(最新収録のソフト報告;延原武春の洋館に響くモーツアルト、K.414&K.550)
11-3-1、延原武春指揮のテレマン室内オーケストラによるピアノ協奏曲第12番イ長調K.414(385p)および交響曲第40番ト短調K.550、フォルテピアノ;高田泰治、大阪倶楽部、2009年11月30日、

−フォルテピアノによるピアノ協奏曲第12番イ長調は、小編成のピリオド楽器の特徴が良く出てテンポも良くまずまずの演奏を楽しめたが、ト短調交響曲は、特に第一・第四楽章の早すぎるテンポが災いしてか、今一つ音楽がスムーズに流れず、やや物足りなさを感じた演奏であった−

(最新収録のソフト報告;延原武春の洋館に響くモーツアルト、K.414&K.550)
11-3-1、延原武春指揮のテレマン室内オーケストラによるピアノ協奏曲第12番イ長調K.414(385p)および交響曲第40番ト短調K.550、フォルテピアノ;高田泰治、大阪倶楽部、2009年11月30日、
(2010年3月17日、NHKBS103クラシック倶楽部より、BD-026にHEモードで録画、)

   3月号の最新収録ソフトの紹介は、最近、関西バロック界の大御所延原武春氏がベートーヴェン交響曲全集のほか、ブラームス交響曲全集をリリースしたということをレコード芸術3月号で見て、かねて収録していたモーツアルトの2曲を早くアップしなければと考えた。これは2009年11月30日の演奏で、2010年3月に収録したものであり、2曲とも最小の人数による古楽器によるスタジオ演奏である。しかし、部分的に音を出すのが精一杯のところがあったりして、やや物足りなさを感じていたのでアップをためらっていたのであるが、ベートーヴェンや今回ブラームスなどの評価が高いようなので、この際改めて良く聴き直ししたいと考えていた。
   クラシック倶楽部のタイトルは、「洋館に響くモーツアルト」となっており、大正時代に東京に負けぬように関西の財界人たちが会員制社交クラブとして建てた木製の由緒ある建物であり、国の登録文化財に指定されている。その木製フロアで、40年にわたりテレマン室内オーケストラが元オーボエ奏者延原武春氏の指導で育ってきており、今回はモーツアルトの作品を小編成の古楽器で楽しもうという趣向のようであった。冒頭に延原氏が登場して、モーツアルトの時代の古楽器でサロン風の音楽を味わって欲しい、という解説が行なわれていた。



   ピアノ協奏曲第12番イ長調K.414(385p)は、木造の洋館の造りをカメラが追いかけている中で、軽快なアレグロで始まった。フォルテピアノを前にして、オーケストラはオーボエとホルンが省略され、弦五部の構成で、左右に2ヴァイオリンで4人、ヴィオラ、チェロ、コントラバスが各1人の7人で構成されていた。
第一楽章は弦五部で優雅な第一主題で始まっており、中央で延原氏が指揮棒を持たず両手で指揮をしていた。古楽器による弦の繊細なリズムが快く、第一ヴァイオリンが軽快に歌っていた。やがてピッチカートの伴奏で第二主題が第一ヴァイオリンにより優雅に提示され、続いて二部のヴァイオリンにより明るくカノン風に進行して盛り上がりを見せ、歯切れ良い和音で管弦楽の提示部が終了していた。フォルテピアノの機種の紹介はなかったが、チェンバロとは違う爽やかなフォルテピアノの音が第一主題を弾きだした。繰り返して進んでから、この主題を模倣する新しい副主題が登場して美しいパッセージが連続し、これは狙い通りの優雅なサロン風。一呼吸置いてピッチカートによる弦五部の導入で可愛げな第二主題が登場し、フォルテピアノに移行して変奏が加えられ、華やかなパッセージが繰り広げられて、技巧を提示しながら進行していた。フォルテピアノはまだ若い高田泰治氏であり、無表情で淡々と弾き進んでいたが、展開部ではフォルテピアノの独壇場になり、新しい主題を力強く提示し、技巧的にも盛り上がりを見せて存在感を示していた。 再現部はほぼ提示部と同様の経過をたどっていたが、最後のカデンツアでは新全集にあるBの長い方のカデンツアで結んでいた。この曲はピアノと四重奏で弾かれたり、五重奏で弾かれたりするが、このピアノと7重奏は初めてで、味わいがあり洒落ていると思った。



