわれわれの任務に加わるだろう」と歌っていた。そこへザラストロが登場し、タミーノには良くやっているがまだ二つの試練があると言い、パミーナと別れを告げさせるため彼女を呼び寄せた。二人は再会するものの、試練に向かおうとするタミーノ、別れを告げるパミーナ、彼女を励ますザラストロがそれぞれの心を歌う素晴らしい三重唱となっていた。



暗闇の中でパパゲーノがタミーノを探しているが見つからない。どこへ行こうとしても「下がれ」と言われ、途方に暮れて思わず「グラス一杯のワインを飲みたい」と言うと、目の前の池の水がワイン。驚いて飲んでいると次第に心が落ち着いてきた。本当に欲しいものは何だろうと考えていると、懐の銀の鈴が手に触れた。思わずグロッケンシュピールを鳴らしてみると、美しい音色とともに本当に欲しいものが分かってきた。そして調子よく「おいらは恋人かお姉ちゃんが欲しい」と歌い出した。「やさしい小鳥さえいてくれたら、わしは全く有頂天」と歌われるパパゲーノのアリは軽快で三回も繰り返されていた。そこへ例の婆さんが現れ握手しないと大変なことになると脅され、思わず握手をすると若いパパゲーナに変身。しかし、僧侶たちは名乗るのはまだ早いと彼女を隠してしまった。パパゲーノは、これからパパゲーナを探してうろつき廻っていた。



   フィナーレに入って三人の童子が「間もなく朝の訪れを告げる太陽が輝くだろう」とやさしく三重唱で歌い出した。そこへ様子がおかしいパミーナが姿を見せ、ナイフを持って自殺しそうな素振りを見せていた。三人は上手く近づいてナイフを取り上げ、若者はパミーナを愛しているのだと告げ、機嫌を直してから全員で探しに行こうと立ち去った。



   場所は岩山の宮殿の入口。大勢の守衛たちが警護しており、門の上には二人の衛兵が守っていた。タミーノが到着すると彼等は合唱でタミーノを迎え、「死の恐怖を克服すれば、天に昇ることが出来る」とコラール風に合唱していた。タミーノが「死を恐れずに徳の道を探したい」と告げていると、そこへパミーナが駆けつけてきた。二人は話すことが許され、二人で共に進めるという。



   再会を喜ぶ二人。パミーナは魔法の笛は父が作ったものと言い、私が先導するから笛を吹いてくれと言う。そしてピッチカートの伴奏の下で二人は手を組んで笛の音と共に始めに火炎の燃え盛る道を通り抜けた。そして続いて水が滝のように落下する水流の道を無事通り抜けた。人々は二人の勝利を祝福し、壮大な合唱で二人を宮殿の中へと導いていた。






   場面が変わってパパゲーノが若いパパゲーナを呼びながら必死に探しているが、どうしても見つからない。草臥れてしまい、諦めて会えないのなら首でも括って死んでしまおうと決心した。大きな声で三つ数えてから首を吊ろうと三つ数えても返事がない。諦めて首に縄を掛けたら三人の童子が声を掛け、忘れた銀の鈴を手渡してくれた。すっかり忘れていたとパパゲーノは大喜びし、早速、銀の鈴を鳴らすと、パパゲーノが顔を出し、ここに劇的な「パ、パ、パ、」の二重唱が開始された。二人はここに晴れて顔を見合わせ、抱き合ってお互いを確かめることが出来、嬉しい嬉しい感激の二重唱であった。





   モノスタトスが率いる夜の女王一行の闇の部隊が宮殿の下で様子を窺っていたが、雷鳴と共に一行は地下深く沈められて、画面は突然明るくなり、廃墟の中でザラストロはタミーノとパミーナを引き連れて、太陽の国の勝利の宣言を行っていた。そしてイシスとオシリスの神々に祈りを捧げ、大勢の見守る前でタミーノにガウンを着せ、首長の座を若い二人に譲って、自らは勇退しようとしていた。破壊された国の新しい復興は、若い王子と王女の手に委ねようとするザラストロの深い意図が滲み出るような幕切れであった。





 舞台が終わってから勢揃いでカーテンコールが行われていたが、写真では、夜の女王、サバリッシュ、江守 徹、コシノ・ジュンコたちが手を繋いでご挨拶していた。コシノ・ジュンコの衣裳が、当初は奇抜さを感じさせたが、20年後の今、多くの魔笛を見てきた目には演出の新しさを目立たせており、この舞台にとても調和していると感じさせた。







  また、ザラストロのクルト・モルの写真は、冒頭で述べたインタビユーの時のものであるが、彼はこの舞台のリーダーとして精神的にも、舞台上においても、遺憾なく実力を発揮していると思った。彼は江守氏の演出には感服したと語っており、異なる地域や異なる文化圏の人々を一堂に集め、また華道や舞踊など日本の伝統芸能を西洋の作品に結合させている。これはとても重要なことだ。また、若い二人は試練に勝ったが、ザラストロはこの若い力に次の世紀をまかせたいと感じ取ったと語っていた。



   江守徹氏のインタビユーでは、今年は1991年のモーツアルト・イヤーであるが、20世紀末に人類は壊滅したという設定の下に、来る新世紀には人類は叡智を使って、若い二人や新人類の3人の童子たちが、新しい地球を復興するという願いを込めていると熱心に語っていた。
   一方、N響とのリハーサル風景があり、何度も「魔笛」を振ってきた指揮者サバリッシュさんは、今回の公演での聴衆の反応を興味深く受け取っていると語っていた。江守さんの演出意図を、単に受け身で捉えるのではなく、積極的かつ適切に受け止めていた。つまり、「魔笛」のコンセプトは、近未来に据えており、過去を語るようなものではない。パパゲーノを際立たせたウイーン風の演劇にはしていないし、ザラストロの神性を誉めあげた厳粛な物語にもしていない。弁者の登場する場面の「男の徳」に取り組んでいる。三人の童子が歌う「勇気・忍耐・沈黙」やタミーノが備えている「男の徳」が、愚かな行為によって破壊された世界を救うのに役立つという人間の叡智や勇気が、地球的規模で求められる。それによって2000年の新世紀には新しい世界が生まれるという設定がなされているのですと語っていた。

   弁者の言葉が重要であり、その姿が試練の場にも登場する演出は、エストマンなどの「魔笛」にもあったが、サバリッシュの言葉通り弁者が重要な役割を果たしていた。その反面、「女の企みから身を守れ」とする二重唱が削除されていた。また、二人の衛兵によるプロテスタントのコラール風な二重唱が、大勢の衛兵による合唱になっていたが重々しさを増すために効果があったものと思われる。また、サバリッシュのオーデイションで選ばれたというメインキャストで、若いタミーノやパミーナやパパゲーノなどが活躍していると思っていたが、その後彼等の名がDVDなどに登場しないのが残念であった。

   サバリッシュの思い通りに進行したN響の「魔笛」は、ゆっくりしたテンポで悠々と進み、指揮者の温和な性格を反映したわれわれにも好ましい演奏になっていた。とても分かりすい演出と素晴らしい音楽で、これは後世にも残る「魔笛」であろうと感じていたが、20年後の今、改めて見ても、地震と津波と原発による破壊された姿を見た私には、この「魔笛」の太陽の国の若いエネルギーと叡智と徳が、今まさに必要であることを痛感しながら、久し振りでこの映像を楽しんだ。

(以上)(2011/04/22)


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