(最新の輸入盤BDより;フィッシャー指揮グート演出の「コシ・ファン・トッテ」K.588)
11-1-2、アダム・フィッシャー指揮、グート演出、ウイーンフイルの「コシ・ファン・トッテ」K.588、2009年ザルツブルグ音楽祭、

−さすがBRデイスクは画面が美しく音楽もウイーンフイルの音がしっかりと良く響き、歌手陣もまずまずの歌を歌っていた。しかし、超モダンな衣裳や室内で、活気のある舞台ではあったが、海が見えず、変装もろくにせず、軍服も剣も見当らない「コシ」の象徴が抽象化されて、私には矢張り何となく物足りない室内劇に終わっていた−

(最新の輸入盤BDより;フィッシャー指揮グート演出の「コシ・ファン・トッテ」K.588)
11-1-2、アダム・フィッシャー指揮、グート演出、ウイーンフイルの「コシ・ファン・トッテ」K.588、2009年ザルツブルグ音楽祭、
(配役)フィオルデリージ;ミア・パーション、ドラベラ;イザベル・レオナード、デスピーナ;パトリシア・プテイポン、フェランド;トピー・レーテイプー、グリエルモ;フロリアン・ベッシュ、アルフォンゾ;ボー・スコーフス、
(2010年11月13日購入、輸入盤BD盤EUROARTS-2072534、石丸電気にて、)

     新年の第二曲目は最新の日本語字幕の付いた輸入盤のブルーレイデイスクであり、ハイビジョン並の美しいきめの細かな画像が味わえる。2009年7月30日のザルツブルグ音楽祭での収録で、新しいモーツアルト・ハウスからのライブであった。アダム・フィッシャーは、イヴァン・フィッシャーのお兄さんで、ともにブダペスト出身のウイーンでスワロフスキーに師事した指揮者。ウイーン国立歌劇場でしばしば聴いてきたが、ザルツブルグ音楽祭にも登場してきた。この映像は、クラウス・グートの話題を呼ぶダ・ポンテ・オペラの3度目の演出が見ものであり、右側に階段のある二階建ての部屋で演じられる超モダンな室内劇の「コシ」であった。 ミア・パーションのフィオルデリージはこのHPでは2度目の登場(8-7-3)で、この時はイヴァン・フィッシャー指揮のグラインドボーンの映像(2006)であった。また、パトリシア・プテイポンも何度か出ているが、このデスピーナこそ超モダンなスタイルと動きで、相手役のアルフォンゾを煙に巻いて悩ませていた。06年の「フィガロ」(7-10-5)以来、08年の「ドン」(10-4-3)に続いてこの「コシ」と、超モダン劇のグート旋風がザルツブルグを襲っているようであるが、森の中の「ドン」には呆れ果てたが、この「コシ」の演出は現代劇としてありそうな形に演出されていた。



   映像は指揮者の入場から始まっていたが、直ぐに力強い二和音の後にオーボエが明るく鳴り響き序曲が開始された。早めのテンポで序曲が進み、画面ではオーケストラが写され、映像関係者の字幕が続いていたが、終わると序曲の間中、いろいろな角度からオーケストラの演奏が写されていた。序曲が終わると幕が開き、舞台は明るい部屋に立食パーテイの形で大勢の人達が集まって静止画のように見えていたが、第一曲の序奏の開始とともに、突然に、全員が動き出し、その中で一人の青年が大声で歌い始めた。続いてもう一人が怒鳴るように歌い出して、ネクタイとシャツ姿のフェランドとグリエルモの二重唱から、アルフォンゾを加えた喧嘩腰の三重唱にと発展していた。どうやら大勢の中で目立っていた真っ赤なドレスのフィオルデリージと桃色のドレスのドラベラの悪口をアルフォンゾが言い、恋人の若い男達を怒らしたらしい。剣は持たない口喧嘩で、アルフォンゾが女の貞節なんて不死鳥みたいなものだとアリアを歌い出し、貞節の証拠はあるかと詰問すると、男二人は答えようがなく、「賭けようか」の声に望むところと賛成した。そして男二人は始めから勝ったようなつもりになって二重唱のセレナーデを歌い出し、アルフォンゾも加わって愛の女神に乾杯をし、恋人たちの貞節を賭ける怪しげな物語が威勢よく始まっていた。



