(最新収録のソフト報告;プレヴィンとN響の仲間たち−K.525、K.478&K.493)
11-2-1、アンドレ・プレヴィンとN響の仲間たち、アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク、ト長調K.525、ピアノ四重奏曲第一番ト短調K.478&同第二番変ホ長調K.493、
ピアノ;アンドレ・プレヴィン、堀正文V、松田拓雪V、佐々木亮Vla、藤森亮一Cel、市川雅典Bass、2010年11月2日、浜離宮朝日ホール、

−堀さんと息のあったN響の仲間たちの格調高いアイネクライネを、久し振りで豊かな気分で書斎で味わうことができた。プレヴィンの二つのピアノ四重奏曲は、始めのト短調はピアノの調子が悪かったが、第二番の変ホ長調はいつものアンサンブルを楽しめるピアノの調子に戻り、信頼を回復した立派な演奏だった。プレヴィンの年齢を感じさせたコンサートであった−

(最新収録のソフト報告;プレヴィンとN響の仲間たち−K.525、K.478&K.493)
11-2-1、アンドレ・プレヴィンとN響の仲間たち、(曲目)アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク、ト長調K.525、ピアノ四重奏曲第一番ト短調K.478&同第二番変ホ長調K.493、
ピアノ;アンドレ・プレヴィン、堀正文V、松田拓雪V、佐々木亮Vla、藤森亮一Cel、市川雅典Bass、2010年11月2日、浜離宮朝日ホール、
(2011年1月7日、NHK芸術劇場より、BD-036にHEモードで録画、)

   2月の第一曲は、1月7日のNHK「芸術劇場」でBRデイスクに収録した最新のソフトである。これは浜離宮ホールで昨年11月2日に開催された「プレヴィンとN響の仲間たち」と称して行われたコンサートであった。N響の5人のメンバーによるアイネ・クライネK.525およびプレヴィンのピアノで二つのピアノ四重奏曲K.478&K.493が放送されていた。プレヴィンのK.478は、 09年9月に京都で同じN響の仲間たちとの演奏(10-9-1)があるほか、ウイーンフイルの仲間たちとの演奏(1-3-2)もあるが、この時はK.493も同時に演奏されていた。また、五重奏のアイネ・クライネK.525は、このHPではゲバントハウス四重奏団の演奏(7-11-1)に続くもので、この演奏は会場は浜離宮の朝日ホールで、嬉しいことに音がとても透明であり、家でも大音量でコンサートホール並に美しく楽しめる音場が得られ、舞台の眼前で捉えられた映像とともに、目下のお気に入りになっている。



       第一曲目は弦楽セレナードト長調K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」であり、写真で見られるように、満席の朝日ホールの舞台の中央に二つのヴァイオリンにヴィオラとチェロが並びその後にコントラバス奏者が参加して五重奏曲で演奏されていた。
   第一楽章は、ユニゾンで第一主題が勢いよく開始されるが、冒頭から弾むような弦の五重奏が5.1chで眼前に広がりとても爽やかな気分。五人の演奏なので、各声部の動きが分離して柔らかに聞こえ、オーケストラとは印象が異なってくる。譜面を追いながら聞いていると、第一主題も続く主題もバランス良く登場し、提示部は再び力強く丁寧に繰り返されて短い展開部に突入し、完璧なソナタ形式となっていた。全体のテンポ感・リズム感ともに良く、第一ヴァイオリンのよく目立つトリルの装飾なども明確であり、堀さんのペースに乗った非常に気持ちの良い颯爽とした演奏であった。



   第二楽章のロマンツエでは、ロンド形式のスタイルの愛らしい楽章。美しい旋律が第一ヴァイオリンのロンド主題で現れて何回か登場した後、中間部の短調の小刻みに揺れる嵐のような部分が強烈で、前後の優しく愛らしい部分といかにも対照的で面白い。第三楽章のメヌエットでは明解なリズムを刻むメヌエット主題が弾むように力強く進行して気分を盛り上げ、第一ヴァイオリンのソット・ヴォーチェで始まる愛らしく流れるようなトリオとの対象が美しく、短いながらも大好きな完璧なメヌエットに仕立てられていた。フィナーレはアレグロのロンドであるが、軽快に飛び出すロンド主題に対して副主題が一つしかなく、譜面を見ると前半と後半に反復記号が用いられ、変則的なロンド形式のよう。しかし、このフィナーレのロンド主題は、何回も何回も繰り返して登場し、見事な盛り上がりを見せて軽快に進み、最後のコーダになっても登場して簡潔な形で終了していた。 コントラバスが加わって低域が弾むように響くアイネ・クライネになったが、終始、軽快な心地よいテンポで第一ヴァイオリンを中心に進められ、まことに爽快な味わいのある演奏であった。こういう演奏ならザルツブルグで行われても全く遜色なく、喜ばれるものと感じながら聞いていた。書斎で聴いていても音量を上げると、見事な合奏が部屋中に広がり、コンサートホールのような臨場感を得ることが出来てとても嬉しかった。



