(懐かしいアナログテープより;ドロットニングホルム宮廷歌劇場の「コシ」K.588)
11-4-2、アーノルド・エストマン指揮ドロットニングホルム宮廷歌劇場管弦楽団と合唱団による「コシ・ファン・トッテ」K.588、W.Decker演出、1984年、スエーデン、

−この映像は歌劇場を使っていながら拍手や観客の姿が見えないので、やはりライブ公演の記録ではなく、この映像のために劇場をスタジオのように使ってライブ風に収録したものであろう。この映像のねらいは、現代の北欧のドロットニングホルムの宮廷劇場の専属の主役たちが、18世紀の何処かの国の劇場で、仲が良くアンサンブルに優れた楽しい「恋人たちの学校」というオペラを演じて見せたと解釈出来そうであり、これもこのオペラの面白さを示す一つの方向かなと感じさせられた−

(懐かしいアナログテープより;ドロットニングホルム宮廷歌劇場の「コシ」K.588)
11-4-2、アーノルド・エストマン指揮ドロットニングホルム宮廷歌劇場管弦楽団と合唱団による「コシ・ファン・トッテ」K.588、W.Decker演出、1984年、スエーデン、
(配役)フィオルデリージ;アン・クリステイーネ・ビール、ドラベラ;マリア・ヘーグリンド、デスピーナ;ウルラ・セーヴェリン、フェランド;ラーシュ・テイベル、グリエルモ;マグヌス・リンデン、アルフォンゾ;エンツオ・フロリーモ、
(1991年01月19日、PHLP10014/5のフイリップスLDをS-VHSテープに収録)

   4月号の第二曲目は、懐かしいアナログテープより、エストマン指揮ドロットニングホルム宮廷歌劇場の「コシ」K.588を前月の「魔笛」に引き続いてお送りする。このS-VHSに収録されたテープは、フィリップスで発売されたLD(PHLP-10014〜5)を自分でテープにコピーしたものであり、先に報告した「フィガロの結婚」(9-12-2)と同様に3倍速で収録していたため、42インチの大画面で見ると、映像の状態や音質は最低であるのが残念であった。写真の写りが悪いがご容赦いただきたい。



   この映像で珍しいのは、序曲の早いテンポの序奏部が始まると、主役の6人が電車で駅について買い物をしてバスに乗ったり、或いは広い公園の中を軽快に進行する序曲に合わせてランニングで来たり、自転車やオートバイで駆けつけたり、優雅に船で到着したり、さまざまな方法で宮廷劇場まで来る様子が写されていた。そして楽屋に飛び込んで鏡の前で急いで着替えをしたり支度をしたりして、舞台脇で男三人が顔を合わせてから、そのまま舞台に出て来て、第1曲の三重唱が開始されていた様子が微笑ましかった。18世紀を装ったスタイルと現代の現実との対比が実に鮮やかであった。郊外の美しい宮廷公園の中にあるローカルなオペラ劇場だから出来る日常的な風景なのであろうが、6人の歌手たちがありふれた通勤者のように自然に振る舞っていたのが面白く感じられた。



   最初の三重唱では二人の青年が老人に抗議しながら歌い出し、決闘だと刀を抜いて迫っていたが、老人に軽くいなされ「女の貞節なんて不死鳥説と同じ」と第二曲が続けて始まっていた。どうやら青年の恋人たちの悪口を言われ、二人の恋人たちを信じているのかと冷やかされたらしい。しかしアルフォンゾに恋人たちの貞節さの証拠はあるかと問われて、逆に答えようがなく困っていた矢先に「賭けようか」と言われ、第三曲目の三重唱が始まった。青年二人は賭けに勝ったような勢いで輝かしくセレナーデを歌い出し、老人も「わしも招いてくれるかね」と三重唱になって、威勢の良い賑やかな幕開けであった。
   場面が変わって窓越しに海が見える室内で、オーケストラの早いテンポの序奏が始まり、純白のドレスを着込んだ美しい姉妹が登場して、お互いに「ねえ、見て頂戴」と二重唱で幸せそうに恋人たちを自慢しあっていたが、テンポがさらに早くなって何やらその幸せにかげりが見えてきた。そこにアルフォンゾが慌てて登場してきた。心配そうな姉妹の前で「ひどい運命だ」と歌いだし、王様の命令で恋人たちが出征するという。