   人物が入れ替わり赤と桃色の二人の姉妹が登場し、姉が飲み物を手にして二階に写された写真を見ながら、やや軽薄そうに恋人たちの噂を歌い出し、妹も負けじと歌い出して美しい二重唱になっていた。そしてアレグロになると二人は「何て幸せ」と歌って、ふざけながらこれで心変わりしたら愛の神様の罰が当たると歌っていたのが面白かったが、姉妹はやや、はしゃぎすぎの感じがした。二人は何かが起こりそう、心がうずくなどと浮ついていた所へアルフォンゾが姿を表し、「酷い運命だ」と大袈裟に歌い出した。女二人はほろ酔い気分が一変に醒め、心配で質問攻めにするが、「国王の命令で急に戦場に行くことになった」との返事に複雑な表情。男二人が黒い背広姿で泣きながら恐る恐る現れ、恋人たちに近づくと、行かないでと喚きだし、涙の別れの五重唱が始まった。剣で胸を刺してから行ってと言われて、男二人は喜びながら、泣かないでと慰めつつ、ここで珍しく続けて第7番の男二人の二重唱が歌われていた。「僕をしっかり見て、必ず帰ってくる」と恋人たちを励まし、首にロケットをプレゼントしていると、遠くから太鼓の音が聞こえてきて「軍隊万歳!」の合唱が始まっていた。

   ここで合唱団は現れず、部屋は暗くなって照明が状況の急な変化を暗示するように写されていた。続いて悲しくて死にそうとピッチカートの伴奏で手紙の五重唱が美しく始まったが、アルフォンゾ一人が可笑しそうに笑っていた。再び合唱が始まり暗くなって男二人が出発し、女二人が残されていた。元気を出してとアルフォンゾが二人を慰めていると、階段を上がりながら船が去るのを見て「風よ、穏やかに」と飛びきり美しい三重唱が始まっていた。全てが二階建てのマンション風の部屋で劇が進行していた。 アルフォンゾは一人になると、わしも役者だなとほくそ笑み、女のために100も金を賭けるなんてと笑っていた。そこへ入れ替わりに「小間使いなんて最低!」と言いながらジーパンスタイルの若いデスピーナのプテイポンが登場して部屋を片付けていると、「お下がり!」とドラベラが現れ、アルコールを飲みながらヒステリックに一人にさせてと言いながら、半狂乱のアリアを歌い出した。早いテンポで気が狂ったように歌い続けて拍手で一休みしていると、デスピーナが「一体何が起こったの」と聞き出し、彼等は直ぐに帰ってきますよと平気な顔。あの二人が居なくても男は沢山いるので、むしろ楽しむべきよと言いだした。そして「兵士に貞節を期待するなんて」とふざけたアリアを歌い出し、男なんて皆同じとからかうので、姉妹は呆れて居なくなってしまった。

  アルフォンゾが抜け目ないデスピーナが心配だと、餌をまいて味方にしようと近づくと、デスピーナは用意したネックレスもイヤリングも頂きとなり、腕輪まで催促する抜け目無さ。紹介しようと真っ白い背広の二人のアルバニア人に引き合わせると、彼女は大声を上げて驚き六重唱が始まった。しかし、変装には気がつかず一安心。「何という騒ぎです!」と姉妹がデスピーナをたしなめ、追い払おうとしていた。しかし、アルフォンゾが驚いて見せ、無二の親友だと改めて紹介し、男二人はアモールと愛を歌い出した。姉妹は帰ってと相手にしなかったが、デスピーナはウットリしている様子。しかし、男二人が余りにもしつこいので、フィオルデリージが遂に「無礼者!」と大声を上げ、激しい怒りのレチタテイーボに続き「岩のように微動だにしない」とアリアを歌い出していた。そして仮面で顔を隠して侵入した男二人に対し、アリアの後半には自分たちは愛に忠実だとコロラトウーラのアリアとなって大きな拍手を浴びていた。

  もう少し優しくしてやってくれとアルフォンゾが頼み、グリエルモがフィオルデリージの目を隠して優しく撫でながら「愛らしい瞳よ」とアリアで口説き出すと、女二人は危険を察してたまりかねて逃げ出してしまい、男二人は大笑いして三重唱となっていた。しかし、アルフォンゾは作戦はこれからだと言い聞かせるが、フェランドは恋人の愛の息吹は心に安らぎを与えてくれるとドラベラへの愛を歌っていた。心配になったアルフォンゾがデスピーナに意見を聞くと、彼女は二人が愛されていることが分かり、きっかけさえ作れば上手くいくので任せてくれと言っていた。アルフォンゾとデスピーナの対話時の踊りの仕草は堂に入っていて、デスピーナの格好の良さが目立っていた。



