(最新購入のDVD;フリードリッヒ・グルダのモーツァルト・リサイタル)
11-11-1、フリードリッヒ・グルダのピアノ・リサイタル、ピアノソナタ変ホ長調K.282、ソナタニ長調K.311、ソナタヘ長調K.332、幻想曲ハ短調K.475およびソナタハ短調K.457、Imperial DVD ClassicによるDVD、収録時期・場所の情報なし、

−選曲も良く素晴らしいグルダのピアノソナタ集であった。グルダのテンポ感は実に良くとても安心して聴けたし、また強・弱や緩・急などの変化の感覚も合っていた。また、今回この4曲に共通して驚いたのは、ソナタ形式の末尾の繰り返しまで、丁寧に弾いており、必ず装飾を付けたり変化をさせていたのを今回改めて確認できた −


(最新購入のDVD;フリードリッヒ・グルダのモーツァルト・リサイタル)
11-11-1、フリードリッヒ・グルダのピアノ・リサイタル、ピアノソナタ変ホ長調K.282、ソナタニ長調K.311、ソナタヘ長調K.332、幻想曲ハ短調K.475およびソナタハ短調K.457、Imperial DVD ClassicによるDVD、収録時期・場所の情報なし、

(2011年8月20日、銀座ヤマハ店にて購入、Imperial DVD Classic SOPI-YSD-1013)

       11月号の第一曲は、今年8月にヤマハの店頭で偶然見つけたフリードリッヒ・グルダのピアノ・リサイタルの映像をお届けする。ピアノソナタが4曲も含まれているが、録音の日付や場所も明記されておらず解説書も添付されていない輸入DVDであったが、値段も1200円で驚くほど安かった。しかし、演奏内容は一級品であった。調べてみると、この映像は、かってフィリップスのLD盤Ph-PHLP-5817(1981-02)として発売されていたものと同じものであり、ドイツで作られたその海賊版であるらしい。DVDにはMozart for the People と書かれていたが、これが海賊版である申し訳なのかもしれない。曲目は標記の通り、素晴らしい曲集となっていた。

 第一曲目の第4番変ホ長調K.282は、私が初期の6曲の中では一番好きな曲で、演奏会でも良く聴くことが出来る曲である。即興的な雰囲気を持ち、アダージョで始まり、メヌエット・アレグロと続き、ピアノソナタの中では異例の3楽章形式になっている。また、この曲のスコアを眺めながら聴いていると、第一楽章の音域が3オクターブに止まり非常に狭いこと、アダージョ楽章で再現部では第一主題が省略され、付加されたコーダで暗示されること、メヌエット楽章で第二メヌエットの表記があることなど、バロック時代にさかのぼるような古い作風が見えていた。

       第一楽章は拍手で迎えられたグルダが着席すると直ぐに、さり気なくゆっくりと第一主題を弾き始めた。トリルが美しいため息音形のゆっくりした流れの中で、叙情的な旋律がごく自然に歌われていた。やがて左手の軽いリズムに乗って踊るような第二主題が流れ出しリズミカルにすいすいと進んでいた。グルダはまさに無心の表情で、きめ細かく音を繋いでいくように見えた。提示部が終わるとここで几帳面に繰り返しが始まったが、グルダは最初とガラリと様子が変わり、装飾的な変化を付けながら、しかしテンポは崩さずに、第一・第二主題とも丁寧に弾き進んでいた。ここで新しい主題で展開部が始まり同じようなトーンで落ち着いて弾かれていたが、再現部に入ってから、いきなり、第二主題が趣を変えながら再現されていた。グルダはここでも繰り返しを行っていたが、装飾的な変化をここでも楽しんでいたようだった。ここで第一主題の香りがする3小節のコーダで終結する珍しい試みが行われていた。グルダはこのアダージョの叙情的な美しさをさりげなく表しており、さすがモーツァルト弾きと言わせるだけの風格を滲み出していた。
       第二楽章は聴感上は典型的なメヌエット楽章に聞こえるが、スコアを良く見ると、トリオの替わりにメヌエット機Ν兇箸いι週が珍しい。メヌエット気任蓮▲瓮魅┘奪箸蕕靴ご雰蕕紛舛で始まって繰り返しの後、突如としてフォルテでアルペジオが連続して力強く弾かれて驚かす。しかしグルダはこの変化にも全く動ぜずに、淡々として何事もないように弾き進んでいた。トリオのように聞こえるメヌエット兇任蓮軽やかな3拍子の響きの中に絶えず強弱や長短の変化があって、グルダは注意深く楽しげに弾いており、繰り返しを行ってからメヌエット気北瓩辰討い拭


