(最新購入のDVD;仏2000年サン・セレ音楽祭の「魔笛」)
11-12-2、ドミニク・トロタン指揮、フランス歌劇青年管弦楽団、オリヴィエ・デボルド演出による「魔笛」K.620、2000年、フランス、サン・セレ音楽祭、

− 非常に微笑ましいメルヘン風の「魔笛」であり、平土間の狭い舞台を囲んで、簡素な手作りの劇であったが、衣裳が大胆で意表を突き、その色彩が奇抜で美しく、大勢の人たちの手による人海戦術で劇が進行しており、客席からの共感を呼んでいた。セリフは仏語、アリアはオリジナルのドイツ語であり、歌の省略はなくリブレット通りの真面目な演奏。田舎芝居風で物足りないものがあるが、大きな劇場では得られない心温まるライブの良さを実感した−

(最新購入のDVD;仏2000年サン・セレ音楽祭の「魔笛」)
11-12-2、ドミニク・トロタン指揮、フランス歌劇青年管弦楽団、オリヴィエ・デボルド演出による「魔笛」K.620、2000年、フランス、サン・セレ音楽祭、
(配役)タミーノ;アンヘル・パソス、パミーナ;イザベル・ブルナール、パパゲーノ;アルノー・マルゾラーティ、パパゲーナ;フィディラ・シェパプ、夜の女王;アリース・クタン、ザラストロ;マルコス・ブジョルほか、
(2011年11月25日、銀座ヤマハ店にて購入、ドリームライフDVD DLVC-1182)

        12月号の第二曲目は、最新購入のDVDとして、これも11月に銀座ヤマハで見つけた仏オペラ「魔笛」をお届けしたい。2000年のフランスのサン・セレ音楽祭で収録された映像であり、解説を見るとこの音楽祭を紹介する最初のDVDであって、ドリームライフで発売された日本語字幕つきのものであった。指揮者のドミニク・トロタンも、演出のオリヴィエ・デボルドも、歌手陣も初めての方々であり心配であったが、フランス上演の「魔笛」は珍しく、オランダやドイツ風の超モダンな演出ではないと考えて、「魔笛」全24曲目の最後の作品として追加することにした。

映像を見始めて最初に驚いたことは、舞台が通常の会場ではなく、特設の会場であった。中央の平土間が舞台となっており、奥の一辺にオーケストラが左向きで着席し、左端に楽員に向かって指揮者が立ち、音楽と劇の進行を担当していた。舞台の他の三辺の奥は客席で占められており、歌手たちは舞台の四隅からステージへ出入りしていた。両側二辺には6本の柱があって、吹き抜け構造になっており、二階から舞台を見下ろすことが出来る特設の会場であった。二階からは、例えば三人の童子(若い女性)が歌ったり、動物が顔を出したりしていた。そのため舞台装置はなく、18世紀を思わせる人力のみで展開される珍しいステージングであって、例えば、最初の蛇は楽員が長い棒で蛇の頭を支えて移動させており、パパゲーノが捕まえた鳥は二階から紐で吊されて飛んでいたり、特別な工夫があった。デボルトの演出も、観客が舞台を直前で見下ろす形になっているため、歌手たちの「動き」を重用したものになっており、例えばタミーノは蛇に追われて、立ったまま顔を両手で覆って気を失った姿をし、仮面をつけた三人の侍女がタミーノの周りを動き回って歌っていた。衣裳は子供が喜びそうな思い切ったメルヘン風であり、タミーノ、パミーナ、ザラストロは現代風の姿で、三人の侍女、ザラストロの従者たちや奴隷たちなどはさまざまな衣裳で仮面をつけていた。


         カメラは二階席に置かれており、表情を読み取るクローズアップは最小限であった。このような特殊なステージでのライブ映像は初めてであり、珍しさや工夫が楽しみな反面、通常の舞台と異なって限界も多く、例えば歌手たちの入退場が不自然であったり、雷鳴音は平戸間でのシンバルと太鼓であったり、予期しないことが生じていた。この音楽祭では有名作を自国語(仏語)で再紹介するのが目的でもあり、台詞は全て仏語の会話で語られ、歌はオリジナルなドイツ語であったが字幕は見当たらなかったので、動きの少ないザラストロのアリアなど、観衆が理解できたかどうか心配であった。