  フィナーレに入って着替えした姉妹が「たった一時で運命が変わってしまった」と嘆きながら二重唱が始まった。おどけた伴奏のついたこの二重唱はとても美しく響いていたが、そこへ突然に男二人が現れて制止するのも聞かずに砒素を飲み込んで倒れてしまい、階段から転げ落ちてしまった。さあ大変。女二人はそれを見てデスピーナを呼んで大騒ぎ。女二人は脈を測ったり熱があるか触ってみたりして次第に優しくなってきたが、ここで恋人たちの相手が変わっていたので、それに気が付いた男二人は驚いて元に戻って倒れ直していた。お医者さんの振りをし、時々、奇声を上げるデスピーナが、薬箱からメスメル磁石を取り出して、音楽に合わせて二人にあてがうと、凄い効き目。音楽が変わると二人は動き出して、やがて目を覚まして気が付いたようだった。そして介抱してくれた恋人の手を取って僕の女神様と囁きだしたが、その相手は新しいカップルになっていた。それから男二人は気違いのようにしつこく愛を求め出したので、女二人はビックリし、更に体に触れたりキスをしようとしたので、遂に怒りだした。音楽が早いテンポに変わり、攻勢がさらに激しくなると、女二人は遂に爆発し、階段から蹴飛ばすなど大騒ぎのやり過ぎの劇となって、皆がバラバラになって幕となっていたが、やり過ぎで嫌味すら覚えるほどの勢いであった。



      第二幕に入って衣裳を変えたデスピーナが姉妹の部屋に登場。デスピーナが今はあの男達は二人とも控えめで礼儀正しく温和しくしていると話して、「女も十五歳にもなれば」と踊りまくりながら歌い、ファッションショーのように動き回るので姉妹はあきれ顔。途中で大拍手となってダンサーのように格好の良いデスピーナに観客は大喜びであった。姉妹は彼女をどう思うと話し合っていたが、突然ドラベラが「私はあの黒髪さん」と歌い出し、フィオルデリージが「私は金髪さん」と仲の良い二重唱となり、やっと二人は気が晴れたような明るい声を出していた。



   そこでアルフォンゾが姉妹に声を掛けて誘うと、木管の甘いセレナーデ聞こえてきて何かが始まりそうであった。そのうちに男二人の「微風よ、聞いておくれ」という二重唱が始まり愛の神様に味方してくれと歌っていた。しかし、4人が顔を合わせても、男二人は声が出ない。甘い前奏とともにアルフォンゾが男二人の手を取り、デスピーナが女二人の手を取って四重唱が始まったが、4人を引き合わせても声が出ない。たまりかねてデスピーナが過去のことは忘れようと、カップルの組み合わせを変えていた。お互いに馴れぬ相手に矢張り言葉が出なかったが、フィオルデリージが思い切ってフェランドに少し歩こうと、手を繋いで散歩に出かけていた。それを見てグリエルモは気が気でなくなり、死にそうだと頭を抱えても、ドラベラがまたからかうのねと相手にされない。しかし、グリエルモがドラベラに贈り物を見せると思わぬ反応があり、山が動き出したと感じさせた。ハートを下さい、望んでも駄目ですと言い合って甘い二重唱になっているうちに、いつしかドラベラはハートのペンダントを受け取ってしまった。そしてそれに夢中になっている隙にペンダントを交換させられてしまい、次第にその気になって、終わりには二人は抱き合ってしまっていた。



一方のフィオルデリージは、大蛇だ、トカゲだと言ってフェランドから逃げてきたが、フェランドが真剣になればなるほど、彼女は心の平安を乱さないでと訴え、何処かへ行ってと叫んでいた。フェランドはもう一息とばかりに、ここで通常は省略される第24番のアリアを歌い出し、「僕の目を見るまでここを動きません」と歌うので、フィオルデリージは、遂にフェランドを振り切り逃げ出してしまっていた。そしてフェランドが居ない方が良いとレチタテイーボを一人になって歌いながら、ホルンの伴奏とともに「愛しい人よ、お許し下さい」と歌い出した。いつの間にかフェランドを好きになり始めた心の過ちを罰してくれと愛の神様に願うこのアリアは真剣な表情で歌われ、後半は早いテンポになり、彼女も次第に荒れてきて最後には客席からブラボーの歓声まで飛び出していた。


  「我々は勝ったぞ」とフェランドが、フィオルデリージが逃げ出したことをグリエルモに語って、ドラベラはと聞いた返事に自分のロケットを見せられて半狂乱。男二人は取っ組み合いになって騒いでいたが、グリエルモがフェランドを慰めようと、タンテイア、タンテイアと「女は男をいつも悩ませる」と歌っていた。一方のフェランドは「裏切られ、踏みにじられても」それでも僕は彼女を愛していると半狂乱で歌っていた。男二人の驚きと悲しみには真剣な表情が現れていた。