      フィナーレはこの曲初めてのアレグロ楽章で、短いながらもソナタ形式。きびきびした躍動的な軽快な第一主題が颯爽と突き進み、引き続き軽やかな表情を見せる第二主題が連続するいそがしいテンポの速い楽章であったが、グルダは表情を変えることなくここでもゆとりを持って淡々と弾いていた。即興的な軽い主題が速いテンポで進むが、その間に途中で二度、アルペジオが大きな変化を与え、印象深い。グルダはこの速いテンポにも拘わらずぐいぐいと弾き進んでおり、提示部の繰り返しを行い、多少の変化を付けながら淡々とした感じで無表情に進んでいた。展開部では第一主題の変形が繰り返し展開されており、再現部に突入していたが、ほぼ型通りの再現で、二度のアルペジオもこの楽章を特徴づけていたが、最後の繰り返しをグルダは珍しく丁寧に行っており、大まかな弾き方に見えるグルダの神経質的な細かな反面を見せつけられたような気がした。この楽章のグルダのスピード感溢れる活発で明るい演奏が、ソナタ全体を盛り上げ、アダージョで始まったこの曲を変化に富んだソナタの印象を与えていた。

第二曲目のソナタ第8番ニ長調K.311(284c)は、過去において第9番とされていたが、新全集では第8番とされており、マンハイム・ソナタの一曲である。第一楽章では、この曲特有の華麗で軽やかな第一主題が走り出すが、グルダのテンポは速めでスタッカートを含む音形が快く響き、気持ちよく進んでから、明快な区切りの音形の後に続いて第二主題が湧き出るように美しく続いていた。そして第三の主題も現れ繰り返されて結びの下降音形が続いていたが、グルダはここで提示部の繰り返しを行っていた。
 展開部ではこの下降音形が形を変えて右手に現れたり左手に現れたりして何回も力強く繰り返され展開されていたが、再現部では何と第三の主題が現れ、続く技巧的なパッセージの後に第二主題が現れ、再び第三の主題が登場してから冒頭の第一主題が最後に現れて、勢いよく軽快に結ばれていた。しかし、グルダは珍しくこの最後の繰り返しを几帳面に行っており、展開部から幾分気分を入れ替えて丁寧に弾き進んでいた。



        第二楽章はロンド形式と言おうか、展開部のないソナタ形式と言おうか、ABABA'となってコーダで結ばれるアンダンテ楽章。第一主題は穏やかに始まる歌のような主題で、グルダは語りかけるようにゆっくりと歌わせ、続く第二楽章も明るく落ち着いて淡々として弾かれていた。繰り返しでは装飾音が際立つように美しく弾かれており、トリオの美しい音に混じってエコーのような響きが耳に残っていた。
         フィナーレのロンドでは、明るく華やかなロンド主題が軽やかに飛び出して、アレグロで颯爽と進み出し、続く副主題も終始明るく軽快なペースで進み、再びロンド主題が顔を出していた。続いて第二のエピソードが顔を出し、趣を変えながらテンポ良く楽しく進行し、グルダはまさに楽しみながらテンポ良く疾走するように弾いており、この楽章のクライマックスを築いていた。その後に最後にフェルマータがあり、珍しく短いカデンツアがあって、グルダはここで一息入れて軽やかに流してから、最後のロンド主題による結びを見事に閉めていた。このフィナーレのロンド楽章は、非常に長大でエレガントであり、これまでの曲の中では最も規模が大きいしっかりした曲のように感じた。

        第三曲目の第12番ヘ長調K.332は、どこか暗い感じのしかし楽しげな第一主題が3拍子のリズムで始まってから、メヌエット風のリズミックな主題に続き新しい元気の良い主題が次々と顔を出して第一主題部を形成し、続いて第二主題部も幾つかの主題が連続してテンポ良く進行して明るい雰囲気で提示部を終えていた。グルダはここで繰り返しを行っていたが、かなり装飾を付けて変化させながら繰り返していた。展開部では新しい主題で始まったが、直ぐに第二主題の後半部が力強く展開され、再現部へと移行していた。再現部はやや型通りのものであったが、グルダは最後の繰り返しも展開部から丁寧に行っていた。この楽章は溢れるばかりの新しい主題が次から次へと登場しており、それらをサラリと接続してソナタ形式にはめ込んでしまった様な楽章であったが、グルダはそれらを巧みにテンポ良く弾き続け、丁寧な繰り返しも変化が多く楽しませてくれた。