映像が始まると、四方を囲まれた舞台が現れ、指揮者が入場してオーケストラの前に立ち、会釈をして直ちに序曲の和音が始まった。画面には仏語で「魔笛」の文字が現れ、序曲の進行とともに出演者たちの名前が紹介されていたが、序奏が終わって軽快にアレグロの弦が鳴り出すと、画面では裏の楽屋風景が写し出され、タミーノやパミーノなどの主演者たちがメーキャップで忙しそう。続いて変な帽子を被りアイマスクをしてツエを持った派手な男が登場し、二度目の三和音でツエを三度上下に振っていたのは、いよいよ、おとぎ話の始まりの意味か。序曲が終わりに近づくとザラストロが舞台に現れて客席を見渡し、誰かを探していた。白ズボンのセーター姿の普通の男を選び出し、舞台に立たせるとそれがタミーノであった。




         タミーノは、序奏が始まると直ぐに動き出して、向かってくる変な蛇を見て「助けてくれ。殺される」と叫びだしており、仮面を被った変な姿の三人の侍女たちが駆けつけて蛇は三人に倒されてしまったが、タミーノは両手で目を覆って立ちすくみ、失神していたようだった。三人の侍女はタミーノの周りを回って観察し、女王さまに報告しようとして女性同士の争いの三重唱となり、狭い舞台を圧倒していた。




三人が立ち去ってタミーノが目を覚ますと、前奏に乗って鳥が飛んできて,それを捕まえようと鳥の毛の帽子を被った奇妙な格好のパパゲーノがパンを吹きながら登場し、「おいらは鳥刺し」と歌いながら鳥を捕まえていた。それを舞台の陰からタミーノが見て話しかけていたが、これはフランス語の長い会話であった。三人の侍女が再び顔を出し、嘘をついたパパゲーノを懲らしめ、王子タミーノには額縁を手渡すとそれがパミーナの手鏡であった。タミーノはそれを見て「何と美しい姿」と驚いて絵姿のアリアを歌い出し、やや上ずった声であったがゆっくりと力強く歌われていた。




          三人の侍女からパミーナが浚われたと聞いて、タミーノは助けたいと決心したところに、シンバルと太鼓のけたたましい音で派手な衣裳をまとった夜の女王が登場し、「怖がらないで」と歌い出した。そしてアレグロに入ってしっかり歌われハイエンドも決まり、もの凄い拍手で舞台は沸いていた。




           ム・ム・ムと歌うパパゲーノの登場で子供たちは大喜びであったが、三人の侍女に頭が上がらない。タミーノとパパゲーノは三人の侍女から女王様の贈り物として「魔法の笛」と「銀の鈴」を受け取り、パミーナを助けに、ザラストロの国へ出発することになった。そして賢い三人の童子が道案内をすることになって、これから何が始まるか、頼りない話が続いていた。




          場面が変わって、奴隷たちが騒いでいるところにパミーナが逃げ込んできてモノスタトスに捉まって気を失って倒れてしまった。パパゲーノがひょっこり顔を出し、パミーナが捕まったモノスタトスの部屋に潜り込んでしまうと、モノスタトスといきなり鉢合わせとなって、互いに「悪魔だ」と言って驚き合い、大笑いとなり、二人は退散。しかしパパゲーノはパミーナに女王さまの使いだと打ち明けて、手にした姿絵と照合し、二人はすっかり仲良くなった。そしてパミーナは「愛を感じられる男なら」と歌い出し、パパゲーノもそれに応えて二人は美しい二重唱を歌いながら、男と女の幸せを願っていた。




         一方のタミーノは、三人の童子に案内され、忍耐・誠実・勇気の三つの徳を忘れずに勇敢に戦えと諭される。神殿に着くと三つの扉があり、「下がれ」と脅されてもひるまず、パミーナを救おうと決意を固め、出てきた僧侶といきなり問答が開始された。「お前は女王に騙されている」と教えられ、タミーノは途方に暮れていたが、「パミーノは生きている」という闇の中からの声に勇気づけられ、その声に感謝をしてタミーノが笛を吹くと、二階にいろいろな動物たちが顔を並べて頷いていた。





さらに笛を吹くとパパゲーノの笛が応えだしてので勇気百倍となり探しに出かけた。一方、パミーナとパパゲーナも笛を聞きつけて探していたが、モノスタトス一向に捕まってしまった。しかしパパゲーノが思い出して「銀の鈴」を取り出しその音色が響くと、一行は「ラ、ラ、ラ」と歌いながら踊り出して、どこかへ行ってしまうので二人は大笑いしながら、美しい二重唱を歌っていた。




         そこへ突然に、遠くからトランペットと太鼓の音が響きザラストロ万歳の声が聞こえてきた。逃げ出そうとするパパゲーノに対し、パミーナは急に凛とした姿勢で「真実を話すのよ」となよなよしたお姫様から一変して、王女の姿勢になり「私は過ちを犯しました」と語りだした。そしてザラストロと堂々と渡り合うが、「ここで自由を与えることは出来ない」と諭されていた。モノスタトスがタミーノを連れてきたので、二人は初対面。互いに認め合うが、ザラストロはモノスタトスには処罰を命じ、タミーノとパパゲーノはヴェールを被せられ、二人は試練を受けることになって宮殿に向かい、第一幕が終わりとなった。