   アルフォンゾが合図をすると、二人の青年たちが大袈裟に登場して、姉妹が涙ながらの悲しみに対し、男二人は「どんなもんだ」と得意げな表情で、別れの五重唱が始まっていた。ここでもこの悲しみの五重唱のテンポが早目に進んでいた。頃を見てアルフォンゾが合図をすると太鼓の音が響きだし、やがて大勢の人々が登場してきて「軍隊万歳!」の合唱が始まり「軍隊生活は楽しいぞ」と賑やかに歌って二人を迎えに集まってきた。時間がないぞとせかすアルフォンゾの前で、ピッチカートの伴奏で「毎日手紙を書いてね」と二組の恋人たちは抱き合って、別れの五重唱が悲しげに歌われていた。



  再びアルフォンゾの合図で「軍隊万歳!」の合唱が始まり、二人の兵隊たちは威勢よく出発していった。何という悲しみ!。姉妹は船が遠ざかるのを見てから静かに美しい「風よ、穏やかに」の小三重唱をピッチカート伴奏で歌っていたが、これら二曲だけは、エストマンは標準のテンポで歌わせていた。姉妹が立ち去ると、アルフォンゾは「わしも役者だな」と本性を丸出しにして、賭には勝ったと高笑いしていた。
    場面が変わって年増のデスピーナが朝食のチョコを舐めていると、姉妹が悲痛な顔をして部屋に飛び込んできた。ドラベラがデスピーナに「お下がり!」と八つ当たりして大騒ぎ。散々当たり散らししてから「不安が私をかき乱し」と早口のアリアを歌って、まさに半狂乱の様子であった。驚いたデスピーナが恐る恐る尋ねると、恋人たちが戦地に出かけたという。今にも死にそうな姉妹にデスピーナは「直ぐお戻りですわ」と平気な顔。男は浮気だから気晴らしでもどうぞとばかりに、「兵士に誠実を求めるなんて」と歌い出して、心配するなと慰め姉妹を驚かしていた。



    女達の一騒動を横目で見たアルフォンゾが、デスピーナを味方にしなければと誘い出し、お金を見せると早速乗ってきた。姉妹に紹介したい男性がいると持ちかけると、お金持ち?と確かめて会っても好いという。そこでターバンに鬚ずらに変装した恋人たちが登場すると、デスピーナはどこの国の人?と驚いて大騒ぎ。変装に気がつかないと男達は安心して四重唱になっていると、そこへ姉妹が駆けつけ、見知らぬ男がいると大騒ぎの六重唱に発展していった。いきりたつ姉妹を宥めるため、アルフォンゾは二人の親友だと名乗って改めて紹介したが、図に乗った男二人がしつこく姉妹に愛を迫ったため、フィオルデリージが開き直ってアリア「岩のように」を朗々と歌い出し、男二人を撃退しようとした。映像ではグリエルモがしつこくドラベラをつけ回しており、ドラベラは嬉しそうな顔も見せていた。フィオルデリージの硬い態度にアルフォンゾは、もう少し親友に優しくしてやってくれと頼んでいた。そこでグリエルモが更に「愛らしい瞳よ」と姉妹にしつこく迫っていたので、二人はついに逃げ出してしまった。残された男三人は、大笑いの三重唱となり、一方の真面目なフェランドは、「愛のそよ風が」とウラウラのアリアを歌い出し、ドラベラへの愛を誓っていた。



    B面に入ってアルフォンゾは心配になりデスピーナの意見を聞くと、私の言うとおりにすれば大丈夫と自信満々であった。フィナーレに入って「たった一瞬で運命が変わってしまった」と姉妹が揃って二重唱を歌い出したが、エストマンのテンポが早すぎてガッカリ。そこへ突然に男二人が飛び込んできて姉妹の前で砒素の薬液を飲み、倒れ込んでしまった。姉妹は慌ててデスピーナを呼ぶと、彼女は二人を助けなければ恥になると姉妹に言い、自分は医者を呼びに行った。姉妹は恐る恐る男達の額に手を当てて熱を測ったり脈を測ろうとしていたが、この時にごく自然体でドラベラがグリエルモを選び、姉妹の相手が入れ替わっていた。
デスピーナが化けたお医者さんが来て、メスメルの磁石を取り出して使っていたが、姉妹にそれぞれの相手の頭を膝に載せてから磁石を男達の腹に効かせたので、男達は飛び上がって立ち上がり、早速、介抱してくれた女神たちに、私の宝だと愛を訴え始めていた。音楽のテンポが変わり、今度はキスをと男達が迫りだしたので、そのしつこさに怒りだし、姉妹は呆れ果てて第一幕は終了していた。熱演にも拘わらず、拍手がないので、この映像はライブではないようであった。