    第二楽章では、クリスチアン・バッハのシンフォニーから引用されたとされるアンダンテの宗教的な8小節の主題が弦5部で提示され、ソット・ヴォーチェで瞑想的に美しく流れてから、第一楽章の第一主題が姿を変えて美しく現れ、簡素な結尾フレーズで序奏部が結ばれていた。続いて独奏ピアノが静かにつぶやくようにバッハの主題を回想し、独奏ピアノが主題を受け持って淡々と進むさまは実に美しい。この静かで華やかなフォルテピアノとオーケストラとの対話は暫く続いてから、カデンツアに似たアインガングが華やかにソロで弾かれた後に、再び独奏ピアノによりバッハの主題で靜に第二部が始まった。この独奏ピアノで弾かれた主題の美しさはたとえようがなく、モーツアルトの室内楽的な初期のピアノ協奏曲の素晴らしい特徴であると思われた。新全集に示された二つのカデンツアのうち短いAが弾かれていた。



    フィナーレはアレグレットの軽快に踊るような弦五部のロンド主題で開始され、続けて二つ目の主題も明るくオーケストラで提示されていた。続いて独奏ピアノが新しい主題で明るく登場するが、付点リズムを持った動機が実に軽快そのもので、ピアノとオーケストラが交互に楽しく飛び出して転げ回る楽しい楽章になっていた。再びロンド主題がピアノで現れてから、第二のエピソードが独奏ピアノで登場して軽快さを増しながら素晴らしい効果を上げつつカデンツアに入っていたが、ここではカデンツアBの長いものが弾かれていた。しかしコーダに入ってからも、付点リズムの主題が顔を出し、独奏ピアノがアダージョになってファンタステイックな表情を見せるなどモーツアルトらしい変化を見せてから簡潔に終息していた。



   フォルテピアノが置かれた平土間で古楽器とフォルテピアノの響きが美しく交錯し、古い洋館でのサロン的な響きがきこえて、楽しい思いをした。このような美しい響きが得られるなら、第一ヴァイオリンとフォルテピアノがもう少し滑らかに弾かれておれば、もっと素晴らしいアンサンブルが得られたものと思った。

        続く二曲目は交響曲第40番ト短調K.550であるが、演奏の前に指揮者延原武春氏のインタビユーがあり、古楽器の良さをサロン風に味わって欲しいこと、初版のオーボエ版を使うことと、このシンフォニーを演奏するために必要最小限の構成で演奏を試みたことを一言述べていた。写真で見られるように、編成は第一・ニヴァイオリンは4人と3人であり、ビオラ、チェロは各2人、バス1人、オーボエ、ホルン、ファゴット各2人、フルートが一人の合計17人の構成で、ピアノ協奏曲と同じ場所で演奏されていた。この規模はコープマンのアムステルダム・バロック・オーケストラの映像(6-6-3)で見る限り、もっと規模が小さいものと思われた。



   モルト・アレグロのあのさざ波を打つような弦楽合奏が始まるとト短調のシンフォニーなのであるが、少しテンポが早く音が薄く定まらない。管楽器との応答が始まり厚みのある弦楽合奏を聴かせるようになっても、第一主題は何となく落ち着かない。やがて第二主題に入ってフルート、オーボエやファゴットが活躍を始めても早いテンポは変わらず、落ち着かぬまま進行していた。ここで提示部を繰り返せば安定するのであろうが、ピリオド演奏にしては珍しく展開部へと突入していた。恐らく55分の演奏時間制約なのかも知れない。
   展開部に入っても冒頭の導入主題の繰り返しやうねるような対位法的な展開が早いテンポで進み、次第に力を増しながらこの主題だけで進んで、いつの間にか再現部が始まっていた。ここでは再び二つの美しい主題が繰り返されていくが、指揮者延原は同じような軽やかな手慣れた指揮振りで、早いテンポを崩さず最後まで進めていた。ピリオド奏法の軽快さはあってもやや不揃いのところがあり、音も薄くなって今一つ楽しいという気になれないもどかしさがあった。