   第二曲目のピアノ四重奏曲第一番ト短調K.478は、同じホールの中央にピアノが置かれ、ピアノの前に堀さん、ヴィオラの佐々木さん、チェロの藤森さんの三人のN響のメンバーが並んで演奏していた。プレヴィンのこの曲の演奏は、このHP3度目であるが、前回は同じN響のメンバーで昨年(10-9-1)としてアップロードしたばかりであった。この時のプレヴィンのピアノは、ゆったりとした落ち着きのあるもので、N響の皆さんもピアノとのアンサンブルを楽しんでいるかのように伸びやかに聞こえ、ホールの雰囲気も格別で、「仲間たち」に相応しい楽しげな演奏であった。



    ピアノ四重奏曲第一番ト短調K.478の始まりは、ト短調の冒頭のユニゾンの強奏とピアノによる2オクターブを駈け下りる音階の第一主題で始まるが、プレヴィンのピアノがどうしたか、少し縺れていた。続いてもう一度繰り返しがあるが、やはりプレヴィンのピアノがしっくりせずどうなるかと心配であった。しかし、続く力強い運命の動機のような強奏の後に飛び出すピアノは安定しており、やっといつものように生き生きとして流れ出し、弦楽合奏と息の合った合奏をしていた。この暗い主題が一頻り続いた後に、ピアノが穏やかな第二主題を提示して行くが、プレヴィンのピアノは明るさを取り戻して本来の調子に戻り、これに応えるような軽快なリズムを持つ弦の合奏が続いて、ピアノと弦の目まぐるしい応答によって盛り上がりを見せ主題提示部が結ばれていた。プレヴィンはここで丁寧に提示部全体の繰り返しを行っていたが、今度はしっかりとしたピアノで始まっていた。
    展開部では第一主題の動機がピアノで始まり、やがてヴィオラに続いて第一ヴァイオリンが二小節遅れて続き、カノン風に進んで展開され、次第に緊張を増して頂点に達していたが、いつの間にか再現部へと移行していた。再現部ではプレヴィンのピアノが不安をかき消すように、流暢に全体をリードするようになり、N響のメンバーたちがソリストのように自在にピアノに合わせて伸び伸びと弾いており、非常に暖かな雰囲気で曲が終息していた。

   第二楽章は単純な展開部のないソナタ形式か。ピアノのソロで始まるアンダンテの美しい第一主題で始まり、その主題が弦の三重奏とピアノで対話風に美しく繰り返されていく。ここでピアノの分散和音に始まる美しいメロデイが流れ出すが、プレヴィンのピアノが16部音符のパッセージでもたついた。どうしたのか今回は全体の流れは良いが音が欠けたりする。続いてリートのすみれのようなはかない感じの第二主題が弦の合奏で現れて美しく流れてから、結びのように先の分散和音が顔を出すが、今度は何とか上手く弾かれていた。この部分の弦の三重奏とピアノの対話は上手く弾かれると夢のように美しい。再び、冒頭の第一主題に戻ってピアノが繰り返されて再現部に入り、プレヴィンは調子を取り戻していたが、見ている側はプレヴィンのピアノが心配で落ち着かず、いつものプレヴィンお得意の弦楽器との流れるようなアンサンブルに浸りきることが出来なかった。ライブの怖さと言おうか、一度は見過ごしても繰り返されると、演奏への信頼が薄れて集中力が欠けるような気がして残念であった。



    フィナーレはスコアにはロンドと書かれており、ピアノで軽快に始まるロンド主題が登場していたが、単純なロンド楽章ではなく、ソナタ形式の形を借りた複雑なロンドのよう。ロンド主題の後にピアノが先導し、弦楽合奏が華やかに後を追いながら、新しいエピソードが次々と颯爽と登場するが、ここでもプレヴィンは万全の調子とは言えず、軽やかにピアノが先導せずにヴァイオリンが引っ張っているように聞こえていた。再びロンド主題に戻ってから、良く聴くとまるでソナタ形式の展開部のようなピアノの力強い響きとともに弦の合奏でロンド主題が複雑に展開されていた。後半は第一・第二エピソードがまるで再現部のように次々に顔を出し、ロンド主題の後に派手なピアノ中心のコーダで結ばれていた。本来ならプレヴィンの軽快なピアノに乗って、弦のソリストたちが颯爽と弾きまくる曲であろうが、一度信頼が緩んだ今回は、そのようには聞こえず残念な気がした。