        続く第二楽章は、アダージョのABABの展開部を欠いたソナタ形式。 第一主題は、ゆっくりしたアルベルテイバスにのって歌うような可愛い主題を繰り返し、続く第二主題も明るい彩りのある旋律に満ちて、華やかさに溢れたアダージョであった。グルダはゆっくりとしたテンポで歌うように弾いており、再現部では装飾音をつけながら穏やかに弾いていた。新全集ではこの再現部には2版が示され、グルダは太字の自筆譜の方ではなく、小さな字の当初印刷譜の方を弾いていたが、基本は同じであるが、後者の方が装飾譜のつけ方がより細かに書かれていた。この楽章終了後に、グルダは何ごとか呟いて、近くの観客を笑わせていたが、言葉が聞き取れず残念であった。
         フィナーレは、アレグロ・アッサイで始まり、ソナタ形式で書かれていた。始めから激しい奔放なパッセージを持つ主題が先行し、続いて勢いのある主題が次々に現れて一気に進む技巧的な華やかな第一主題部と、威勢の良い和音で始まり早いパッセージを持つ主題と対照的な味のある音形が続く第二主題部とが続き、ここでもグルダは主題提示部を繰り返して演奏していた。展開部は第一主題が取り上げられて、速いテンポで伸びやかに展開された長いもので超スピードで進行し、再現部では第一主題部が後半が省略されていたがそれ以外は型通りに進行していたが、グルダは末尾の繰り返しをここでも丁寧に行っており、終始落ち着いて余裕を見せながら、この早いフィナーレを一気に弾きまくっていた。



        第四曲目の幻想曲ハ短調K.475は、通常はハ短調ソナタK.457の前に置かれ、続けて演奏されることが多いが、グルダはごく自然体で幻想曲からソナタ楽章へと移行していた。始めに幻想曲では、グルダは全体としてゆっくりとしたテンポで進め、各部では思い入れが多い変化を見せながら、標題通りの幻想的な味わいの曲のように緩急・強弱織り交ぜて多彩な変化を見せながら見事に弾き上げていた。
        曲は5つの部分に分かれており、最初のアダージョで、グルダは、最初の一音が長くフォルテでゆっくりと開始し繰り返しながら、非常に重苦しい主題を弾きだし、じっくりと進んでいた。主題が右手から左手に移ってから暗い表情が徐々に和らいでいき、続いてアルベルテイ伴奏に乗って、途中から美しい静かな主題が現れて繰り返されていくが、長く続かずに新しい結びの主題でアダージョの部分が締めくくられていた。グルダは、この曲の和音やパッセージの強弱の力強い変化などを堂々と弾いて、グルダならではの逞しい響きを聴かせていた。
       続いて曲はアレグロで力強い付点和音の強烈な響きとともに激しい速いパッセージが続いていくが、途中からアルベルテイ伴奏にのって、歌うような動機で進み暫く明るく進んでから、カデンツアのような技巧的なパッセージで終結した。そして曲はそのまま四分の三拍子のアンダンテイーノに移って暫くモーツァルトらしい穏やかな部分となり繰り返されていたが、最後に、ピウ・アレグロの部分に入り、冒頭音型が何回も繰り返されて激しいドラマテイックな盛り上がりを見せていた。そして最後にはテンポ・プリモに戻って、いつの間にか初めのアダージョが始まっており穏やかな曲調になっていた。終わってみればこの幻想曲は緩急緩急緩と大きく5つの部分に分かれ、目まぐるしく幻想風な変化が著しい、激しいピアノ曲であった。



 グルダは一呼吸置いて、直ちに続くピアノソナタ第14番ハ短調K.457の第一楽章のアレグロを開始した。冒頭の第一主題では、重々しい緊張した上昇する和音で始まるが、同じハ短調のせいか先の幻想曲の暗いアレグロの気分を引きずっているかのように響いていた。グルダはこの主題をじっくりと力強く弾いており、緊張感に満ちた表情で無心に激しく弾きこなしていた。やがて軽やかに右手で歌い左手で繰り返すように応答する第二主題に入り明るさを取り戻していたが、提示部を鮮やかなパッセージで締めくくるとグルダは、ここで繰り返しを行っていた。
        展開部では、第一主題の冒頭部の上昇音形が繰り返し繰り返し緊張感を増しながら展開されており、フェルマータで一呼吸置いて再現部に移行していた。ここでは再び冒頭の主題で始まるが直ぐに提示部と異なって変奏スタイルであったが、第二主題ではほぼ型通りの印象であった。グルダはここでもコーダの前の反復記号通りに、展開部から繰り返しを行い、コーダで力強く結ばれていた。