         第二幕は厳かに始まる行進曲に乗って、僧侶たちが一人二人と集まってきて、そのうちにザラストロが入場し、親しげに声を掛けながら、王子タミーノが夜のヴェールを引き裂いて来ているが、新しい二人が仲間として相応しいか試練をしたいということを述べていた。そして三つの和音が奏されて、ザラストロはイシスとオシリスの神々に荘厳なコラール風のアリアを捧げて歌い、直立して歌う僧侶たちの合唱で復唱されていた。「神々はパミーナに優しい若者をお定めになった」とザラストロは語っており、ドイツ的なフリーメーソンの儀式とひと味違う厳粛な宗教的な気分に浸される一場面であった。






      目隠しの状態でタミーノとパパゲーノが入場し、シンバルと太鼓の雷鳴音に脅されているうちに、二人の僧侶が現れてタミーノに試練への決意を確かめた。続いてパパゲーノも問われるが、俺は自然人でワイフが欲しいと答えたため、「ザラストロは若いパパゲーナをお前に用意しているが沈黙を守れるか」と問われ、パパゲーノは喜んで「ウイー」となった。二人の僧侶は二重唱で「女の奸計には気をつけろ」と歌い、二人に沈黙を守れと教えていた。二人が立ち去ると、早速、試練が始まり、暗闇の中で二階から三人の侍女たちの三重唱が始まり、雷鳴が二人を襲いマスク姿の三人の従女が誘いをかけるが、男達は沈黙を守り通していた。




        深夜の月明かりの中でモノスタトスが眠っているパミーナを見つけ悪戯しようとアリアを歌っていたが、そこへ夜の女王が登場し、パミーナに短剣を渡して、ザラストロを刺せと第二のアリアを力強く激しく歌いだした。女王の赤い長い髪が目立ち、声に声量があって高い声が良く伸びていた。モノスタトスが再び現れてパミーナを口説こうとしているとザラストロが登場してきた。パミーナは驚いて手にしたナイフを向けるが、ザラストロは「この神殿には復讐というものはない」とパミーナを説得するアリアが朗々と歌われて、最後にはパミーナはザラストロを信頼するようになっていた。




        再び試練の場に連れてこられたタミーノとパパゲーノが暗闇と沈黙の世界となり、パパゲーノが飽きてきてここには水が一滴もないとこぼしていると、婆さんが出てきて水を差し入れた。退屈しのぎにお前は幾つだと聞くと18歳と2分だという。からかっているうちに、名前を聞いて答えようとしたときにシンバルが鳴って,婆さんは逃げ出してしまっていた。パパゲーノがしょんぼりしていると、三人の童子が二階から「ザラストロの国へようこそ」と歌い出した。彼らは二人に「魔法の笛」と「銀の鈴」を返し、二人に沈黙を守るよう教えていた。タミーナが何気なく笛を吹いていると、その笛の音を聞きつけてパミーナが現れた。しかし、何も語れない二人に「死より辛い」とフルートのオブリガートのついたアリアを歌ってから、悲しげに立ち去っていった。





続いて三つの和音が鳴り響き僧侶立ちが整列して、イシスとオシリスの神に、「何という喜び」と歌っていたが、やがてザラストロも加わって、「あの若者はわれわれの務めに加わるであろう」と歌っていた。そこへタミーノが登場し次の試練があることを告げられ、またパミーナも目隠しを外されて、別れの三重唱が始まっていた。パミーナは試練は危険だから行くなと心配し,タミーノは行かねばならぬと歌い、ザラストロは出発の時間が来たとそれぞれの立場を歌う見事な三重唱であった。






       一方、一人になったパパゲーノは「下がれ」の声に脅されて弱っていたが、僧侶にワインを所望して元気になり、「銀の鈴」を手にして、「俺は若い女の子が欲しい」と元気よく歌い出した。チェレスタの音が快く響き、自分の正直な気持ちをザラストロにまで届けと心から歌って、その軽妙な歌に観客は大喜びで大拍手。そこへ先ほどの婆さんが登場し、握手をしなければパンと水だけの世界に行くと脅されて、握手した途端に若くて鳥の姿のパパゲーナに変身して逃げ去ったので大驚きであった。






三人の童子たちが出てきて「光り輝く朝が来た」とフィナーレの始まりを三重唱で告げていると、様子がおかしいパミーナが登場し、手にナイフを持って自殺しようという素振りを見せていたが、三人によりナイフを取り上げられ、タミーノに合わせてあげると言い含められて機嫌を直し、元気を取り戻していた。






