(最新収録のソフト報告;フルトヴェングラーの「ドン」HVリマスター版を見る)

11-2-21、オペラ「ドン・ジョバンニ」の舞台構成と場面設定を考える
−−フルトヴェングラーの「ドン」HVリマスター版を改めて見直して−−

−この映像は、ザルツブルグにおける有名なフェルゼンライトシューレという岩山をえぐって作られた野外空間を利用した極端に横長な舞台で上演されているが、この映像の演出や舞台構成については、余り語られてこなっかった。ここでは新たにリマスターされた映像の写真により、この映像の優れた一端を述べようとするものである−

11-2-21、オペラ「ドン・ジョバンニ」の舞台構成と場面設定を考える

−−フルトヴェングラーの「ドン」HVリマスター版を改めて見直して−−


1、 はじめに、


   昨年の暮れに収録したフルトヴェングラーの「ドン・ジョバンニ」HVリマスター版を改めて見直した結果、最近の映像に負けないくらい映像が見事に甦っているのには本当に驚かされた。また音声もモノラル録音であるが、矢張り、歪みが取れて聞き易くなり大音量でも何とか聴けるようになっていた。この映像については私のHPでは、2004年にクラシカジャパンによる放送を収録した映像でアップロード済み(5-9-1)なのであるが、アップした写真を見ると画面が潰れており、記述も今となれば不満に思うところが多いので、この映像を改めて見直すとともに、その舞台構成と場面設定の素晴らしさについて改めて考察してみたいと考えた。


   既に何度も述べてきているが、この映像はザルツブルグの大戦後の復興状態を記念して、さらにモーツアルトの生誕200年を記念して、フルトヴェングラーがザルツブルグ音楽祭に登場し、1954年当時としては驚くべきカラー映像でライブ演奏を記録に残したものであった。オペラのカラー映像は、この映像が最初のものであるほか、フルトヴェングラーのオペラ映像はこれしかなく、この年の11月には亡くなってしまうという置き土産の映像でもあった。兎に角、このオペラの最も古い映像であり、何でも初めてづくしの大変な文化的遺産と考えて良かろう。

 この映像の音源はCD化もされており、大河の流れにも似た悠々たる音楽面の充実さばかりでなく、こうしてHVリマスター化された画像を見ると、演出面でも場面設定や意匠面などにおいて、納得できる素晴らしい工夫が行われている。従って、このオペラに携わる人は、指揮者であれ、演出家であれ、歌手であれ、必ず目を通し聴かなければならない基本的映像であり、このオペラの原点であるばかりでなく、モーツアルトのダ・ポンテオペラの全てにも通づるリブレットを解釈する視点が、この映像には網羅されているものと思われる。NHKが恐らく高い費用をかけてリマスター版に挑戦したのは、以上のような理由によるものであろう。












2、このオペラのリブレットにおける場面構成、

   オペラ「ドン・ジョバンニ」は、二幕で構成されており、第一幕は20場で、第二幕は16場から出来ている。リブレットで舞台の場面指定があるのは、第一幕では以下のように4場面、第二幕では6場面あった。しかし、中には共通の場面もあり、舞台の大きさや機械装置の能力にもよるが、オペラ全体として、何場面設定するかが、演出者の考え方の基本になっている。このオペラにおいては、石像が現れる二つの場面が特に演出上難しく、また二つのフィナーレの場面、特に楽士が登場する場面や地獄落ちの場面などに色々な特徴が現れる。

第一幕、…躅A(第1場)、∀上A(第4場)、D躅B(第16場)、ぢ膵間(第20場)、

第二幕、]上B(第1場)、庭園C(第7場)、J菽蓮並11場)、は上C(第12場)、ヂ膵間(第13場)、ο上D?(第16場)、

   フルトヴェングラーの映像は、最も古い映像であるので、これらの場面設定や、衣裳、大道具・小道具などに至るまで模範的な映像になっており、映像を比較検討する際に、この映像を基本として特徴を押さえておくことが重要であると考えた。特に前述の難しいとされる石像の場面や楽士登場の場面が自然体に無理なく描かれていたからである。これまでのフルトヴェングラーのLDや放送映像をこえて3度目のHVリマスター版を改めて見直したいと考えたのは以上の理由からである。


3、フルトヴェングラーの映像における場面設定、


   この映像は、ザルツブルグにおける有名なフェルゼンライトシューレという岩山をえぐって作られた野外空間を利用した舞台で上演された。その全景は、不思議にこの映像にはないが、スケッチされたもので知ることが出来る(巻末参考)。スケッチによると映像は、舞台は横に長く広がっており、この映像では、リブレットにある三つの階段により仕切られた三つの建物が横長に広がって、これが一つの大きな舞台としてまとめられていた。そしてそれぞれの10の場面は、場面に応じて建物や階段を上手に使い分けて変化を持たせて上手に使われていた。例えば、冒頭の第1場の場面では、一番左端の階段と建物を利用しており、村人たちが登場する第7場の路上では中央の階段が利用され、第二幕の第11場の墓場の場面では右端の上下の真っ直ぐな階段に石像をはめ込み、中央の建物の前の広場で演技が行われていた。また、二つのフィナーレでは、右端の一番大きな建物の二階に楽士たちを置いて、その前の広場が舞踏会の場であったり、豪華な晩餐の場であったりしていた。以上の典型的な場面を写真で示すと、以下の四葉の写真の通りであり、この舞台では一体に連続している横長の三つの階段と建物を上手に利用して、場面ごとに使われていた。