    姉妹の部屋で第二幕が始まり、デスピーナが姉妹を慰めていると、あの外国人たちは図々しすぎると怒っていたが、今は謙虚になり温和しくしているとデスピーナは言い、「女が15歳にもなれば」と明るく歌い出すとドラベラには反応があり、「女王様のように男達を従わせるのです」という言葉に呆れながらも頷いていた。デスピーナが立ち去るとフィオルデリージはドラベラに「どう思う」と軽薄さに呆れていたが、少しは楽しんでみようかという気になり始めていた。ドラベラがそれよりも「私はあの黒髪さん」と歌い出すと、フィオルデリージも相づちを打ち、テンポの早い二重唱になって明るく歌われだし、二人の気持ちは前向きになり始めた。そこへアルフォンゾが登場して、「庭にどうぞ」と姉妹は誘われた。姉妹はいつの間にかヘアスタイルも衣裳も替わっていた。



    木管楽器の優雅なセレナードの音楽が始まり、着替えた姉妹の前で二人の外国人の男達が「そよ風よ、聞いておくれ」と優しく二重唱で歌い出し、お見合いのセレモニーが始まっていた。二人に続いて合唱団も美しく歌っていた。しかし4人が顔を合わせても、肝心の男達は二人とも言葉を忘れたよう。甘い前奏とともにたまりかねたアルフォンゾが男二人の手を取り、また、デスピーナが女二人の手を取って四重唱が始まったが、4人を引き合わせても声が出ない。たまりかねてデスピーナが過去のことは忘れようと、姉妹に改めて言い聞かせていたが、やはり新しいカップルは、お互いに馴れぬ相手に思うように言葉が出なかった。



    しかし、4人が残されると、フィオルデリージが思い切ってフェランドに少し歩こうと、手を繋いで散歩に出かけていた。二人が立ち去るとグリエルモは気が気でなくなり、死にそうだと頭を抱えても、ドラベラは薬で懲りているので、またからかうのねと相手にしない。しかし、グリエルモが思い切ってドラベラに贈り物を見せると、思わぬ反応があり、山が動き出したと感じさせた。「このハートを差し上げます」とグリエルモが歌い出すと、ドラベラが「頂きますが、私のは望んでも駄目です」と二人は言い合って甘い二重唱になっているうちに、いつしかドラベラはハートのペンダントを受け取ってしまった。そしてそれに夢中になって目をつぶっている隙に、ペンダントを交換させられてしまい、次第にその気になって、終わりには二人は抱き合ってしまっていた。



    一方のフィオルデリージはフェランドから逃げ出そうとして騒いでいるうちに一人になって、フェランドが愛を求める第24番が省略されて、長いレチタテイーボで心の迷いを語ってから「愛しい人よ、お許し下さい」とロンドを歌い出した。ホルンのオブリガートがほのぼのと響き、心の乱れを恋人に許しを請う切々としたアリアで、自分の傾きかかった心を責める厳しい歌であった。
    フェランドが「われわれは勝ったぞ」とグリエルモに報告し誉められるが、反対にドラベラのロケットを見せられて、半狂乱。グリエルモに忠告してくれと頼んでいたが、ここで歌うグリエルモの第26番のアリアが省略されて、フェランドは「裏切られ、踏みにじられても」彼女を諦めることが出来ないと切ない男心のアリアを歌っていた。



    ドラベラが高価な贈り物のペンダントをデスピーナに見せてご機嫌で自慢していると、そこへフィオルデリージが現れて、正直に私も別の男を愛しているのと言い出すとドラベラは大喜びで「恋は盗人」と歌い出してはしゃぎだした。一人残されたフィオルデリージがふと思いついてデスピーナにいろいろと註文をしていた。そしてデスピーナが持ってきたグリエルモの軍服と帽子を被り、戦地に行こうと決心をし、「もう少しの辛抱で」と健気にも歌い出した。そこへフェランドが駆けつけて「私は死んでしまう」と歌い出し二重唱になっていた。そして歌いながら「私の死か、貴女の心か」と懸命に迫ると、優しいフィオルデリージは悲鳴を上げて「神様、お助け下さい」になってきた。そして二重唱の最後には、二人は抱き合ってしまいオーボエの一吹きとともにフェランドの手に陥落して仕舞っていた。それを影で見ていたグリエルモは、半狂乱となって大騒ぎ。アルフォンゾに結婚するんだとどやされて、不承不承、「コシ・ファン・トッテ」を合唱して、フィナーレに突入していた。






    フィナーレが始まって、デスピーナや合唱団たちが結婚式の設営に大忙し。様子が整うと合唱団が「二人の新郎に祝福を」と歌い出すと、二組の新郎新婦が挨拶をし、新婦二人が着席してワインが注がれていた。やがてフィオルデリージが「あなたの杯と私の杯の中に全ての思いを沈めようと」美しく歌い出し、フェランドが続いてカノン風に二重唱になり、さらにドラベラが続いて歌い出していたが、グリエルモは一人だけ横を向いてブツブツ文句を言いながら歌っていた。そこへ賑やかにデスピーナが化けた公証人が登場し、結婚証明書の中味を読み上げ、姉妹にサインをさせていた。