  第二楽章も少し早めのテンポで始められ、ここでも軽やかな美しい弦楽合奏のアンダンテの第一主題がホルンの伴奏で始まっていたが、途中から現れる32分音符の休止を挟んだ3度動機のフレーズが実に美しく、弦から管へ、管から弦へ、上昇したり下降したり、うねるように繰り返され、特に管と弦との応答が実に印象的であった。やがて、第二主題に入って美しい弦楽合奏が開始されても、この特徴あるフレーズが余韻のように響いており、ピリオド楽器の音色の美しさが反映されていた。ここで繰り返しは省略して直ちに展開部に移行していたが、展開部でもこのフレーズが力強く弦から管へ、管から弦へと移行して、上昇したり下降したりしながら展開されていた。これらの弦と管の合奏のアンサンブルの美しさはこの楽章の特徴であり、これが古楽器のアンサンブルにより美しさが増幅されていた。弦楽合奏の中でフルート、オーボエ、ファゴットが絶えず登場し歌い出す様子が画面でクローズアップされ、映像でこの曲の非常に繊細できめの細かな美しさを確かめることが出来た。



  第三楽章のメヌエットでは、軽やかなアレグレットで弦楽合奏が快いテンポで始まり、出だしの三小節のフレーズがカノン風に何回も繰り返されて進行する風変わりなメヌエットであったが、しっかりと三拍子を刻んで軽快に進んでいた。トリオでは、ほぼ同じテンポで弦楽合奏で始まり、木管三重奏がこれに応えて美しさを強めていたが、繰り返しの後は木管の三重唱の後に二つのホルンが響きだし、後半では力強い見事な管楽四重奏が続いて、古楽器による弦と管のアンサンブルの対照の妙が光っていた。心配したホルンの出来が良く、調子が上がってきたように思われた。



  第四楽章では、アレグロ・アッサイであるが、延原は第一楽章同様に早いテンポで第一主題を進めていたが、このオーケストラにはこの早いテンポが苦手なのか軽快にスムーズに流れない。流れるような見事な弦楽合奏が期待されるところであるが、思うような気分になれない。やがて一服するかのようになだらかな第二主題が三声の弦で始まって歌うように進行するが、ここでオーボエが明るく歌い出して初版の特徴を浮き彫りにさせていた。ここでも繰り返しを止めて展開部に突入していたが、展開部では冒頭の主題が早いテンポで、弦でも管でも執拗に繰り返されていたが、アンサンブルが不揃いの上に、心配されたホルンのファンファーレが少し外れて興醒めになった。オーケストラの力を考えてもっとテンポを落とすべきであろうと思われた。第二・第三楽章では、非常にスムーズに演奏していたが、早いテンポの第一・第四楽章が上手く流れに乗らず、残念な思いがした。



厳しい書き方になったので、心配になってコープマンのアムステルダム・バロック・オーケストラと比較して確かめてみたが、テンポ感はほぼ同様であるが音楽がとてもスムーズに流れており、この違いは矢張り技術的な力量の差が大きいものと思われた。モーツアルトの後期のシンフォニーは、演奏技術の優れたホグウッドやコープマンのものを聴いても、過去のワルターやベームの落ち着いたテンポの豊かな演奏が耳にこびりついているので、どうしても満足できない。ピリオド楽器によるモーツアルトのシンフォニーは、今回のピアノ協奏曲のように、比較的初期のシンフォニーのほうによく合っているような気がした。

   結果的にこの映像全体を総括すると、フォルテピアノによるピアノ協奏曲第12番イ長調は、小編成のピリオド楽器の特徴が良く出てテンポも良くまずまずの演奏を楽しめたが、ト短調交響曲は、特に第一・第四楽章の早すぎるテンポが災いしてか、今一つ音楽がスムーズに流れず、やや物足りない演奏であった。

(以上)(2011/03/08)


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