  ドラベラが新しいペンダントを見せびらかしてデスピーナに自慢していると、フィオルデリージが現れてフェランドを好きになりかけて困っていると本音を話してしまった。ドラベラは喜んだが、フィオルデリージが余りにも真剣なので、降参した方が楽よと語り「恋は盗人」と歌い出していた。しかし、フィオルデリージは納まらず皆が私をそそのかすと悩んでいたが、ふと思いついてそこにあったグリエルモの洋服を着て戦場に会いに行こうと考えた。そして「もう少しの辛抱で」彼に会えると歌い出すと、そこへフェランドが現れ私は死んでしまうと応戦し、激しい二重唱になって殺してから行ってくれと歌うフェランドに根負けしてしまった。そしてフィオルデリージは断り切れず、遂に「神様、助けて」と陥落し、オーボエの悲しげな音とともにフェランドを許してしまい、最後には抱き合ってしまっていた。しかし、軍服もなく、剣もないこの場では、何かわざとらしく空虚な感じがした。
  この場面を陰から見ていたグリエルモは半狂乱。フェランドにもからかわれて仕返しだと息巻いていたが、やはり恋人たちを愛している男二人は結婚式だとアルフォンゾに言われて力なく従い、最後には三人で「コシ・ファン・トッテ」と合唱していた。 


 


  軽快な音楽が始まって結婚式の準備が開始され、デスピーナが大活躍しており、二人の新郎に祝福をと合唱も始まって、4人は着席していた。アルフォンゾがグラスを4人に手渡して、フィオルデリージがこのグラスの中に全ての思いを沈めましょうと美しく歌い出し、フェランドやドラベラも続いていたが、ピッチカートの伴奏でグリエルモ一人が毒づく面白い四重唱になっていた。そこへ突然に公証人を装った格好良いデスピーナが登場し、アルフォンゾが皆にサインをさせて進んでいたが、その時にあの「軍隊万歳!」の音楽が聞こえてきて、一同は顔を見合わせて不吉な予感。姉妹の恋人たちが帰って来るという。さあ、大変。二人のアルバニア人に隠れてもらい、どうしたらよいか考えているうちに恋人たちが元気よく帰ってきたが、一言も口がきけず何か様子が変。公証人も結婚証明書も見つかって、「どうか死を」と謝るばかりの姉妹の前に、再びアルバニアの男二人が現れた。アルフォンゾが全て姉妹を騙していたことが分かり、アルフォンゾはこれで恋人たちは利口になったから、元の鞘に戻ればもっと幸せになれると語っていた。しかし、女二人も男二人も素直に元に戻れず、最後の合唱になっても4人はバラバラのままで、ハッピイな様子にはならず終幕となっていた。






   さすがブルーレイデイスクは画面が美しく音楽もウイーンフイルの音がしっかりと良く響き、歌手陣もまずまずの歌を歌っていた。モダンな衣裳や室内で、上下を結ぶ階段も良く利用され、活気のある舞台ではあったが、私には矢張り何となく物足りない室内劇に終わっていた。海が見えず、背広姿で変装もろくにせず、軍服も剣も見当たらず、「コシ」の象徴が抽象化されて、言葉だけでどうぞ想像して欲しいと観客に押しつけているが、原作の読み替えには、どうしても何処かに無理があり、何となく満たされない白々しい思いに終始したのは私だけであろうか。








   確かにデスピーナのプテイポンが衣裳や動きに新鮮味を出し、奇声を上げるなど独自の活躍しており、アルフォンゾのスコーフスもこれに調子を合わせて踊ったり格好良さを出して頑張ってはいたが、時にはやり過ぎの感もあり、面白いと誉める反面の意見もあろう。二人の姉妹も、二人の男達も良く心得て動いており、フィオルデリージやフェランドの歌唱力も満足できるものであった。また、アリアの省略のない「コシ」はこれで何組みか目にしてきたが、極めて自然であり原作の良さを発揮していたと思った。従って、現代劇として楽しく見せる「コシ」と割り切れば、原作の素晴らしい「コシ」の映像を余り知らない若い人なら、これで十分満足するのであろうと思われる。

   「コシ」はダ・ポンテ三部作の中では、一番読み替え劇に馴染むものと考えられ、この種の映像が今後も増えてくると思われるが、私には読み替え劇が個人的に好きでないと言うだけで、この映像は階段のついた室内劇とプテイポンの活躍が目にき、4人が元の鞘に収まらないなどのグート演出と言うことで印象深い映像であった。前回のメスト・ベヒトルク演出の「コシ」でも述べているが、モダンな感じの新鮮な舞台やリブレットに忠実な全曲演奏という試みも成功しており、高い評価を与える識者も多いと思われる。最新の輸入盤なのでまだ「レコード芸術」などでは取り上げられていないが、どう評価されるか注目していきたいと思う。

(以上)(2011/01/15)


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