        第二楽章は、アダージョであるが、珍しくロンド形式のスタイルであり、三つの主要主題はいずれも珠玉のように美しく、繰り返しはあるものの必ず変奏されて出てきており、繰り景色号が返し記号が一切使われていないのも珍しい。
        ロンド主題がソット・ヴォーチェで穏やかにゆっくりと現れ、ひときわ高まりを見せた後、早速、第一のエピソードが温和しく現れて、細やかな動きを見せながら、丁寧に弾かれながら盛り上がりを見せて、再びロンド主題となっていたが、ここでは見事に変奏されていた。グルダのピアニッシモの美しさやスタッカートの明瞭さが目立っていた。続く第二のエピソードは、ベートーヴェンの「悲愴ソナタ」の第二楽章の冒頭部分によく似た主題であり、展開されて見事なアルペッジョの後に、再び変奏されて繰り返されさらに幻想的に発展してから、再びロンド主題が再現されていた。
        フィナーレはアレグロ・アッサイのロンド・ソナタ形式であり、ハ短調の三拍子のシンコペーションのリズムをもつ第一主題が真っ先に現れて急速に進行するが、フェルマータで突然に二度も力強く停止する不安げな感じを持った主題であった。第一のエピソードでは伸びやかではあるが急速に推移するが、やがて再びロンド主題が登場し、再度、フェルマータの停止があった。第二のエピソードも軽快に流れていたが、途中から変奏されたロンド主題が登場し、これが三度目となるフェルマータによる停止があり、この楽章の激しさを伝えていた。グルダは、幻想曲から一気に、このハ短調ソナタの全楽章を弾きこなしており、緊張感溢れる素晴らしい熱演を示しており、力強さと言い、技巧的な表現の緻密さといいさすがと思われるリサイタルであった。

  グルダの素晴らしいソナタ集であった。私のピアノ曲の好みはいつも述べていることであるが、テンポ感が合っていなければならず、特に早すぎるのは困る。続いて丁寧に弾いてくれなければ嫌であり、技巧を見せる余り細部が雑になるのは困りものである。また、音がクリアーでなければ困りものであり、スタッカートが明瞭に弾かれ、ピアニッシモにおいても音が濁らないように弾いて欲しい。これらの三つが備わっていなければ好きとは言いづらいのであるが、バレンボイムや、グルダや、へブラーなどはこれらの用件を満たしてくれている。
  これらの中でもグルダのテンポ感は実に良く、とても安心して聴ける一人であり、また強・弱や緩・急などの変化の感覚も良く、余り極端に走らないのが良い。今回この4曲を聴いて共通して驚いたのは、ソナタ形式の前半の繰り返しばかりでなく、末尾の繰り返しまで、丁寧に弾いていたのは驚いた。これは古楽器奏者でもここまで徹底して弾いていないように思えた。繰り返しを行ってもグルダは必ず装飾を付けたり変化を付けて繰り返しているのも今回改めて確認できた。

  今回聴いた4曲では、最初の変ホ長調K.282や幻想曲ハ短調K.475およびソナタハ短調K.457が際だって素晴らしいと思った。演奏会場や演奏年月も不明の映像でったが、1200円で購入したまさに掘り出し物の映像であった。このDVDには解説書も付属していなかったが、ケースの裏面に以下の英文があったので、添付する。

        「世界的に著名なピアニストであり、作曲家であるフリードリッヒ・グルダの演奏である。グルダは20世紀のピアニストの中では、最も素晴らしく、経験豊かなピアニストの一人であり、このDVDに記録された演奏は、彼の偉大な個性が反映されている。彼は、モーツァルトの作品に焦点を当ててプロとしての生涯を過ごしており、彼の数十年にわたる集中的な研鑽を通じて初めて、モーツァルトの作品の本質を真に理解し、それを伝える境地に到達したと、グルダは語っている。このDVDは、実際の演奏に加えて、死後においても、彼の特別な演奏の重みを提供するものである。」

(以上)(2011/11/08)


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