従って、フルトヴェングラーの映像では、このオペラが要求している場面設定を、大別して、次の4項目のような形で場面設定されており、建物はある時はドンナ・アンナ邸であったり、ある時はドン・ジョバンニ邸であったりして、適宜、使われているように見えた。







1)庭園A、B、C、;三つの階段と前庭をそれぞれ利用した場面設定、
2)路上A,B,C,D, ;三つの建物と前庭をそれぞれ利用した場面設定、
3)墓地 ;階段Cに直接石像をはめ込んで前庭を利用、
4)大広間A、B、;建物Cの二階に楽隊を置き、前庭を利用した設定、

   このオペラ劇場では、舞台は広いが機械装置がないので、一体の長い建物だけで全ての場面が設定できるように工夫されていた。機械装置を持たない中・小劇場では、このような工夫が必要となる。しかし、舞台を変化できる機械装置のある大劇場では、ドンナ・アンナ邸、ドン・ジョバンニ邸、石像のある墓場、街角や広場などを独立させて、適宜、場面設定がなされているようである。

  なお、スケッチされたフェルゼンライトシューレの舞台の装置担当のクレメンス・ホルツマイスターの意図は、舞台上に町を現出させようとしたものであり、彼すでに1933年の「ファウストの町」で大成功したとされる。このスケッチを解説したアンガーミューラーは次のように述べている。「演技は騎士長の邸宅に当たる舞台の左手で始まる。町を横に進むとドン・ジョバンニの邸宅に行き着く。舞台中央には、墓場と騎士長の銅像がある。舞台左端には、町の木戸、教会、外へ通ずる階段等の町の風景とドンナ・エルヴィーラの家、右端は、これに対してすっかりドン・ジョバンニの城館のために残されている。」


        4、いろいろな「ドン・ジョバンニ」の映像を見るための演出上の視点、

   以上に示すようにフルトヴェングラーの映像では、リブレットに示された10場面を庭園、路上、墓地、大広間の4場面に大別して、きめ細かく忠実に場面設定していた。これはこのオペラの最初の映像であるので、これ以降の舞台演出者は、この映像を参考にしたり、過去に残されたオペラ文献(参考ー1)などを参照しながら、少しでも水準を高めるために、このオペラの場面設定を検討する必要があったであろう。また、逆に言えば、これまで私はいろいろなこのオペラの映像を見てきたが、これらを評価するには、上記の4つの場面設定の視点を基本にして、考察することが重要であろうと思われた。

   そのためには、これまで見てきたこのオペラの全ての映像をこの視点に立って、改めて見直さなければならないが、このような一つの舞台設定で4場面を構成し工夫せざるを得ないのは、中・小の歌劇場であろう。映像を見ていて、舞台設定を移動できる機械装置を持つ大劇場、例えば、ウイーン国立歌劇場、ミラノ・スカラ座、NYメトロポリタン歌劇場などでは、冒頭のドンナ・アンナ邸の場面でも、ドン・ジョバンニ邸での大舞踏会や、豪勢な晩餐などの場面でもその豪華さを競っているように見えた。また、18世紀風の奥行きのある小劇場、例えばドロットニングホルムス歌劇場やこのオペラの初演が行われたスタヴォフスケー劇場などでは、背景さえ変えればどのような場面設定も可能に見えた。さらにロージー監督の映画方式では、ヴェネチアに飛んだり、オリンピコ劇場を使ったりと、自由に場面設定が行われていた。

  このように考えると、フルトヴェングラーの新しい映像を見て、舞台を移動できない中・小劇場の限られた空間で、如何に工夫して4場面の舞台設定をしているかについて良く評価することが重要であることが分かってきた。従って、これからこのオペラの舞台を見る際には、このような視点から映像を良く見て行きたいと考えている。


5、あとがき、

   フルトヴェングラーの新しいHVリマスター版の映像を見て、クローズアップ場面による背景の建物などの細かな画面が、実にリアルに描き出されるていることに驚いた。この映像は、かねてこのフェルゼンライトシューレという岩山をえぐって作られた野外空間を利用した舞台で上演されたものであるが、その演出面については余り語られてこなかった。この新しい映像に触発され、その全景がスケッチにより明らかにされて、現代の大劇場と異なった横長の大舞台における舞台構成が明確になり、改めて舞台演出面でのリブレットに忠実なこの映像の素晴らしさの一面が、ここに明らかにされた。今後はこの映像の優れた音楽面での素晴らしさについて、改めて見直す必要があろうと考えている。

     

参考;ルドルフ・アンガーミューラー著、吉田泰輔訳、「モーツアルトのオペラ」(1991)、音楽之友社、(映像化以前のモーツアルトの全オペラの舞台演出の記録が残されている貴重な文献である。)

(以上)(2011/02/09)

  
目次5にもどる 目次4にもどる
目次3にもどる 目次2にもどる
目次1にもどる 私の新ホームページへ


名称未設定