    そこへあの不吉な「軍隊万歳!」の合唱が聞こえてきた。アッと驚く一同の複雑な顔。アルフォンゾが様子を見に行くと、グリエルモとフェランドが、突然、帰ってくると言う。さあ大変。姉妹は元の純白のドレス姿に戻るのが精一杯。二人の兵隊さんたちが戻ってきても、姉妹は言葉を失い、何か様子が変。そのうちに隠れていた公証人が見つかってデスピーナが現れたり、結婚証明書が見つかったりして、姉妹たちは「悪いのは私たちです。死に値します」と詫びていたが、再び男二人が外国人の姿で現れたので、姉妹たちは皆に騙されていたことに初めて気がつき、張本人はアルフォンゾだと責め出した。





アルフォンゾは、確かに私のせいだが、あなた方の恋人たちは目を覚まし、賢くなっていると弁解すると、姉妹たちはどうやら筋書き通り、元の鞘に戻り、最後には6人が全員で「これこそ幸せ」と合唱をしてフィナーレとなっていた。
   その最後の舞台の様子を合唱団全員が普段の姿で見守っている様子が写されていたが、良く見るとその中には普段着に着替えた二組の恋人たちも混じっており、この映像はライブではなく、舞台をスタジオ代わりにして撮影された映像であることを示していた。



    エストマンとドロットニングホルムの前回の「魔笛」の映像(11-3-3)は、初演時当時の舞台を再現しようとしたピリオド演奏や演出の試みが成功していた。そのため、今回の「コシ」も期待していたのであるが、ピリオド演奏の試み、すなわち早いテンポの切れの良さや声とオーケストラとのアンサンブルの良さなどは良かったのであるが、エストマンの指揮にときどき現れる異常な早いテンポが私の大好きな女性陣の二重唱、第4番、第一幕フィナーレの冒頭、第20番などに現れて残念に思った。演出については、18世紀の木造の奥行きの長い舞台が生かされたリブレットに忠実で伝統的な演出で良かったと思うが、海が見えても船がなく、ナポリかどうかは分からず仕舞いで、外国人への変装もアルバニア人に見えたかどうか、北欧の何処かの「コシ」のように国籍には捕らわれぬ感じも見えていた。

    省略曲の扱いは、第7番と第24番の省略は通常通りであったが、さらに第26番のグリエルモのアリアまで省略されていたのが意外に思われた。このアリアは、ライブでは客席でも歌われる人気曲であるので、私には残念に思われた。また、このオペラにおけるカップルの最後の姿は、伝統的でリブレット通りの元の鞘に戻る終わり方になっていた。また、この演出ではカップルが入れ替わる時点は、第一幕のフィナーレの女性陣が男性陣を介抱する時点で入れ替わっており、ドラベラに積極性が見受けられたように思った。

   この映像は歌劇場を使っていながら拍手や観客の姿が見えないので、良く見るとやはりライブ公演の記録ではなく、この映像のために劇場をスタジオのように使って、ライブ風に収録した映像であろう。それで合点がいったが、序曲が始まると主役の6人が、何と通勤客のように歌劇場に駆けつけて、カツラを被り衣裳を着けて舞台に出てくる裏舞台が写されていたり、最後には、主役たちが普段着で観客のように最後の舞台を見ている姿が写されていた。恐らく、地方都市にあるローカルなオペラ劇場において、毎日繰り返される日常的な風景を、巧みに映像の中に取り入れようとしたものであろうと思われる。

   上記でお分かりの通りこの映像の特徴は、現代の北欧のドロットニングホルムの宮廷劇場の専属の主役たちが、18世紀の何処かの国で、仲が良くアンサンブルに優れた楽しい「恋人たちの学校」という劇作品を演じて見せたと解釈出来そうであり、これもこのオペラの面白い一つの方向かなと感じさせられた。
エストマンの8種類のモーツアアルトオペラ映像のうち、この映像は81年の「フィガロ」(9-12-2)に次いで古い84年の映像であった。フィガロの時も書いているが、初期のライブではローカルな歌手やオーケストラに見劣りがあったが、今回は歌劇場を使ったスタジオ的収録に改めてかなり改善されていたが、さらに努力が必要と思われた。18世紀風のスタイルで気になるのは、エストマン固有の部分的に異常に早いテンポの部分である。恐らく、18世紀はこうであったと主張されれば何も言えないのであるが、私には好みの問題として、どうしてもついて行けないと言わざるを得ない。

(以上)(2011/04/15)


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