    前回の京都での演奏は、京都の聴衆をシャットアウトした特別なホールで収録されていたせいもあり、素晴らしい演奏であった。今回はライブコンサートであり、恐らくライブで聴いている方には些細なミスと聞き流したであろう。しかし、これが一端ソフトとして音源が収録されてしまうと、繰り返し聴かれることになるので問題は大きい。弾き馴れた曲とはいえ、年齢的なことを考えるとライブの怖さを見せ付けられたような気がした。休憩の後の第二番の四重奏はどう聞こえるか、些か、心配になってきた。



    第二番の変ホ長調K.493の第一楽章アレグロは、分厚い和音の合奏で第一主題が始まり、続いて第一ヴァイオリンとピアノが交互にメロデイラインを受け持つ長い第一主題によって始まるが、プレヴィンはすっかり本来の調子を取り戻していた。ヴァイオリンの急激な下降音形やそれに応えるピアノの音形など対照的なものの組み合わせが印象的な主題であった。それに続いてピアノでソフトに奏される第二主題は、直ぐにヴァイオリンが引き次がれ、繰り返すときはヴァイオリンソナタのように、ヴァイオリンとピアノが入れ替わって演奏されていた。さらに第一ヴァイオリンが提示する第三の主題もあってこの主題もヴァイオリンソナタのようにピアノと交互に弾かれて終息するが、ここで冒頭の第一主題に戻って反復が行われていた。
   曲調は明るく伸びやかで、プレヴィンのピアノはここでは健在で、ピアノと弦三部のアンサンブルが楽しく聞こえていた。展開部は第二主題の前半をピアノのソロで始まってから、楽器を変えて交互にこの音形を力強く繰り返す激しい展開がなされており、変化に満ちて創造性に富むが、複雑でやや難解に聞こえてしまう。再現部では、型通りのように聞こえたが、全体としてピアノが常に主体性を持って進み、ヴァイオリンとヴィオラが華麗に良く動き、チェロがしっかりと低域を支えていた。


    第二楽章のラルゲットの始めの主題は、ピアノの弱奏で穏やかに開始されるが、主題の後半ではの三重奏が主体になってピアノは装飾音を奏でていた。主題が繰り返しになると主楽器が丁度始めと入れ替わり、細やかな陰りを見せながら進行し、第二主題もピアノで細かく提示され、弦が静かに優しく応えており、終始穏やかな曲調であった。ピアノの分散和音による展開部は協奏曲のようであり、再現部においても、終始、ピアノのソロが輝くように美しい和音を奏で、プレヴィンのペースで進んでいた。
    フィナーレはアレグレットで、ソロピアノがいきなりガヴォット風のロンド主題を提示し、ヴァイオリン続いてヴィオラと繰り返され再びピアノに戻っていた。続いて新しいエピソードが次々に提示され、楽器も入れ替わりながら目まぐるしく変化を重ねて再びロンド主題に提示されていた。しかし、四重奏なので響きはピアノ協奏曲的な軽快さを持っており、構成も複雑に変化するロンド形式であり、ピアノのプレヴィンとヴァイオリンの堀さんを中心に颯爽と輝くようなテンポで素晴らしい演奏を見せていた。
第二番の変ホ長調の四重奏曲は、プレヴィンが立ち直って本来のしっかりしたピアノであったので、安心して聴くことが出来、信頼を回復することが出来た。



 つい先日、モーツアアルテイアン・フェラインの2月例会で、弦楽四重奏曲の著作で有名な幸松肇さんのお話を聞いたのであるが、四重奏曲のCDの新譜の販売数が最近激減しており、室内楽の人気が非常に減退していることを嘆いておられた。今回の「プレヴィンと彼のN響の仲間たち」で取り上げた曲たちは、弦楽四重奏曲よりも遙かに狭い分野の室内楽なので、コンサートで取り上げられる機会が非常に少ない貴重なものであった。今回久し振りで聴いた弦楽五重奏で演奏されたアイネ・クライネ・ナハト・ムジークK.525は、N響のコンサート・マスターの堀さんと息のあった仲間たちによる格調の高い演奏であった。この曲は私が高校生の時に自分の小遣いで初めて買った二枚組みのSPレコードの思い出深い曲であり、当時は分からないままにワルター・ウイーンフイル(1937)の名盤に接していた。約60年経った今では、この曲を大画面の映像で5.1CHの豊かな音で、ライブで聴いているような気分で書斎で味わうことが出来る。何という変わりようであろうか。
 残念ながら、ピアニスト・プレヴィンの調子が悪く、ピアノ四重奏曲の第一番ト短調K.478は、昨年収録した同じメンバーの演奏を取りたいが、第二番変ホ長調はいかにもプレヴィンらしいゆったりとした風格のあるモーツアルトの演奏を味わうことが出来た。N響の名誉指揮者に就任してから、毎年この老巨匠に接することが出来るようになり、このHPでの収録曲が多くなっているが、これからもお元気で活躍して欲しいと願っている。

(以上)(2011/02/09)


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