        一方、鎧を着た二人の衛兵が恐怖の門を守っており、コラールを歌いながら「死の恐怖を克服したものが、火、水、大気、大地によって浄められる」とうたっていた。そこへタミーノが現れて、「死は怖くない。男らしく徳の道を進みたい。門を開けてくれ」と頼んでいると、遠くからパミーナの「待って」と言う声が聞こえてきた。話をすること、一緒に行動することが許され、二人は初めて「タミーノ、私の愛する人」「私のパミーナ」と再会することが出来た。そして、笛を吹きながら、手を携えて、ピッチカートの伴奏に乗って感動の二重唱となった。笛とテインパニーの響きに乗って、ザラストロが見ている前で、二人で「火の試練」の儀式を行い、続いて手を携えて「水の試練」の儀式を済ませると、突如として「勝ったぞ」という大合唱が湧き起こり、二人は神殿への入会を許され、イシスの神の霊力に守られることになった。二人は神殿へと導かれ、大変な拍手で迎えられていた。




                 一方のパパゲーノは、幾ら探してもパパゲーナが見つからず、首を吊るしかないとぎりぎりの決意まで来たところで、三人の童子から「銀の鈴を鳴らしてごらん」と知恵づけられた。パパゲーノが必死になって鈴を鳴らし、振り返ってみるとパパゲーナが現れ、実に感動的なパ・パ・パの出合いが始まった。音楽も良し、二人の喜びもひとしおで、大いに会場を沸かせていた。




        また夜の女王が率いる「闇の世界」が大音響と共に全員が倒されてしまい、ザラストロが出てきて「太陽の輝きが夜を追い払った」と高らかに勝利宣言を行なった。するとイシスとオシリスの神への賛歌の大合唱が始まり、よく見るとパパゲーノとパパゲーナも加わって全員集合の音楽となり、最後に登場してきたパミーナとタミーナが全員の中で祝福されていた。最後に指揮者が出てきてこの大合唱の指揮を取り、盛大に盛り上がった後に全員で終了の挨拶が行われていた。この映像ならではの素晴らしい感動的な大団円となっていた。





非常に微笑ましいメルヘン風の「魔笛」であり、平土間の狭い舞台を囲んで、簡素な手作りの劇であったが、衣裳が大胆で意表を突き、その色彩が奇抜で美しく、大勢の人たちの手による人海戦術で劇が進行しており、客席からの共感を呼んでいた。カーテンコールが暫く続いていたが、そのうちに最後の大合唱が自然に始まり、出演者全員が合唱に合わせて手を繋いで、舞台の周りをぐるぐる回り出して、観客たちの歓声に応えていたのが印象的であった。狭くて客席と一体になった平土間の舞台だからこそ出来た、感動的な最後であった。




        リール出身の指揮者ドミニク・トロタンは、最後の大合唱の指揮も務めて大活躍であったが、オーケストラの水準が低かったせいか、ライブでありがちな歌や合唱と合わない部分が散見された。出演者は、カナダ生まれのバス・バリトンのマルコス・ブジョルのザラストロが新興宗教の開祖のようなスタイルで貫禄十分であり、同じくカナダ生まれの夜の女王アリーヌ・クタンが肉声の凄さを子供たちに印象ずけていた。また、歌も踊りも出来るパパゲーノのアルノー・マルゾラーテイの自由な動きが目を惹いたし、タミーノのアンヘル・パソスは声やスタイルは良いのであるがやや固くて真面目すぎた。パミーナのイザベル・ブルナールは歌も演技にも優れて、さすがミンコフスキーやクリステイに認められた実績通りの活躍であった。

        この舞台は学校の体育館を利用したような仮設的舞台で、オペラの世界に子供たちを誘うことも狙いとした、良い意味でフランス的な明るい楽天的なメルヘンの世界であった。ステージングが全て手作りの人海戦術であったことは18世紀風でもあり、一瞬、 大きな舞台で機械仕掛けで動物たちが沢山出てくる広いメトの舞台のレヴァインの三度目の「魔笛」の映像(8-1-3)の巨大な舞台を思い出した。両方の映像写真を見比べて頂くと、その対照的な舞台が良く分かり、いずれにしてもやはりオペラはライブで見なければ面白くないと言うことになるのであろう。

         このホームページでは、今回のフランスものの初めての「魔笛」で、全24組の映像のアップロードを完成させたことになる。印象が薄れないうちに、「レクイエム」や「フィガロの結婚」のように,このオペラの映像のどれが好きかなどの総括を纏めなければならないが、出来るだけ早く仕上げたいと考えているので、ご期待頂きたい。

(以上)(2011/12/09)


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